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今回は、Rubato代表の松上に外資系コンサルの資料作成へのこだわりについてインタビューいたしました。コンサルタントの資料作成におけるこだわりや技をお伝えいたします。(本内容は松上が外資系戦略コンサルティングファームに所属していた十数年前の話ですので、現在の状況は異なる可能性があります。予めご了承ください。)

外資系コンサルタントの資料作成そのものへのこだわりとは?

外資系コンサルタントは、資料作成に1ミリの妥協も許しません。私がコンサルティング会社に入社して最初に驚いたことは、研修でPowerPointの資料作成の会社のルールをとても厳しく叩き込まれたことです。

例えば、「矢印は斜めに引っ張ってはいけず、必ず直角に曲げる」、「タイトルやスライドのタイトルメッセージはこのフォントでこのサイズを使用する」、「グラフの色の順番はすべて決まっている」など、とても細かいルールについてのトレーニングを最初に時間をかけて受けました。

しかし、ここまでトレーニングをしたにもかかわらず実際に業務入ったとき、私はなかなかそれを実践することができませんでした。他の同期も同じでした。実はそこからが本当のトレーニングの始まりだったのです。

私が作った資料に対して先輩コンサルタントが徹底的に赤ペンを入れるのです。例えば、フォントサイズや色の違いを絶対に見落とさず、全て直させます。会社としてのルールだけではなく、文字の細かいディテールにまでこだわっていました。

例えば、半角スペースと全角スペースが意味もなく混在していたらそれはすべて直されます。全角カッコ、半角カッコも同様に直されます。先輩のコンサルタントは、私の作った資料のレビューをするときに目視で半角全角スペースを一瞬で見分けることができました。

他にも複数ページに渡ってグラフのスライドを載せた場合には、グラフには縦軸と横軸がありますが、その軸がページ間で1ミリでもズレていると作り直させられました。そのズレをどのように見抜くかというと、2枚のスライドを重ねて天井の照明にかざします。その透かしでほんのわずかなズレがわかります。すると、そのズレを厳しく指摘されます。

しかし面白いことに、このような細かい修正を何度も繰り返し行っていくうちに自分でも半角スペースと全角スペースの違いやグラフのずれなども目視でわかるようになってきました。

伝統工芸の職人はコンマ何ミリの世界で加工を調整したりします。それを繰り返し行っているとその基準が自然と身についていきます。コンサルタントの資料作成もこれと同じなのだなと学びました。

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なぜコンサルタントは資料にここまでこだわるのか?

コンサルティング会社はメーカーではないので、お客様に「具体的な商品はこれです」とモノを見せたり、使ってもらったりすることができません。コンサルタントにとって商品とは、企業の課題に対するデータ分析や戦略立案、具体的なアクションプランの策定など「無形のもの」です。その「無形のもの」の価値を表現するものが資料になります。ですので、PowerPoint資料はコンサルタントにとって「商品である」とよく言われました。

メーカーでは、モノづくりをする上で1ミリでも商品のスペックがずれていればアウトになります。それくらいの精度でメーカーはモノづくりをしています。それに対しコンサルサントが商品である資料で1ミリのズレを気にしない、半角カッコと全角カッコはどちらでも構わないというのはおかしいという考え方です。位置がずれた資料や文字に統一感がない資料を提出するという行為はクライアントとの信頼関係に影響します。そのため、資料の品質にはコンサルタントは非常にこだわりをもっているのです。

「無形のもの」を扱うからこそ無形のものを伝える「有形のもの」には徹底的な細部へのこだわりを求めます。そういう意味では、IT系やWEB制作、保険会社など、無形のものを提案する業種は資料がとても大事になると考えます。

コンサルタントだけでなく社内の企画系の部門(マーケティング、経営企画や人事部など)も規定やルールを作ったりする「無形のもの」を扱っています。それをどうやってうまく伝え、信用してもらうかは資料が大事になってきます。だから、ルバートの資料作成講座にはこのような業種、職種の方の参加が多いのではないかと思います。

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資料作成はどのようにしたら上達するのか?

私は入社後すぐに資料作成を座学トレーニングで学びましたが、前述したように、その後は現場で先輩コンサルタントからの職人的な伝承で学んでいました。「このような分析と情報でまとめて欲しい」という先輩からの指示に対して資料を作成します。作った資料に対して先輩コンサルタントは、フォントの違いやズレ、こういう表現がいい、図解はこれを使った方がいい、など沢山のコメントを添えて戻します。新人はそれに基づいて資料を作り直していきます。

PowerPointではありませんが、議事録の作成に関しても徹底的に直されました。最初に議事録を書いたときは、赤ペンでもともとの原稿がわからなくなるくらい赤入れされました(笑)。よく言われるのが、特定のコンサルタントの下で指導を受けていると、資料作成の癖や特徴が似てくると言われます。そのくらい職人的な資料作成スキルの伝達が行われているのだと思います。このように資料作成スキルの伝承はとても時間のかかるプロセスです。それなりの資料が作れるようになったのは1年以上経ってからだったと思います。
コンサルタントはよく合理的な考え方で物事を分析すると言われていますが、その分析スキルも職人的に受け継がれているものだと思います。そういう理由から戦略コンサルタントは一度に沢山育成することができず、結果的に人数をしぼって育成するという業界の慣習につながっているのだと思います。

座学での集団トレーニングである程度の資料作成スキルを伝えることは可能ですが、やはり本当に細部の部分はなかなか研修ではカバーすることはできません。そこで私は書籍『PowerPoint資料作成プロフェッショナルの大原則』に細部の部分を含む全てのスキルを落とし込みましたが、そうしたら500ページを超えてしまいました(笑)。実際に書籍を書いてみてこれを研修でやるには限界があると感じました。基本的なところを研修で行い、より深い部分は職人的なスキルの習得になるのだと思います。

お寿司の作り方でよく例えるのですが。お寿司の作り方を文面に落とし込むことはできます。例えば、「ご飯を第二関節の途中までこの位の量を置いてこの程度の強さでにぎって・・・・」。ただこれをやりはじめると説明ばかりになり、よくわからなくなってしまいます。結局、お寿司の握り方の本は書けるが、実際にそれでお寿司が握れるかというと、やはりそれは先輩の真似をする方が早いでしょう。コンサルタントの技術の伝承もこれと同じだと思います。

コンサルタントのような資料を作るには?

コンサルタントは長時間かけて職人的にスキルアップできますが、一般のビジネスパーソンが短時間で資料作成スキルをレベルアップするにはどうすれば良いのでしょうか。これには「型」と「真似」が重要になってきます。まず、「型」については、私の著書の『PowerPoint資料作成プロフェッショナルの大原則』に6つの基本の図解や6つの応用の図解を紹介しているのでそれを使ってみてください。0から資料作りを学ぶのはきりがないので、決められた12個の型を使うことでコンサルタントのような資料に近づくと思います。

その上でよりレベルアップしたい場合は、実際のコンサルタントが作成した資料を見て真似をすることが重要です。いまはコンサルティング会社が官公庁の案件を受託していることが多いので、経産省などが公開している資料をダウンロードしてスライドの作り方を真似ると表現の幅が広がります。最初は型を学ぶ、その後はいろんな資料を真似していくことが上達への近道ですし、コンサルタントほどの時間をかけずに資料作成スキルをレベルアップする方法だと思います。ぜひまずは型を学ぶところからスタートしてもらえればと思います。

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【公開中note一覧】
◆「人を動かす一人歩きする」資料Before→After
第1回 入門編①図解の基本形「一人で行くバー」をお薦めするスライド
第2回 入門編②2つの比較「ストアカ」をお薦めするスライド
第3回 入門編③図解の基本形「コーチングアプリ」をお薦めするスライド
第4回 基礎編①線グラフの基本 企業の変革を促すスライド
第5回 基礎編②スライド構成と図解 新規事業を提案するスライド
第6回 Before→After OBOG版(前編)~霞が関文学編~
第7回 Before→After OBOG版(後編)~霞が関文学編~
番外編 『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』
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◆Rubato講師×note
ロジカルな図解のつくりかた(前編)
ロジカルな図解のつくりかた(後編)
アウトプット→インプットの話    
Rubato流「オトナのパワポ正月遊び」 
ターゲットを絞り、刺さる資料をつくるコツ
「かっこいい」デザインと「余白」の話 
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講座一覧はRubatoウェブサイトから

【Rubatoの書籍】


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