自動ドア

240222
開かない。
「ここに手をかざしてください」というシールの指示通り、手をかざしたのに、目の前の片開き自動ドアが開かない。
危うく透明な壁に突進するところだった。
なぜだ。さっきの女性はなんの抵抗もなくドアを開けていたのに。私が来る直前で故障したのか。それとも自動ドア側にも通す人選ぶ権利はあるとでも言うのか。
かざしてください、と示してある場所の辺りで、汗ばんできた手をさらに押したり逆に引いたり、上げたり下げたりする。
すると突然ドアが開いた。
良かった。少なくとも「自動ドアが開かないので出社できません」という謎の電話を部長にする必要はなくなった。
新しい職場には常にこういうリスクが付きまとう。早めに出てきて正解だった。
ハンカチで手の汗を拭きつつ、仕事へ向かう。

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仕事が終わった。
前の職場よりも自分に合っていそうだ。
あとは、この自動ドアと私が合うかどうかだ。
私の部署は正面玄関よりこの職員専用の裏口から入った方が圧倒的に近いので、なんとかここから出退勤したい。
退勤していく人たちを観察してみると、なんの問題もなく、自動ドアは開いていく。
誰も朝の私のように行手を阻まれることはない。
一体朝の現象はなんだったのだろう。
人の流れが落ち着いたところで、帰宅のためドアへ向かう。
まただ。また開かない。明らかにかざすべき所にかざしているのに。
これでは明日以降、毎朝この壁に阻まれることになる。
そう、こいつは既にドアではなく、私にとっては壁なのだ。
1週間ほど出勤して、部外者でないことをこのドアに認知してもらうまでこの現象が続くのだろうか。
そんなことを考えながらシールの辺りをマジマジと見つめてみる。
そこで気づいた。ドアを支えている金属製の柱にセンサーらしきものがあることに。おおよそシールの高さに一致している。
まさかと思いつつ、ドアに貼られたシールではなく、センサーらしき出っ張りに手をかざしてみる。
開いた。
なんの抵抗もなくドアが開いた。
なるほど、シールに触れようとすれば腕が通るであろう軌道上にセンサーが置かれていたのか。
つまり、シールは本体ではなく、あくまでセンサーへおびき寄せるための餌。
しかし悲しいかな、私が思いの外高身長だったが故に、シールへの入射角が鋭くなり、結果的に私の腕はセンサーを避けてしまったのだ。

...謎が解けると、人は頭の中だけでも饒舌になる。
とにもかくにも、これで明日からもこの職場でうまくやっていける気がしてきた。
透明な壁を突破し、帰路へ向かう。

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