猶木閑子
私の部屋には海がある 誰も知らない海がある 布団を捲り手繰り寄せ 波打ち際へと辿り着く 土踏まずから少しずつ 徐々に体を馴染ませて 大きくひとつ深呼吸 両目を瞑り覚悟…
ふたりぼっちの散歩道 静かに重なる足音は 同じテンポからずれていく 僕はひとり上の空 遠くの電線を見つめている 突然変異の黒い雲 あなたはひたりと足を止め 手のひらを…
あんたのお気に入りの腕時計 月面模様の文字盤を うんざりするほど自慢してた ガラスを撫でる指先が 妙に生々しく蘇る あの日あんたが望んだ答えを それらしく唱えてあげ…
初夏の陽気に汗ばむ額 緑の合間に降る日差し 流れる水のささやきを 聞かずにぼくは歩いてく きらきら呑気に揺らめく水面 甘い匂いのあめんぼう 今日の小川は穏やかで 水位…
何てことないエルレンマイヤー 透明なままゆらゆら揺れて 小さな泡と大きな泡と ぽこぽこ無邪気な音が鳴る “大切なものをひとつだけ” いったい何を閉じ込める? 例えば…
雨音の響くバス停で 窮屈に握る折り畳み はみ出た肩が濡れながら 袖が湿って重くなる 小さなブーケをぶら下げて わたしはひとりで立っていた “Happy Birthday to You” …
音を立てて鳴る心臓を抱いて 確かにここに立っている 燃え上がるような夢を掲げて 確かにここで生きている 心を通わせてもいないけれど 出会った人はマネキンじゃないよ …
ログを埋めるタイムライン 字面を見れば馬鹿馬鹿しくて 情けなさ過ぎて反吐が出る サミシイの? 構って欲しいの? ひとりぼっちは嫌なんだ? そこにあるはずの顔をなくし…
梅雨の谷間の晴れの日に ぽかぽか温かい布団 毎度のごとく寝坊して お昼ご飯に遅刻した 君はいつもの 木陰のベンチで まるまる太った小雀に パンの欠片を何度も放る ごめ…
僕らはどこへ向かってる? 僕らはどこから逃げている? さあみなさん 駅に向かいましょう 優しく微笑む先生が 目印の旗を高く振る おさない かけない しゃべらない 決…
薄墨に淀むぬるい部屋 苛烈な紅が宙を裂き 夕暮れ時を告げる音 絡みつく湿度 不安な視界 例えば君がここに居て 僕を見ていてくれるなら…… 微笑みかける君の顔 あの頃の…
薄っぺらい教科書が一冊 一週間で最高につまらない授業の始まりです 個性を見つけよう! 自分探しノートを書こう! 自分だけの何かが欲しい 誰かにとっての特別になりた…
“いつかあいつに勝ってやる!” 叫ぶだけならタダだから 寝っ転がって繰り返す その日が来るのを待つだけで 自分で立てる気もしない 負ける資格すら持ってない 心の奥じ…
飛び散る滴を拭う為 思いの丈もそのままに 泣き出す淵に立ち尽くす 剥き出しで光る赤い心臓 カッターナイフが待ちきれないと 冷たい鋼は濡れはじめ 円形の旗を駆りたてた…
なんてことない言葉の端に あの日の記憶が蘇る 部屋中あちこちひっくりかえし ようやく見つけたお目当ての品 引き出しの奥で冬眠中の カッターナイフを取りだした 長いこ…
すきま風にぼくは起きた 寒波到来で凍える夜 布団のなかは冷えきって はみ出た耳も指先も 感覚なんて消えている ぼくは無理矢理そこを出た 毛布をとりに部屋を出た 寝室…
2019年6月9日 21:11
私の部屋には海がある誰も知らない海がある布団を捲り手繰り寄せ波打ち際へと辿り着く土踏まずから少しずつ徐々に体を馴染ませて大きくひとつ深呼吸両目を瞑り覚悟して一気に頭を沈ませるくるりと体が回ったらそこは私の海の中私の海には夢がある貴方の知らない夢がある目眩が止むのを待ってから両の瞼をこじ開けるどちらが上でどちらが下か光が射すのと逆側へ勝手に沈み始める体深く潜
2019年6月2日 22:49
ふたりぼっちの散歩道静かに重なる足音は同じテンポからずれていく僕はひとり上の空遠くの電線を見つめている突然変異の黒い雲あなたはひたりと足を止め手のひらを上にかざし見るふたりで駆け込む東屋を予報にもない夕立ちが襲う無限に連なる絹の糸密やかに吸い込まれては町並みを映す鏡面を穿つ会話はいらないと拒むようにあなたは目線を合わせない雨露の如く募る願い言葉に変えてプレゼン
2019年5月26日 22:14
あんたのお気に入りの腕時計月面模様の文字盤をうんざりするほど自慢してたガラスを撫でる指先が妙に生々しく蘇るあの日あんたが望んだ答えをそれらしく唱えてあげていればあの日言えなかった想いも伝えることが出来たのかな残された自分に酔ってイイハナシ風に上書き保存寄せては返す波の上純白の文字を示す銀の秒針はあの春の夜と同じリズムで今も時間を刻んでるあんたが好きだった腕時計
2019年5月19日 15:22
初夏の陽気に汗ばむ額緑の合間に降る日差し流れる水のささやきを聞かずにぼくは歩いてくきらきら呑気に揺らめく水面甘い匂いのあめんぼう今日の小川は穏やかで水位もあまり高くない纏わりつく蚊と腫れた指むず痒くなるあの眼差し流れる水のささやきを聞かずにぼくは歩いてくちらちら脳裏に揺らめく皆も青い匂いの甘えんぼう明日の小川も穏やかで変わらず流れていくのだろう今も聞こえるき
2019年5月12日 20:30
何てことないエルレンマイヤー透明なままゆらゆら揺れて小さな泡と大きな泡とぽこぽこ無邪気な音が鳴る“大切なものをひとつだけ”いったい何を閉じ込める?例えばそれは思い出で届かないから見つめてる一瞬、僕に見えたのは遠くに紅く燃える空例えばそれは願望で絶え間なく照らす隙間から一際、僕を責めるのは紫紺に溶けた朧月誰かの為のエルレンマイヤー澄んだ液体を抱き締めて大きな粒
2019年5月3日 20:49
雨音の響くバス停で窮屈に握る折り畳みはみ出た肩が濡れながら袖が湿って重くなる小さなブーケをぶら下げてわたしはひとりで立っていた“Happy Birthday to You”頭の中で歌ったけれどこの声はそこへ届くでしょうか思い返すのは笑顔のあなたあなたと一緒に微笑むわたし会えないあなたは笑えてますか選んだ暮らしは楽しいですかまあるくほころぶ赤い薔薇名前も知らない青い
2019年4月21日 22:27
音を立てて鳴る心臓を抱いて確かにここに立っている燃え上がるような夢を掲げて確かにここで生きている心を通わせてもいないけれど出会った人はマネキンじゃないよ“確かにその血が通っていたでしょう?”帰宅ラッシュの早歩き前だけ向いて興味ゼロ何かを目指す人々は脇目も振らず過ぎていく全速力でもなかったけれど道を間違えた訳じゃないよ“確かにその足で歩いて来たんでしょう?”どこか
2019年4月14日 20:39
ログを埋めるタイムライン字面を見れば馬鹿馬鹿しくて情けなさ過ぎて反吐が出るサミシイの?構って欲しいの?ひとりぼっちは嫌なんだ?そこにあるはずの顔をなくしてここにあるはずの声もなくして言葉ですらも信じない君はあの日と同じまま泣きたい気持ちを我慢してひとりぼっちで彷徨った優しい両手をはねのけ続けて泣きべそかいたら負けだと信じて迷子の君は どこへ行く?視界を埋め
2019年4月7日 21:24
梅雨の谷間の晴れの日にぽかぽか温かい布団毎度のごとく寝坊してお昼ご飯に遅刻した君はいつもの 木陰のベンチでまるまる太った小雀にパンの欠片を何度も放るごめんごめんと繰り返し君の隣に腰掛けるいつもと同じコンビニ弁当封を破って横に置く駅から急いで歩いてきたから僕の背中は汗まみれぱたぱたファイルで風を送ってごめんと もう一度謝った僕らはカッコつけ合ってボロを出さないよう
2019年3月31日 23:42
僕らはどこへ向かってる?僕らはどこから逃げている?さあみなさん 駅に向かいましょう優しく微笑む先生が目印の旗を高く振るおさない かけない しゃべらない決められた道を言われたままにみんな同じく避難しないとこのままで居たら だめですよキラキラ輝く駅を目指して後ろから急かされるまま周りの人に流されるまま黒々とした行列が生き物のように蠢いた息も出来ない人ごみの中で透き
2019年3月24日 21:29
薄墨に淀むぬるい部屋苛烈な紅が宙を裂き夕暮れ時を告げる音絡みつく湿度 不安な視界例えば君がここに居て僕を見ていてくれるなら……微笑みかける君の顔あの頃のまま 今も きっと絶望色した花束抱いてかすれた時間を積み上げて重さをなくした花びらがはらはら流れてゆくのです瞼の裏に消えた熱退屈の味が粘りつき唾を飲み込む苦い音悪夢の終わり 亡者の吐息確かに君はここに居て僕
2019年3月17日 20:28
薄っぺらい教科書が一冊一週間で最高につまらない授業の始まりです個性を見つけよう!自分探しノートを書こう!自分だけの何かが欲しい誰かにとっての特別になりたいみんなに認めてもらいたいそれがもしキラキラと輝いて問答無用に素敵な自分を映してくれるのならお金払ってでもダウンロードしたい かもね普通は嫌だと我儘な心が叫ぶ普通が一番と臆病な心が囁く天の邪鬼にぐるぐる回ってきっと
2019年3月10日 22:26
“いつかあいつに勝ってやる!”叫ぶだけならタダだから寝っ転がって繰り返すその日が来るのを待つだけで自分で立てる気もしない負ける資格すら持ってない心の奥じゃ分かってる敵から身を守れるように死にたくないから準備する言い訳の盾を振りかざし自嘲の鎧で完全武装夢の剣は重たくて持っても落してしまうから……ガラスのケースに入れられて飾られるだけのあの剣たまに思い出して眺めて
2019年3月3日 11:59
飛び散る滴を拭う為思いの丈もそのままに泣き出す淵に立ち尽くす剥き出しで光る赤い心臓カッターナイフが待ちきれないと冷たい鋼は濡れはじめ円形の旗を駆りたてた沈みゆく透明の繊維へ永遠の時を紡ごうと泡を吐きだす最後の抵抗追い詰められてすり潰す弾ける赤子の断末魔はやくして はやくして嘆く声の真似をした化学の香りをまとう錠剤唇を噛んで上をむく渇いた共感が剥がれておち
2019年3月3日 11:41
なんてことない言葉の端にあの日の記憶が蘇る部屋中あちこちひっくりかえしようやく見つけたお目当ての品引き出しの奥で冬眠中のカッターナイフを取りだした長いこと触れていなかったからかちかちゆるい音が鳴る手のひらに乗せればしっくりとあたりまえのような感覚で錆び付いた刃を軽くひとなで甘やかな色に心も踊る胸のボタンを外したら頼りない皮膚の境界線がぱっくりと口をあけたまま待ち
2019年2月24日 12:23
すきま風にぼくは起きた寒波到来で凍える夜布団のなかは冷えきってはみ出た耳も指先も感覚なんて消えているぼくは無理矢理そこを出た毛布をとりに部屋を出た寝室を別にしようって言い出したのはいつだっけ少しあいたドアの隙間真っ暗なそこに目をこらすやがて視界も慣れてきて小さなベッドが空だとわかる端にいるのが背中とわかるカーテンをあけて腰かけるきみこんな寒さで何を見ている