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【音楽紹介】都会のFirst Light:Recommended Thai Pop / おすすめのタイ・ポップス

夜のバンコクでは、雑踏が光を放つ。タクシーの車窓に映る夥しい数の雨粒、自動車は、都会の憧憬を象るのにうってつけのディスプレイとなる。その脇を颯爽と通り過ぎて行く三人乗りのバイク。鮮烈な光と無数の夜の明かりに要約される都会の喧騒。アスファルトに打ちつけられる雨の音。渦巻く人混み。バンコクは都会から聖別された都会的なプレザンスを熱狂的な夜の街に湛えている。

バンコクで印象的な、光輝く都市的情景の数々。こうした夜のバンコクをバックボーンに今回紹介するのは、タイ・ポップ、とりわけシティ・ポップやシンセ・ポップ、AORに類別されるタイのポップス音楽たちです。

以前から、タイの音楽って何かいいなぁと常々思っていました。特徴としては、日本における1980〜90年代のシティ感をベースにしつつ、少し尖った先進性を打ち出している音楽が多いように感じます。日本のアーティストで言うと(挙げればキリがないですが)、山下達郎竹内まりや高野寛大澤誉志幸Cindy松下誠大貫妙子Original Loveで醸成されたAORの洗練的なビジョンを、よりElectに、よりFancyに、そしてよりInstrumetallyにアレンジさせているのが、タイのシティ・ポップという印象です。今のアーティストだと、Suchmos、SIRUPKing Gnuあたりが近いんじゃないでしょうか。上のようなアーティストが好きな方には、是非一度タイのポップスソングを聴いてみることをおすすめします。

今回紹介するのは、次の5曲のタイ・ポップスです。

1.Plastic Plastic - Childhood paradise / Mojito(EP)

タイ音楽の魅力に気づけたのは、Plastic Plasticのおかげと言っても過言ではありません。女性ボーカルの静かで柔らかい歌声と、爽やかで落ち着いた曲調がとてもマッチしています。この『Mojito』というアルバムに入っている曲は全てお気に入りなんですが、特におすすめがこの「Childfood paradise」です。曲の途中で入ってくる、男性ボーカルの中性的な歌声も段々とクセになってきます。
アルバム全体の曲のアレンジも均整がとれていて、終始心の休まるアレンジメントとなっています。Plastic Plasticは他のアルバム、『Stay at Home』や『Anything Goes』もキュートにぶっ飛んでる感じで、ファンシーな息吹を感じ取れるアーティストです。朝の通学、通勤に聴くのがおおすめですね。モーニング・シティ・ポップとでも名づけましょう。

2.Gym and Swim - Bunny House / Sea Sick

次は、Gym and Swim「Bunny House」という曲。画像のとおり、日本語に訳すと「うさぎちゃんの家」です。歌詞を見ながら聴くと分かりやすいのですが、全体的に韻を踏んで歌っています。内容も意味深で、「君のことを嫌う人なんていないんだから、僕がルールを作ってみせるよ。ハニー、僕こそ森の王様だろ。だからさレモネードかティーか君が選べよ」なんてのたまってみたり、「君のおかげで痛みがどっかへ飛んでいく。なんにも言うことはないよ」とかほざいてみたり。
個人的には、この曲のリフイントロが好きです。水の匂いがするような音色と透き通った疾走感。まさにこのアルバムの題名『SeaSick』が、名は体を表すように、この曲の特性を暗示しています。
曲の中盤から始まるコーラスパートには、タイ・ポップスに特徴的なパーティー・ミュージックの要素も見受けられます。一つ前のPlastic Plasticにも、同じように弾けた斉唱パートが使われている曲が散見されます。そのあたりはすき好みが別れるかもしれませんが、そこにタイという国に特有の、良い意味での楽観性があるのかなぁと考えてみたりします。
ちなみに、Plastic Plasticのボーカルの子は、Gym and Swimのギタリストの妹にあたるみたいです。

3.H3F - It's Alright / UNEMPLOYMENT

MVが不思議なインパクトを放つH3Fの「It's alright」。アルバムの『UNEMPLOYMENT』はロック・アーバンな「Waste My Time」から始まって、メロディアスでファンク感満載の「Tell Me(The Reason Why?)」へとつながり、それに対して「It's alright」は少し落ち着いて、ゆったりと進行するアーバンポップソングとなっています。こういう都会感もいいなぁと感じさせてくれる曲です。
イメージとしては、港に近い都会の町を歩きながら、海からくる風に当たっているような雰囲気で、アンダーグラウンド的な静けさを聴く人にもたらしてくれます。
歌詞の内容としては、気になる女の子に励ましの言葉をかけてあげたいけど、それができない男の人のもどかしさを歌っているような感じでしょうか。「それでいいんだよ、今回は」。恋する男の人の抱く微妙な感情が、曲の雰囲気と合っていて、悲哀の感情ともうまく混じり合っていてとても良いです。曲中にちらばっているキラキラ感がシティ・ポップの真髄にしっかり触れているところもグッときます。

4.temp. - From Paris / HIBISCUS

今まで紹介した曲より大人っぽく、都会にあるライブハウスのような雰囲気の曲が、このtemp.の「From Paris」。ジャジーで、ブルージーな音楽と歌声は、聴いていると都会の喧騒から離れて、おいしい料理と酒をお供に、リラックスしながら音楽を楽しんでいるような気分になります。現代に蔓延するあらゆる訴求から身をかわすことの大切さ、元いた場所へと立ち返ることの麗しさを身に染みて感じられるのがシティ・ポップの良さだとしたら、こういった曲こそシティ・ポップの代表と言っても大げさではないでしょう。
HIBISCUS』のオープニング曲とリード曲「Theme Song」と「Fortune Teller」も十分味わいのある奥深さを備えた曲です。特に、「Fortune Teller」 は物語的で韻を踏んだ歌詞がとてもいいです。AORとジャズ、ブルースの融合を果たしたリラックスムーディーな音楽がtemp.の一番の特色です。『Sweet as Honey』というアルバムも『HIBISCUS』と遜色なくおすすめです。

5.loserpop - กลับไปกลับมา / Stupid Love Song

最後はせっかくならと、loserpopの「กลับไปกลับมา」をセレクト。全ての歌詞がタイ語です。
これもアルバムのアートワークが示すように、どこか海と砂浜を想わせるような世界観の楽曲です。シティ・ポップは海と相性が良い音楽ジャンルの一つと言えるでしょう。懐かしさと爽快さが同時に押し寄せてくるメロディに、バウンド性のあるタイ語の音声的特徴が掛け合わされて、シティ・ポップの象徴である絶妙なレトロ感が前面に出ています。
Stupid Love Song』は全てタイ語の曲ですが、今まで紹介したように、タイのシティ・ポップは英語で歌われている歌が比較的多いです。タイの公用語は普通にタイ語なのに、何か英語で歌うことの文化的背景があるのでしょうか。日本のポップソングスだったら、全編英語の曲は少し珍しく映りますよね。

おわりに

タイのシティ・ポップは、いかがだったでしょうか。基本的には、タイの曲だからと言って、クセのあるポップソングではなかったと思います。どれも聴きやすく、親しみももてて、クールなのに温かみのあるような印象です。また、今回紹介した曲、実はけっこう最近にリリースされている曲ばかりです。一昔前の良さをしっかりと残しつつ、今風にアレンジを利かせているのは、本当に見事です。
ここに挙げていない曲だけでも、まだまだ素晴らしいタイのシティ・ポップはたくさんあります。この記事で興味を持ってくれた方、また、AORなどキラキラした歌が好きという方も、是非タイのポップソングスについて調べて聴いてみてください!


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