記事一覧
【旅行記】尾道をめぐって:ヌーヴォー・ロマン的くるま旅
気がつけば、突入していたゴールデンウィーク。「尾道」に行くことを決めたのは前日だった。
今回の旅の目的は「車で遠出する」というシンプルなもの。気軽なアヴァンチュールを楽しむことができれば、それでよしとした。なんせ免許を取ってから、初めてのドライブ旅行。ナビを見ながら目的地までたどり着き、駐車場に車を停め、用を済ませたら安全運転で帰ってくる。この一連のトラベル・ミッションをクリアすれば、ドライ
ソレルス…フランス文学の巨星がひとつ堕ちた
【短編小説】浴槽の交差点:「ドライブ・マイ・カー」と宇多田ヒカルの音楽について
休日のよく晴れた昼間、窓に映る太陽の日差しが眩しい午後、私は急に風呂の掃除を思い立った。何かが光の中で弾けたのである。その欲求はほとんど発作的な衝動と言ってよかった。
ついさっきまでベッドに横になりながら、「ドライブ・マイ・カー」の予告編を観ていたのが嘘のようだった(私は数ヶ月前にその映画を夫と二人で観に行っていた)。布団から顔を出し、めくるめく九十秒のハイライト映像を見終わって、「いい映画だ
【音楽紹介】都会のFirst Light:Recommended Thai Pop / おすすめのタイ・ポップス
夜のバンコクでは、雑踏が光を放つ。タクシーの車窓に映る夥しい数の雨粒、自動車は、都会の憧憬を象るのにうってつけのディスプレイとなる。その脇を颯爽と通り過ぎて行く三人乗りのバイク。鮮烈な光と無数の夜の明かりに要約される都会の喧騒。アスファルトに打ちつけられる雨の音。渦巻く人混み。バンコクは都会から聖別された都会的なプレザンスを熱狂的な夜の街に湛えている。
バンコクで印象的な、光輝く都市的情景の数々
【連載小説】フェアーグラウンド・アトラクション(6)
ルカが死んだ翌年の春、一希は市内にある中高一貫の進学校に入学した。バスと電車を使い、一時間をかけて通学したそうだ。家を出たら、堤防の隣にあるバス停まで歩いて向かった。潮の香りが充満するバスに揺られ、市内の中心にある駅に下りる。そこから路面電車に乗り換えて、市街の小さな高校の前まで運ばれる。教室の席に着くと、洗濯洗剤ではなく海の匂いがすると友達からよく言われた。
強い日差しが海の漂いを支える。長