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柘榴の歌【詩集】

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柘榴の歌Ⅱ

飛び散る滴を拭う為 思いの丈もそのままに 泣き出す淵に立ち尽くす 剥き出しで光る赤い心臓 カッターナイフが待ちきれないと 冷たい鋼は濡れはじめ 円形の旗を駆りたてた 沈みゆく透明の繊維へ 永遠の時を紡ごうと 泡を吐きだす最後の抵抗 追い詰められてすり潰す 弾ける赤子の断末魔 はやくして はやくして 嘆く声の真似をした 化学の香りをまとう錠剤 唇を噛んで上をむく 渇いた共感が剥がれておちる 戸惑う世界を誤魔化して カッターナイフは動かない 赤い心臓は未だに光り 止

柘榴の歌Ⅰ

なんてことない言葉の端に あの日の記憶が蘇る 部屋中あちこちひっくりかえし ようやく見つけたお目当ての品 引き出しの奥で冬眠中の カッターナイフを取りだした 長いこと触れていなかったから かちかちゆるい音が鳴る 手のひらに乗せればしっくりと あたりまえのような感覚で 錆び付いた刃を軽くひとなで 甘やかな色に心も踊る 胸のボタンを外したら 頼りない皮膚の境界線が ぱっくりと口をあけたまま 待ちきれないと騒ぎだす 指先で少しすくってみれば あの日の記憶が蘇る わずかばかり