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嫌われないロジカルシンキング~ロジシン馬鹿と言われないために

はじめに

こんにちは、ルバートで資料作成講座の講師をつとめる丸尾です。

ロジカルシンキングは、目的に向けて筋道を立てて考えるスキルです。このスキルを磨くことで、情報整理、問題解決、わかりやすい説明など仕事に活かせることも多い。こうした多くのメリットがある一方で、自分が対面で使われときどう感じられたでしょうか?
 つねに理由や根拠を求められ、仕事がやりづらかった。
 議論のたびに論破され、嫌な気持ちになった。

このような経験をお持ちの方も多いのではないかと思います(自分が他者に対して使ったときにも、いい結果を生まなかったケースが多いのではないかと想像します)

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ロジカルシンキングが嫌われてしまうのは、なぜでしょうか?一言で言えば、「ロジシン馬鹿」の状態になってしまっているためだと考えます。ロジカルシンキングという道具に溺れて、目的を見失ってしまっている状態です。今回は、嫌われないロジカルシンキングをテーマに、「ロジシン馬鹿」にならないための原因と対策について考えてみたいと思います。


要因1 他者に向けて使ってしまう

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ロジカルシンキングでは、思考を深めるため、様々な問いかけを行います。例えば、
「So what?(だから、何?)」
「Why?(なぜ)」
「True?(それって本当?)」

などがあります。思考を深める上で便利なのですが、つい他者に向けて使ってしまった経験はありませんか。
例えば、業務が立て込んでいるときに、OJTを任されている新人からの報告を受け、「それで、結論は何なの?」と返答して、委縮させてしまった経験。苦労して手に入れた顧客情報を関係者と共有したら、「それって本当ですか?」と感覚的に質問され、「信用できないのか」と苦々しく思ったこと。

問いの目的は、「答えを出す」ことにありますが、他愛ない雑談や話をただ聞いてほしいなど、「答え」が不要な場面も多いもの。そうした場面で、「この話の目的は何か?」と話の腰を折ることや「それは、こうすれば良い」と頼まれていないのに解決策を出す方向に持っていってしまう。ロジシン的な対応をしてしまうと、会話も弾まず、面倒くさい人だと思われてしまいます

では、どうすればよいでしょうか?

【対策1-1】 自分の思考のために使うもの
ロジカルシンキングの「シンキング」とは、「自分が考える」ことであり、基本的に、他者に対して使うものではないものだと思います。使い方を間違えると怪我をする、銃やナイフのような道具だと考えるとイメージがつきやすいでしょうか
【対策1-2】 質問の背景や意図の共有
問う場合には、質問の背景や意図を共有することで、こじれが少ないと思う。例えば、上記の顧客情報の共有の事例では、「購買部門は、価格が低いA社を推す意見が多いと思っていたが、なぜ価格が高いB社を推す意見が多いのか?」や「意思決定にかかわる立場によって意見が異なるはず。ゲートキーパーである購買ではなく、評価を担当する技術部門の意見はヒアリングできていますか?」と質問されれば、建設的な議論に入りやすい。
【対策1-3】 コミュニケーションモードの切り替え
コミュニケーションでは、「答えを考える」モード以外にも、「傾聴する」や「共感する」など他のモードもあります。「ロジシン馬鹿」になってしまうと、「答えを出す」モード一辺倒になりがち。トンカチを手にした途端、すべてが釘に見える状態。今、この場の目的や状況は何かを俯瞰し、臨機応変にモードを切り替えること。ロジシン的に言えば、目的と手段の整合性をロジカルに考えるということでしょう。


要因2 「問う」ことが「詰める」になってしまう

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ロジカルシンキングは、「答え」を導き出すために「問う」ものです。本来は、「問い」と「答え」がセットの関係です。しかし、実際の仕事場面では、企画など説明する側(説明者)と聞く側(聴衆)という立場に分かれることが多い。質疑応答では、聴衆は、企画内容の曖昧な部分や根拠が不十分など、いわゆる「弱い部分」を突く形になることが多い。新規事業や新製品など確証がないものほど、この傾向は高まるような気がします。

ロジカルシンキングに長けるほど、こうした穴は見えやすくなりますし、鋭い質問やダメ出しを行うことで、「切れ者」として評価を得ることも可能です。説明者は、聴衆の納得がいく答えを提示することが求められる。ただ、問う動機の中に、質問者のエゴが入り込んでくると注意が必要です。自分の有能さや力を誇示しようとすると、質問の形をかりて相手を詰めてしまう。「問い」がロジカルであるほど、説明者の逃げ場を封じてしまいます。正しさの証明があると、目的が相手を論破することにすり替わってしまう。これらは「ロジシン馬鹿」になってしまっている状態と思われます。

では、どうすればよいのでしょうか?

【対策2-1】 動機を見つめなおす
質問の動機の中に、自分のエゴがないかを問うてみましょう。本来の目的は、企画を成功させるべく、チームの知恵を集めることにあったはずです。質問の冒頭に、「企画」や「チーム」にとって、どういう意味があるかを説明してから、質問内容に入ると聴衆も意図を理解しやすくなると思います。
【対策2-2】 説明者をアシストする
企画を磨くためにダメ出しが必要な場合も、その対策もあわせて提示するよう努めると良いでしょう。ロジシン的に考えると、企画内容には「弱み」も「強み」もあります。企画の利点に触れたり、意思決定を促す情報を付け加えることで、企画が通るようアシストすることもできます。聴衆からポジティブなコメントが出ることは、その場の空気を変えます。説明者にとっては、心強い援軍に救われた気持ちになるはずです。
【対策2-3】 広げてから、閉じる会話で追い詰めない
また原因分析などで「なぜ?、なぜ?、なぜ?」と一点を深く掘り下げていくような議論でも、一旦、選択肢や要因を広げて(拡散)から、閉じる会話(収束)に向かうように話すことで、追い詰める感は緩和されると思います。チーム全体で視界を広く保てるので、大きく外すリスクを回避できると思います。このようにロジカルシンキングを活用し、議論をリードできる人は、チームの「味方」としての信頼を集めることができると思います。


要因3 対人での感情や関係性を忘れてしまいがち

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ロジカルシンキングは、事実や情報を論理という因果律で結ぶことを重視します。その一方、相手との関係性や感情については忘れがちです。人対人でのコミュニケーションでは、コンテンツ以外に、「感情」や「ニュアンス」をやりとりしています。ここを軽視してしまうと、やがて空気が重くなり、コミュニケーションの流れが止まります。

例えば、不良品やトラブルの発生要因を追及する場面。教科書的には、真因を特定するため「なぜを3回以上繰り返す」ことが推奨されています。しかし、人的ミスが絡んでいる場合、当事者の責任を追及するつもりはなくても、そのような空気が生まれてきます。「なぜ?」と掘り下げていく中で、聴衆から批判的なコメントが出ると、当事者も「弱さ」や「本音」を出すのが難しくなっていきます。結果、核心をつかめないまま、対策を考えることになってしまいます。

では、どうすればよいでしょうか?

【対策3-1】 相手との関係を整えてから本題に入る
対人コミュニケーションでは、本題に入る前に、まずは相手との関係性や感情をくみ取ること。いわば場をあたためることに時間を使うことだと思います。とくに、相手が感じていることを、自分も知覚していることを言葉で伝えることです。ロジカルな会話と人格は別物であり、話しても大丈夫という安心感を認識してもらうためです。
【対策3-2】 要因分析では、状況や心理要因も把握する
トラブルの原因分析のような場では、直接的な要因(行動した結果)だけに注目しがちですが、そのときの状況や心理的状況についてもヒアリングすると良いです。そのほうが、事実関係を立体的に把握できますし、話し手も自身のことよりは客観的な様子のほうが話しやすくなります。
【対策3-3】 「絶対解」より「納得解」を作る
自分が発している言葉に「べき」のニュアンスが含まれていないかに注意すると良いです。「べき」で語られる内容には、「自分の価値観」と「無駄のない正しさ」で構成され、相手に突きつける感覚を覚えます。まるで「矢」のような印象です。現実に照らすと、物理的なハードルや心理的にそのまま受け入れるのが難しい場合が多いように感じます。
この「べき」に代わる言葉を探すとしたら、「もしかしたら、~かもしれない」を使ってみてはいかがでしょうか。他にも選択肢を広げつつ、相手が選べる余地が作られている印象があります。ロジシン的には、論理的に正しい「絶対解」を作ることよりも、相手が気持ちよく動ける「納得解」を導き出すことを目的とすると良いのではないかと思います。それは、最終的には「人を動かす」以外に、目的や成果は実現しないためです。


最後に

嫌われないロジカルシンキングについて要因と対策について考えてみました。まとめとしてお伝えしたいことは2つです。
1つは、スキル自体の高低よりも、その磨いた能力を「何のため(誰のため)」、「どう使うか」が大事だということです。これは、スキルアップを図る場合に、広く当てはまることだと思います。
あと1つは、「ココロ」の影響が大きいということです。「自分のエゴ」がないかを、胸の内を見つめなおすこと。相手の感情へ配慮することが、スキルの本来の力を発揮するためには欠かせないということです。


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第2回 入門編②2つの比較「ストアカ」をお薦めするスライド
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第4回 基礎編①線グラフの基本 企業の変革を促すスライド
第5回 基礎編②スライド構成と図解 新規事業を提案するスライド
第6回 Before→After OBOG版(前編)~霞が関文学編~
第7回 Before→After OBOG版(後編)~霞が関文学編~
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2.ロジカルな図解のつくりかた(後編)
3.アウトプット→インプットの話
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5.ターゲットを絞り、刺さる資料をつくるコツ
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