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所感240510

「炎炎ノ消防隊」
大久保篤 講談社

人体自然発火現象という人が突然燃える謎の現象に対する、炎を操る能力を身につけた特殊消防隊員たちの活躍を描いた漫画作品。
自分は完全にアニメから入った口で、確かコロナの自粛期間中にAmazonプライムで見始めたのだと思う。
入りはいわゆる王道なファンタジーアクションで、強力な焔ビトとの戦い、活動をめぐる主人公たちの葛藤、発火現象の謎、暗躍する聖陽教など、複数のテーマを軸に物語は進んでいく。作風は独特と言えば独特で、特にキャラクターの顔に文字が乗ったり、ギャグなのか真剣なのかわからないネタが繰り返されたり、初めて大久保先生の作品を読んだ自分としては少し慣れるのに時間が必要だった。それでもストレスなく読み進められたのは、コマ割りやキャラクターの描き分け、戦闘描写や感情表現のうまさ故だと思う。特にコマ割りが非常に見やすくて、混乱せずに読み進められた。後半で出てきた実写を落とし込む方法は正直驚いた。

初期から発火現象を通して、世界の根幹に迫ろうとするのが本筋だが、話数が進むにつれて、よりその色が濃くなっていく。終盤、主人公たちの世界がそもそも「現代」が破壊された後に創造し直された世界であり、聖陽教は大災害によって、完全な世界の終結を目指していることが判明する。そしてそれこそが、そこに生きる人間たちの「集合的無意識」による願いであり、死こそ救済と訴えるのである。

この作品では「イメージ」がキーワードとして頻出する。人のイメージが集約して出来上がるアドラという世界、火力を強化するイメージを具現化するための「手の型」や「ヒーロー」「勇者」、特定の人に対する大多数のイメージによって生まれる「ドッペルゲンガー」。この作品では想像力が豊かなキャラクターが一貫して強い傾向があり、何かをイメージすることの重要性が比較的序盤からメッセージとして描かれている。

イメージをするというのは有意識状態で行われる行動であり、無意識とは逆ベクトルと考えて良いだろう(厳密には違うのかもしれないが)。すると、この物語は死に向かおうとする無意識/本能に対して、どのように抗うか/生きていくかを考える、描いた作品と言える。

作品内でも触れられた通り、我々は生まれてから着実に死に向かっており、無意識のレベルでは死への恐怖や生への執着を抱えているのかもしれない。その恐怖からの解放を謳うのが聖陽教であり、その手段が大災害だ。主人公たちはその考えに立ち向かおうとするが、実はその考えも否定しきれない仲間の存在がある。この葛藤を解決する手段が「森羅万象マン」だった!(ちゃんと家族の名前が合体しているところがミソ)

出てきた時は正直動揺してしまったし、人によっては好き嫌いが分かれるところだったのではないかと思うが、彼が発したメッセージは心に残った。彼は状況を打破するために世界を作り変え「命の価値を軽くした」と言ってのける。この言葉だけ聞くと批判的な声も聞こえてきそうだが、主人公が伝えたいのは「死を神格化するな」「死は誰にとっても平等にあるもので、だからこそ恐れずに生きろ」というメッセージだった。もっとシンプルに言うなら、「考えすぎるな、バカになれ」「人生、楽しんだもん勝ち」。

ある種普遍的なメッセージだが、今までにあまり見たことのない表現法で、大久保先生の個性が端的に表れている気がして非常に好ましく感じた。主人公が世界を作り変えてしまう系のエンドはたまに見られるが、本作は当初からメッセージが一貫しており、このエンドも当初から構想されていたのだろうなと容易に想像できた。
実はこの作品が、大久保先生の過去作であるソウルイーターの世界へ繋がっていることが最後に判明する。こちらは名前は知っているもののまだ未読なので、今度読んでみようと思う。

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