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ライフストーリー・ライフスタイル

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創造とは、自分の世界観に新しい地平線をうちたてること

創造とは、自分の世界観に新しい地平線をうちたてること

「フェリーニがピカソに憧れたとき」という展覧会を観てきたので、岡本太郎の『青春ピカソ』という本を読んでいたら、岡本太郎の言葉(そしてかれが引用するピカソの言葉)の方に、ぶっ飛んでしまった。

ピカソは自分の過去の芸術をつねに脱皮しつづけ、新しい芸術に進化させつづけた、偉大なるアヴァンギャルドである。ここには名人の持ち味である自足感はなく、不協和に躍動する圧倒的な凄みがあふれている。これがピカソ芸術

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映画そのものにも、ライフ・ストーリーがある

映画そのものにも、ライフ・ストーリーがある

IMECというアーカイブで、せっせと草稿を読んでいる。わたしが研究しているエリック・ロメールという映画作家は、なんでも残しておくひとで、かれの遺志を受けたおそらく奥さまが、それをごっそりここのアーカイブに寄贈したのである。

その数はじつに膨大で、厚さ10cmくらいのファイルに、くわしい目録がごっそり綴じられている。つまり、「目次」だけで、何百ページもある、ということ。

火曜から金曜までしか空い

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ジェーン・フォンダと5人の男たち

ジェーン・フォンダと5人の男たち

英国映画協会(BFI, British Film Institute)のイベントで、ジェーン・フォンダ本人のトーク。本人がくるというので、行ってみたいと思っていたが、このイベントはずいぶん前から、売り切れだった。しかし、当日別のチケットを買うためBFIのサイトへ行くと、急に1席空いていたので、速攻で取った。誰かがキャンセルした席なのだろう。ラッキー。

女優ジェーン・フォンダのことは、いろいろに説

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Mid 90's:スマホのかわりにスケボーとヒップホップがあった頃

Mid 90's:スマホのかわりにスケボーとヒップホップがあった頃

コメディアンというのはだいたい、じつはシリアスなひとが多い。人間の性格は複雑であるので、どういうひとがコミックでどういうひとがシリアスなのかということを、二分できるわけではないのだが。

ひとを笑わせるという行為は、究極の演技であるから、頭を使わなければできない。チャップリンのように、道化の演技そのものによって、人間性のペーソスやモラルを最大限に表現していれば、芸術表現の魂はそこに円熟していくだろ

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潜水服は蝶の夢を見る:左目のウィンクだけで書かれた自伝

潜水服は蝶の夢を見る:左目のウィンクだけで書かれた自伝

Le scaphandre et le papillon (2007)原題。監督ジュリアン・シュナーベル。

ELLE誌の編集長だったジョン=ドー。三人の子供の母親とはもともと事実婚状態だったが、今は恋愛関係にもない。おそらくは、結婚生活の責任を引き受けることを拒み、華やかな享楽生活を追求しつづける独身貴族のプレイボーイ、というタイプだったのであろう。

そういうタイプが何らかの事件をきっかけに結

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「自分の物語」を「消費」するのか、それとも「生産」するのか、ということ

「自分の物語」を「消費」するのか、それとも「生産」するのか、ということ

わたしはいま、日本とイギリスの、ふたつの大学に所属している。イギリスのほうは、客員である。日本の大学のほうのグループのニュースに、編集者箕輪厚介氏の就活インタビューが行われた、という記事があり、かれがプロデュースしたという本を、電車のなかで読みはじめた。前田裕二の『人生の勝算』。

この本でいちばん興味深かったのは、いまという時代は、「他人の物語」ではなく、「自分の物語」を消費する時代だ、というく

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足元を見るのではなく、星を見上げること

うちの高校は、行事ばかりやっているところで、受験指導などというものは、一切なかった。この行事というのが、ちょっとやっかいだった。つまり、行事というのは、外側からくるものだ。自分がやりたくてやるものでは、ないことも多い。

何しろ精神的に未熟なので、やる状況に陥っているときに、やっぱりやらないです、というような勇気もなかった。万事がこういう調子で、わたしの高校生活は過ぎていった。やらされていることば

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「正解」のない世界に耐えるということ

「正解」のない世界に耐えるということ

今日は某大の人工知能研究室の方々がロンドンにみえたので、パブでお食事。分野のちがう人々とお話しすると、世界観、価値観がまったくちがうということも多くて、あらためて驚いてしまうようなことも多い。

というより、こちらの方が、相手に対して、驚きなんである。

理系だけでなく、経済とか経営とかの分野の人に、何を研究しているんですか、と聞かれて、映画と文学文化です、というと、だいたい相手は、目が点になる。

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既成の学問を教えることは、「目的」ではない、ということ

既成の学問を教えることは、「目的」ではない、ということ

子どもが大きくなってから、大学院に入って勉強を始めたという、頑張り屋の友人がいる。今は大学で教えながら、自分の研究をつづけている。

彼女のやっていることは、大学時代の専門とも全然違うし、ここ数年話を聞いていると、聞くたびにすこしずつ領域がちがってきている。

もうやりたいことをするしかないと開きなおっている、

という彼女の話を聞いて、それは彼女が、

既成の学問の枠組の中で受動的に勉強している

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「ふかいことをおもしろく」と、自分の物語のための勉強方法について

「ふかいことをおもしろく」と、自分の物語のための勉強方法について

1980年代は日本でも、ミニシアターや小演劇のブームが起き、文化的に活気がある時期だった。野田秀樹がまだ駒場小劇場で活躍していた時期である。

昭和の時代を代表する劇作家のひとりであり、小説家でもあった井上ひさしが、劇団こまつ座を立ち上げたのも、1983年のことだった。以前イギリス映画(イーリング・コメディ)について書いていて、かれの小説の代表作のひとつ『吉里吉里人』(1981)を、読みなおしてい

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ある女流作家の罪と罰:他人のアイデンティティをまとっていますが、何か?

ある女流作家の罪と罰:他人のアイデンティティをまとっていますが、何か?

『ある女流作家の罪と罰』(Can you ever forgive me?)のポスターを、よく見かけるようになった。最近ロンドンの映画館で、一般公開されるようになったのだ。この映画は、ロンドン・フィルム・フェスティバルの、目玉作品のひとつだった。

フィルム・フェスティバルの映画は、なんとなく選んで観ても、どれも驚くような面白さだったが、特別な余興(headline gala)であったこの映画は、

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ROMA:存在は孤独を共有する経験にほかならない

ROMA:存在は孤独を共有する経験にほかならない

これは台湾映画なのか?そういう錯覚にとらわれながら、メキシコシティが舞台であるこの映画を、わたしは観ていた。侯孝賢やエドワード・ヤンといった、台湾ニューウェイヴ映画のことである。

その理由のひとつは、主人公の女性クレオが、原住民であること。アジアではないが、白人でも黒人でもない、女性の物語なのだ。つまり、通常はスポットライトを当てられることのない、無名の人物が、女性が、召使が、主人公になっている

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「お休み3週間おねがいしまーす」「OK!」

「お休み3週間おねがいしまーす」「OK!」

パリでのびきった髪をととのえるため、ロンドンのコヴェントガーデンにある美容院へ。日本人の美容師さんとお喋りをしまくりで、3時間があっという間にすぎる。

予約は5時から。わたしの施術中、スタッフさんがどんどん帰って行く。

美容師さんに、「お掃除とかないんですか?」と聞いたら、なんと各自掃除担当場所が決まっているという。

自分のお客さんが終わって、担当箇所を掃除したら、どんどん帰っていい。合わせ

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自分の想いにみちびかれてハリウッドを去った、イングリッド・バーグマンのこと

自分の想いにみちびかれてハリウッドを去った、イングリッド・バーグマンのこと

おそらく『カサブランカ』でもっとも有名な、イングリッド・バーグマン。プロデューサーのセルズニックは、『カサブランカ』でバーグマンがきれいな服を着て、美しく見える役を演じることをよろこんだ。当時のハリウッドのスターは、つねに同じタイプの役、「自分自身」を演じなければいけなかった。その「自分自身」とは、単なる完璧なペルソナなのだが、とにかくスターはその同じペルソナを、演じつづけなければならなかった。

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