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柘榴の歌Ⅰ
なんてことない言葉の端に
あの日の記憶が蘇る
部屋中あちこちひっくりかえし
ようやく見つけたお目当ての品
引き出しの奥で冬眠中の
カッターナイフを取りだした
長いこと触れていなかったから
かちかちゆるい音が鳴る
手のひらに乗せればしっくりと
あたりまえのような感覚で
錆び付いた刃を軽くひとなで
甘やかな色に心も踊る
胸のボタンを外したら
頼りない皮膚の境界線が
ぱっくりと口をあけたまま
待ちきれないと騒ぎだす
指先で少しすくってみれば
あの日の記憶が蘇る
わずかばかりの痛みを抱いて
止めどなく溢れる熱い液体
何度も触れていたからわかる
強めに爪を滑らせて
蠢くぬかるみに印をつけた
むせかえるようなその香り
滴が次々生まれては
指紋の模様が浮かびあがる
ロマンチックなメロディーで
夜と朝との婚前契約
カッターナイフを握る手が
だらしなく揺れて迷いだす
ひたりと斜めにあてた刃を
伝わる熱が走ったら
思い出せないまぶたより
明るい苦痛をわけてとねだる
逃げられぬ距離で見つめあい
腐ると知った肉の姉妹
がんばって がんばって
内緒話の真似をして
囁く声がいちばんの媚薬
生ぬるい予感が粘り気を帯びる
目をつむった睫毛の束は
白く濁って煙を散らす
静かな切っ先のむこうで
銀の木霊が跳ねかえる
息をとめたら目眩がした
欠けた日付変更線
大事に大事にあやそうと
ゆりかごのなかを覗きこむ
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