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オンライン会議が増える今こそ考えるべきフォントの話

読者の皆さんこんにちは。資料作成講座の講師をしております中川です。
最近、受講生のアンケートを読ませていただく中で見かけるのが、「オンライン会議・Web会議が増え、資料の重要性を再認識している」という声です。

以前、ルバート代表の松上による「オンライン会議をスムーズにする3種類の1枚資料」という記事にもありましたが、確かに資料の用途がプレゼンテーションのためだけではなく、オンライン会議内でのスムーズな共有や進行という新たな用途が生まれてきています。

そこで今回は、オンライン会議時代だからこそ、資料の中の見やすい文字について考えてみたいと思います。


1. フォントと書体の関係性

そもそもフォントとは何かというところからスタートしていきたいと思います。
公益社団法人日本印刷技術協会によると、「フォントとは、元来欧文活字の用語で、1つの書体の文字サイズごとに作られた大文字・小文字・数字・記号類のセットのことを意味します」と定義されています。その中に出てきた「書体」ですが、同協会では「書体とは、表示・印刷などに用いるために、美的感覚に基づき、字体を統一的にデザインした文字のスタイルのことを指しています」としています。

分かりやすく言うと、皆さんも一度は聞いたことがある”明朝体”や”ゴシック体”は「書体」、“MS P明朝”や“MS Pゴシック”は「フォント」ということで、書体を更に細かく分類した個々の文字の形をフォントというわけですね。

この2つの使い分けに関しては、日常生活ではかなり曖昧になっており、「好きなフォントは筆書体です」と言われても、違和感がないのではないでしょうか。(ちなみに「好きなフォントはHG行書体です」が正解となります)

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2. 資料における文字の構成要素

続いて、資料作成における文字の構成要素について考えていきたいと思います。文字とは、以下の3つから構成されています。

① 書体
② サイズ
③ 色

先ず1つ目の書体ですが、文字の構成要素の中で最も重要なものが、書体(フォント)です。先ほど書体を細かく分類したものがフォントと書きましたが、文字のスタイルを考える際には、フォントよりも先に書体を考える必要があります。

ちなみに文字を構成する3つの要素にて疑問を持った方がいるかもしれませんが、構成要素にはもう1つ太さという概念も存在しています。文字の太さはウェイトともいわれていますが、実はフォントの世界では、太さの違うものや、斜体文字は同じフォントに集まる「フォントファミリー」であると定義されています。

例えば、游ゴシックはLight / Regular / Medium / Boldと4種類が用意されており、この4つをまとめて游ゴシックのフォントファミリーであるとされています。そのため、文字の太さはこの書体およびフォントに包含されていることになるわけですね。

続いて2つ目の構成要素はサイズです。
サイズは皆さんご存知の通り、PowerPointではpointという絶対値で管理されています。この点に関して説明する必要はないかと思いますが、オンライン会議が増える中では、是非見直したい要素の1つです。

そして、最後の構成要素はです。
多くの資料の場合、背景が白であるため文字色は黒を利用しているかと思います。背景色が白ではない場合には、文字色を白にすることも検討すると良いでしょう。

なお色に関して今回は深堀しませんが、オンライン会議専用資料の場合のおすすめテクニックを1つ紹介したいと思います。それは文字色をダークグレーにするという技です。

基本的にディスプレイはコントラストがやや強めとなるため、通常の白背景に黒文字の場合、紙に印刷したときと比べてコントラストが強くなりすぎてしまいます。そのため、ディスプレイ閲覧用の資料に関しては、文字色を少しだけ薄めておくと目に優しい仕上がりとなります。

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3. オンライン時代に適した文字の選び方

さていよいよ文字の選び方に関して考えていきたいと思います。
文字を選ぶときのポイントは、以下の3点です。

① 資料内容のフォーマリティを検討する
② 文章の長さを検討する
③ 資料の閲覧方法を検討する

① 資料内容のフォーマリティを検討する
フォーマリティを検討するということは、資料の対象や目的を考えるということと非常に近い概念となります。対象や目的が明確になると、その資料がフォーマルな資料かカジュアルな資料かの判断がつくということですね。

日本語の文章で用いられる一般的な和文書体は、明朝体、ゴシック体、筆書体、デザイン書体の4つに分けることができます。4つの書体の特徴を整理すると以下の通りです。

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一般的に文字に対する装飾要素が多くなればなるほど判読性が下がります。
判読性が下がるということは読み間違いが多くなるということになり、その資料の利用目的がフォーマルになればなるほど、そのような書体は使用することが難しくなると言えるでしょう。

しかし逆に判読性が下がった文字というのは個性的かつ印象的であるため、娯楽要素を含む内容や新しいアイデアの発表など、カジュアル度が高く、注目を集めたい資料であれば効果を発揮することができます。

② 文章の長さを検討する
続いて検討したいのが全体の文章量です。
先ほどの書体分類図の縦軸では、可読性と視認性という軸を使用しています。

可読性が高いとは文字が読みやすい状態を示し、文章を読んでも疲れにくいため、長い文章を読む際に向いています。反対に視認性が高いとは文字が目立っている状態を示し、文章が際立っているため、短い文章を読む際に向いています。

そのため作成する資料が図解等を利用した見せるための資料か、深く理解してもらうために読んでもらうための資料かによって、フォントを使い分ける必要があります。

Word資料は明朝体が多いのに対して、PowerPoint資料はゴシック体が多いのはこのためですね。この書体の分類に関しては、これまでフォントをあまり考えたことがなかった方でも何となく感覚でご理解されているのではないでしょうか。

③ 資料の閲覧方法を検討する
3点目のポイントは、作成した資料がどのように利用されるかを考えるということです。

冒頭にも書きましたが、これまで資料はスクリーンに投影されるか、紙に印刷される、という閲覧方法が基本でしたが、昨今オンライン会議が増加するにつれ、ディスプレイ上で資料を閲覧するという方法が主流となってきています。

これまでプレゼンテーションのための資料作成関連書籍では、資料にばかり目を向かせないことを目的とし、概ねフォントサイズは24pt以上(最低でも18pt)にする方が良い、と書かれていました。また紙に印刷される場合の資料(ひとり歩きする資料)は、14~16pt程度(最低でも10pt)を推奨しています。

ではPC画面上で見る資料の場合、フォントサイズはどの程度が良いでしょうか。この問を考えるためには、一般的にビジネスマンが利用するパソコンのディスプレイサイズを考える必要があります。

企業の採用率が高いA4サイズのノートパソコンは14型と呼ばれるモデルですが、基本的にディスプレイのアスペクト比は16:9あるいは16:10という横長のものが主流であるため、搭載されているディスプレイサイズは当然A4サイズ横よりも一回り程度小さいサイズになります。

つまりこれまで想定されていた紙への印刷を基準とする文字サイズよりもやや大きくする必要があるわけです。そのため、ディスプレイ投影用に利用される資料なのであれば、16~18pt程度を基本と考えて作成することをお勧めします。

以上の3点をまとめると以下になります。

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読者の皆さんが作るオンライン会議用資料は、きっと「戦略的プレゼン資料作成2日間集中講義」で学んだ内容をふんだんに利用した図解化した資料かと思いますので、書体はゴシック体を利用し、文字サイズは16~18pt程度で作成することが良いというわけですね。


4. ビジネス資料に適したフォント

さて最後は、実際にビジネス資料に適しているフォントを紹介していきたいと思います。
インターネット上では、パソコン購入時にプリインストールされているフォント以外にも様々なフォントが出回っています。しかし実際にはレイアウト崩れが起きる心配を避けるためにプリインストールされているフォントから選ぶのが一般的です。

そんなプリインストールフォントの中でも、ビジネスに適しているゴシック体フォントを紹介したいと思います。なお今回はWindows用のフォントを紹介させていただきます。

① MS Pゴシック
Windows用に開発されたシステムフォント「MS ゴシック」の文字幅を文字毎に調整したプロポーショナルフォントで、「MS Pゴシック」のPはプロポーショナルのPです。

一番利用されているフォントであることには間違いないですが、実は太字フォントが用意されていないフォントであり、無理やり太字処理をしているため、複雑な漢字の場合はつぶれてしまう点に注意が必要です。

② Meiryo UI
「MS ゴシック」に代わる日本語フォントとして開発されたフォントです。
「明瞭」が名前の由来である通り、はっきり見分けられることを想定して作られています。

「Meiryo UI」はWindowsのリボンUI用に開発されたフォントで、文字間隔が狭いのが特徴ですが、和文が等幅フォントである「メイリオ」の代わりにプロポーショナルフォントのように利用されています。またスムージング技術である「ClearType」に対応しており、ディスプレイ表示時はよりきれいに映る点が特徴です。

③ Yu Gothic UI
字游工房が発表した独自フォントですが、Windows 10のシステムフォントに採用されているため最近急速に知名度をあげているフォントです。

「游ゴシック」を基にしたフォントですが、「Meiryo UI」と同様にプロポーショナルフォントのように利用されています。Light / Regular / Medium / Semibold / Boldという5種類の太さがあり、ウェイトの自由度が高い点が特徴です。

④ BIZ UDPゴシック
“出来るだけ多くの人が利用できることを目指したデザイン”をコンセプトとしたユニバーサルデザイン(UD)に対応したフォントとして、いち早くWindowsに導入されたフォントです。

使用された資料を見ることは少ないですが、実は食品類や電化製品の注意書き等では既に多くのUDフォントが利用されており、資料作成業界にも新旋風が巻き起こる可能性を秘めています。

4つの特徴をまとめると以下の通りです。

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上記の4種のフォントであれば、正直どのフォントを選んでも見やすい資料となるので、好みの問題ではあります。強いて言えば時代の潮流は後に紹介したものの方へ向かっているということですかね。

個人的には「MS Pゴシック」はややディスプレイ表示に弱いため、オンライン会議用資料であれば別のフォントを使用したいです。

そうはいっても、なかなか選びづらいと思いますので、渡邉さんの記事「外資系コンサルファームのプレゼン資料(2020年最新版)~各社の特徴を洗い出す」にて紹介されたコンサルティング会社8社の資料ではどのフォントが利用されているのかを確認してみました。結果は以下の通りです。

MS Pゴシック(4社)
· アーサー・ディ・リトルジャパン株式会社
· マッキンゼー・アンド・カンパニー
· デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
· 株式会社野村総合研究所
Meiryo UI(4社)
· 株式会社ボストンコ ンサルティンググループ
· アクセンチュア株式会社
· KPMGコンサルティング株式会社
· 三菱総合研究所

やはり「MS Pゴシック」と「Meiryo UI」が強いですね。
コンサルティング会社は「MS Pゴシック」かと予想していたのですが、意外にも「Meiryo UI」と半々という結果にやや驚きました。
ちょっと前まで資料は「MS Pゴシック」を使用する、というルールが当たり前でしたが、少しずつルールも変わってきているのかもしれません。


さて今回は、オンライン会議・Web会議における文字について考えてみました。
コンサルティング会社の資料には、より新しいフォントである「Yu Gothic UI」や「BIZ UDPゴシック」を利用している例はありませんでしたが、Windowsのシステムフォントが移り変わっていることや、ユニバーサルデザインへの意識から、主力フォントの流れも変わりつつあるのかもしれません。

個人的には、今後は「BIZ UDPゴシック」も使用していきたいと思っているので、もし新しいトレンドを取り入れたいと思っている方がいましたら、是非一緒にユニバーサルデザインフォントを使用してみましょう!
資料作成界のフォントはどうなっていくのか、これからも密かに注目してみたいと思います。


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