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好きな記事、好きな小説、好きな文体

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個人的に好きな記事や小説や文体。個人的に注目している書き手、活動。
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2021年1月の記事一覧

ふつうのギョーザ

ふつうのギョーザ

ごま油と醤油を 1 : 1 。
わたしの愛する、餃子のタレのレシピである。

旦那とまだ恋人同士だった頃、お手製の餃子を作って「さあ食べよう」とした時に、ふと旦那が「えっ」と小さな声をあげた。

「えっ、餃子にごま油かけるの? 酸っぱくないんだ」

わたしは面食らった。 餃子のタレといえば、ごま油醤油なのではないのか? 少なくともわたしの実家では、生まれてこのかた 二十年来の定番である。 餃子のタ

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うたたね

うたたね

寝てしまう。
午後、光がだんだん和らいでくるころ、ぼうっとしてくる。
なにもすることがない日はだいたい本を読んでいて、ちょうどその時間あたり、ふわっとしてくる。

昔からそうだった。

実家で暮らしていたとき、とくべつすることがない日はひとりで本を読んでいた。縁側だったり畳の間だったり、自分の部屋だったり、場所はどこだとしても午後はたいていしずかで、人の声もしない、やわらかい光だけが窓から入ってく

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noteに妄想記事を書いてたらABEMA Primeに出演することになった件

noteに妄想記事を書いてたらABEMA Primeに出演することになった件

はじまりは、1本のリプライだった。

ABEMA Prime!??ABEMA Primeとは、あのABEMA TVの、あのABEMA Primeだろうか。
テレビ朝日がやってる、あの、あのABEMA Primeだろうか。
あのABEMA Primeが私の、noteを、読んだ?

とっさに感じた、「詐欺かもしれない」という感覚を胸に、フォローボタンを押す。詐欺だったら詐欺で、面白いじゃないか。

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注文を聞かない料理人

注文を聞かない料理人


Entrée
「遅いですね。」

「そうなるよね。」

「分かってたんですか?」

「俺、ベテランだもん。」

なじみのホテルのメニュー撮り。撮影台の上には何も乗っていない角皿が鎮座している。実際に使用されるのと同じ皿を置いて構図とライティングを決め、料理が来たら、空の皿と料理の乗った皿を取り替え撮影開始である。

準備は終わった。あとは料理だ。アシスタントのミッチーと一皿目を待つ。予定の時間を

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エビを愛した先にあるもの

コミュニケーションを取るのが苦手だ。
私は人見知りだからだ。

ある会社で働き始めて半年くらい経ってから、「やっと僕と話すのに慣れてきたか」と上司に言われたくらい。話しかけられても「そうですね」といい、笑うのが私の限界だった。「そうですね」で完結するので、話が続かないと言われた事もあった。

その以前働いていた小さな会社で、私が無類のエビ好きだという事が少し広まった。
嘘ではなく事実なので別に広ま

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生徒会長青木の話

生徒会長青木の話

私が新任教師として夜間定時制高校で働きはじめたときの話だ。

はじめて青木を見たのは1995年4月10日(月曜日)入学式の日だった。
この時はまだ、青木が一生忘れられない生徒の一人になることを私は知らない。

当時の定時制には、ヤンキーの残党がまだ残っていて「先公! うるせーな!」と胸ぐらを掴んでくるような輩もいたのだが、青木はそういうタイプの生徒ではなかった。

青木はよく学校を休んだ。
特に定

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小説の一行目で好きになれる

小説の一行目で好きになれる

小説を読むとき
最初に目にする文章のことを「書き出し」という。

「メロスは激怒した」や「吾輩は猫である」みたいに、もはやタイトルに匹敵するぐらい有名で誰もが知っている文章もある。

この書き出しがすごく好きなのだ。
むかしむかしに読んだ本でも、この書き出しが頭に残っているものがあるぐらいには好き。

ちなみに、書き出しは作者によって全くもって異なる。

単純な状況描写であったり
すぐに主人公の視

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失敗しない木の椅子選び。家具屋に行く前にやっておくといいこと。

失敗しない木の椅子選び。家具屋に行く前にやっておくといいこと。

家にいる時間が増えたり、在宅勤務が今後も長く定着しそうな今日この頃。こうなってくると、家具屋としては椅子の需要が伸びる、というのを実感しています。(ありがとうございますっ!)

一日の大半を、自宅以外の職場や学校で過ごしているときは、どうしても家の中ことは後回しにしてしまいがちです。特に、椅子やテーブルは「とりあえず今持ってるものでなんとかなる」場合も多いので、さらに後回しにされがちだったりするの

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【小説】レジスマイル開運化

【小説】レジスマイル開運化

「あそこのご主人、乗せてるのよ」
「ああ、分かります」
 立ち話の中で私がそう答えたのは、前髪の不自然な生え際を思い出してのことです。
「この前エアコンの修理に来てもらったら二万五千円。びっくりしちゃった」
「ああ、そっちですか」
 小首をかしげるご近所さんを見て、私は笑いをこらえました。
 仕入れから金額を上乗せするのは商売の鉄則ですが、その塩梅を誤ると、消費者に不快感をもたらしてしまいます。

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批判される道を選ぶ覚悟

批判される道を選ぶ覚悟

今オフの野球界でもっとも注目されたのが巨人・菅野のメジャー挑戦だった。長年エースとして第一線で活躍し、数々のタイトルを獲得してきた日本球界最高投手がメジャーからどう評価されるのか、巨人ファン以外も注目していた。

結果として菅野はメジャーでの契約を諦め、日本に残留する決断をした。コロナの影響もあるとはいえ、その決断には球界OBからファンまでがっかりした気持ちとともに批判する声も多かった。

「挑戦

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上京した夜、1人お寿司を

上京した夜、1人お寿司を

上京した日の夜だ。
アパートで荷ほどきを終えると、駅前のお寿司屋さんに一人で訪れた。

そのお寿司やさんは有名で、私が住むことを決めた駅を伝えると、ほとんどの友人が「あのお寿司屋さんがある駅ね」と言うほど。なんと神戸の両親まで「ああ、昔から有名なお寿司屋さんの場所ね」と知っているではないか。
その事もあり心に決めていたのだ。一人きりの引越し祝いを、あそこのお店でしようと。

親切なことにメニューも

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「文化的な生活」とは何か

「文化的な生活」とは何か

「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」。

日本国憲法二十五条を改めて読むと、「最低限度の生活」の基準に「文化的な」の一言が入っていることの意味を考えさせられる。私たちはただ「生きのびる」ためだけに日々を重ねるのではない。「生きる」ために、文化的な暮らしを自分たちの権利として主張できるのだ。

では「文化的な生活」とは何なのだろうか。

テレビや新聞、インターネットなどの

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