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夏の名残を噛みしめる夜


お盆を過ぎたあたりから、急に夏が大人しくなった。

まだまだ暑いけれど、夜風が含んでいた熱もだんだん
と冷めてきて、帰り道も満員電車も、前より少し楽に
なった。

夜、駅から家までの道を歩いていると、時折鼻先に
ふわっと届く風が、秋の気配を含んでいる瞬間が
あったりする。

夏が、身支度をして立ち去ろうとしているようだ。

ああ、今年も、もうじき夏が終わるんだなあと、
しみじみ思う。

夏の終わりを意識した途端、なぜか夏が恋しくなる。

秋のほうが好きだし、待ち遠しい気持ちでいっぱいなの
だけど、それとこれとはまた、別の話みたいだ。

今年の夏が終わってしまう、と気づいた途端、あの鬱陶
しい暑さや一晩だけの馬鹿騒ぎ、うるさくて面倒くさく
て意味のないものたち、がすべてたまらなく愛おしく
思えてくる。

今年は特に夏らしいことは何ひとつできなかったけれど、
それでも夏はわたしの元にもちゃんときて、浮ついた
気持ちと切ない記憶を呼び起こした。

それなりに楽しんだし、間違ったし、傷ついたし、
救われもした。

そんな、例年と変わらないちゃんとした夏、だった。


だから今年も、夏の終わりはやっぱり少し名残惜しい。

夏は嫌いだけれど、夏の終わりは愛おしい。

終わりに向かってゆく時間が一番美しい、と思うタイプ
の人間なので、何かの終わりはいつも、つい引き伸ばし
たくなってしまう。

だから今日は、夏の終わりにだけ聴くプレイリストを
かけて、エアコンをつけず、窓を開けて夏の名残を
噛み締めることにする。


たまには最後に、写真を。

この間、阿佐ヶ谷でみた夕暮れの空が、あまりにも
美しくて。

(写真を撮っていたら、右に写っているお店からおばあ
ちゃんが出てきて、「あら、こんなに綺麗だったら
写真も撮っちゃうわね。うまく撮れた〜?」って話し
かけてきて、ほっこりが倍増しした。)

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