所感240224

「精神科病棟の青春」
もつお

「みんな1人じゃ抱えきれないものがあってここにいる。たくさん葛藤しながら心の病気と闘っている。そんな当たり前のことにどうして今まで気がつかなかったんだろう」

作者が高校時代に経験した精神科病棟での入院生活を元にした、セミフィクション。
患者として、精神科病棟という場所をどのように体験していたか、どのように当時のことを振り返るか、主人公の加藤さんを通して語られる。
この漫画で語られる精神科病院は、比較的安全度が高く、病棟の中にいる人達も比較的均質で、そこに登場する医療従事者も保護的でサポーティブな印象を持った。
精神科医療に従事していない方がこの作品を読むと、それでも「窓に鉄格子がはまっているなんて、患者をなんだと思っているのだ」とか「こんな所に入院した方がおかしくなるわ」と思われるのかもしれないが、あとがきで松本俊彦先生が触れられているように、これはかなり恵まれた、少し緩やかな時代の精神科病院だと想像された。

精神科医療を取り巻く状況は時代と共に変化している。
以前は年単位の長期入院も多かったが、最近では治療の主戦場は病棟から外来や地域へ移行してきており、入院したとしても、短期入院・早期退院を目指すようになっている。
もちろん病状や背景によっても入院期間や患者とその主治医の辿る道は千差万別だが、この作品のように「退院予定が全くいつかわからない」ということは、以前よりは少なくなったのではないかと思う。

それは喜ばしいことのように思う反面、それによって失われた治療もあるのだろう。
この作品の中で、入院患者たちは決して短くはない期間を共に過ごし、お互いを知り、だからこそ本音を語り、誰かの退院を本当に喜ぶことができている。
「自分は生きててもしょうがない」と息が詰まりそうになっていた日常生活から、病院という場所へ入ることで「自分も生きていて良いんだ」とほっとでき、また日常へと戻ることができる。
精神科病院は、内科や外科などの病院にはない、「場所」としてのちょっと特殊な機能がある。あったのだ。
精神科の入院病床が削減され入院期間も短くなってきた中で、外来や家族、社会は、患者にとって息をつく場所として機能することができているのだろうか。

精神科医療に対して得体の知れない感じ、漠然とした不安感を抱いている方や、駆け出しの精神科医師、看護師に読んでもらいたい作品だと感じた。

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