スイミー

231227
先週から急に気温が下がり、まだ不要だと思ってしまっていたダウンコートを引っ張り出した。
量販店で売っている特に個性のないコートで、街を歩けば同じ物を着ている人を必ず見かける。
洋服、特に防寒具の類にこだわりもなく、そこまでお金をかけることもできないのだ。

職場の最寄り駅はいわゆるターミナル駅で、朝の通勤時間帯にはホームから改札へ、改札からホームへ向かう、大量の人の群れができる。
ダウンやコートでかさが増したこの季節は、より一層「群れ」の感じが強くなり、車内も息苦しく感じる。

この群れに交ざって毎日出勤している自分はなんて偉いんだろう、と考えると同時に、何の意志もなく気づけば出勤している自分は「脳死状態」なのではないかとも思う。
そういえば、日本では「列に並ぶ」と言うが、英語圏では”make a line”と言うことがあるらしい。
果たして今の自分は、この群れに「加わっている」のか、それとも群れを”make”している一員なのか。

自宅から職場までは3駅なので、今日も滞りなく、予定通り駅に到着してしまった。
狭い車両のドアから、ダムの放水かのごとく人が吐き出され、大きな群れを”make”して、ホームから伸びる階段を上り、一心不乱に改札へ向かう。
「まるでサケ」と思い、ふとおかしくなる。

真っ赤なコートが、僕の視界の端に飛び込んできた。
少なくとも昨日まではいなかった。
君も今朝、慌ててクローゼットの奥から引っ張り出されたのだろうか。
鮮やかな赤が、黒や紺、灰色で埋め尽くされている階段を颯爽と駆け抜けていく。
小学生の時に読んだ国語の物語を思い出した。
確かあれは、黒と赤が逆だったけど。

あぁ、僕も赤いコートでも買おうかな。
そうすれば「脳死状態」からは脱せられるだろうか。
コートを買いに行くならどこが良いか考えたが、いつもの量販店しか浮かばず、白い息を吐いた。

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