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論理で「見えていない世界」に気付く ~MECEな切り口(軸)の考え方~

今回は、ルバートが主催する資料作成講座の講師をつとめる丸尾武司が「MECEな切り口(軸)の考え方」についてご紹介いたします。

資料作成講座では、受講生が宿題資料を作成してみて、難しかったことや悩みをお伺いしています。「伝える要素をロジカルに考えることが難しい」「MECE(漏れなくダブりなく)に考えるのが苦手」という意見や図解化したときの小見出しを論理的に考える方法に関する質問が多いです。

私がコツとしてお伝えしていることは、ストーリーラインの基本は、相手にとって大事な要素が含まれていれば大丈夫。論理的に考えることは、伝える要素の漏れを防ぐために使うということです。

伝える要素を考えるときには、2つの方向からのアプローチがあります。

① 伝える相手の属性や状態から、その人ならではの興味関心や質問や反応を予測すること
② 論理的に要素を考えること(伝える相手のことは考えずに、一般的に意思決定に必要と考えられる要素を論理的に分解する)

前者が「相手が知りたい・聞きたいこと」だとすると、後者は「相手が知るべき・聞くべきこと」です。

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基本は、相手が聞きたいことが優先されます。提案の目的は、相手が納得し、行動してもらうことだからです。ロジカルな提案内容をつくることは、そのための手段です。ただし、相手が聞きたいことだけでは、相手が見えていることはカバーできますが、気づいていないことは見落とす恐れがあります。相手が知りたいことだけでは、相手の予想や期待を超える提案を作ることは難しいでしょう。知識、経験、思い込みから、見えている世界だけで判断しがちですが、見えていない世界もあわせて「全体」になります。論理的に考えることの効果は、見えている要素だけでなく、まだ見えていないが大事な要素を気づかせてくれることにあります。こうした要素の漏れを防ぐために考えるコツについてご紹介したいと思います。

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切り口の「切り口」

全体をとらえ、大事な要素を漏れなく考えるための切り口には5種類あります。

① 対照概念
② 主要な要素
③ フロー(ステップ)
④ 程度
⑤ 四則演算(+-×÷)

それぞれ使いこなすコツと参考例をご紹介します(参考例は、思いつくままあげたので羅列になってスミマセン)。

① 対照概念
1つのアイデアを思いついたら、その対義語や対になる概念を考えることです。2つで1セットになる概念と考えてもよいかもしれません。Googleで対義語を検索することもできるので、比較的考えやすいです。モノゴトを二分法で白黒つける考え方ですので、実際のビジネスで使うときには、二分法で分けた後、中間(グレー)や両方に共通するケースがないかを注意すると良いでしょう。

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② 主要な要素
話の主要な登場人物や判断要因で小分けするものです。典型的には、経営定石のフレームワークに代表されるような3~5つの要素に分解します。この切り口は、あくまで「主要な」要素を押さえるもので、漏れが完全にないわけではありません。伝える要素を考えるときには「MECE感」でも良いのですが、ロジックツリーで要因分析を厳密に「MECE」に分解したいときには「その他(それ以外)」を項目に加えると良いでしょう。

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③フロー(ステップ)
全体を時間やステップごとに切り分けるものです。人の行動パターンやプロセスを考える場合に適しています。ビジネス活動を時間の流れに沿って考えるときに、どちらの要素が先か後かで悩むことがあるかもしれませんが、ここでは漏れないことが大事ですので、どちらでも大丈夫です。気をくばるべきことは、始まりから終わりまでの「全体」を押さえることです。

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④ 程度
全体を基準や程度ごとに切り分けるものです。切り分けた層ごとの違いに意味があり、問題箇所の絞り込みや優先順位づけを行うために行います。大事なことは、どこで境界線を引くかです。そこで区分することは、別で区分するよりも問題箇所を的確に浮かび上がらせることができるかを考えてみましょう。

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⑤ 四則演算
全体を四則演算の計算式で分解します。典型的には、利益や顧客数などの定量的な対象を分解することが多いです。同じ対象でも分解のパターンは複数出てきますが、後で検証ができるようデータがとれる切り口で分けることが大事です。また、この切り口は、定量以外に定性的な対象を演算子の関係であらすことも可能です。例えば、上記の①から④の切り口では、切り分けた要素を足し算すると「全体」となる関係があります。
余談になりますが、4つの演算子のうち、実ビジネスでは「足し算」が有効です。例えば、売上向上のため問題箇所を特定したいとき、売上は掛け算(単価×数量)でも、足し算でも分解できますが、この場合、まず使うべきは「足し算」です。売上を、顧客、製品、地域、時間など切り口ごとに「足し算」で分解し、問題箇所を絞り込むことで効果的、効率的に進めることができます。

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考えるコツ

考える方法は、3つあります。

① 知識をそのまま当てはめる
② 知識を変形させる
③ 自分でゼロから考える。

漏れの少なさや考える時間の効率から、①→②→③の順で考えることがおススメです。

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① 知識をそのまま当てはめる
目的や状況にピッタリ当てはまるフレームワークを探すことです。例えば、事業環境を分析するときには、3C(Customer、Competitor、Company)やSWOT(Strength、Weakness、Opportunity、Threat)など定石的なフレームワークを当ててみることです。ただし、自分の状況や仕事にピッタリ当てはまるものは意外に少ないと感じられるかもしれません。

② 知識を応用する
目的や状況にあわせて、元のフレームワークから応用して使います。要素を入れ替えることや抽象度を上げ下げすることです。例えば、営業活動の効率について考えるとしましょう。生産性=Output/Inputという一般知識を持っているとしたら、OutputとInputを入れ替えることです。Inputをヒト、モノ(コト)、カネ、時間で入れ替えてみる。別の例として、ファーストフード店をおすすめする理由を考えてみる。例えば、QCD(Quality、Cost、Delivery)というフレームワークを下敷きにして、牛丼チェーンの吉野家の「うまい、はやい、やすい」はあまりに有名なフレーズですよね。

③ 自分でゼロから考え出す
最後は、自分の個別状況にあわせて考え出すことです。さきほどの「うまい、はやい、やすい」は、忙しいビジネスマンに提案する場合に当てはまるでしょう。小さい子供を持つ母親に提案する場合はいかがでしょうか。ある受講生の方は、「食事メニューが豊富、デザートがヘルシー、人気キャラのおもちゃがある」という理由を提案されていました(「すき家」をおすすめされていました)。子供向けのセットメニューを見て、「主要な要素」の切り口で分解されたのではないかと思います。

自分で考えるときは、5つの切り口を1つ1つ試してみてください。切り口によって、アイデアの考えやすさに違いがあるはずです。語彙力が豊かな人や語感センスに優れた人なら、対照概念の切り口が考えやすいかもしれません。段取りが得意な人なら、ステップの切り口が合っているかもしれません。1つの切り口で3分考えてアイデアが出ないと思えば、切り口を切り替えてみましょう。さまざまな角度から考えることで、思考領域をストレッチさせ、頭の中からアイデアを引き出します

コミュニケーションツールとして使う

ここまで3つの方法について説明しましたが、これらは自分1人で考える方法です。さらに磨きをかけるためには、他の人の頭を上手に借りましょう。自分で考えたものを「たたき台」として、他の人にも意見やアドバイスを求めることです。自分の見えていない領域があることを認め、他の人の意見を求めることは共創です。自分で考える作業を丸投げし、安易に答えだけを求めるフリーライダーとは異なります。
 
5つの切り口に慣れてくると、どうとでも切り分けることができ、漏れをなくすことにも難しさを感じなくなるはずです。次に大事なことは、相手に響く、感度が良い切り口を見つけることです。考えた複数の切り口や要素を相手に話しながら、どれが響くかを確かめることや、表現の微妙な違いを磨いていくことが大事です。これによって、意思決定の要素を幅広く押さえるだけでなく、相手ならではの興味関心の濃淡に応じた、いわゆる「刺さる」状態をつくれると思います。

最後に

MECEに考える力を増やすには、知識を蓄えることや頭の中からスムーズに引き出す訓練を積む以外に、考えることを楽しむことが大事ではないかと思います。何かモヤモヤや気持ち悪さを感じながら考えつづけた結果、ある瞬間、パッとアイデアがひらめく瞬間の快感や「できる」という自信が、記憶の定着促進や次の問題を考える動機になるのではないかと考えています。


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第4回 基礎編①線グラフの基本 企業の変革を促すスライド
第5回 基礎編②スライド構成と図解 新規事業を提案するスライド
第6回 Before→After OBOG版(前編)~霞が関文学編~
第7回 Before→After OBOG版(後編)~霞が関文学編~
番外編 『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』
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