ゼロ

私の部屋には海がある
誰も知らない海がある

布団を捲り手繰り寄せ
波打ち際へと辿り着く
土踏まずから少しずつ
徐々に体を馴染ませて
大きくひとつ深呼吸
両目を瞑り覚悟して
一気に頭を沈ませる
くるりと体が回ったら
そこは私の海の中

私の海には夢がある
貴方の知らない夢がある

目眩が止むのを待ってから
両の瞼をこじ開ける
どちらが上でどちらが下か
光が射すのと逆側へ
勝手に沈み始める体
深く潜れば潜るほど
海底の闇は濃く疼く
どくりと熱が生まれたら
そこは貴方の夢の中

貴方の夢には毒がある
逃れられない毒がある

溢れる声を我慢して
酸欠気味の脳内に
溶け出す危うい香りをさらう
息継ぎしようと足掻いても
ここは幸い海の底
逃がしはしないと巻き付いて
押し潰される感触に
ずきりと痛みが走ったら
そこは空しい毒の中

誰も知らない海の底
深く沈めた夢の中
忘れられない夜の度
毒に痺れてゼロになる

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