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真夜中の深呼吸。

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私のままで生きるために、深呼吸をするように綴った文章たち。
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2020年8月の記事一覧

君がいない夜とごはん

君がいない夜とごはん

料理がおいしければ、それは最高の食事だと
思っていた。

もしかするとそれは違うかもしれない、と
気づいたのは、つい最近のことだ。

なかなか手の届かなかった、高級フレンチ。

会員制の、中華料理店。

予約困難な焼肉屋。

数年前まであれほど夢みていた「憧れのお店」に
足を運んでも、その瞬間は幸せな気持ちでいっぱい
になるのに、帰り道、いつもなぜか虚しくなった。

「この鴨肉は臭みがなくて、焼き

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公園とアイスと夏夜の幻

公園とアイスと夏夜の幻

今年の夏は、夏らしいことを何ひとつせずに
終わってしまうんだろうな、と思っていた。

状況を考えても今は遠出ができない世の中だし、
何より、今週末から来月の頭にかけて、仕事で大事な
イベントが立て続いて予定されていた。

だから正直お盆どころじゃないし、まずはこの仕事を
終わらせてからじゃないと、夏休みなんて呑気なこと
言っている場合じゃない。夏を楽しむ余裕なんてない。

それなのに、毎日気温はど

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関西弁に、恋してる。

関西弁に、恋してる。

関西弁が好きだ。

いつから好きなのかなんて思い出せないくらい、
物心ついたときにはもう、すっかりその言葉の響きに
魅了されていた。

気づいたときにはすでに、関西弁に恋していた。

わたしは生まれも育ちもほとんど関東で、方言と
いえば、おばあちゃんとお母さんの使う茨城弁か、
岡崎家のルーツである山形弁くらいしか、人生で耳に
してこなかった。

関西の人にはじめて出会ったのはたぶん、ブラジルに

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本の海で泳ぐとき

本の海で泳ぐとき

図書館が好きだ。

本屋さんやブックカフェも大好きなのだけれど、
それ以上に、あの、見上げてしまうくらい天井が高く
て、地面から天井までびっしりと書籍が並んでいて、

圧倒されてしまうほど静寂に包まれていて、
古い紙の甘い匂いがして、厳かな空気が張り詰めて
いる、図書館が、好きだ。

記憶のなかに今でも色濃く残っている図書館は、
付き合いが一番長かった、大学の図書館だ。

通っているキャンパスから

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蛍光ピンクの小さな優しさ

蛍光ピンクの小さな優しさ

手づくりの、おむすびをもらった。
それも、ふたつも。

そのおむすびたちはなぜか蛍光ピンクの派手な色を
していて、小さな海苔が中途半端に巻かれている。

ラップで包まれたピンク色のおむすびは、どちらも
歪な形をしていて、完成品の一歩手前、本当はまだ
できあがっていないけど、あなたがこのタイミングで
きちゃったからもうあげるね、というような状態で、
いかにもおむすびの途中経過という感じだった。

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リモートワークとうまく付き合う

リモートワークとうまく付き合う

最近、わたしの部署でもとうとうリモートワークが
導入された。

導入されたといっても、週に2回だけなのだけど。

実際に週2回のリモートワークが習慣になってから、
わたしの生活はけっこう変わった。

環境に流されやすいタイプなので、いいことも、悪い
ことももろに影響を受けている日々だ。

これはあくまでも自分の中での整理として、わたしに
とってのリモートワークの良さと悪さを、まとめて
おこうと思う

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足りないものは、感性じゃなくてたぶん愛

「自分が撮りたいと思うものを探すんだよ、じゃない
と見つからないから」

「自分の感性で、いいなと思うものを撮ればいいんだ
よ」

どうしたらいい写真が撮れるのか、というわたしの
問いかけに対して、彼はそう言った。

感性。

わたしが一番大切にしているもののはずなのに、他の人
からこの言葉を聞くと、なんとなく違和感を覚えて
しまうのはなぜだろう。

自分の感性を、表現する。

表現するのは好きだ

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思い出すために、旅に出る

思い出すために、旅に出る

時々、全てをリセットしてゼロから
新しい人生をはじめたくなるときがある。

そういうとき、わたしには2通りの選択肢がある。

ひとつ目は、自分のことを全く知らない人が集まる、
新しい場所に足を運んでみること。

ふたつ目は、誰とも会わずにひとりで喫茶店に
こもること。

新しい人との出会いも、ひとりで過ごすことも、
どちらも「枠にはめ込まれた自分」を解放して
くれる、有効な手段だ。

旅は、その完

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私はたぶん、まだ愛を知らない

「今まで、本気で人を好きになったことないん
じゃない?」

これは、会社の研修で行ったワークの後、同期の
男の子に言われた一言だった。

言われた瞬間、頭に衝撃が走った。

ワークのテーマは「ジョハリの窓の開放の部分を
広げる」。

「今までの人生で、家族にも友達にも言っていない
秘密を3つ共有する」というお題が出た。

わたしは悩みに悩んだ結果、恋愛にまつわる秘密を
話した。

そのワークの最後

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切なさは捨てずに、怒りは味方に

切なさは捨てずに、怒りは味方に

もしかしたら、わたしには「怒り」という感情が必要
なのかもしれない。

と、最近思うようになった。

わたしは「怒り」という感情との付き合い方がいまいち
よくわからなくて、今までの人生でも、あまり関わらないようにしてきた。

「怒り」は暴力的で、人を傷つけて、コントロールが
できない、恐ろしい感情だと思ってきた。

たまに、「怒り」が自分の中で芽を出した瞬間に気づく
と、慌ててそれを鎮めようと、何

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氷と戦う、夏。

氷と戦う、夏。

かき氷は、競技だ。

お店に並ぶところからスタートして、氷を素早く、
美しく、おいしく完食するところがゴールの
個人レースだ。

まず、かき氷を出すお店はどこも常に長い長い行列だ。

行列に並んでようやく入れるタイプのお店もあれば、
予約台帳に記入して指定の時間に戻ってくるタイプの
お店もある。

いずれにしても、その日一日は、一杯のかき氷を
食べることを中心に行動しなくちゃいけない。

かき氷を

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夏の名残を噛みしめる夜

夏の名残を噛みしめる夜

お盆を過ぎたあたりから、急に夏が大人しくなった。

まだまだ暑いけれど、夜風が含んでいた熱もだんだん
と冷めてきて、帰り道も満員電車も、前より少し楽に
なった。

夜、駅から家までの道を歩いていると、時折鼻先に
ふわっと届く風が、秋の気配を含んでいる瞬間が
あったりする。

夏が、身支度をして立ち去ろうとしているようだ。

ああ、今年も、もうじき夏が終わるんだなあと、
しみじみ思う。

夏の終わり

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はじめてのミニシアター

はじめてのミニシアター

ミニシアターに行こう、と決めたのは、1ヵ月ほど
前のことだった。

西荻窪で偶然はいった小さなカフェで、帰りがけに
「ユジク阿佐ヶ谷」の細長く折り畳まれたパンフレット
のようなものをみつけた。

表紙がずっと観たかったミッドサマーのワンシーン
だったから気になって、手に取った。

そこには「ユジク阿佐ヶ谷が8月28日を持って無期限
の休館」と書かれていて、それまでの上映作品と
スケジュールが記載さ

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少女の夏と明け方の空

少女の夏と明け方の空

夏をきちんと終えるために、映画をみた。

タイトルは、「アメリカン・スリープオーバー」。

最初は映画のビジュアルに惹かれただけだったけれど、
あらすじをみたら、少年少女たちの「夏の終わり」が
スリープオーバー(お泊まり会)という舞台で描かれた
物語だと書かれていて、今の自分がみるべき映画に
ぴったりだ、と思った。

長かった恋が、線香花火のように音もなく終わりを
告げてから、わたしの夏はすっかり

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