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【老前コラム】「カチカチ山の薬師」を書くにあたっての不老不死の問題

 エブリスタで「山」をテーマにしたコンテストの応募があり、いろいろ考えたのですが、過去に書いた『新約カチカチ山』を下地にした物語を書き下ろしました。

 昔話とは、語り継がれてナンボであります。そしてその中で時勢によって形を変えていく。

 僕は子どもの頃から読み書きが苦手で、特に読書感想文なる者は苦手のダブルパンチだったので、本当に難儀しました。僕が編み出したのはあとがきが充実している本であれば、あとがきで感想を書いてしまう方法でした。これはぶっちゃけ今でも使う手です。

 観てない映画も、よくできた考察や感想の動画を見ることで場合によっては自分で見る以上に楽しめることもありますが、まったくもってお勧めはいたしません。必ず失敗するんで(笑)

 そんなわけで、僕は本を読まない子供でした。それでも話を見聞きするのは好きで、『雪女』はとくにお気に入りでした。逆に話を聞いても納得のいかない物語も多々ありました。

『赤ずきんちゃん』はまず、危険な場所におばあさんが一人で住んでいるのが意味わからなかったし、そこに小さな子供一人で使いにやる母親というのもありそうでない存在でした。
 お婆さんに成り済ました狼との赤ずきんとのやりとりはホラーチックで大好きでしたが、そこに猟師が現れて腹から赤ずきんを取り出すなんてナンセンスの極みだと(もちろん当時はそんな表現方法は知らない)思っていて、それはずっと引っかかっていることでした。

 その解は、中世のヨーロッパでこの物語がどのように語られ、どう伝わったのかを調べることで一応の納得を得たこと。そして日本にもあるようにヨーロッパにも姥捨て山、口減らしのような風習があったのだと知ると、この物語は老いたもの、幼きものへの社会の冷たさ、そして一度狼(悪い男)に騙された少女は、大人の女性へと転生するなどという話も、あながちないとは言い切れないと僕は思っています。

 さて、日本においては浦島太郎とカチカチ山です。前者は同じように老いをテーマにしているのですが、そこに漁師社会と魚社会の対立軸を超えてしまった若者の非運を読み取ることができます。
 自分が生を受けた社会を見捨てて、竜宮城に渡った太郎。その制裁は結局どちらからも受けてしまう。

 カチカチ山はひっそりと暮らす老夫婦をめぐるドタバタ劇という表面と、殺したお婆さんを汁にしてお爺さんに食わせるというタヌキの狂気、そしてそのタヌキに復讐をするなんのゆかりもないウサギの正義感。どうにも胡散臭い話に聞こえてなりません。
 だいたい人間をも出し抜いていたタヌキがなんでウサギのあんな嘘に騙されてしまったのか。
 そのヒントは太宰治の『お伽草子』にありました。先の浦島太郎も含めて、太宰もどうもこれらの昔話には合点がいかなかったらしく、タヌキをさえない中年男、ウサギをアルテミスのような処女の象徴として解釈し、泥の船で沈められ、魯で頭を勝ち割られるまでタヌキはウサギの好意を信じて疑わず、ウサギもウサギでそうしてきたない中年男の生き死になど、どうでもいいのだという恐ろし話を綴っています。

 ある意味納得。しかしそれでも僕の中で何かのピースが埋まらずにいました。復讐を果たしたウサギはその後どうしたのか。お爺さんをそのまま一人で残していったのだろうか。そもそも、タヌキをそこまで懲らしめる必要があったのかどうか。

 真犯人はウサギではないだろうか?

 そんな観点で『新約・カチカチ山』を書いたのはもう10年以上も前のことです。読み返して赤面しましたが、まぁ、発想自体は悪くはない。今の僕ならどうまとめるのか。

 そこに今こうして書いている【老前コラム】のことが頭をよぎりました。その後の爺さんのことを描いてみよう。それにはもう一人、登場人物が必要となりました。爺さんが過去に何があったのか。カチカチ山で起きたことの真実をつまびらかにするにあたり、聞き手が必要となったわけです。

 薬師は不老不死の秘宝・秘術を求めて旅をしている。とある山に仙人がいると噂を聞き、かつてカチカチ山と呼ばれていた山に登るという設定を思いついてから物語を書き上げるのにそれほど時間はかかりませんでした。

 詳細はぜひこちらの作品をお読みください。ビュー数増えるの純粋にうれしいです。先に感謝の意をお伝えします。読んでくださりありがとうございました。

 いかがでした。ここで語られる話はいささか面妖ではございますが、生命とは何か、魂とは何か、老いるとはどういうことかを少しばかり考える機会になったのなら、とてもうれしく思います。

 善意が必ずしも報われるとは限らない。

 これは最近見つけたテーマなのですが、そうした僕の最近考えていることがエッセンスとして入れ込んでいますので、これまで僕のnoteを読んでくれた人であれば、なお、楽しめるのではないかと、期待をしております。

 よろしければ感想など、頂けるとウサギのように跳ねて喜びます。

 僕は不老不死というのは難儀なものだと思っています。そのようなものは求めることも知ることも、ないにこしたことはない。ただ、死んでからも本は出る。命は尽きようとも、その人の『何か』は残せるのだから、生きているうちにそれに打ち込むことのほうが、よほど幸せな結末があるように思います。

『カチカチ山の薬師』は、それをみつけることができたのでしょうか。そうあってほしいものです。

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