231203所感

「We Margiela」
監督: メンナ・ラウラ・メイール

私がマルジェラを好きになったのは社会人になってからだ。
ファッションユーチューバーが、動画でヴァルーズを紹介していたのが1番のきっかけだったと思う。
当時は四つタグ、タビシューズ、ペンキデニム、くらいの、プロダクトを中心としたイメージだった。だからマルジェラが一時期エルメスでデザイナーをしていたと知って驚き、そこからデザイナー自身に興味も持った。

ブランドを立ち上げてからのマルジェラのことを、彼の近くで過ごした人たちが語る本作。共通して出てきたのは、彼の才能を賛美する声、共に仕事をできたことを喜ぶ声、そして引退へ向かう彼の姿を見ていた当時の苦しみや後悔にも似た声だった。
洋服には、様々な機能、役割がある。
気温などの外部環境から身体を守ったり、職業や地位を判別したり、身体機能を高めるために着用する場合もある。
映画を視聴して明確に感じたのは、マルジェラにとっての洋服は表現手法であり、マインドとしては芸術家のそれに近いということだ。
一線で活躍するファッションデザイナーなら皆そうなのかもしれないが、特にその気質が強いように感じた。
たまたま表現手法が洋服だっただけで、もしかしたら絵画だったかもしれないし、彫刻だったかもしれないし。
仮に彼が選んだものが洋服でなかったとしても、違うフィールドで作品を作っていたのではないかと感じた。なんとなくだが、バンクシーに近いものを感じた。
長期間にわたり共に仕事をした者と、あっさり離れていった者が二極化したのも、この精神性が関係していると思う。つまり、洋服を通して何かを表現したいのか、洋服が作りたいのか、だ。この違いは非常に大きかったのではないかと思う。

表現者という気質が強いマルジェラにとって、組織が大きくなっていくこと、業務に忙殺されていくことは、確実に彼の心を蝕んでいったのではないだろうか。
ブランドは徐々にマルジェラ自身の表現物ではなく、メゾンの名を冠したマルジェラの精神性を表現する組織となり、そこで生み出されるプロダクトが"We"によって作られていくようになった過程についても語られた。
映画の後半では、元同僚が「マルタンは仕事を楽しんでいなかったんだ」と語る場面がある。
どこかのタイミングで確実に、マルジェラにとっての精神的な転換期があったのではないかと感じた。

マルジェラは自身の心を守るためにデザイナー業を引退した。
決して表舞台でなくても、常にではなくても、彼が創作を継続してくれていればと感じるし、彼が影響を与えた思想やプロダクトが、今後もリスペクトを持って継続されることを願っている。


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