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震える心、揺れる心

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心を動かすことはできないかもしれないけれど、震えさせたり、揺れさせたりできるのなら、僕はそれをしよう
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#短編小説

リーンカーネーション

リーンカーネーション

 エブリスタという投稿サイトの公募で「あと一回」というシチュエーションで短編を書くという企画があり、わりと得意な分野だったのでとりあえず最初に思いついた作品をアップしてみた。

 リーンカーネーションという言葉がはやったのが70年代後半だったと記憶している。輪廻転生を意味する言葉で、オカルトブームの真っただ中にあった時代の一種の流行語のようなものだったと記憶している。

 自分が体験したことのない

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満ちた月とシチューの話

満ちた月とシチューの話

すごくいい、満月でしたね
最近、見上げると月が見えるんです
ハーフムーンであろうと、フルムーンであろうと
なぜか、見上げると月があって、誰か、そばにいるんです

昔書いた、満月とシチューの話
偶然にも一昨日、シチューを作りました
偶然ってあるものなんです
いや、これはむしろ必然なのかもしれませんね

満 月 あの満月が疎ましくて、僕は酷い気分のまま君の作ってくれたシチューを口にする。
 温かくて愛

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アンチテーゼ 本気で人を好きになってはいけない

アンチテーゼ 本気で人を好きになってはいけない

誰かのことが好きで好きでしかたがなくて・・・

と、そんな心持のときというのは、果たして楽しいのかどうか
その思いを抱えて寝る夜は何かに満たされたような気分になるのか

うーん
”焦がれる”と言う言葉を、僕は好んで使うのだけれども、好きと言う気持ちがまったく疑いようのない心の赴きであるときに、その思いは身を焦がすような激しい物であるというか、つまりは苦しいのです

気になって、気になってしかたがな

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変身譚~ネコ耳女子高生

変身譚~ネコ耳女子高生

「うそ! マジ! ヤダ! 信じられない」
 朝である。
 目が覚めて布団からはい出た私は、トイレで用を足したあと、洗面台の鏡に映る異様な光景に絶句した。いや、絶叫した。

「こっ、これって何の冗談よ!」
 鏡には毎度のことながら『さえない女子高生』が映っていた。
 この春、めでたく最上級生になろうというのに、私ったらまったくイケていない。

 だが、生えていた。

「これって、いわゆるひとつの猫耳

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彼女は傘をささない

彼女は傘をささない

 あなたに触れたいと思う気持ちを、僕は見つめている
 それを罪であると言い捨てるのはとても簡単だ
 罪を認めても、償うことを前提に、僕はあなたを見つめている

 それは悪なのかもしれない
 正しい選択が真理へと続くのなら
 この先に僕を待ち受けているのは嘘で固められた暗黒の塔なのかもしれない
 僕はらせん状にどこまでも続く階段を上り続け
 そして結末はどこにたどり着くこともなく、地面に落ちてしまう

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籠の中の加護

 登戸襲撃事件の第一報を聞いたときに、なんとなく犯人像というか、彼の闇が見えました。その時のFBに僕はこんなことを書いています

2019/5/28 10:20 FBより
登戸の事件は、その意味ではもっとも忌むべき凶事
親なら自分がどれだけ傷つけられようが子供は守りたい
人を傷つけるってことは、命と言う創造物に対する最大の侮辱

そしてそのようなことが行われるたびに思う事
傷つける側はきっと日常ず

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春の悪戯⑥~ソメイヨシノ

春の悪戯⑥~ソメイヨシノ

ソメイヨシノ「ねぇ、ねぇ、奥さんにはなんて言ってでてきたの?」
私は意地悪な気持ちになっていた
あの人は時々上の空になることがある
きっと奥さんのことを心配しているのだろう
だから私は、せめて今だけはあの人を独り占めにしたかった

「いや、別に……、普通に出てきたよ」
そんなに重たく考えることないと思うんだけどな
私だってわかっているわ
こういうことは"いけないこと"だって
でも、好きになっちゃっ

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春の悪戯⑤~みだれ髪

春の悪戯⑤~みだれ髪

みだれ髪それは春の悪戯だったのかもしれない
何より大事にしていたものを奪われたり、何よりも大事にしていた人に嘘をつかれたり
あなたのことを誰よりも愛している
だからわたしはあなたを取り戻すの
だからわたしはあたの嘘を正すの
ただそれだけのことよ

わたしはあなたのいなくなった部屋に一人でいることはできない
今までこんなことはなかったわ
あなたが家を出てもあなたはここにいたのよ
ここはあなたの家、そ

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春の悪戯④~月華の君

春の悪戯④~月華の君

月華の君それは春の悪戯だったのかもしれない
今年の春はいつもより拙速で、彼岸とともに桜が開花した
もし例年通りの桜前線の北上であれば、何事もなく過ぎてしまったのかもしれない

カメラが趣味の僕は、毎年妻と近くの公園や、隣町にいく途中にある河川敷まで桜を見に行く

妻と桜を被写体に緩やかな時間を過ごすのだ

別にそれを毎年楽しみにしていたわけではないが、春には桜を、夏には砂浜を、秋には紅葉を、冬には

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春の悪戯②~夢から覚めた蝶々

春の悪戯②~夢から覚めた蝶々

夢から覚めた蝶々 女の勘なんていう、簡単な物じゃないの
何よりわたしの一番はあなたと一緒にいることなの
何よりわたしの一番はあなたと過ごす時間の質なの
何よりわたしの一番はそれを永遠に続けることなの

だからわたしはあなたの一番でなくてもいいの
あなたにとってどれだけ仕事が大事かを知っている
あなたにとってカメラのレンズがどれだけ大事か知っている
あなたにとってわたしが一番ではないことを知っている

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春の悪戯①~夢見る蝶々

春の悪戯①~夢見る蝶々

夢見る蝶々「ちょっとぉー、待ってよー」
 私はあの人の大きな背中に向かって声を掛ける

「もう、歩くの早すぎぃ!」
 あの人は立ち止まり、振り返りながら言う
「あちこち、よそ見をしてるからさぁー、置いていくぞ」

「もう、意地悪」
 彼の腕を掴み、思いっきり身体を寄せて甘えてみる

「よせよ、恥ずかしい」
 あの人はポケットに手を突っ込んだままだ
 私は下から見上げるようにしてあの人の顔を覗く

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スタミナバナナ

スタミナバナナ

 今、私が抱えている問題はこれまでになく深刻なものだった。

 その深刻さをお伝えするのに、私は労を一切惜しまないし、また、そうしなければ、この難題について、多くの人の理解を得ることはできないだろう。

 問題の解決に当たり、私は臨機応変に対応することが求められる。そして高度な柔軟性を維持し、その都度対応しなければならないのである。
 それらを鑑み、問題提起を差せてもらえば、"女と言うのはかくも面

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うめくこたつ

うめくこたつ

 誰もいない――つまり僕しかいない部屋の中で、こたつの中から人らしきうめき声が聞こえてくるというだけで、これはもう、ミステリーというよりはホラーである。

 ホラーは困る。だから僕は謎を解くことにしたのだが、まずは身の安全を図るべきだろう。
 速やかに部屋を出るか――冬のこの寒空に行く当てもない。誰かに助けを求めるか――まさか、こたつからうめき声が聞こえるからと、そんな理由で呼び出せるような知人友

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MIZUWARI

MIZUWARI

「"ありがとう"って言って、それで別れるつもりだったんだぁあ。わたし」

 彼女は手に持ったグラスを眺めながら、口をとがらせて、そう訴えた。
「でも、あの人があんなこと言うから……」
 
 カラン、カラン、カラン

 グラスにはすっかり溶けてしまった小さな氷が浮いている。それをくるくると回すたびに、安っぽい音がする。

「わたし、わかってたんだ。こうなること。だから覚悟はしていたし、あの日だって半

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