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震える心、揺れる心

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心を動かすことはできないかもしれないけれど、震えさせたり、揺れさせたりできるのなら、僕はそれをしよう
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手を握るよ

手を握るよ

だから僕は手をにぎるよ
そのぬくもりを感じたいから
だから僕は手をにぎるよ
言葉よりも伝わる何かがあるから

その大きな手は僕を導いた
人ごみの中、迷わないように
たどり着いた公園で
僕はその手を離して駆け回る
日が暮れる頃
帰りたくないという僕の手を
大きな手が握って明日また来ようねっていうんだ
僕はしかたなくその手を握り返し
小さくうなずく
また迷うことなく家に帰れるんだ

だから僕は手を握る

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うそつきの来訪

うそつきの来訪

 今宵もまた、あの大うそつきがやって来た。
 妻も子供たちも今日は出かけて帰ってこない。
 時計は夜の10時をだいぶ回った頃だった。
 かって知ったる他人の家。
 奴はずうずうしくもいきなり部屋に上がりこみ、酒を飲むぞと座り込む。

「奇遇だな。ちょうど今、焼酎を開けたところだ」
 封を開けたばかりの安い焼酎。それをお湯割で飲むのがあいつの流儀だ。季節が冬だろうと夏だろうと関係ない。

 僕は少し

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友人の最愛の人の死を悼んで

友人の最愛の人の死を悼んで

 生きていることは生々しい。

 誰にも迷惑をかけず、清く正しく、美しく生きることなどできやしない。人知れず誰かを傷つけ、誰かに傷つけられ、誰かに思いを寄せ、誰かに裏切られ、心は常に揺れている。

 人間は心の器。

 どこか他の生物とは違っている。人を愛するのに言葉を必要とするし、言葉だけでは完結もしない。ただ肉欲のまま、本能のまま、あなたを求められるのなら、どれだけ清く正しく、美しく生きること

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心の庭

心の庭

自分の中の、どす暗いものに向き合うとき、それは葛藤という名の戦争になる。
どす暗いものの正体とは、欲望であり、渇望であり、それを堕落として正しさを貫こうと戦いを挑むのは、果たしていったい何なのであろうか。

正義感、倫理観、道徳的観念、それらの連合軍なのだろうか。
或いは自我を形成する自己意識、俗な言い方をすれば魂のようなものが、抗おうとしているのだろうか。

人の心の迷いとは、すなわち葛藤であり

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こころ

こころ

孤独を自覚し、死を傍らに置く生き方は、案外と楽なのだ
何かにすがる事もなく、何かに頼る事もなく、何かにもたれる事もなく
ひょうひょうと生きられればそれは至極

でも、そう簡単にいかないだけに、人は面倒なのだ
どうしようもなくさみしくて、どうしようもなく愛おしくて、どうしようもなく欲してしまう

なぜなら心があるからなのだ
なぜなら愛を知るからなのだ
なぜなら恋する事に焦がれるからなのだ

心はまま

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満ちた月とシチューの話

満ちた月とシチューの話

すごくいい、満月でしたね
最近、見上げると月が見えるんです
ハーフムーンであろうと、フルムーンであろうと
なぜか、見上げると月があって、誰か、そばにいるんです

昔書いた、満月とシチューの話
偶然にも一昨日、シチューを作りました
偶然ってあるものなんです
いや、これはむしろ必然なのかもしれませんね

満 月 あの満月が疎ましくて、僕は酷い気分のまま君の作ってくれたシチューを口にする。
 温かくて愛

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ひとりぼっちの兵隊さん

ひとりぼっちの兵隊さん

一人ぼっちの兵隊さんが言いました

「人殺しはよくない」と

すると彼に息子の右腕を手投げ弾で吹き飛ばされた母親がいいました

「じゃあ、人の手足を吹き飛ばすのはかまわないのか」と

それはおかしい、間違っているとみんな口々に一人ぼっちの兵隊さんに言いました

「でも彼は右手にマシンガンを持っていたので、仕方がなく反撃したんだ。やらなければこちらが殺されていた」と兵隊さんは言いました

「じゃあ、

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アンチテーゼ 本気で人を好きになってはいけない

アンチテーゼ 本気で人を好きになってはいけない

誰かのことが好きで好きでしかたがなくて・・・

と、そんな心持のときというのは、果たして楽しいのかどうか
その思いを抱えて寝る夜は何かに満たされたような気分になるのか

うーん
”焦がれる”と言う言葉を、僕は好んで使うのだけれども、好きと言う気持ちがまったく疑いようのない心の赴きであるときに、その思いは身を焦がすような激しい物であるというか、つまりは苦しいのです

気になって、気になってしかたがな

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変身譚~ネコ耳女子高生

変身譚~ネコ耳女子高生

「うそ! マジ! ヤダ! 信じられない」
 朝である。
 目が覚めて布団からはい出た私は、トイレで用を足したあと、洗面台の鏡に映る異様な光景に絶句した。いや、絶叫した。

「こっ、これって何の冗談よ!」
 鏡には毎度のことながら『さえない女子高生』が映っていた。
 この春、めでたく最上級生になろうというのに、私ったらまったくイケていない。

 だが、生えていた。

「これって、いわゆるひとつの猫耳

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世界に捧ぐ

今宵も世界に素敵な詩を捧げよう
隣の家のミヨちゃんが大事に飼っていたインコが死にました
彼女は近所の公園の隅に、小さな墓をつくってあげました
次の日、墓は野良犬たちに荒らされて、彼女は大きな声で泣きました
でも、神様はいなかったので、代わりに僕が詩を作ってあげました
彼女の悲しみは癒され、僕はとても幸せな気持ちになりました
僕の詩が悲しみを癒すと知り、神様に感謝を捧げました
でも、神様はいなかった

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彼女は傘をささない

彼女は傘をささない

 あなたに触れたいと思う気持ちを、僕は見つめている
 それを罪であると言い捨てるのはとても簡単だ
 罪を認めても、償うことを前提に、僕はあなたを見つめている

 それは悪なのかもしれない
 正しい選択が真理へと続くのなら
 この先に僕を待ち受けているのは嘘で固められた暗黒の塔なのかもしれない
 僕はらせん状にどこまでも続く階段を上り続け
 そして結末はどこにたどり着くこともなく、地面に落ちてしまう

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籠の中の加護

 登戸襲撃事件の第一報を聞いたときに、なんとなく犯人像というか、彼の闇が見えました。その時のFBに僕はこんなことを書いています

2019/5/28 10:20 FBより
登戸の事件は、その意味ではもっとも忌むべき凶事
親なら自分がどれだけ傷つけられようが子供は守りたい
人を傷つけるってことは、命と言う創造物に対する最大の侮辱

そしてそのようなことが行われるたびに思う事
傷つける側はきっと日常ず

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春の悪戯⑥~ソメイヨシノ

春の悪戯⑥~ソメイヨシノ

ソメイヨシノ「ねぇ、ねぇ、奥さんにはなんて言ってでてきたの?」
私は意地悪な気持ちになっていた
あの人は時々上の空になることがある
きっと奥さんのことを心配しているのだろう
だから私は、せめて今だけはあの人を独り占めにしたかった

「いや、別に……、普通に出てきたよ」
そんなに重たく考えることないと思うんだけどな
私だってわかっているわ
こういうことは"いけないこと"だって
でも、好きになっちゃっ

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春の悪戯⑤~みだれ髪

春の悪戯⑤~みだれ髪

みだれ髪それは春の悪戯だったのかもしれない
何より大事にしていたものを奪われたり、何よりも大事にしていた人に嘘をつかれたり
あなたのことを誰よりも愛している
だからわたしはあなたを取り戻すの
だからわたしはあたの嘘を正すの
ただそれだけのことよ

わたしはあなたのいなくなった部屋に一人でいることはできない
今までこんなことはなかったわ
あなたが家を出てもあなたはここにいたのよ
ここはあなたの家、そ

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