リモートワークで伝わる話し方①~抽象⇔具体の合わせ技
ルバート代表の松上です。今までお客様や上司に対して資料の説明やプレゼンテーションをする時にはうまく伝わっていたのが、リモートワークではうまく伝わらなくなった、そんな感覚をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
今までは非言語的な表現、つまり視線や仕草や表情で伝わっていたことが、リモートワークではすべて言葉で伝える必要があります。今までのnoteの連載では、資料をうまく使うことをおすすめしてきましたが、資料をうまく作っても、結局説明が下手だと伝わらない、こんな風に思われる方も多いのではないかと思います。
では、リモートワークではどのように伝えれば、より相手に伝わりやすいのでしょうか。私はそのポイントは大きくは三つ、①抽象⇔具体の合わせ技、②関係性の明示、③意図的なキャッチボール、にあると考えています。今回はまずは①抽象⇔具体の合わせ技から見ていきたいと思います。
そもそも抽象的、具体的とは?
そもそも抽象的、具体的とはどういうことか、詳しくは細谷功さんの「具体と抽象」という名著がありますので、興味がある方はそちらを参考にしていただくとして、ここではざっくり整理します。
車の例で考えてみます。ある車があるとします、この車の魅力を抽象的に伝えると以下のようになります。
「この車は最近発売された日本車で、車内が広く燃費もよくて、その上、安くておすすめです」
一方で、具体的に伝えると以下のようになります。
「この車は2020年12月発売のトヨタ製で、室内長2.1m、室内幅1.5m、室内高1.3mで、リッター23kmで走り、そして価格は180万円とおすすめです。」
いかがでしょうか。抽象的な内容はどちらかというと話し手の「解釈」が入った内容で、具体的な内容の方は、より固有名詞や数字などの「事実」を伝える情報が多く含まれていることに気付くと思います。
つまり抽象的とはある人の頭の中にある実体に対する「概念を表す」もの、そして、具体的とは人の解釈ではなく、「実体を表す」ものと言えると思います。(ただ、上記の具体的な例で用いている「数」も概念ですので、抽象的か具体的かは「相対的な程度」と考えた方がよいと思います。)
抽象的と具体的の強み・弱み
今まで多くの方のプレゼンテーションを聞いてきて感じるのは、抽象的な話が得意な人、具体的な話が得意な人に大きく分かれるということです。あくまでも印象ですが、抽象的な話が得意な人は営業系の方に多く、具体的な話が得意な人はエンジニアの方に多いと思います。おそらく普段触れている製品やサービスの情報の細かさに違いがあるからだと思います。
さて、ここでポイントとなるのは、抽象的に伝えることと、具体的に伝えることにはそれぞれ強みと弱みがあるということです。
抽象的に伝えると、端的にスピーディに伝えることができる一方で、解釈の幅が広く、厳密さに欠けるところがあります。具体的に伝えることは、物事を細かいレベルまで伝えることができる一方で、情報が多く、簡潔さやスピーディさに欠けることが多いです。
さて、どうすればこれらの「弱み」を改善できるでしょうか。多くの方がもうすでに気付かれると思います。そう、「抽象的に伝える」と「具体的に伝える」をセットにすればよいのです!
実際に説明してみる
では、実際の事例を用いて説明したいと思います。こちらは以前にルバート講師の渡邉が、「外資系コンサルファームのプレゼン資料(2020年最新版)~各社の特徴を洗い出す」という記事で紹介していたアーサー・ディ・リトル・ジャパンの『ロボット実装モデル構築推進タスクフォース活動成果報告書』のスライドの一つです。
内容としては、「新型コロナウイルス流行の中、世界各地でどのような要因(ドライバー)でロボットが導入されているか」を説明したスライドです。このスライドを抽象的に説明するとこのようになります。
(抽象的な説明)
「新型コロナウイルスが流行する中で、ロボットの導入が進んだのは次の三つの要因があります。消費者視点では①人との接触リスク低減、事業者視点では②労働力不足への対処、③危険な業務の代行です。」
一方で具体的に説明するとこのようになります。
(具体的な説明)
「新型コロナウイルスが流行する中で、消費者の間では、屋外配送ロボットや無人決済店舗の導入が進み、事業者は在庫管理ロボット、調理・洗浄・盛付の自動化ロボット、そして、検温ロボットや清掃ロボットなどの導入が進んでいます。」
抽象的な説明はロボット導入の理由の全体像が見えますが、実際にどのようなロボットがあるのか、イメージがぼんやりしていると思います。一方で、具体的な説明は実際のロボットのイメージがありありと想像できますが、全体として何が言いたいのかピントがぼやけていると思います。
では、ここで、抽象的な説明と具体的な説明を組み合わせてみましょう。
(抽象的な説明と具体的な説明の組み合わせ)
「新型コロナウイルスが流行する中で、ロボットの導入が進んだのは三つの要因があります。まず、無人決済店舗などの『人との接触リスク低減』です。次に、在庫管理ロボットなどの『労働力不足への対処』があります。そして最後に、『危険業務の代行』です。この例としては、検温ロボットなどが挙げられます。」
いかがでしょうか。やや文章が長くなりますが、抽象的な内容と具体的な事例がセットになったおかげで、実際のロボットのイメージを持ちながら、ロボット導入の要因の全体像が見えたと思います。
実際に使ってみる
この抽象的な伝え方と具体的な伝え方を組み合わせた方法が、実はよく知られている、PREP法ということになります。PREP法とは「Point、Reason、Example、Point」の略で、「結論→理由→事例→結論」の順番に伝えましょうということです。結論と理由が抽象、そして事例が具体ですね。
実際に説明する時に、「抽象を話して、具体を話して…」と考えると頭が混乱すると思うので、とりあえずPREP法で話そう、と意識していただければと思います。
また、抽象と具体を組み合わせると話は長くなりがちです。「時間が限られている時はどうすればよいのか」についてですが、これは相手によります。一般的にはマネジメント層などに説明する時は抽象的に全体感を捉えてポイントを伝えた方が良いでしょう。一方で、現場で説明する時は部分的になっても仕方がないので具体的に伝えた方が良いと思います。結局普段の相手の仕事のレベル感に合わせた方が良いということになります。
最後に、資料作成についても加えておくと、資料を作成する際には、左から右(上から下)に抽象→具体の情報を並べるとわかりやすい資料になります。アーサー・ディ・リトル・ジャパンの資料もそうなっていますね。
ぜひ、抽象と具体を組み合わせて、リモートワークでもより相手が全体像を理解しやすく、具体的に想像しやすい説明を心がけていただければと思います。次回は、話し方の三つのポイント、①抽象⇔具体の合わせ技、②関係性の明示、③意図的なキャッチボールのうちの二つ目の「関係性の明示」について書きたいと思います。
次の記事「リモートワークで伝わる話し方②~関係性でストーリーを作る」はこちら
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