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震える心、揺れる心

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心を動かすことはできないかもしれないけれど、震えさせたり、揺れさせたりできるのなら、僕はそれをしよう
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さがしものはなんですか?

さがしものはなんですか?

僕はいつだって探している
面白いこと
楽しいこと
誰かを笑わせたり、笑いあったり

僕はいつだって探している
誰かの笑顔
みんなの笑い声
一緒に歌ったり、朝まで踊ったり

ずっとそうしていたいから
ずっとそうできるように
ずっとそうであるように
僕はいつだって探しているんだ

僕はいつだって探している
つらいこと
悲しいこと
誰かの心が泣き叫んでいるのを

僕はいつだって探している
こぼれ落ちる涙

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忘れ去れた忘れ物

忘れ去れた忘れ物

忘れ去られた忘れ物
見捨てられたビニール傘に交じって、保管庫でその時を待つ

置き忘れたことすら思い出されない
それは悲しいことなのか
持ち主はいつか思い出すかもしれない
そういえば、どこにいってしまったのだろうかと

どこを探しても見つからず
探すことも諦めて
仕方ないと片付けられる

忘れ去られた忘れ物
見捨てられたビニール傘
運命は同じ
その日が来るのじっと待ち続ける

廃棄の日が近づく

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【老前コラム】「カチカチ山の薬師」を書くにあたっての不老不死の問題

【老前コラム】「カチカチ山の薬師」を書くにあたっての不老不死の問題

 エブリスタで「山」をテーマにしたコンテストの応募があり、いろいろ考えたのですが、過去に書いた『新約カチカチ山』を下地にした物語を書き下ろしました。

 昔話とは、語り継がれてナンボであります。そしてその中で時勢によって形を変えていく。

 僕は子どもの頃から読み書きが苦手で、特に読書感想文なる者は苦手のダブルパンチだったので、本当に難儀しました。僕が編み出したのはあとがきが充実している本であれば

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川の流れにゆだねられたもの

川の流れにゆだねられたもの

川は流れる
淀みがあってもなくても、それは流れている

それはこの街から遠く離れた山からずっと流れてきているのかもしれない
もっと身近な場所からも流れてきている
水面に映る景色は、青い空、削れ行く岩々、枯れ落ちた木の葉、生命の息吹、季節を告げるありとあらゆるものが流れている

その記憶に街の風景が加えられる
街の明かり、人々の暮らす音、置き去りにされたペットボトルにメッセージは入っていない

何か

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眠れない夜を数えない罪

眠れない夜を数えない罪

 眠れない夜を数えない。

 決まって思い出してしまうあなたの顔は、どうやら日に日にぼやけてしまっている。

「昨日は嘘も交えていろいろ話したけれれども」と彼女は言った。その時の顔は覚えていないけれどもその声もトーンも昨日のことのように覚えている。

 あれはなんであったのか。何が嘘で何が本当なのか。考えた数は眠れない夜に等しい。その夜の会話はどんどんと薄れてい行く。何が嘘で何が本当なのか。その中

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魔法で動く地下鉄~魔女と少年とカレーライス

魔法で動く地下鉄~魔女と少年とカレーライス

 あれはまだコロナが街を息苦しくする前の出来事だった。とある月曜日、僕は魔女の誘いに乗って会社をさぼり、新宿にカレーを食べに行った。

 何を言っているんだとなるのだけれど、それは事実であるから仕方がない。僕にはウィッチとミューズがいる。ミューズはタロットで言えば『節制』となり、ウィッチは『悪魔』の役割をしている。前の夜にウィッチを引いたので酒を飲みに出かけた。明け方近く彼女がおなかがすいたという

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【心の解体新書】最終章~15.泥棒猫と計算可能な心と不確定要素

【心の解体新書】最終章~15.泥棒猫と計算可能な心と不確定要素

前回

 こんなエピソードがある。この話を聞いて彼女と僕は大笑いをした。しかし文字に起こすと何がそんなに面白いのかを伝える自身は正直に言えばないが、最終章に取り上げる例題としては最近見聞きしたエピソードでは最適ではないかと思う。

 当時、二十歳くらいだった彼女はバイト先の上司と不倫関係にあった。そのエピソードを語る前に、彼女はシングルマザーとして二人の子供を育てていること、別れるに至る原因が相手

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リーンカーネーション

リーンカーネーション

 エブリスタという投稿サイトの公募で「あと一回」というシチュエーションで短編を書くという企画があり、わりと得意な分野だったのでとりあえず最初に思いついた作品をアップしてみた。

 リーンカーネーションという言葉がはやったのが70年代後半だったと記憶している。輪廻転生を意味する言葉で、オカルトブームの真っただ中にあった時代の一種の流行語のようなものだったと記憶している。

 自分が体験したことのない

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アンチテーゼ~人たらしなんていらない。駄文は心強くそれを否定する

アンチテーゼ~人たらしなんていらない。駄文は心強くそれを否定する

「ひとたらし」といわれることしばしば。それが悪い意味で使われている言葉であることは承知していても、そんなに悪い気分ではないというのは、僕がどこか壊れているからなのかもしれない。

 困っている人を放っておけないというのはおせっかいでしかないのもわかっているが、それでもできるかぎり何かしたいと思ってしまう。
「偽善はきらい」といわれようが、僕は「偽をもって善をなすは、義をもって善をなすのとなんらかわ

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【心の解体新書】1.問題定義と仮説

【心の解体新書】1.問題定義と仮説

 心のメカニズムを解く鍵はどこにあるのか。
 その答えを求めて購入した本がロジャー・ペンローズ著『心は量子で語れるか』であったが、この著書を読み解くには現代物理学の基礎的な知識と理解が必要なのか、どうにも僕には読み解けなかった。というか読み切ることができないままでいる。

 そもそもそこにたどり着いたのは人の持つ心というものに何か物理的に証明可能な『力学』の方程式が存在しうるのかという疑問と期待が

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手を握るよ

手を握るよ

だから僕は手をにぎるよ
そのぬくもりを感じたいから
だから僕は手をにぎるよ
言葉よりも伝わる何かがあるから

その大きな手は僕を導いた
人ごみの中、迷わないように
たどり着いた公園で
僕はその手を離して駆け回る
日が暮れる頃
帰りたくないという僕の手を
大きな手が握って明日また来ようねっていうんだ
僕はしかたなくその手を握り返し
小さくうなずく
また迷うことなく家に帰れるんだ

だから僕は手を握る

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うそつきの来訪

うそつきの来訪

 今宵もまた、あの大うそつきがやって来た。
 妻も子供たちも今日は出かけて帰ってこない。
 時計は夜の10時をだいぶ回った頃だった。
 かって知ったる他人の家。
 奴はずうずうしくもいきなり部屋に上がりこみ、酒を飲むぞと座り込む。

「奇遇だな。ちょうど今、焼酎を開けたところだ」
 封を開けたばかりの安い焼酎。それをお湯割で飲むのがあいつの流儀だ。季節が冬だろうと夏だろうと関係ない。

 僕は少し

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友人の最愛の人の死を悼んで

友人の最愛の人の死を悼んで

 生きていることは生々しい。

 誰にも迷惑をかけず、清く正しく、美しく生きることなどできやしない。人知れず誰かを傷つけ、誰かに傷つけられ、誰かに思いを寄せ、誰かに裏切られ、心は常に揺れている。

 人間は心の器。

 どこか他の生物とは違っている。人を愛するのに言葉を必要とするし、言葉だけでは完結もしない。ただ肉欲のまま、本能のまま、あなたを求められるのなら、どれだけ清く正しく、美しく生きること

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心の庭

心の庭

自分の中の、どす暗いものに向き合うとき、それは葛藤という名の戦争になる。
どす暗いものの正体とは、欲望であり、渇望であり、それを堕落として正しさを貫こうと戦いを挑むのは、果たしていったい何なのであろうか。

正義感、倫理観、道徳的観念、それらの連合軍なのだろうか。
或いは自我を形成する自己意識、俗な言い方をすれば魂のようなものが、抗おうとしているのだろうか。

人の心の迷いとは、すなわち葛藤であり

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