見守る

231026
「給料がいい職に就きたいんですよ。でも、それも難しいのかなって。それで絶望しちゃって...」
一瞬耳を疑った。それが率直な感想だった。
頭の中にハテナが浮かぶ自分を認識しながら、私は彼に尋ねてみる。
「でも、最低限の努力でコスパよく、のらりくらり生活したいって言ってたよね?」
今までの彼の行動はまさしく、彼の理想に近いものだと認識していた。
早々に社会制度について調べ上げ、その方向に突き進んでいく。そのスピードに、正直私の方が面食らっていたくらいだった。
だから久しぶりに会った彼が、それまでの言動からは考えられもしなかったことを言い出して、これまた面食らってしまった。

ただ、そうして「がっくりきている」彼は、むしろ年齢相応だなと思った。
私よりも1回り、下手すれば2回りほども違う年齢の彼が、早々に自分の人生の行く末を決めていくことに、当初の私は焦り、心配していたのだ。
私だってまだ行く末を決めかねていると言うのに。
本当にそれで良いのか、何度か確かめてみたものの、その時の彼はむしろ自信満々、といった感じで、こちらの声は届かなかった。
いや、届いてはいたのかもしれないが、少なくとも聞き入れてはもらえなかった。

そんな彼が、今日になって急に弱音を吐いたものだから、驚いたと同時に、かれの行く末について半ば諦めの気持ちを持っていた自分に気がついた。
初めに抱いていた彼を心配していた気持ちはどこかへ消え失せ、見守るという体の良い言葉で、私は彼の未来はもう変わるまいと、半ば諦めていたのだ。

バツの悪い感じを抱きながら、私はまた彼の言葉に耳を傾ける。
これからどのような未来が転じていくか、見守る覚悟を抱えなおして。

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