みんな出口を探してる

都内在住の精神科医。投稿は個人の創作で、実在する人物や団体とは関係ありません。 感想は…

みんな出口を探してる

都内在住の精神科医。投稿は個人の創作で、実在する人物や団体とは関係ありません。 感想は、個人の感想です。

記事一覧

所感240510

「炎炎ノ消防隊」 大久保篤 講談社 人体自然発火現象という人が突然燃える謎の現象に対する、炎を操る能力を身につけた特殊消防隊員たちの活躍を描いた漫画作品。 自分は…

所感240408

「精神医療 第12号」 「日本の精神科医療制度は諸外国のそれと比べて問題が多い」と言われるが、具体的にどこが問題なのか、よくわからないことが多かった。 病床数が多…

所感240224

「精神科病棟の青春」 もつお 「みんな1人じゃ抱えきれないものがあってここにいる。たくさん葛藤しながら心の病気と闘っている。そんな当たり前のことにどうして今まで…

自動ドア

240222 開かない。 「ここに手をかざしてください」というシールの指示通り、手をかざしたのに、目の前の片開き自動ドアが開かない。 危うく透明な壁に突進するところだっ…

240107所感

「ハンチバック」市川沙央 西東京に移住して、白杖を持つ人を多く見かけるようになった。 おそらく東東京よりは住みやすいのだろうという至極簡素な想像と共に、やはり視…

スイミー

231227 先週から急に気温が下がり、まだ不要だと思ってしまっていたダウンコートを引っ張り出した。 量販店で売っている特に個性のないコートで、街を歩けば同じ物を着てい…

231210所感

「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」 国立新美術館 2023年9月20日 ~ 2023年12月11日 近年盛んに行われるようになっているファッションブランド、デザイナーの…

231203所感

「We Margiela」 監督: メンナ・ラウラ・メイール 私がマルジェラを好きになったのは社会人になってからだ。 ファッションユーチューバーが、動画でヴァルーズを紹介して…

231207所感

「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」 監督:渡辺一貴 原作:荒木飛呂彦 脚本:小林靖子 見た人間の過去や後悔を映し出す、黒い絵。 この絵を通して原作シリーズではあまり触れ…

また会いましょう。

231109 高校生の時、下の名前が自分と同じ友人がいた。 漢字は違うけど、読み方が一緒。 たまたま部活も一緒で、仲良くしていた。 大学生になって、彼が癌になったと聞い…

見守る

231026 「給料がいい職に就きたいんですよ。でも、それも難しいのかなって。それで絶望しちゃって...」 一瞬耳を疑った。それが率直な感想だった。 頭の中にハテナが浮かぶ…

英語

231010 数学が得意だったので理系学部に進む気はしていた。 得意科目で学部を決めるのはどうなのかと言われたこともあったけど、とは言っても苦手な科目を必要以上に延々と…

変身

通勤路に惣菜屋さんがある。 比較的朝早い時間、少なくとも僕が通勤する時間にはもう営業していて、パックに入ったおかずを横目に僕は会社へ向かう。 日替わりで目玉のおか…

自己犠牲

「自己犠牲と自己中の境界線がわかりません」 彼女は真剣な表情で僕にそう尋ねた。 自分より2回りも年下の少女にここまで考えさせるほど社会が窮屈になっているのか。そ…

駅のゴミ箱

231001 駅のゴミ箱に「ゴミの持ち込みはしないようお願いいたします」というシールが貼ってあった。 言わんとしていることはよくわかる。つまり昨晩の夕食の時に出た野菜の…

230921 「例えば仕事からの帰り道、雨がポツポツ降ってきて、あ、雨だって思うじゃない。 はじめは傘を差さないでそのまま歩き続けるかもしれないけど、少し雨足が強くなっ…

所感240510

「炎炎ノ消防隊」
大久保篤 講談社

人体自然発火現象という人が突然燃える謎の現象に対する、炎を操る能力を身につけた特殊消防隊員たちの活躍を描いた漫画作品。
自分は完全にアニメから入った口で、確かコロナの自粛期間中にAmazonプライムで見始めたのだと思う。
入りはいわゆる王道なファンタジーアクションで、強力な焔ビトとの戦い、活動をめぐる主人公たちの葛藤、発火現象の謎、暗躍する聖陽教など、複数のテ

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所感240408

「精神医療 第12号」

「日本の精神科医療制度は諸外国のそれと比べて問題が多い」と言われるが、具体的にどこが問題なのか、よくわからないことが多かった。
病床数が多いこと、非自発的入院が多いこと、入院日数が長いこと。
確かに、なんでも数が多けりゃ良いというものではないことはわかるし、これらを全肯定するつもりはさらさらない。
ただ、物事には必ずそうなってきた歴史があるはずで、日本という島国だからこそ

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所感240224

「精神科病棟の青春」
もつお

「みんな1人じゃ抱えきれないものがあってここにいる。たくさん葛藤しながら心の病気と闘っている。そんな当たり前のことにどうして今まで気がつかなかったんだろう」

作者が高校時代に経験した精神科病棟での入院生活を元にした、セミフィクション。
患者として、精神科病棟という場所をどのように体験していたか、どのように当時のことを振り返るか、主人公の加藤さんを通して語られる。

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自動ドア

240222
開かない。
「ここに手をかざしてください」というシールの指示通り、手をかざしたのに、目の前の片開き自動ドアが開かない。
危うく透明な壁に突進するところだった。
なぜだ。さっきの女性はなんの抵抗もなくドアを開けていたのに。私が来る直前で故障したのか。それとも自動ドア側にも通す人選ぶ権利はあるとでも言うのか。
かざしてください、と示してある場所の辺りで、汗ばんできた手をさらに押したり逆に

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240107所感

「ハンチバック」市川沙央

西東京に移住して、白杖を持つ人を多く見かけるようになった。

おそらく東東京よりは住みやすいのだろうという至極簡素な想像と共に、やはり視覚がないということは生活において不便があり、生活圏をある程度制限されるものだという、これまた非常に当たり前のことを改めて認識するようになった。

視覚、聴覚などの五感がうまく働かないことが生活にもたらす影響は、非常に想像しやすい。

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スイミー

231227
先週から急に気温が下がり、まだ不要だと思ってしまっていたダウンコートを引っ張り出した。
量販店で売っている特に個性のないコートで、街を歩けば同じ物を着ている人を必ず見かける。
洋服、特に防寒具の類にこだわりもなく、そこまでお金をかけることもできないのだ。

職場の最寄り駅はいわゆるターミナル駅で、朝の通勤時間帯にはホームから改札へ、改札からホームへ向かう、大量の人の群れができる。

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231210所感

「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」
国立新美術館 2023年9月20日 ~ 2023年12月11日

近年盛んに行われるようになっているファッションブランド、デザイナーの回顧展。
東京都現代美術館でクリスチャン・ディオール展が開催され多くの集客で話題になったが、国立新美術館では「モードの帝王」イヴ・サン=ローランの回顧展が開催された。

幼少期からファッションに興味を持ち、その才能をディ

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231203所感

「We Margiela」
監督: メンナ・ラウラ・メイール

私がマルジェラを好きになったのは社会人になってからだ。
ファッションユーチューバーが、動画でヴァルーズを紹介していたのが1番のきっかけだったと思う。
当時は四つタグ、タビシューズ、ペンキデニム、くらいの、プロダクトを中心としたイメージだった。だからマルジェラが一時期エルメスでデザイナーをしていたと知って驚き、そこからデザイナー自身に興

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231207所感

「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」
監督:渡辺一貴 原作:荒木飛呂彦 脚本:小林靖子

見た人間の過去や後悔を映し出す、黒い絵。

この絵を通して原作シリーズではあまり触れられない過去にフォーカスされたことで、岸辺露伴というキャラクターのリアリティが増し、NHKドラマから続けて、一つのミステリーサスペンスシリーズのような感覚で視聴できた。

高橋一生さんが、これほどこのキャラクターにハマるとは思っていな

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また会いましょう。

231109
高校生の時、下の名前が自分と同じ友人がいた。
漢字は違うけど、読み方が一緒。
たまたま部活も一緒で、仲良くしていた。

大学生になって、彼が癌になったと聞いてお見舞いに行った。
癌と聞いてびっくりしたけど、病室で会った彼は思っていたよりは元気そうで、少し安心した。
地元を離れてしまった僕が見舞いに行ったのはその一回だけだったけど、その後、無事に退院したと連絡をもらった。
それからはた

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見守る

231026
「給料がいい職に就きたいんですよ。でも、それも難しいのかなって。それで絶望しちゃって...」
一瞬耳を疑った。それが率直な感想だった。
頭の中にハテナが浮かぶ自分を認識しながら、私は彼に尋ねてみる。
「でも、最低限の努力でコスパよく、のらりくらり生活したいって言ってたよね?」
今までの彼の行動はまさしく、彼の理想に近いものだと認識していた。
早々に社会制度について調べ上げ、その方向に

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英語

231010
数学が得意だったので理系学部に進む気はしていた。
得意科目で学部を決めるのはどうなのかと言われたこともあったけど、とは言っても苦手な科目を必要以上に延々と勉強し続けるのは私にとっては苦行だったし、得意な部分を活かせるならそれで良いんじゃないかと思った。
そうして入学した私だったが、苦労したのは英語だった。
当たり前や!という気持ちと、敢えて避ける方向で選んだはずなのになんでや!という

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変身

通勤路に惣菜屋さんがある。
比較的朝早い時間、少なくとも僕が通勤する時間にはもう営業していて、パックに入ったおかずを横目に僕は会社へ向かう。
日替わりで目玉のおかずが変わるらしく、今日は鶏天が並んでいた。
帰りに買って帰ろうと思った。

仕事からの帰り道、塩で食べようか、出汁も良いななどと考えながら惣菜屋さんへ向かう。
朝の鶏天はチキンカツに変身していた。

自己犠牲

「自己犠牲と自己中の境界線がわかりません」

彼女は真剣な表情で僕にそう尋ねた。

自分より2回りも年下の少女にここまで考えさせるほど社会が窮屈になっているのか。それとも彼女が大人びすぎているのか、大人にならなくてはいけない環境だったのか。彼女の背景を考えると同時に、純粋に感心する気持ちもあった。

「境界線って言われると僕もわからないかも。はっきりと分かれているものじゃないのかもしれないね。どう

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駅のゴミ箱

231001
駅のゴミ箱に「ゴミの持ち込みはしないようお願いいたします」というシールが貼ってあった。
言わんとしていることはよくわかる。つまり昨晩の夕食の時に出た野菜のクズとか、Amazonで注文して大量に出た包装ゴミとか、そういう物はこのゴミ箱に入れないでくれということなのだろう。
ホーム上にあるコンビニで買ったプロテイン飲料を飲みながら、はて、飲み干した後の空容器はこのゴミ箱に捨てて良いのだろ

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230921
「例えば仕事からの帰り道、雨がポツポツ降ってきて、あ、雨だって思うじゃない。
はじめは傘を差さないでそのまま歩き続けるかもしれないけど、少し雨足が強くなってきて、持っていた折り畳み傘を開くとする。
その傘を開くタイミングって、みんな違うでしょ。
濡れるのが嫌で早々に開く人もいるし、本降りになるまで開かない人もいる。
その後小雨になって、自分にとって許せる範囲になれば、私はさっさと傘は

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