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【訪問記録】動物園・水族館等施設展示を掘り下げる。

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動物園・水族館・博物館の訪問記録は数あれど、「展示施設の微細な心遣い」に焦点を当てたルポは案外少ないのではないでしょうか。本マガジンでは、これまで訪問した園館等施設の「ここ好き」… もっと読む
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記事一覧

ここに確かに居ること、ここへ必ず還ってくることーー黑田菜月《動物園の避難訓練》試論

ここに確かに居ること、ここへ必ず還ってくることーー黑田菜月《動物園の避難訓練》試論

 動物園という場所を動物園たらしめるものは何だろうか。動物園に足しげく通うようになってから幾度となく問いを繰り返してきた。ある時は幼い頃の日記帳を辿り、またある時は廃墟となった動物園跡地を歩き、私は私たち自身の語りによる価値の再創造(Re-Creation)が動物園を動物園として成立させていることに気付きつつあった。

 動物園という装置は巡回展やサーカスのように拠点を変えず、場所に根付いて展示を

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【雑記】けものみちは万里に通ず

【雑記】けものみちは万里に通ず

 「おらんうーたんになりたい。」もしくは「おらゑもん」というアカウント名で、趣味活動の動物園・水族館訪問を発信するようになって、4年が過ぎた。

 4年というのは、本当に長い期間だ。小学6年生が高校に入学し、中学3年生が大学に進学するのと同じだけの期間。

 この4年間、私の趣味領域での関心は一貫して「霊長類を中心とした動物の社会」「社会の中の動物園・水族館」「文化としての動物園・水族館」に向いて

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「おらんうーたんになりたい。 」と初夏の多摩動物公園で思わず呟いてから、ぼくが考え、発信し、活動してきたこと。

「おらんうーたんになりたい。 」と初夏の多摩動物公園で思わず呟いてから、ぼくが考え、発信し、活動してきたこと。

0.はじめに※2020.5.5 本noteの一部を加筆・修正しました。

※2020.5.31 本noteの一部を再加筆・修正しました。

※2020.8.2 本noteの一部を再々加筆・修正しました。

※2020.9.26 本noteの一部を再再々加筆・修正しました。

※2020.11.22 本noteの一部を再再々々加筆・修正しました。

※2021.1.17 本noteの一部を再再再々々

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アジールとしての動物園

アジールとしての動物園

Asyl(独)/asylum(英) ――不可侵の場所。聖域。自由領域。無縁の縁を結ぶ場所。

 2017年の夏。恩賜上野動物園の公式Twitterに、涼し気なアメリカバクの写真とともに、一件の記事が投稿されました。

 夏休みが終わろうとしている日、逃げ場所のない子どもたちに向けられた、日本一歴史の長い動物園のメッセージは、多くの反響を呼びました。

 2019年には、愛知県豊橋市が運営する

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アジールとしての動物園(Ⅱ)――無縁・南蛮・死生観

アジールとしての動物園(Ⅱ)――無縁・南蛮・死生観

 

■ アジールAsyl(独)/asylum(英) ――不可侵の場所。聖域。自由領域。無縁の縁を結ぶ場所。

 たえず移ろいでいく現代社会の中で動物園・水族館は、「4つの役割」――「①種の保存 ②教育・環境教育 ③調査・研究 ④レクリエーション」を大きな目標として掲げています。

 しかし、この4項目に包摂されない「隠された役割」――「『居場所』としての役割」もあるのではないかと考えさせられる機

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動物たちのエスノグラフィー──幼い頃の日記より

動物たちのエスノグラフィー──幼い頃の日記より



アフリカえんのちかくのチンパンジーのいるばしょでは、ふたりのチンパンジーがカップルかどうかわかりませんが、だきあっていて、子どもがデート(かな……)のじゃまをしていました。立ち上がってワオーとおどかしましたが、それでもはなれないので、子ザルはつぎの手を考えていました。

この記述は、私が小学生の頃、愛知県豊橋市の「のんほいパーク」に連れて行ってもらった日に書いた日記の抜粋です。

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【園館等訪問ルポ】或る「仏法僧」伝――「通学帽と地層」の記憶/鳳来寺山自然科学博物館(愛知県新城市)

【園館等訪問ルポ】或る「仏法僧」伝――「通学帽と地層」の記憶/鳳来寺山自然科学博物館(愛知県新城市)



里帰りも兼ねて、JR飯田線に乗った。慣れ親しんできた駅名がゆっくり通り過ぎていくのを見ながら、奥三河と呼ばれる地域に入っていった。駅からまた長い道を歩いた。ツクツクボウシが鳴いていた。先に実家に帰って、車を借りればよかったかもな、と少しだけ思った。

鳳来寺山の参道から少し脇道に逸れて歩いていくと、緑を背にした白い建物が見えてくる。昔の記憶のままだ。鳳来寺山自然科学博物館の外観は

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【園館訪問ルポ】「智の森」――多摩動物公園 ボルネオオランウータン舎(東京都日野市)

【園館訪問ルポ】「智の森」――多摩動物公園 ボルネオオランウータン舎(東京都日野市)

東京郊外のオアシス、多摩動物公園。多摩丘陵の地形をそのまま生かした広い園の一番奥に、ボルネオオランウータンたちが暮らす展示施設があります。

オランウータンたちが樹上生活者としての特性を最大限発揮して「吊り橋」を渡る様子が観察できる「スカイウォーク」で知られるこの施設。
広い放飼場や「自然林をそのまま展示場として生かす」革新性、オランウータンたちの生活の質を高める(≒環境エンリッチメント)ための多

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【園館訪問ルポ】異能の天才、近藤典生博士の足跡を追いかけて――① 進化生物学研究所 バイオリウム(東京都世田谷区)

【園館訪問ルポ】異能の天才、近藤典生博士の足跡を追いかけて――① 進化生物学研究所 バイオリウム(東京都世田谷区)



近藤典生(こんどう・てんせい(のりお))。東京農業大学の名誉教授、コムギや種無しスイカを研究し、のちに「環境生態学」を構想した遺伝・生物学者、日本の動物園設計に独自の足跡を残した動物園デザイナー、アマゾンやマダガスカルの自然を日本人に紹介した冒険家……。その活躍は実に多岐にわたっています。

東京都世田谷区。馬事公苑のすぐ隣、東京農業大学の「『食と農』の博物館」に、近藤博士が中心となって設立さ

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【園館訪問ルポ】異能の天才、近藤典生博士の足跡を追いかけて――② 伊豆シャボテン動物公園(静岡県伊東市)

【園館訪問ルポ】異能の天才、近藤典生博士の足跡を追いかけて――② 伊豆シャボテン動物公園(静岡県伊東市)

前回記事の中で紹介した、「『食と農』の博物館」に佇む近藤典生博士の胸像。その裏の碑文には、このような一節があります。

研究材料の維持・管理と、研究の社会還元の"場"として数々の独創的な自然動植物園を設計、"自然思考造景"の思想を開花させた。

動物をただ見せるのではなく、その土地を特徴づける景観と調和するよう施設の配置に気を配る。
植物や周辺地域の地質学にも自然と目を向けられるような、包括的な

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【園館訪問ルポ】異能の天才、近藤典生博士の足跡を追いかけて――③熱川バナナワニ園(静岡県賀茂郡東伊豆町)

【園館訪問ルポ】異能の天才、近藤典生博士の足跡を追いかけて――③熱川バナナワニ園(静岡県賀茂郡東伊豆町)

 静岡県賀茂郡東伊豆町。伊豆急行伊豆熱川駅から歩いてすぐ、伊豆大島をのぞむ温暖な街で60年以上の長きにわたり営まれてきたこの園の名前は、いちど聞いたらだれもが忘れられないでしょう。熱川バナナワニ園。その名のとおり、温泉が湧く伊豆半島の地質を生かし、多数のワニとバナナを始めとする熱帯植物の展示に力点が置かれた施設です。

 しかし、この園の魅力は「バナナ」と「ワニ」に限定されているのではありません。

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【園館訪問ルポ】バンドウイルカのラボとナホトカ号事故の記憶――越前松島水族館(福井県坂井市)

【園館訪問ルポ】バンドウイルカのラボとナホトカ号事故の記憶――越前松島水族館(福井県坂井市)

北陸地方を代表する温泉街、芦原温泉や、絶景が広がる東尋坊からほど近い越前松島水族館。

この水族館で活躍しているのは、バンドウイルカのジェミニ(父)とラボ(子)の親子です。

「柱状節理」と呼ばれる、独特の地形に囲まれた中でのイルカショーは、開放的でテンポよく、多くの人を魅了しています。

しかし、華やかなショーの背景には、この海が乗り越えてきた苦難の歴史が横たわっていました。

水族館からほど近

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【園館訪問ルポ】受け継がれる意志──東武動物公園 「リスザルの楽園」(埼玉県宮代町)/鳥羽水族館「寺町コレクション」(三重県鳥羽市)

【園館訪問ルポ】受け継がれる意志──東武動物公園 「リスザルの楽園」(埼玉県宮代町)/鳥羽水族館「寺町コレクション」(三重県鳥羽市)

遊園地と動物園が複合した「ハイブリッド・レジャーランド」の異名を持ち、関東を代表する私立動物園の雄、東武動物公園。近年はニコニコ動画のチャンネル配信など積極的なメディア展開も行い、新たなファン層を獲得しています。

その広い園内の一角に設けられた「リスザルの楽園」は、リスザルとカピバラやペリカンの混合飼育や、ウォークインケージの中を縦横に飛び回るオオサイチョウたちの姿が印象的な放飼場です。

この

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【園館等訪問ルポ】東武動物公園 /「水と緑のふれあいロード」(埼玉県宮代町)終わっていくものと、続いていくものと

【園館等訪問ルポ】東武動物公園 /「水と緑のふれあいロード」(埼玉県宮代町)終わっていくものと、続いていくものと

東武動物公園へ再訪する日を心待ちにしていました。この春以来、自宅から電車一本で直ぐに行ける「身近な園」になりましたが、休園と県またぎの自粛要請により、ずっと近くて遠い場所だったのです。

予断を許さない状況下なので、もちろん万全の対策をした上で、のことです。マスク、ヨシ。広い園内を歩き回るための水分、ヨシ。

過去の訪問はいずれも遊園地ゲートからの入園でしたが、ヒトとの接触

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