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アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅰ(1)~(5)

 十五話までの総集編はこちらから。
 アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅰ(1)~(5)
 アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅱ(6)~(10)
 
アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅲ(11)~(15)

 過去アップした「エレーナ少佐のサドガシマ作戦」は、
エレーナ少佐のサドガシマ作戦、時系列
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アニータ少尉のオキナワ作戦 - 石垣島・宮古島・与那国島 侵攻作戦、日中戦力図

アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅰ
(1)~(5)

総集編Ⅰ
総集編Ⅱ
総集編Ⅲ
総集編Ⅳ

(1)アニータ少尉のオキナワ作戦、佐渡出港

★佐世保入港

 ロシア海軍太平洋艦隊は改称して、東ロシア海軍太平洋艦隊になった。艦隊所属の強襲揚陸艦、オスリャービャとペレスヴェートは、佐渡ヶ島から燃料補給と自衛隊の地対艦ミサイル、地対空ミサイルなどを積み込むために海上自衛隊佐世保基地に寄港した。
 
 船は、西彼杵半島を右手に見ながら佐世保湾に入る。九十九島半島を回り込み、海上自衛隊立神岸壁に接岸する。
 
 佐世保を母港とするイージス護衛艦は、DDG-173「こんごう」、DDG-176「ちょうかい」、DDG-178「あしがら」だが、「ちょうかい」は「あたご」とともに北朝鮮の弾道弾防衛で日本海に展開中だったが、SM-3を撃ち尽くして、SM-3の補給のために舞鶴に両艦とも寄港中である。

「ちょうかい」、「あたご」の代わりに、台湾近海で展開していた「まや」と「あしがら」が日本海に展開した。現在、佐世保にはドック入りしている「こんごう」が立神岸壁に接岸している。その向こうには、DDH-184「かが」の姿も見えた。F-35B戦闘機の搭載に向けて大規模な改修なのであろう。

 日本海のイージスは2隻だったな。『ちょうかい』と『あたご』?台湾領域のイージス『まや』と『あしがら』は間に合わん!イージスが8隻もあって、4隻しか海にいないってなんなんだ!こんごう、きりしま、みょうこう、はぐろはどこだ?ドック入り?
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(17)迎撃作戦Ⅰ、第一撃弾道弾

 ロシア軍の場合、自衛隊も同様だが、兵士、下士官から尉官に進級する軍人はわずかしかいない。アニータ、スヴェトラーナは、下士官からの叩き上げで准尉に進んだが、それ以上は難しいかった。

 しかし、今回の佐渡ヶ島戦役での功績により、エレーナ少佐からの推薦も有り、両名とも少尉に特進した。アニータは、右手貫通銃創、スヴェトラーナは、左太腿の銃創を負ったが、彼女らにとってはかすり傷に等しい。
Wikipedia - ロシア軍の階級

 そうそう、両名とも佐渡市市役所で土屋、本間と結婚したので、現在は、土屋アニータ、本間スヴェトラーナという名前になっている。

★エレーナ少佐の指令

 数日前のこと、北朝鮮の特殊作戦部隊を撃退して、一段落付いた佐渡ヶ島レーダーサイトで、両名はエレーナから呼び出しを受けた。
 
「スヴェトラーナ、アニータ、傷の具合はどうだ?」とエレーナ。
「ハ!こんなもの、かすり傷であります!」
「まあ、負傷は負傷だ。アデルマン大尉、アナスタシア少尉は、張り切りすぎてまだ病院にいるからな。さて、現在、我が東ロシア共和国は、日本国との安全保障条約締結準備を進めている。その前段階として、相互防衛協定を仮に結んだ。未だ、朝鮮半島の戦役は膠着状態で、北朝鮮に対して油断できない。我が部隊が佐渡ヶ島にまだ駐留しているのもそのためだ」

 そこで、問題は、台湾の方だ。現在、中華人民共和国人民解放軍、南部戦区、並びに東武戦区が台湾への武力侵攻を画策中、実際には、台湾の南シナ海の太平島は奪取されている状態である。自衛隊、在日米軍も台湾近海に展開中だ。
 
 つまり、自衛隊、在日米軍共に日本海、台湾近海の二方面作戦を強いられている。もしも、サドガシマ作戦、留萌作戦が当初の目的通りであったら四方面作戦になっていただろうが。
 
 自衛隊は、元々二方面作戦は想定していない。だから、北朝鮮向けの日本海の防備と台湾近海、沖縄、南西諸島の離島防衛で、艦艇は払底している。北の攻撃前から、イージス艦のこんごう、きりしま、みょうこう、はぐろはドック入りだった。まだ二週間は出港できない。ちょうかい、あたごも佐渡戦役でSM-3を撃ち尽くして、舞鶴に寄港中。台湾近海に展開していたまやとあしがらを呼び戻して、日本海に展開させたぐらいだ。

 在日米軍もご同様だ。米海軍佐世保基地には5隻の揚陸艦と4隻の対機雷戦艦(掃海艦)が配備されている。強襲揚陸艦ワスプ、輸送揚陸艦グリーン・ベイ、ドック型揚陸艦ジャーマンタウンとアシュランドは第11水陸両用戦即応隊を構成していて、沖縄で第31海兵遠征部隊の編成のために、沖縄方面に出払っている。強襲揚陸艦、LHA-6「アメリカ」はまだ台湾方面に出港していないで接岸中だ。米軍もさすがに二方面作戦は想定していなかった。

 そこで、日本政府が目をつけたのが、ここ佐渡にいる強襲揚陸艦、オスリャービャとペレスヴェート2隻とエアクッション型強襲揚陸艇だ。オスリャービャとペレスヴェートは最新型とはとても言えない。満水排水量も4千トン級。だが、自衛隊の離島防衛に使用する戦備は十分輸送できる。また、エアクッション型、ホバーも足りない、ということで貸与できないか?と打診されたんだ。
Wikipedia - 強襲揚陸艦オスリャービャ
Wikipedia - 強襲揚陸艦ペレスヴェート

 もちろん、エアクッション型、ホバーは航続距離が短い。だから、オスリャービャとペレスヴェートに曳航させてはどうか?ということだ。無茶な話だが、検討した結果、可能なんだ。
Wikipedia - ポモルニク型エアクッション揚陸艦

 ということで、この小艦隊は、佐渡を出港し、佐世保で燃料とミサイルなどの補給を行い、沖縄を経由して、え~っと、どこだったかな?ああ、「イシガキジマ」というオキナワから400キロ、台湾から240キロの距離にある離島に自衛隊装備を運搬する任務を与えられた。
 
 日本もアメリカも中国から宣戦布告されたわけでもない。大っぴらには動けない。中国から内政干渉と文句を言われる。日本国憲法の制約もある。しかも、海上艦艇は不足している。
 
 その点、東ロシア共和国は、中国と対峙しているが、核抑止も効いていて、中国などに文句をつけられる筋合いはない。だから、日本国との相互防衛協定の防衛協力の一環として、この輸送任務を引き受けたということだ。
 
 佐渡、佐世保、オキナワ、イシガキジマの航路には、海自の潜水艦も護衛としてついてくれる。貸与するホバーは、ロシア製だから、運行のために我が海軍から八十名を派遣する。そして、アニータ、スヴェトラーナ、貴官らは、海軍兵士の護衛として、我が部隊女性兵士四十名を指揮して欲しい。ミーシャとアニーは文句を言っているが。
 
 結婚して、除隊という約束だったが、もうひと仕事してもらいたい。土屋さん、本間さんには私からも謝罪しておく。
 
 そうそう、陸自の方からの申し入れで、佐渡に今駐屯している水陸機動団四百名もオスリャービャとペレスヴェートに乗せていく。

 輸送任務なので、危険はない。石垣で任務が終われば、ここにまた戻る。それで、除隊で、晴れて新婚生活だ。バカスカ、子供を産む行為が毎日できる。

★買い物

「アニータ、スヴェトラーナ、質問は?」
「オキナワ、イシガキジマの気候はどうなのでありますか?後で、地図を調べますが・・・」とアニータ。
「亜熱帯気候だ。佐渡は今冬だが、あっちは夏だ。今も20~24℃、日によっては30℃近くまで気温が上がる。だから、水着を佐渡市内で購入しておいたほうがいい。隊員にも夏装備を準備しておくように伝えるように。足りない物資は、自衛隊の営繕課が支給してくれる。バカンスだと思って楽しんでくれ」
「出港はいつでありますか?」とスヴェトラーナ。
「すぐで悪いが、明日午後だ。航路、行程はメールしておく。両名は、隊員の選別作業等が終了したら、非番とする。土屋さん、本間さんとよろしくやってくれ」
「了解であります!」
「それから、両名とももう結婚したのだから、船内、佐世保、オキナワ、イシガキジマで、浮気などしないように!浮気したら、銃殺するわよ!」
「それも、了解であります!」
「帰ってきたら、みんなで秋葉原とディズニーランドに行きましょうね!」
「新婚旅行代わりでありますな?」
「結構、今回、働いたもの。そのぐらいは楽しまないとね!」
「ラジャ!」

 その日の午後、ひと通り隊務を済ませたアニータ、スヴェトラーナは、土屋、本間を呼び出して、市内で買い物をした。選別した女性兵士四十名も分散して、市内の洋品店を物色、無理にお願いして、夏物の衣料、水着を出してもらった。
 
「アニータ、あなた、ヒップサイズは?」とスヴェトラーナ。
「92センチだって。ちょっと痩せたかな?」
「私は94センチ!まあ、普通ね」
「これ、どうかしらね?ちょっと露出し過ぎじゃない?」とビキニをヒラヒラさせる。
「超ハイレグじゃないの!あなた、ボトムはともかく、あなたの胸、はみ出しそうよ!乳首出ちゃうわよ!」

 キャーキャー言って試着する横で、旦那の土屋と本間が「本間さん、ウチのかあちゃん、大丈夫だろうか?男ばっかりの船内って言うじゃないか?あのボディーに目がくらむ男が居ないとも限らないぞ!」「そうだよなあ、あんたのアニータさん、すごいプロポーションだからなあ」「本間さんとこのスヴェトラーナさんだって、あの吸い込まれそうな青い目で見つめられたらクラクラする男がいっぱいいるぞ!」「まずいなあ・・・」「留守にするのは二週間ぐらいって言っていたもんなあ・・・」
 
 浮かない顔の二人にアニータが「とおちゃん、あなた、私らのことより、ここに残っているロシア軍女性と浮気したら承知しませんよ!」「そうよ、浮気なんかしたら、銃剣で突き刺して殺してやりますからね!」「かあちゃん、心配なんだよぉ・・・」「心配する必要はありません!」
 
 あ~、でも、亜熱帯の島・・・ウキウキしちゃうわ・・・このビキニ着て、男を悩殺するくらいはいいでしょ?・・・あ!うずかないように、今晩はたっぷりご奉仕してもらわないと・・・

(2)アニータ少尉のオキナワ作戦、佐世保へ

★佐世保入港、ペレスヴェート艦上、広瀬二尉の居室

 佐渡から佐世保までは、ホバーを曳航しているため、二日の行程であった、
 
 スヴェトラーナ、アニータ両少尉、ロシア海軍八十名(ポモルニク型エアクッション揚陸艦操艦要員)、陸軍女性兵士四十名、陸自水陸機動団四百名は、オスリャービャとペレスヴェートに二手に別れて乗艦していた。オスリャービャとペレスヴェートの乗員は五十名ずつ。各艦共総員約三百名である。
 
 海自では、毎日の食事を調理する専門の職種である給養員が十数名乗艦している。今回、オスリャービャとペレスヴェートには、数名の給養員が配置されているが、通常の乗員以上を乗せているため、陸軍女性兵士各二十名ずつは、給養員の手助けをしている。
 
 アニータ少尉の乗船しているペレスヴェートでは、水陸機動団二百名は広瀬二尉が率いている。彼らの居室は広く快適とはとても言えない。広瀬は尉官なので、尉官用の個室を割り当てられている。
 
 アニータ少尉が広瀬二尉の居室のドアをノックした。「広瀬二尉、アニータ少尉であります」「お入り下さい」

「広瀬二尉、水陸機動団の食事メニューの相談に参りました。これから、佐世保、オキナワ、イシガキジマと7日程度の行程になりますが、何を隊員の皆様にお出ししたらいいのか、食材の制約もございますが、できるだけ飽きない食事を作りたいと思いまして」
「おお、それは贅沢な。私はてっきりミリメシかと思っておりました」

「我々は、佐渡ヶ島の学校でも食事を作っていたんです。本格的とは参りませんが、私の部下の女性兵士は日本料理ができます。ロシア料理はもちろんなんですけどね」
「ロシア艦で日本料理とは!」
「当ペレスヴェートの乗員三百名の内、水陸機動団は二百名ですので、主な乗員は日本人隊員なんですよ」
「そうですなあ。お世話になります。海自も船舶が不足しておりますからね。こうも戦線が拡大するとは誰も思っていなかったんです。しかし、なんとロシア軍が友軍とは!驚きました」
「東ロシア軍ですわよ」
「そうでしたね。東ロシア共和国軍でしたな」
「今や、欧州ロシアのバカタレ共とは異なる国家ですので・・・」
「バカタレ、ですか。面白い!」

「ええっと、作れるメニューの一覧表ですが、どうでしょうか?隔日で、朝食昼食夕食を、ロシア→日本→ロシアと、日本→ロシア→日本ではいかがですか?」
「ええ、どれどれ。こんなに日本食が作れるんですか?・・・和式カレー、寿司、天ぷら、カツ丼、親子丼、肉じゃが、ハンバーグ・・・サバの味噌煮!焼き鳥!・・・すごいじゃないですか!日本の家庭料理・・・あ!そうか!少尉は、土屋アニータさんになられたんですよね?」
「そうです・・・結婚しちゃいました・・・」

「いやあ、残念だったな。我が水陸機動団は、佐渡北岸に張り付いていたから、ロシア軍の女性兵士のみなさんと交流する機会もなかったですからな」
「北朝鮮人民軍特殊部隊との白兵戦で交流しただけですものね」
「まったく、土屋さんという日本人の方が羨ましい。こんなキレイなナイスバディーの・・・おっと失礼、アニータさんと結婚できたんですから」

「広瀬二尉は独身ですか?こんなこと聞いていいかしら?おいくつ?」
「いやあ、お恥ずかしい話、今、三十一になります。独身です。任地がどんどん変わりまして、付き合う暇がなくって・・・」
「あら!ペレスヴェート乗船の私の部下、二十名の中に、佐渡で日本人のお相手が見つからなかった隊員もおりますのよ。紹介いたしますから、お試しになったら?」
「そのお試しって、佐渡で噂に聞いた、あのお試し?」
「そうですわ。結婚を決める前に、やっぱり、お互いの相性も確認しないといけませんもの」

「・・・あの、アニータさんもお試しを?」
「ハイ、三人の方と」
「それを土屋さんはご存知で?」
「ウチの旦那も、私の部下を三名、お試ししましたよ」
「・・・それって・・・」
「みなさん、最初はそうおっしゃいますが、日本人だって、結婚前まで処女、童貞とかの義務があるわけもなし、複数人との経験は当たり前でしょう?おまけに、ウチの旦那が言うには、日本では風俗というものまであるでしょう?それに比べて、私たちは自由恋愛ですもの」
「・・・確かにそうですな・・・」

「広瀬二尉も躊躇していると、他の隊員に取られちゃいますよ。ロシア人女性は、日本女性よりも数倍肉食ですから」
「土屋さん、紹介して下さい!」
「艦内では性行為はダメですよ。佐世保、オキナワ、イシガキジマに上陸中に、私の部下の非番の人間なら構いませんよ。食事時とかに合図しますから、非番の子と仲良くなっても構いませんよ」
「う~ん、生きる希望がわいてきた!」

「大げさですわ。人生、楽しまなくっちゃ。それで、二尉、お好みは?どういう子が好きなんです?」
「そりゃあ、アニータさんみたいなプロポーションの子が・・・」
「ロシア人にも民族的に色々ありまして、私のようなドイツ系・スラブ系もいれば、中央アジアのトルコ系もいる、極東ロシアのコリアン族もいる、中国系の女の子もいます。だから、品定め、って日本語で言うのかしらね。それをされるといいですわ。国際結婚になりますから、将来のご自分の人生、生まれてくる子供の容姿も考えて、じっくりお試しすることです」
「なるほど・・・」
「ただし、ロシア人女性は軍人、殺傷能力のある軍人ですので。今回も、北朝鮮兵士を殺していますよ」
「それは、我々も同じですよ。むしろ、それが理解できる相手の方がいいですな」
「自衛隊の女性隊員とは違いますわよ?」
「そこも魅力です」

★佐世保入港、ペレスヴェート艦上、食堂

 ペレスヴェートの食堂で一人で広瀬が昼食をとっていた。そこに、トレイを持ったアニータが来て「二尉、ご一緒してもよろしいかしら?」と話しかけた。「少尉、どうぞどうぞ。副官が機材チェックしていて、相手をしてくれる者がいなかったんですよ」「どうです?お食事、お口に合いますかしら?」
 
「うまいです。陸自の食事は塩辛くて、味付けがよくない。汗をかくから仕方ありませんが、塩分が多い。それに比べて、この食事、塩加減がちょうどいい。外国人が作ったとは思えませんよ」「佐渡で、日本人の方に習ったんです。お口にあってよかった」とアニータ。

 急に小声になって広瀬に体を寄せた。「それで、二尉、前に話した私の部下の女の子、あのオープンキッチンで、ほら、今、お味噌汁を鍋に継ぎ足した女の子、見えます?」「見えますよ」「あの子、どうでしょう?」「え?あの子が?私に?」

「何か私、お見合い紹介所のおばさんみたい・・・あの子ね、佐渡でも何もしなかったんです。処女じゃないらしいんですけど、経験はあまりないみたい。名前はソーニャ。ソーニャ准尉。私みたいなスラブ系じゃない、コリアン族、中国で言う朝鮮族ですわ。21才。私やスヴェトラーナみたいな下士官叩き上げじゃなくて、エレーナ少佐、アデルマン大尉、アナスタシア少尉と同じ、アカデミー出身。だから、若いけど准尉なんです。卒業ホヤホヤです」

「21才・・・アニータ少尉、私、31才ですよ?年齢が・・・」
「ロシア人の女性は、男性との年齢差に日本人女性よりもこだわりません。ちょっと、彼女に聞いたの、広瀬二尉のこと・・・」と手をヒラヒラさせてソーニャに合図する。ソーニャは顔を真赤にして下を向いてしまう。「恥ずかしがり屋なの。ロシア人には珍しい草食系なんですよ」
「いやあ、しかし、美人だ!小柄でストレートのロングヘアが似合っている。少尉、こんな私でいいんでしょうかね?」
「それは、本人に直接聞いてみたら?佐世保で、二尉も非番の時間が有るでしょ?その時に、私が彼女も非番にしますから。佐世保市内でデートでもされたらいかが?」
「え~、部下の手前もありますし・・・」
「あら、その広瀬さんの部下の方々、早速、私の部下にアプローチしてましたよ。ソーニャも数名に声をかけられたとか。私が先に広瀬さんを紹介しようとしているんだから、先約優先にしてちょうだい、って、彼女に止めてあります」
「あ、あいつら、俺の知らないうちに・・・」
「だから、遠慮することありません。遠慮していたら部下に取られちゃいますよ」
「わ、わかりました。お願いします」

★佐世保入港、ペレスヴェート艦上、艦橋

 食事の後、ペレスヴェートの艦橋で、アニータは艦の無線を借りて、オスリャービャのスヴェトラーナとお喋りしていた。スヴェトラーナが「こっちも食事は好評よ。エレーナ少佐の言うように『胃袋を掴め』って作戦、良いわよね。水陸機動団との関係も海軍との関係も良好。ロシア人、意外と日本食、好きみたいよ。私は、赤飯が好き!」
 
「問題がなくって良かったわ。ま、たまに船旅もいいわよねえ。陸軍で泥を舐めるよりもずっといい」とアニータ。「旦那がいればもっといいけどね。本間、寂しがってるかなあ?」「ウチのも浮気してないでしょうね?一緒だったら監視できるけど」「大丈夫よ、土屋さんも本間も小心者だから」「良い旦那を捕まえたものよ。大事にしないとね」

「そう言えば、こっちの水陸機動団の広瀬中尉にソーニャ准尉を紹介したわ」とアニータ。
「え?あの奥手のソーニャを?アニータ、結婚紹介所でも開業するつもり?」
「ソーニャ、可愛んだもの。彼女には幸せになって欲しいし、彼女と広瀬さんと結婚したら、日本でワイワイやれる人間が増えるじゃない?」
「彼女は、アナスタシア少尉と同じコリアン族だけど、アニーとはね、まったく違うものね」

★佐世保入港、ペレスヴェート艦上、広瀬二尉の居室

 スヴェトラーナとのお喋りを終えて、アニータ少尉はキッチンを覗いてみた。ソーニャ准尉がいて、食器洗いをしていた。偉いじゃない。尉官が文句も言わず食器洗い。健気っていうのか、何ていうのか、可愛いなあ。
 
 アニータの横を通った曹長に「ソーニャに洗い物させているの?」とソーニャに聞こえないように耳打ちする。「滅相もない、少尉。彼女が率先してやってくださっているんですよ。アカデミーの優秀な卒業生なのに。尉官がそんなことをされては困ります、と言ったんですが、『卒業したての新入りですので、下積み仕事をみなさんとしたく思います』ていうんですわ」
 
「ふ~ん、いい子よねえ」「そりゃあ、もう。そうそう、少尉になる前の卒業したてのアニーも同じでしたよ。性格は全然違いますが、アカデミー卒を鼻にかけないってのは同じです。兵士、下士官で、ソーニャを悪く言う人間はいません」「いいわね、実にいいわ。曹長、彼女、借りてもいいかしら?」「もちろん、結構ですとも」

アニータは、ソーニャが洗い物をしているシンクの側に歩み寄った。「ソーニャ、曹長にことわったから、洗い物はよして、私に付いてきてちょうだい」「ハイ!アニータ少尉!了解であります!」「そうそう、お茶の用意をして。お茶うけも。三人分よ」「ハ!少々お待ちを」
 
 エンジン室の有る後方のキッチンから、狭い通路をアニータが先導して歩いた。ソーニャもお茶のトレイを持って黙ってついていく。どこに行くのか?と疑問に思っていると、居住区画の佐官、尉官の居室区域にアニータは行った。

 アニータ少尉が広瀬二尉の居室のドアをノックした。「広瀬二尉、アニータ少尉であります」「お入り下さい」

「広瀬二尉、お忙しいですか?」とアニータ。
「いいえ、この航海では、水陸機動団としての任務はありませんからね。暇つぶしに書き物をしていたんですよ」
「あら、では、私たちとお喋りしません?」
「私たち?」
「ソーニャ准尉、入って。お茶の支度をしていただける?」

 居室のドアの横で待機していたソーニャがおずおずと入室する。「このソファーでいいかしら?広瀬二尉、お茶をお持ちしました」「あ、ああ、そちらでどうぞ」と広瀬がデスクからソファーセットに移った。「どうぞ、どうぞ、お二人とも、お座り下さい」という。
 
「あの、アニータ少尉、私は失礼させていただいて・・・」とソーニャ。
「ダメよ。たまには気楽にお喋りしましょうよ、ソーニャ」
「あ、あの・・・ソーニャ准尉、お座り下さい」と広瀬はハンカチを出して顔を拭いた。ソーニャも顔が紅い。
「あら、二人共。でも、任務中です。お見合いじゃありませんよ。今回の沖縄、石垣島への私たちの派遣は、ロシア海軍の護衛ということですけど、中国-台湾の紛争にあまり私詳しくないものなので、広瀬二尉に自衛隊尉官として、どういう状況なのか、ご教授してもらいたくて伺いました。予告なしでスミマセン。オフレコですよ。ソーニャも聴いていた方がいいかと思って連れてきました」

「あ!そういうことですね・・・了解です!」
「まあ、焦っちゃって、二尉」
「いやいや、小官の居室に、二人も美人がいるなんて、ありませんでしたからね。むさ苦しい男ばかりの水陸機動団ですので・・・」
「慣れませんとね、二尉」

「いやいや・・・そうですね・・・ハハハ・・・え~、何から話していいのか。まず、自衛隊の方針は、南西諸島の防衛の強化です。中国が台湾に侵攻しようとする時、間違いなく南西諸島を狙います。米国がもしも介入する際には、日本列島から台湾、フィリピンを結ぶ第1列島線を自由に通過できないと致命的だからです」

 台湾国防部のシナリオによると、このような順序で進行すると想定されています。

(1)中国軍は“軍事演習”の名目で台湾の対岸に戦力を集め、海上戦力を台湾周辺の海域に配置、台湾を威嚇する。
(2)フェイクニュースなどで台湾を混乱させる。
(3)「演習」から「実戦」に切り替える指令が下される。
(4)サイバー攻撃で台湾の中枢機関や台湾軍を麻痺させる。
(5)ミサイルを発射し、台湾軍の指揮所やレーダー施設などを攻撃。
(6)周辺海域に配置した海上戦力により外国の介入を阻止し台湾を包囲。
(7)中国軍が台湾に上陸。

 中国は軍事演習を装って万全の態勢を整え、短時間で上陸作戦を完遂する。これが台湾国防部の想定です。
 
 さて、そこで、日本の動きですが、中国は台湾領空、排他的経済水域を認めておりません。独立国として認めていないので当然です。奴らの海上戦力、航空戦力は、我が物顔で台湾の領空、排他的経済水域を侵犯するでしょう。
 
 その時、偶発的に、日本の領空、排他的経済水域に台湾と中国の戦力が交戦して、侵犯する状態もあり得る。その時、日本が台湾を助ける行いをした時、それを口実に南西諸島を攻略する事態も発生する可能性があります。
 
「また、これから向かう石垣島は台湾から240キロ。中国・台湾双方が領有を主張する尖閣諸島まで330キロです。中国は、尖閣諸島を狙う公算が高いと思われます」

★ソーニャの推測、広瀬二尉の居室

 おずおずとソーニャが「あの、広瀬二尉、お聞きしてよろしいでしょうか?」と言った。「ええ、どうぞ」「あの、尖閣諸島への侵攻は可能性が高いとこう思われますか?」「ええ、中国が領有を主張しておりますから、領有権の主張に宣戦布告は不要ですからね」
 
「お言葉を返すようですが、この時点で、尖閣諸島の占拠は、投資コストに見合わないと考えます。つまり、尖閣諸島は何もない岩山、中国は、占領に必要な戦備、備品、消耗材をわざわざ中国本土から搬入する必要があります。飛行場ももちろんありませんから、海上戦力による兵站確保となります。それを、自衛隊・在日米軍の優勢な航空・海上戦力の妨害を受けて維持するという投資コストは無駄だと思います」
「ふむ、一理ありますな。続けて」

「今回のロシア軍の作戦はご存知でしょう?侵攻するぞ、するぞと言っていた北海道は陽動作戦でした。留萌に上陸してちょっとお茶を濁しただけ。待ち構えている陸上自衛隊、旭川連隊の優勢な陸上戦力と航空戦力で、ロシア軍の消耗は明白。尖閣諸島と同様、侵攻に必要な戦備、備品、消耗材は現地調達などほぼ不可能。脆弱なロシア海軍では兵站維持は難しい。だから、留萌ではなく、佐渡ヶ島に標準を合わせました。得られる利益は大きい。自衛隊のガメラレーダーという目を潰せる。逆に、本土の監視に利用できる。自衛隊の戦力は、空自の八十名のみ。投資コストに見合う成果が北海道侵攻よりもはるかに多く得られます」
「確かにそうでしたね。結果は違いましたがね。今や、ロシア軍が日本の友軍」

「ハイ、東ロシアにとっても幸いなことでした。それで、今回の中国の台湾侵攻に伴う日本領土への目標はどこか、というと、私の考えでは、尖閣諸島などではなく、これから向かう石垣島です」

 台湾から240キロ。与那国島はより近く、200キロですが、与那国空港は2千メート級の滑走路だけしかなく、フロンタル・パーキング(ターミナルビルの前面に航空機を並列で駐機)は出来ません。戦闘機の連続離発着は不可能。それに比べて、新石垣空港は、2千メート級の滑走路は同じでも、 タキシーウェイ(誘導路)があります。
 
 空自の戦闘機が常駐しているわけではありません。ミサイル部隊、500~600人が常駐しているだけです。装備も12式地対艦誘導弾と03式中距離地対空誘導弾を配備していますが、台湾のF-16とのドッグファイトを名目にして石垣島にJ-20(殲20)が接近したら、空自はミサイルを撃てません。
 
 おまけに、J-20(殲20)はステルス性を保持しています。12式、03式が探知するのが難しい。それで、新石垣空港の滑走路を攻撃すれば、空自は航空機を沖縄から飛ばすしかない。中国は滑走路の修理など簡単にしてしまうでしょう。
 
 そこで、今回の北朝鮮のように、ホバークラフトで石垣島に侵攻をかけるとしたら?どうなります?簡単に占領できてしまいますよね?
 
 この水陸機動団400名とミサイル部隊500~600人とを合わせても、北朝鮮のしたような数千名の勢力を持って上陸されたら?そして、石垣島の空港他、インフラが中国の手に入ったら?与那国島は自然と立ち枯れ、ほっておいても、尖閣諸島などは将来占領できるので、放置。

「と、こう私は考えるものであります・・・あ!ああ!す、すみません・・・私、出しゃばったことをベラベラと言ってしまって・・・」とソーニャは両手で顔を覆った。

「いやいや、准尉、戦術として、その可能性は高い。確かに、あなたの言われる投資コストに見合います。また、留萌、佐渡ヶ島の教訓が当てはまります。恐れ入りました」

 いいわ、いいわねえ。さすが、アカデミー主席卒業のソーニャちゃん。広瀬二尉も単なる可愛い子ちゃんじゃないというのに気づいたわよね?優秀といえば、アカデミー始まって以来の秀才のエレーナ少佐とタイプは似ているわね。気弱な部分を除いて。

 広瀬二尉も混ぜっ返しもせずちゃんと聴いて理解しているし、この二人、いいかもしれないわ、気弱な分、エレーナ少佐みたいなじゃじゃ馬よりも奥手の広瀬二尉にはちょうどいいかも!とアニータは思った。


★デート、佐世保市内

 アニータ少尉は約束通り、広瀬二尉が非番で上陸許可がある時にソーニャ准尉も非番にしてくれた。ペレスヴェートから海上自衛隊立神岸壁に伸びている長いタラップを降りる。たいした作りのタラップではなかった。多少ぐらつく。広瀬は、ちょっと躊躇したが、ソーニャと手を繋いだ。小さな手でプニュプニュと柔らかい。
 
 視線を感じて上の後部甲板を見上げると、アニータ少尉がニヤニヤして見下ろしていた。彼女だけではない。ロシア軍兵士、水陸機動団隊員、十数名が手を振っている。あ~、プライバシーなんてないんだよなあ、軍隊は。これで、ソーニャと公認になっちまったのかい?と広瀬は思う。
 
 タラップを降りると営繕課の事務職の女性が待っていた。広瀬が慌てて握っていたソーニャの手を離した。ソーニャもポーチをイジってごまかしている。
 
「広瀬二尉でありますね。私は事務職の紺野と申します。東ロシア共和国軍のみなさまの日本入国の手続きのお手伝いをさせていただいてます。こちらの方が、ソーニャ准尉ですね。え~、何語がよろしいかしら?ロシア語は喋れないんですけど・・・」と紺野。

「紺野さん、日本語で結構ですよ」とソーニャ。「あら、お上手。日本人と変わらないわ」と紺野。「上官が日本人とのハーフのエレーナ少佐で、日本語は学校で習って彼女に直されました」

「あ、あのサドガシマ作戦のエレーナ少佐!おきれいな方ですよねえ。少佐、日系のハーフなんですか?テレビで見てました。え~、広瀬二尉、車で行きましょう。岸壁は長いので」とカローラの後部座席に二人を乗せた。

「ソーニャ准尉の出入国手続きは、米海軍佐世保基地のビザセンターで行います。佐渡ヶ島ではビザなど必要なかったでしょう?ソーニャ准尉のパスポートはロシア連邦のままですわね。まだ、東ロシア共和国の国家承認は下されていませんからね」

 後部座席から「あ!そうか!戦闘上陸だったから、ビザなんて関係なかったですものねえ」と広瀬。「おかしな状況ですわね、ウクライナのあの騒ぎでロシア人の印象は悪かったのに・・・あ、失礼。でも、そのロシアが分裂して、東ロシア共和国になって、日本と相互防衛協定を締結して、友軍になるなんて。それで、あんなに死傷者を出して、北朝鮮から佐渡ヶ島を防衛してくれるなんて、思ってもみませんでした。あの、卜井アナの実況ライブを見て、私、泣けて泣けて。お二人はあの戦闘に参加しておられたんですか?すみません、大阪のおばさんみたいに聞いちゃって」

「紺野さん、私、その卜井アナ、藤田アナと佐々木カメラマンの護衛をしていたんです。流れ弾が飛ぶので、三人を守るのが大変でした」「あ!あのチラッとカメラに映ったのがソーニャさん?お~、これはオフィスに帰ったら自慢できる話・・・機密とかじゃないですよね?」「いいえ、機密なんかじゃ全然ありません。それで、広瀬二尉は、二見町の市街戦闘に参加されておられました」「あのレールガンで北のホバークラフトをぶっ飛ばしていたあそこに?すごいなあ。平和国家日本であんなことが起きるとは、いやはや・・・あ、ビザセンターに着きました」

 紺野は、テキパキと英語で米軍の事務職と話して、外務省のビザ係に取り次いでくれた。なんの問題もなく、ソーニャのパスポートに入国スタンプが押された。二人はここで紺野と別れて市内に行くと思っていた。
 
「あの、車で市内まで送ります。それから、用事が済みましたら、これ、私のスマホの電話番号です」と名刺を広瀬に渡した。「連絡して下さい。お迎えに伺います」「いや、紺野さん、勤務中にそこまでしていただかなくても・・・」

「アニータ少尉が佐渡の鈴木三佐に連絡されて、市ヶ谷の防衛省から直々に佐世保基地に指令が飛んで、お二人の便宜を図るようにと指示を受けております。立派な任務なんです・・・あのぉ、立ち入った話ですが、お二人は自衛隊公認の間柄なんですか?基地のオフィスでどういうことだろう?とみんな首をかしげておりまして・・・」

「ええ?アニータさん、何を段取りしているんだろう?初めて知りました!」と広瀬。「広瀬二尉、私、恥ずかしい・・・」と両手で顔を覆うソーニャ。

「あら?ご存じなかったんですか・・・市ヶ谷からの直接指令なんてねえ・・・え~、スミマセン、どこに参りましょうか?」と米軍ゲートを出たところで紺野が尋ねた。

「ソーニャ准尉、どこにまいりますか?まず、食事にしましょうか?佐世保だから、寿司屋がいいかなあ?」「広瀬二尉、お任せします」「じゃあ、紺野さん、申し訳ありませんが、市内のどこか落ち着いた寿司屋にお願いしたいんですが」

「了解です!ちょっとお待ち下さいね・・・江戸前の寿司屋があります・・・すし処 元禄なら、個室ありかな?」とカーナビに接続して、電話した。「元禄さん?佐世保基地の紺野です・・・うん、お客様・・・個室空いてます?・・・二名様・・・お名前は広瀬様・・後、十分でついちゃうの・・・大丈夫?オッケー・・・じゃあ、広瀬二尉、お寿司屋さんで降ろします。広瀬で予約してあります。個室とりました」「うわぁ~、紺野さん、すごい!あっという間に!」「米軍とか、佐世保基地に来られる各国の軍の方たちで慣れてるんですよ」「へぇ~」

 ソーニャが広瀬のシャツの袖を引いて「広瀬二尉、今、紺野さん、運転しながらカーナビで電話してましたけど、あれ、どうやったんです?」「ああ、カーナビとスマホがBluetooth接続されていて、ハンズフリーで電話をかけたんですよ」「ロシアにはありません!日本ってすごいですねえ」「ソーニャ准尉は面白いなあ。そんなことを感心されるなんて」「ロシアはいろいろな点で遅れています。あ~、この国に住みたいなあ」
 
「あら?准尉、自衛隊公認で、二尉と結婚されるんじゃないんですの?」と紺野がズケズケ言う。ソーニャは真っ赤になって、広瀬の顔を見上げた。広瀬も真っ赤になった。「ハ、ハハハ、いや、そんな・・・ねえ?准尉・・・いやはや・・・」

「着きましたよ。ここ悪くないですから。おまかせを注文されるといいですよ。あ!お代は佐世保基地の紺野で付けておいて下さい」「そんなわけには・・・」「市ヶ谷からの指令ですもの。お気になさらずに。私は近所で買い物してますから、ごゆっくり。役得ですわ」と言って、窓から手をヒラヒラさせて、さっさと車を出してしまう。
 
「いやぁ、ビックリしたなあ・・・准尉、ごめんなさいね。こんなことになっているなんて知らなかった」と言いながら、暖簾をくぐった。続いてソーニャも店に入る。「広瀬二尉、ソーニャと呼んで下さい」「じゃあ、俺も名前で。薫、カオルです。変な名前でしょう?」「カオル、発音しやすいです」

 広瀬の名前を言うと、奥の座敷に通される。二人は対面で座った。「ソーニャ、畳部屋だけど、大丈夫?」「これが畳・・・」「これが座布団だ」「座布団・・・」「横座りかあぐらでかまわないですよ。脚が痛くなっちゃうから」「横座り・・・こ、こうですか?」と座ってみせた。「そうそう、その方が楽でしょう?」「ハイ、何か新鮮ですね。何もかも新鮮!」
 
 二人は紺野の言う通りおまかせにした。「お酒、飲んじゃおうか?」と広瀬が日本酒を頼んだ。「おいしいです!ワインみたい!」と喜ぶソーニャ。広瀬はあまりの可愛さにゾクゾクした。おいおい、こんな可愛い若い子とデートしてるなんて、信じられないと思う。
 
 ひと通り料理が出て、堪能した二人。店を出ると、広瀬が「ブラブラ、しようか?」とソーニャに聞く。「ハイ、カオルについてきます」とオズオズと広瀬の右手を握る。広瀬は血液が右手をドクドク流れる気がした。JR早岐駅の方に歩いた。

★婚約指輪、佐世保市内

 途中で宝飾店があった。広瀬はショーウィンドーを覗き込んだ。「カオル、どうしたの?あら、キレイな宝石ね」「ソーニャ、記念に指輪か何か買いたいんだけど?」「え?こ、婚約指輪ですか?」「え?こ、婚約指輪になるの?」
 
「だって、紺野さんが自衛隊公認とか言われてて・・・私、カオルと、け、結婚するの?カオル、私と結婚してくれるんですか?」「え?えええ?俺と結婚してくれるの?」「昨日の今日で、気が早いかも・・・」「いや!気が早くない!」チャンスはそうそうないもんだ、と広瀬は思った。

「ソーニャ、もう、結婚、決めちゃおう!お、俺と結婚して下さい!」「わ、私でいいんですか?!」「ソーニャがいいんです!」「よ、よろしくお願いいたします」
 
 宝飾店のおやじが、店先でなんかもめているカップルを眺めていた。「お客さん、お店にお入りなさい。何をお求めですか?」とドアから顔を出した。広瀬が「おやじさん、あの、その、こ、婚約指輪を下さい!」と言う。おやじは、なんだろうね?このごついゴリラみたいな男がこんな華奢な女の子と婚約するのかい?と思った。
 
 おやじが指輪をいろいろと見せる。広瀬が「おやじさん、この店で一番でかいダイアモンドリングを見せて!」と言う。ゴリラ、金持ちなのかね?とおやじは思った。「これはどうですかね?3Cの0.95カラットのダイヤ、プラチナリングだけど・・・」「給料三ヶ月分が相場でしたね?」「世間様はそう云うが、私は心だと思うよ・・・」「いや、デカいほうがいい!」
 
 それを聞いていたソーニャが「カオル、私、手も小さいし、大きなダイヤは・・・お心だけ受け取っておきます。それより、これはどうかしら?」と小さなダイヤが3個ついているプラチナリングを指差す。ペアになっていて、男性用は少しだけ大きなひと粒ダイヤのリングだった。小ぶりで細い。「ソーニャ、これ小さいよ」「私、これがいい。可愛い・・・」「う~ん・・・」
 
 おやじが「そうだよ、お客さん。こちとら商売で高いもの売りつければいいが、このペアのエンゲージメントリングは名の知られた細工師が作ったもんだよ。そんなに高くないが、これは一生もんだよ。金額が気になるなら、結婚指輪を豪勢にすればいいじゃないか?結婚しなさるんだろう?彼女さんもこれでいいと言ってるんだから」

「ソーニャ、これでいいの?」「これがいいです。カオルのプレゼントならなんでも受け入れます!」「わ、わかった!おやじさん、サイズ、大丈夫?」「ちょっと計らせて下さいね。彼女さんはピッタリだ。彼氏さんは・・・ちょっとサイズ調整しますよ。すぐできるから」

「ほら、できた」とおやじが超音波洗浄機から指輪を取り出して、フェルトの布で拭いて広瀬に手渡した。「彼氏さん、指輪を彼女さんにつけてあげなさいよ。永久の愛を誓います、なんちゃって。オホン」

「ソ、ソーニャ・・・あの、これ・・・」とぎこちない手付きでソーニャの指にはめた。「ソーニャ、うれしいです、カオル・・・」と涙ぐむ。

 あ、あれ?こんな展開で、いいんだろうか?もう?もう?婚約しちゃったの?と広瀬は思った。まあ、人生、こんな展開もありかもしれん。何故かニタニタ笑いのアニータ少尉と紺野さんの顔が浮かんだ。

 ソーニャも広瀬に指輪をつけた。私で良かったのかしら?こういうのでいいのかしら?でも、カオルは優しいし、頼りがいありそうだし・・・何故かニタニタ笑いのアニータ少尉と紺野さんの顔が浮かんだ。
 
 お勘定を済ませ店を出た。しばらく、市内を散策している内に午後遅くになった。「ソーニャ、キミの非番は何時までなの?」と彼女に聞く。「あのですね、アニータ少尉から・・・明日の朝まで帰ってくんな!と言われておりました・・・カオル、どうしましょう?」とボソボソとソーニャが言った。「え?つまり・・・??」「カオル、たぶん、その『つまり』なんじゃないかと・・・」

「そ、そうだよね、そうだ、そうだ!俺たち、婚約しちゃってるんだから、そうなんだよ!」「・・・そうなんですか?」「そうなんだ!ソーニャ、朝まで帰っちゃいけないんだよ!」「・・・」

 広瀬がスマホをポケットから取り出して、紺野に電話した。「紺野さん、あの・・・」「あ!宿泊ですねえ。アニータ少尉から聞きました!ハウステンボス、予約しておきました。今?どこですか?JR早岐駅前?2分です!」「・・・」

 二人は顔を見合わせた。ニタニタ笑いのアニータ少尉と紺野の顔が思い浮かんだ。

(3)アニータ少尉のオキナワ作戦、沖縄へ

★ハウステンボスの一夜

 紺野にハウステンボスのホテルエントランスで降ろされた二人。「樂しんでねえ~、朝、迎えに来るからねえ~。お休みぃ~」と車の窓から手をヒラヒラさせて、紺野は行ってしまった。
 
 もう、日は沈んでいた。
 
 ホテルは「ウォーターマークホテル長崎 ハウステンボス」だった。

「カオル、ここは、ディズニーランドか何かなの?」とホテルを見上げてソーニャが広瀬に聞いた。「ソーニャ、佐世保にディズニーランドはないよ。ここは、オランダの街並みを再現したテーマパークだよ」「でも、でも、ディズニーランドみたい!」「ハハハ、今度、ソーニャを東京のディズニーランドに連れて行ってあげるよ」「カオル、秋葉原ってところもいける?」「もちろん!秋葉原もそれ以外も、日本中、どこでも、二人で行こう」「夢見たい・・・さめないといいけど・・・」

 広瀬はギュッとソーニャの手を握った。「俺たちの夢は絶対にさめない!」
 
「ねえ、カオル・・・」「何だい?ソーニャ?」「カオル、あなた、まだ、私にキスしてない・・・」「ああ、じゃあ、チェックインして・・・」「ダメ!ここでキスして!」「ホテルのエントランスだよ、ソーニャ」「ダメ!ここでする!ここでキスして!」「みんな見てるよ」「そんなの気にしないの。わがままでしょう?私。でも、決めたの。ここでカオルは私にキスして。一生のお願い!」

 ソーニャに見上げられて、ウルウルとした目で見られた。お~、俺、ホテルのエントランスで、俺の婚約者にキスすんのか?う~。
 
 いいじゃないか!自衛隊員だ!やってやる!中途半端にしないで、ソーニャにキスしてやる!・・・ミントガム、噛んでたら良かったよなあ・・・
 
 広瀬は少し体をかがませて、小柄なソーニャを下からすくい上げるようにして、彼女の脇の下に手をいれて、抱きしめた。ソーニャが広瀬の首に手を回した。彼女がジッと広瀬の目を見つめる。不器用に彼女の唇に自分の唇を合わせた。

 ソーニャが深く鼻で息を吐き出す。ため息のような息を。彼女が唇を開いて、彼を受け入れようとする。彼女の甘い息を彼は吸い込む。彼女が広瀬の首に回した手に力が込められた。広瀬は、彼女の腰に回した手に力を入れた。彼女が背を反らせた。

★この僧帽筋、噛んでみたい!、ベッドルーム

 何分間、二人はそうしていたんだろうか?
 
 二人共、急にホテルのエントランスなのを思い出して、体を離した。「カオル、これ、夢じゃなくて、現実?」とソーニャが言う。「たぶん・・・俺、こんなことするとは思わなかったよ」「私も・・・」「でも、まだ、ホテルに入ってもいないんだよ」「じゃあ、連れてって、私をホテルに連れてって」
 
 チェクインして部屋に入った。「素敵なお部屋・・・」とソーニャが部屋を見回す。「俺は、わかんないから。紺野さんの予約した部屋なんだけどね・・・」「いいのよ、カオル、どんな部屋でも、ソーニャは幸せ。ねえ、見て見て」と自分の左手の薬指を広瀬に見せる。「こんな指輪が自分の薬指にある、なんて、今朝は思いもしなかった・・・」「あ、俺もだ」と広瀬も自分の左手の薬指をマジマジと見る。

 ソーニャはベッドに腰掛けて、脚をブラブラさせて、急にクスクス笑い出す。「何?何がおかしいの?」と広瀬が聞く。
 
「我ながら変なの。だって、カオル、私、今ね、エレーナだったらここで何ていうんだろう?とか、アデルマンだったらとか、アニーはどうなんだろう?アニータはどう振る舞うのかな?スヴェトラーナは恥ずかしがるのかな?とか、考えてしまって・・・」
「ハハハ、みんなどう振る舞うんだろうね?」
「・・・うん、でも、私は私でしかない、私という存在以外になりえない、なんて思って・・・面倒くさい女だね、私って・・・ね、カオル、私を抱きしめていただけますか?強く、強く、抱きしめて下さい」
「ソーニャ・・・好きです、大好きです」
「私も・・・私もです・・・」

 二人はベッドでしばらく抱き合っていた。広瀬は、ソーニャが華奢だと思いこんでいた。エントランスでキスした時は頭に血が上って気づかなかったが、彼女の体はハガネのようだ。彼女の背中に手を回して腰のクビレを抱くと、引き締まった広背筋なのに気づく。
 
「ソーニャ、キミ、鍛えてるなあ」
「毎日、筋トレは欠かしません。悩みは肩の三角筋がついてしまって、怒り肩になってしまうんです。三角筋と上腕二頭筋は止めておいて、上腕三頭筋を鍛えたいんです。バランスが問題。カオルの体も素敵!」
「そうか!女の子だもんなあ。あまりゴツゴツした体はイヤなんだよね?」
「そうなんです!私服に着替えて、肩パッドがいらない体ってちょっとねえ」
「俺はそんなことを気にしたことないからなあ」
「カオルの体、いい!もう筋肉の塊!頼れるなあ」
「油断するとすぐ筋肉がたるむけどね」
「この首肩の僧帽筋、好きです。ねえねえ?」
「なに?」
「この僧帽筋、噛んでみたい!」
「ソーニャの歯がたつかなあ・・・」

「カオル、ソーニャ、やります!」ガブッ。「イテテテテ!ソーニャ、痛い!」「ふ~ん、噛まれるのは弱いのか。夫婦喧嘩では、私、噛みます!」「それ、止めて!」「DVになっちゃいますものね。じゃあね、じゃあね、首筋、アムアムします!」「なにそれ?」

 ソーニャが広瀬の首に手を回して、首に唇をつけた。甘噛する。ペロペロ舐める。ソーニャ、猫みたいだ。お~、ゾクゾクする。「ソーニャ、これ、ゾクゾクするよ」「フフフ、これがカオルはいいんだ・・・」「俺ばっかり攻められてずるいぞ、ソーニャ!」と広瀬もソーニャの耳たぶを甘噛した。「カオル、くすぐったい」と身を捩る。広瀬は体を離した。
 
「なんか、ゴリラが子鹿にのしかかっているみたいだよ」「私、子鹿?」「みかけは子鹿か子猫だな。でも、中身は違う、だろ?」

「体術は苦手なんです。アニーに、アナスタシア少尉に負けちゃいます。スターウォーズで、パルパティーンとヨーダが闘うでしょう?アデルマン大尉とアニーが闘うとあんな感じ。あのミーシャが動き回るアニーを捕まえられないんですよ。私がアニーと闘うと、あっという間に組み伏せられます」
「あ、それは二見町の戦闘で見た。ソーニャみたいな体型なのに、すごかった。北朝鮮の尉官にアッパー食らわせて顎を砕いていたもの。ソーニャはアニーに勝てないんだ」
「そりゃあ、もう。でも、エレーナ少佐にはアニーでも勝てません。一瞬です。一瞬でアニーが落とされます。あの大きなアデルマン大尉も同じで、一瞬で落とされます」

「あの、可愛い子ちゃんタイプの少佐が?」
「ハイ、たぶん、ロシア軍のサンボだけじゃなくて、半分日本人でしょ、彼女。合気道か何か、組み合わしてると思います。力技じゃなく、相手の力をうまく逃がす?それで関節を決められると、一瞬です。男性兵士も同じ。みんな落ちて気を失います」
「う~ん、見かけじゃないんだよなあ。あんなモデルみたいな少佐がねえ・・・」

「私も子鹿や子猫じゃないですよ?得意技だってあります!」
「ソーニャの得意技?なんだろう?」
「あのね、あのね、日本のプロレスラーの永田裕志って知ってます?」
「おお、永田!知ってる知ってる」
「彼のナガタロック2は得意です。得意なんですけど、組み伏せる前にやられちゃうんです」
「お!ソーニャ、俺にかけてみてよ」
「いいんですか?カオルを組み伏せるのは無理だから、うつ伏せからなら、結構効くと思う」
「こうか?うつ伏せ」
「ハイ、じゃあ、遠慮なく」

 ソーニャが広瀬の背後からのしかかって、太い首に右手を回して、広瀬の左手を脚に挟んだ。右手の手首のでっぱり(尺骨)を広瀬の頬骨にあてて、グリグリとねじ上げた。広瀬がタップする。
 
「イテテテ」と頬をなでた。「ソーニャ、これは効く。ねじ上げるだけじゃなくて、手首の尺骨を頬骨に決められるとギブだな」「獣神サンダー・ライガーもそう言ってました。ネットで見ました。茎状突起のでっぱりは、手首の回転の向きによって出たり引っ込んだりするから、手首の角度を考えて、突起を頬骨に決めるんだそうです」「お~、痛い!ソーニャと夫婦喧嘩は口喧嘩だけにとどめておこう!」
徹底検証!プロレス技は本当に痛いのか?
手首を描いてみよう!~構造理解編~

「カオルの得意技はなんですか?」
「俺のは、花がないな。逆エビ固めかな。地味だろう?」
「シンプルな技が一番効きます。私にかけてみて」
「いいのか?」
「ハイ、うつ伏せ」

 カオルがソーニャにまたがって、脚を決める。手加減しながら、体を反らせるが、男と違って効きが悪いのがわかる。「あんまり効かないでしょう?」「確かにそうだな」「ストレッチしている感じです。私、体を角度150度くらいは反らせますから」「なるほどなあ」「だから、両脚を決めたフルボストンじゃなく、片足のハーフボストンで、足首だけじゃなく、膝も決めて、ひねると、体の柔らかい女子でもタップしますよ」「え~っと、こうかな?」「ダ、ダメです!タップ、タップ!」

★ハニートラップ?、ベッドルーム

「ソーニャ、自衛隊で体術の教官ができるぞ!」
「私なんかだめですよ。私の専門は情報工学なんですよ」
「え?戦闘部隊じゃないの?」
「エレーナ少佐の部隊は、元々は情報通信部隊です。だから、アニーが北の滑空ミサイルをハックできたでしょう?今の部隊編成では女子空挺隊員も入ってるので、戦闘部隊みたいになってますけど」
「なるほど。じゃあ、ソーニャもそれで自衛隊に売り込もう!」

「同じ就職先になるんですか?」
「そうそう。もちろん、俺と付き合って、結婚すると、自衛隊情報保全隊という諜報組織の調査第2部が外国人配偶者が諜報員かどうか、調査するけどね。警察の公安も調査するだろうし」
「大丈夫なんでしょうか?」
「だって、ソーニャもみんなも諜報員じゃない。日本国に貢献してくれているんだから」
「あら、私がカオルにハニートラップを仕掛けていないという確信がありますか?」
「ソーニャが大好きだから、第六感で、そんなことがない、というのがわかる」
「ありがとう、カオル・・・でも、私が諜報員でハニートラップを仕掛けているとしたら、相当マヌケな諜報員ですね?」
「なぜ?」
「だって、ホテルの部屋に入って、抱きあってキスしましたけど、その後は、プロレス技の掛け合いをしているハニートラップ担当の諜報員って、バカでしょ?」
「・・・俺たち、バカだな・・・」

「ハイ!バカみたい・・・あのぉ~、シャワーにします?食事?それとも私とハニートラップ?」
「さ、最後のヤツでいいかな?」
「汗臭いですよ?」
「ソーニャの汗だったらかまわん」
「そうそう、私、性経験が1人だけで、それも2回しかセックスしたことがありません。エクスタシーも感じたことがありません!」
「いや、俺だって、それほどないし、セックスがうまいとは思わないよ」
「二人で、研究しないと」
「ソーニャは真面目だなあ」
「アニーに頭が固いといつも言われます」
「そこが俺には魅力なんだ」

 それから、二人は研究活動をした。
 
 二人共、外出なので私服だった。ソーニャはとっておきのオシャレ(と自分では思うのだが)をしていた。ボートネックの橙色のニットのプルオーバーに白のピッチリしたミニスカート姿。プルオーバーのサイズが大きいのか、時々ずり下がってくるのを直している。広瀬はジャケット、タイなしでボタンダウンシャツ、ジーンズ。
 
 俺、いつも迷うんだけど、男が脱がすもんかね?女の子が自分で脱ぐの?どっちだろう?それは私も迷います。自分で脱ぐのははしたない感じです。じゃあさ、一気に全部脱がせちゃっていいもんかね?それは恥ずかしい。トップから脱がすものかな?いいえ、それはボトムからでしょう?じゃあ、このミニスカートからってことか?
 
 映画だとキスしながらスルッと脱がせていたみたい。こうかな?なんか違う気がする。そもそも、このスカート、ジッパーがどこかわからん。右にフックがあって、ジッパーをおろせばいい。あ!こうか!カオル、ショーツが見えちゃう!恥ずかしい!
 
 俺も脱がないといけないけど、どのタイミングで脱げばいいんだろうか?じゃあ、私が目をつぶっていますから、その隙に。もう、面倒だな、俺、全部脱ぐよ。目を開けていいかしら?ダメです。俺も恥ずかしい、シーツをかけないと寒いよね?その前にトップを脱がさないと・・・。じゃあ、バンザイしてくれる?こうでしょうか?そうそう、可愛いブラだね。いや、見ちゃイヤ。ブラ、はずしちゃおう。アン!
 
 え~っと、次は・・・。ソーニャ、カオルの乳首をアムアムしてみたい。え~?アムアムされちゃうの?ソーニャ、します!アムアム!あ、ゾクゾクする・・・俺もアムアムを・・・。イヤン!それ、ダメ、感じます!固くなってきたよ?カオル、いい。自分でするよりも感じる・・・。脇腹もアムアムしていいかな?くすぐった・・・くない!なんで?私もゾクゾクしちゃってます!そうか、そうすると、おヘソなんてどう?あ!新鮮な感覚です!・・・あ!カオル、脚を広げちゃダメ!匂いをかいじゃダメ!
 
 ツルツルだよ、ソーニャ。ちょっと、カオル、恥ずかしい!観察しちゃダメ!これを舐めるんだね?あ!舐めちゃ・・・いい、いいです・・・。もっと。湿ってきたような・・・。私もわかります・・・溢れてます・・・。
 
 飲んじゃおうか?いけません!そんなもの飲んではダメ!ソーニャ、塩味で悪くないよ。恥ずかしいこと言わないで!
 
 もう、ソーニャばっかり虐めて!えい!カオルにまたがっちゃいます!あ!カオル!ガチガチです!おいおい、ニギニギ止めて!大きいなあ。入るんでしょうか?最後にしたのが2年前。ふさがってないかしら?どれどれ、ふさがってはいないみたい。カオル、指、挿れないで!アン!
 
 ソーニャ、負けません!映画だと、これを口に含むんですよね?カポッ。お!ソーニャ、レロレロ止めてくれ!モッフォデシュカ?いや、お!出ちゃうよ!映画ラトコレノンシャイマスヨネ?出シテ下サイ!ソーニャ、飲ミマス!あ!出るよ!ダメだよ!・・・う~ん、変な味・・・ゴックン・・・。ソーニャ、飲んじゃったの?俺も・・・。あ、カオル、ダメ。そこ、強く吸っちゃダメ!ということは吸って欲しいんだね?アアア、ダメです!ソーニャ、逝きます!

 ハァハァ言って二人共ごろりと仰向けになった。「ソーニャ、してもいないのに二人共逝っちゃったよ」「私、生まれて初めて逝ったような気がします。もっとしたいです。カオル、もっとして!」「避妊しなくていいの?」「え~っと、今日は何曜日でしたっけ?」「確か、火曜日のはず」「だったら、安全日だと思います」
 
「わかるの?」「私、時計のように正確に四週間周期なんです。だから、計算できます」「ほぉ~」「カオルも知っておいてね」「カレンダーにつけておこう!」「そんなのつけないで!」「じゃあ、俺の手帳に」「・・・」「別に避妊しなくてもいいんだけどね」「赤ちゃん欲しいですか?カオル?」「いいねえ、欲しいな、ソーニャとの赤ちゃん」「わかりました!バカスカ、産みます!」「いや、バカスカは・・・」「何人でもカオルの赤ちゃん産みます!」「自衛隊の給料じゃあ、そんなに育てられないよ」「給料の範囲でバカスカ産みますよ!」「・・・」

 じゃあ、子作りの練習を、というので、このマンガのようなカップルは、バカスカ子作りをする練習を始める。
 
「入るかなあ、カオルの大きいから」「大丈夫だろう?え~、ゆっくり挿れるね?」「ハイ、お願いします」「ソーニャ、ちょっとキツイ・・・あ!先っぽが入ったよ」「あ、わかる!わかります!何か・・・いい!もっと深くてもいいです」「じゃあ・・・ニュルンときた」「あ!来てます!ジンジンする!もう全部入った?」「まだ、半分くらい・・・」「ええ?まだ半分?口から出ないかしら?」「大げさな・・・おお、絞まる!」「私、絞めてるんですか?」「俺のをギュウギュウ絞めつけてる」「あああ、中がいっぱいになってる!」「根元まで入ったよ、ソーニャ」「これ、すごいです!私、大きいのと小さいのと交互に・・・逝く・・・アアン、イヤン、ダメ、息ができない・・・」「おおお!こんな気持ちいいの初めてだ!」「カオル、抜いて突いちゃダメ・・・ダメです・・・」「ガマンできない!」「おおお!何、これ!ウウウウ、ソーニャ、死にます!死ぬ!」「俺も出る・・・」

★沖縄へ、ペレスヴェート艦上

 佐世保で兵器弾薬、燃料、消耗品、食料を満載したオスリャービャとペレスヴェートは出港して、一路沖縄に向かった。積み荷の一部をおろすためだ。

 出港して半時間して、広瀬二尉がアニータ少尉から呼び出しを受けた。申し訳ないですが、小官の居室に来ていただきたい、とのことだった。佐官、尉官の居室の奥がアニータの居室になっていた。廊下の途中でソーニャと出会った。「あれ?ソーニャ、どこへ?」「アニータ少尉から呼び出しなんです・・・カオル・・・」まだ、名前を呼ぶのに慣れていない。

 アニータの居室に入ると、事務職の紺野さんがソファーに座っていた。「あれ?紺野さんじゃないですか?」と広瀬。「広瀬二尉、石垣島までご一緒させていただくことになったの」という。事務職が出張?変だよなあ、と広瀬は思った。広瀬とソーニャが紺野の正面のソファーに座った。
 
 アニータが「実は、日本の首相官邸から連絡で、紺野さんと・・・いえ、紺野二等空佐を石垣島までの乗船をお願いされました」

「ハ?紺野二等空佐?・・・でありますか?」と広瀬はソーニャと顔を見合わせた。

「広瀬二尉、わるい、わるい、事務職なんて言っちゃって。佐世保でね、待機してたら、変な指令が市ヶ谷から来たんで、面白そうだから、事務職の女性と変わってもらったのよ。あのね、私、今は内閣情報調査室に出向しているの。所属は、自衛隊情報保全隊本部情報保全課

「え?それって、諜報担当の?」「そう、諜報が主任務。安心してね、広瀬とソーニャをスパイしに来たんじゃない。南西諸島で、人民解放軍の諜報部隊と日本人のシンパが暗躍しているんで、その調査が目的なのよ」「紺野二佐、そうでありましたか!了解いたしました」「私の所属は内緒にしてね」「了解であります!」

「そうそう、佐渡であなたたちと一緒だった南禅と羽生は防衛大学の同期なのよ。あの二人とは縁があるのね」
「あの、航空自衛隊の方々って・・・変わってますね?」とソーニャ。
「あら、私、南禅ほど変わってないわよ。普通よ、普通。ところで、昨日は良かったようね?相性が合ったのかしら?ねえ、ソーニャ?」
「紺野二佐・・・あの・・・ええっと・・・私、初めて逝きました・・・」と両手で顔を覆う。
「お~お、お熱いこと。いいわねえ。私も結婚したいわ。広瀬、キミの部下、食っちゃってもいいかしら?アラフォーだけどまだまだ現役よ?」
「紺野二佐、返答に困ります!」
「広瀬を食うと、ソーニャに殺されそうだからね」
「ハイ、紺野二佐、そんなことをなさったら、あなたを銃剣で八つ裂きに致します!」とニコニコしてソーニャが言う。

★紺野の予想

 その後、雑談で、中国の台湾侵攻の話を紺野とした。広瀬が促すので、ソーニャが彼女の持論の石垣島侵攻の話を紺野にした。
アニータ少尉のオキナワ作戦(2)、佐世保へ

「ソーニャ、あなたの推測はかなり高い確率で起こるかもしれない」と紺野。「留萌の陽動作戦と主目的の佐渡ヶ島侵攻、その相似としての、尖閣諸島と石垣島、兵站維持と敵のインフラを奪う見方は納得できる。今回、私が石垣島、与那国島などを回るのも、南西諸島の人民解放軍の諜報部隊と日本人のシンパの動きが活発になっているため。南西諸島から発信される暗号通信の量が増えている。主目的は台湾そのものだけど、彼らにとって、自衛隊の干渉、ひいては、在日米軍の干渉は怖い。南西諸島に居住している日本人のシンパを理由に住民保護とか、沖縄独立とか、バカな中国の口車の乗る日本人もいる。ウクライナで親ロシア派住民を口実にしたロシアのやり方よね。あ、アニータ、ソーニャ、ごめんね」「いいんですよ、違うロシアだの話ですから」

「欧州ロシアとは違う国になったもんね。そう、それで、最近、南西諸島に移住してきた沖縄県外の人間の中に、革マル派、中核派などの破壊活動防止法(破防法)に引っかかる組織くずれの人間が増えている」

「ところが、沖縄県自体が知事が左旋回気味で、南西諸島の警察力の強化に難色を示している。警察の公安は人がいないため、調査がうまくいってないってこと。事前調査を政府としてもしないといけないので、佐世保基地所属の営繕課の私が、自衛隊の現状調査なんて口実で南西諸島の各自治体と打合せをする、という筋書きなの」

だから、中国は、尖閣諸島はおいておいて、後で占領するとして、目標とするのは、沖縄本島よりも台湾に近い南西諸島の島々だと思う。第一は八重山列島、第二は宮古列島ね。面積は、西表島(いりおもてじま)も石垣島も290、220平方キロとあまり変わらないが、西表島には空港がない。石垣島には、ソーニャの指摘の新石垣空港が有る。与那国島は空港が有るが面積は30平方キロ弱で、小さく、兵站の維持が難しい。現地調達も無理。だから、中国の第一目標は石垣島と我々は考えている。
 
 第二目標は、宮古列島の下地島。ここは面白い島で、面積は10平方キロで、面積の約98%を公有地(国・県・市有地)、人口95人、ほとんどが空港施設なのよ。日本で唯一、パイロット訓練用空港として造られた下地島空港がある。もちろん、自衛隊は駐屯していない。
 
 私だったら下地島を狙うわ。石垣島と違って、自衛隊の駐屯はない、日本国内のパイロット養成の訓練飛行場だから、新石垣空港の2,000メートルじゃない、3,000m×60mの滑走路があるのよ。問題は、石垣島よりも沖縄に近く、面積が小さいから兵站維持が難しいってこと。伊良部島とは橋でつながっていて、近くに宮古島があって、これも橋でつながっているから、それほど悪いこともないけれど。

(4)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島へⅠ

★ポモルニク型エア・クッション揚陸艦艇、奄美大島沖

 ロシア軍のポモルニク型艦は、エア・クッション揚陸艦艇としては世界最大で、アメリカ軍のLCACのように母船である揚陸艦から海浜に車両などを運搬する揚陸艇ではなく、洋上を高速自力航行して戦車揚陸艦のようにビーチングして揚陸を行う、単艦運用される大型の揚陸艇である。
 
 ただし、長距離渡洋侵攻を目指したものではない。その運用が想定されているのは内海や近距離での作戦である。その航続距離540キロ程度である。速度は圧倒的に速く、時速96キロ以上である。
Wikipedia - ポモルニク型エアクッション揚陸艦

 全幅26メートル、全長56メートルのエアクッション揚陸艦は、小型揚陸艦のオスリャービャとペレスヴェートの船内ドックに入り切るものではない。自力航行で沖縄へ向かうしかない。 
ユニークな揚陸艇「L-CAT」など水陸機動団が渇望する揚陸艇

 だが、佐世保から那覇まで直線距離で800キロほど有る。このホバーでは途中で燃料切れだ。種子島沖合の馬毛島の港で給油する案もでたが、航路が長くなるだけだ。
 
 そこで、燃料の有るうちは自力で航行し、燃料が少なくなった場合は、オスリャービャとペレスヴェートに曳航、両艦から燃料補給させてはどうか?ということだ。無茶な話だが、検討した結果、可能だった。
 
 旧型艦で鈍足のオスリャービャとペレスヴェート両艦の速度では、佐世保から那覇まで30時間ほどかかる。途中、エアクッション揚陸艦に給油するとして、結局、2日程度の航行時間を予定した。
 
 夕陽が東シナ海の地平線に落ちていく。オスリャービャとペレスヴェート両艦は、ホバーに給油作業を行っていた。全幅16メートルの両艦は、26メートルのホバーよりも幅が狭い。ホバーがやけに大きく見える。

 ペレスヴェートの前部76.2 mm単装両用砲のあるデッキから、紺野二佐、アニータ少尉が前部甲板を見下ろしている。前部甲板には、広瀬二尉とソーニャ准尉が歩きながら話し込んでいるのが見えた。
 
「あの二人、チビデカコンビだねえ」と紺野。「本人が『ゴリラと子猫』と言ってました。183センチの広瀬二尉に154センチのソーニャですものね」とアニータ。「私だったらあんなゴリラにのしかかられたら潰れちゃうよ。もちろん、広瀬はこんなおばさん、相手にしないだろうけど」と紺野。

「あらあら、二佐、まだ現役でしょう?美女の南禅二佐に負けませんよ」「南禅?あれは美女の皮を被った魔女だよ。頭のネジが外れているのさ。羽生は何がよくて、南禅にくっついているのか、わからん」「あの二人もちょっと変わったコンビですものねえ」

「羽生が南禅に興味がなくなったら、南禅も気づくんだろうが。南禅は人並みの感情に欠けているからな。私とは違う。アニータ、イケメンのロシア人を紹介してよ」「ロシア人男性はお勧めしません。ウォッカの飲み過ぎで、67才で死にますよ。私が日本人のとおちゃんを選んだのもそのためですわ」「とおちゃん、か・・・」「バカスカ、子供を産もうかなと思ってます」「あんたらロシア女性、タフそうだもの。超安産型のケツだもんな。バカスカ産めるよ。日本の少子化を止められそうだ」

「そう言えば、ソーニャが、紺野二佐の自衛隊情報保全隊の調査第2部が、自衛隊員の外国人配偶者が諜報員かどうか、身辺調査する、警察の公安も身辺調査するって言っていました。自衛隊情報保全隊の二佐に聞くのもおかしな話ですが、私達、身辺調査されるんですよね?」
「一応はね。だけど、こんなバカげた諜報活動があると思う?キミらが女スパイで、ハニートラップを仕掛けて、日本人男性と結婚、諜報活動を行うの?バカスカ子供を産みながら?」
「わかりませんよぉ~。東部軍管区のジトコ大将発案ですから・・・」
「大将はエレーナ少佐の父上だったわね。それで、エレーナ少佐が鈴木三佐をひっかけて、結婚したってこと?ロシア人女性兵士がサドガシマ作戦で、三百人の死傷者を出したのに?それで、諜報員の立場を隠蔽?馬鹿馬鹿しいわね。一応、書類上、審査するでしょう」

「それよりも、内閣情報調査室と自衛隊が考えている案がある。あなた方、結婚したら除隊するんだろう?」
「ハイ、民間人になって、私は、とおちゃんが農家なので、農業を手伝おうかなと思ってます」
「まあ、それもいい。ただ、あなた方は軍事情報の宝庫だ。自衛隊で教官もできるし、参謀補佐なんてのもできる。戦闘戦術も教えられる。エレーナ少佐の部下は通信情報隊でしょ?通信諜報活動のスーパーバイザーもできる。自衛隊員にならなくても、外注職員として働ける。と、こういうことを考えているのよ」
「ハァ、私でも?」
「もちろん、アニータ准尉は叩き上げの下士官上がりだから、その技術は相当売れるわね」
「もし、そういう打診が有るなら、とおちゃんと相談します。農家も厳しいと言ってますから」
「私の部下として働くかい?自衛隊員の俸給では安いけど、外注職員で特別手当を出すわ」
「魅力的ですわね?」
「腹が減っては、バカスカ、子供を産めないわよ。スヴェトラーナにも話しておいて。ヘッドハントされてるってさ」


★ペレスヴェートドック内、奄美大島沖

 防衛省は防衛上の空白地帯を解消するため、南西諸島で自衛隊配備を推進している。奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島に陸上自衛隊のミサイル部隊を配備し、4拠点態勢で島嶼防衛を強化中だ。
 
 防衛省が南西諸島に配備する03式中距離地対空誘導弾(SAM-4)、12式地対艦誘導弾(SSM-1改)。前者は、侵攻してくる中国の航空機や巡航ミサイルを迎え撃つ対空戦闘用装備、後者は、侵攻を試みる中国艦艇を阻止する装備。両者とも移動式発射機で機動性がある。有事には他の離島への展開も可能だとされている。
03式中距離地対空誘導弾
12式地対艦誘導弾

 03式中距離地対空誘導弾は、ミサイル本体は発射筒を兼ねた角型コンテナに収められた状態で、発射装置及び運搬装填装置に各6発ずつ搭載、垂直発射方式である。12式地対艦誘導弾は、03式と同様。発射装置及び運搬装填装置に各6発ずつ搭載、垂直発射方式。
 
 オスリャービャとペレスヴェートの船内ドックには、角型コンテナに収められた03式、12式が各6発ずつ、各4セット、24発+24発、それとコンテナなしのミサイル本体が、48発+48発格納されている。
 
 半数のミサイルは、寄港する沖縄県うるま市の海自沖縄基地で引き渡され、残りの半数は、石垣港離島ターミナルのある久部良港に荷降ろしされ、石垣市平得大俣の陸上自衛隊駐屯地に搬送される。
 
 その他に、石垣島の自衛隊駐屯部隊への砲弾、弾薬、消耗品、衣料、食料なども積載していた。船内ドックには通常は積載されている小型ホバーはない。その場所はすべて自衛隊から依頼の積載物で埋め尽くされている。むろん、このような数千トンクラスの強襲揚陸艦に入り切らない大型エアクッション揚陸艦は、曳航されてついてきている。オスリャービャに二隻、ペレスヴェートに二隻である。計四隻が自衛隊に貸与される。東ロシア共和国海軍の八十名のホバー運転要員は、貸与地の沖縄で下船する。
 
 ペレスヴェートの広瀬二尉率いる水陸機動団は、これら積載兵器の積み込み、荷降ろしも担当していた。
 
 ドックに来てこれら積載物を紺野とアニータが見ていた。「アニータ、こんな03式の対空ミサイル、12式の対艦ミサイル、役に立つと思う?」と紺野が聞いた。
 
「正直申しまして、日本政府、自衛隊が想定している大型艦船、J-20(殲20)などの最新式航空機で人民解放軍が攻撃してくれば有効と考えます。しかしながら、今回のサドガシマ作戦のように、ホバー、小型魚雷艇・ミサイル艇で上陸を敢行した場合、どうなんでしょうか?SAM-4、SSM-1改は、そのような分散型の小規模艦隊にはあまり意味がないでしょうね。それよりも、今回で痛感したのが、白兵戦のようなレトロな闘いでの通常兵器の不足です。歩兵の携行兵器が足りませんでした。それから、重装備の戦車、装甲車両ではなく、軽装備のタイフーンLのようなSUV車輌やモーターバイクがあったら、戦闘は楽だったでしょう。ウクライナでもそうですが、最新兵器ではなく、小型分散のレトロな兵器が非常に有効であると考えます」

「少尉、私も同感だ。私は内閣情報調査室出向、情報保全隊本部情報保全課所属だから、作戦立案の任にはないが、頭の硬直した市ヶ谷の統合幕僚監部に准尉の意見を聞かせたいよ。離島防衛を経験した准尉他ロシア人兵士、広瀬たちの水陸機動団の意見を離島防衛のために活かせないのが残念だよ」

「二佐、やはり、石垣島は人民解放軍のターゲットになるんでしょうか?」
「その可能性、大だな。石垣島駐屯のミサイル部隊、5、6百名、今回派遣される水陸機動団、4百名で、少尉、果たして石垣島が防衛できるかな?」

「佐渡では、北朝鮮人民軍三千名に対して、陸自水陸機動団千名、東ロシア共和国軍二千名でした。人民軍の死傷者は半数に達し、しかし、我が方も25%が死傷しました。惨憺たるありさまです。石垣島の防衛は、自衛隊のこの布陣では困難かと思います」

「まったく同感だよ、少尉。そうなったら、エレーナ少佐揮下の諸君らロシア軍最強女性部隊をオスプレイやC-1輸送機で石垣島に降下してもらうよう、ジトコ大将にお願いするか?まさかね。じゃあ、アメリカ海兵隊が助けてくれるかね?まさかだな。相手は核保有をしている大国。そうそう、核保有国相手に戦争を開始できないのは、ウクライナでも証明済みだ。自衛隊は、自衛隊だけで離島防衛をせざるを得ないんだ」


★デート、那覇市内

「うぇ~ん、カオル!また、アニータ少尉に『ソーニャ!非番をくれてやる!明日の朝まで帰ってくんな!』と言われたよぉ~!私、一人前に扱ってもらえないのかしら?」
デート、佐世保市内
婚約指輪、佐世保市内

「俺も、副官に『アニータ少尉の指示であります!広瀬二尉は非番だ!明日の朝まで帰ってくんな!そう言ってやれ!ってことで、作業から二尉は外しました!ソーニャ准尉と一緒に艦内から出てって下さい!』と言われた・・・」

「それでね、紺野二佐から『ホテルは取った。ここだ。支払いは内閣情報調査室で済んでる。コンドタイプだから、みんな揃ってる、キッチンがあるから料理もできるぞ!』って、この紙を渡されたの」
「『Infinity Resort 北谷』?ちょっと、スマホのホテルズドットコムで・・・Infinity Resort 北谷って、なんだ?これ?一軒家だぞ!12名泊まれるって・・・砂辺ビーチ - 徒歩4分・・・二佐、何を考えているんだ?・・・」
「え?どれ?・・・嘉手納基地のランウェイの真正面のビーチなの?」
「そうみたいだな。紺野二佐のメモにまだなにか書いてある・・・『近くにニューポート寿司という店があるから仕出しもできる!市内のコンビニで買物をして行くように!コンドに籠もってバカスカやれ!間違っても避妊しないで、ベイビーを作れ!』・・・」
「これ、絶対に私達を面白がってます!」
「ま、ソーニャはこの艦のマスコットだからなあ・・・」
「私、マスコットじゃありません!」
「抗議するか?」
「・・・もう、いいです!こうなったら、紺野二佐のメモ通り、バカスカしましょう!・・・まだ、安全日だから、ベイビーはまた今度・・・」
「・・・」

 二人がワイワイ話して、基地のゲートを出た。タクシーが二台、ゲートで止まる。降りてきたのは、卜井、藤田、佐々木とあと三人のクルー。

「あ!ソーニャ准尉!広瀬二尉も!」と卜井。
「卜井アナ、藤田アナ、佐々木さんじゃないですか?どうして沖縄に?また、取材?」とソーニャ。

「いやあ、あれから(佐渡二見町から卜井の中継)さあ、局のトップに叱責されて、左からも右からも叩かれて炎上して、共産党からも厳重抗議が来たのよ。それで、藤田、佐々木と相談して、責任取ります!辞職します!って辞めちゃったの。そしたら、ほら、後ろの三人のクルーも辞めちゃって、仕方ないからどっかプロダクションは?と考えていたら、セント・フォースに六人とも拾われて、その初仕事がなんとテレビ東京。石垣島に向かうオスリャービャとペレスヴェートの取材で、一緒に石垣島にっ、て企画なの。自衛隊に申し入れしたら、前回の放送が自衛隊にやけに気に入られて、即、オッケーが出た。こういうわけなのよ。ソーニャが乗船しているから、ペレスヴェートに乗ってくれって」と卜井がまくし立てる。
「また、このサドガシマ作戦グループと一緒ですか・・・」と広瀬。

 佐々木が目ざとくソーニャの左薬指のリングに目をつけた。小声で「ソーニャ准尉、その指輪、佐渡ではしてませんでしたね?婚約指輪?・・・あ、広瀬二尉もしてる・・・婚約したの?」とソーニャに聞いた。ソーニャは真っ赤になってうつむいた。「すごい!また、カップルができちゃった!これ、取材していい?・・・卜井さん!この二人、婚約したみたいよ!」
 
「取材対象が増えたわねえ。いいよね?取材していいよね?広瀬二尉、ソーニャ准尉?」
「・・・あの、極めてプライベートな話でして・・・」とゴリラの広瀬が身をよじらす。
「それはいいってことだね?取材、しちゃうもんね!テレビ東京、喜ぶわぁ~」

 佐々木がソーニャの袖を引いて、ちょっと離れた。「ソーニャ、私たちもね、くっついちゃったんだよ」と言う。

「え~、私たちって、佐々木さんと藤田さん?」
「違うの、違うの。私と卜井さんと藤田さんの三人が・・・」
「え?どういうことなんですか?ソーニャには理解できません!」
「あのね、形式上、卜井さんと藤田さんが入籍して、私が養子ってことで。事実上の一夫二妻という形に・・・」
「???、ソーニャ、まったくわかりません!一夫二妻って、夫が藤田さんで、妻は卜井さんと佐々木さん二人ってこと??わかりません!」
「まあ、複雑よね。藤田さんを分け合うだけじゃなくて、卜井さんと私も愛情関係になってて・・・」
「・・・に、日本って、変わってるんですね・・・」
「私たちが変わってるのかもね」
「・・・後で、カオルに・・・広瀬二尉に話してみます・・・理解できない・・・」
「まあ、後でね。関係ない話だけど・・・」
「ハァ・・・」

 クルーを乗せてきたタクシーの運ちゃんが「そこのお二人さん、乗ってくの?乗るならどこでも行ったげるよ?」と広瀬に聞いたので「ソーニャ、ちょうどいい。これに乗っていこう。みなさん、また、あとで」と広瀬がソーニャをタクシーに押し込んだ。

(5)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島へⅡ

★デート、那覇市内、コンドミニアム

 広瀬とソーニャは市内のオーナー事務所でコンドミニアムのキーをもらった。紺野が借りたのは、コンドミニアムというより一軒家。市街地の十字路にある角番の家だった。鉄筋コンクリート製打ちっぱなしの3階建て。

 家を見上げてソーニャが「紺野二佐、こんな家を借りていただいて・・・ありがたいですが、官費の無駄遣いですわ。ねえ、カオル」と玄関前で広瀬を見上げて言う。確かに、一夜の宿でこれはないなあ、と広瀬は思った。支払いは内閣情報調査室(まさか内閣情報調査室にビジネスカードがあるはずもなく、実際は紺野名義のクレカ)で済ませてあった。「二佐がいいと言うからいいんじゃないか?」と二人は玄関を入った。

 玄関を入ると、左手に階段があって、上の階に行く。玄関の正面のドアを開けると、プロレスの道場並の広さのLDKになっていた。「カオル、ここで明日の10時のチェックアウトまで、私たちにプロレスでもさせるつもりでしょうか?なんでこんなに広いの?」「いやぁ、紺野二佐の部屋の選別眼は理解できん。ハウステンボスもそうだったが、ここはもっと豪華だ」

「カオル、私、探検してくる!」とソーニャが自分のバッグを持って上の階に上がった。広瀬がバックからパソコンを取り出していると、上の階から「ヒァ~」とか「おおお!」とかソーニャが叫んでいるのが聞こえた。ソーニャが俺と結婚すると、自衛隊の給料では、こんな家は無理だよなあ、と広瀬は思った。彼女はしばらく降りてこなかった。シャワーでも浴びているんだな。

 しばらくすると、階段をトントン降りてLDKにソーニャがバッグを持って入ってきた。広瀬が目を見開く。黒のシルクのキャミソール。ツーピースでトップスはブラ付きだが、薄くて彼女の乳首が透けて見える。ボトムスはショーツだが、横のカットが深い。
 
「日本はすごい!ロシアと違う!ロシアの別荘並の広さ!おまけにロシアと違って、お湯も水も水圧が高くてジャアジャアでます。カオルもシャワー浴びたらいかがですか?」とソーニャが言う。

「俺はあとで・・・あの、ソーニャ、そのキャミソール・・・」「ああ、これ?これは、アナスタシア少尉から頂いたんです。子供みたいな下着を着るんじゃない!と言われて。ほら、彼女、身長が152でしょう?私は154だから、体型が同じなんですよ。ダメ?似合わない?私、アニーみたいにセクシーじゃないからなあ」と舌を出してアカンべをする。

「いや、ソーニャ、それ、俺、鼻血が出そうだ」「え?鼻血ですか?ティッシュあります!」「違うよ。日本語で、鼻血が出そうなほど興奮する、という意味なんだ」「まあ、カオル!私で興奮してくださったんですか?」「ああ、セクシーだよ」「そうかなあ?お尻も小さいし、胸もないのに?」「それでいい!俺はそのソーニャがいい!変わらずそのままでいて欲しい!」

「カオルがいいと言うなら、このままで・・・」と急にしみじみと自分のキャミソール姿を見下ろす。「あら?このボトムス、あそこの形がわかっちゃうじゃありませんか!シルクだから張り付いちゃう・・・カオル、ソーニャ、ちょっと恥ずかしいです・・・気づかなかった・・・」と内股になって前を隠した。この抜けているところがたまらないな、と広瀬は思う。

 広瀬の前をパタパタ通って、広瀬の横のソファーベッドにもなる方に座って、彼女もパソコンをバッグから取り出した。うつ伏せになって、脚をブラブラさせてパソコンを操作する。

 うつ伏せになったから、前が見えないと思っているんだろうか?その代わりにヒップが見えるんだけど・・・キャミソールのボトムスがちょっと食い込んでいるので、ソーニャの可愛いお尻がはみ出している。プニュプニュしたお尻のお肉が見えてしまう。お~い、これで、どうやったら、俺は、パソコンでレポートが書けるんだ?

「ああ、気が散る・・・レポートが書けないよ」「あら、私、カオルの邪魔をしてます?」「うん、俺の可愛い婚約者が誘惑するから・・・」「え?私、誘惑してますか?」「十分してる。もう、ダメだ。ソーニャ、そのお尻、触っていい?」「え?お尻?・・・あ!見えてる!お肉、はみ出てる!・・・カオル、見ましたね?見ちゃだめです!恥ずかしい!何か、スースーすると思ったんだ・・・」

 ドアチャイムが鳴った。「あ!いいとこだったのに・・・紺野さんお勧めの寿司屋からお寿司が来たようだ」「じゃあ、食事にしましょう。シャワーにする?それとも、私?は後にしましょうねえ」「残念だ・・・」
 
 広瀬が即席で味噌汁を作る。コンビニにオクラがあったので買ったのだ。出汁の素のパックで出汁をとった。「この野菜は何?」「オクラ、英語だとレディースフィンガー」「ロシアにないなあ」
 
 ソーニャがまな板と包丁をシンクの下から取り出した。「オクラはどうします?」「ヘタを取って、1センチくらいに斜め切りにして」「お豆腐は?」「2センチ角くらいに切り分けて」「なんか楽しいです!」出汁にオクラと豆腐を入れる。「煮立たせないようにするんだ」「ふむふむ」
 
「カオル、これは何?」とコンビニで買ってきたパックをソーニャが指差す。「ゴーヤチャンプルーと言って、沖縄の有名な料理だ」「この緑の野菜は?」「ゴウヤ、英語でいうと、ビター・ゴード」「苦いんですか?ロシアにこのような野菜、ないです」「熱帯の野菜だからね」「ゴウヤと卵と豚肉の炒めものなんだ。あら、美味しい!これ、どうします?」「お皿に取り分けて、電子レンジで3分くらい」「ラジャ!」

 寿司にゴーヤチャンプルー、オクラの味噌汁。簡単な料理だったが、ソーニャがうまい!うまい!とたくさん食べてしまう。「私、結婚前に太りそう!」「痩せているから、多少太ってもいいんじゃないの?」

★広瀬のレポート

 食べながら「カオルのレポートの内容はなんなのでしょうか?」と聞くので、広瀬が「今回の北朝鮮の佐渡上陸作戦でなぜあれだけ我が方に被害が出たのか?半数が死傷した北朝鮮人民軍が軍事常識に反して、撤退も降伏もしなかったのか?という点を書こうと思って」

「あれは、彼らの上陸4時間前に察知したという、この遅さが問題ですよね?」
「レーダーも察知できなかった」
「あのホバーは、コンバンⅡ級、35トンとコンバンⅢ級、20トン。全長21メートル、最高時速74~96キロと、全長18メートル、最高時速96キロ。小型漁船のサイズで、時速96キロで接近してきましたもの。これでは、イージス艦もガメラレーダーも遠距離探知は無理だったでしょう。P-1哨戒機が探知できてむしろラッキーだったと思います」
北朝鮮 ホーバークラフト約20隻を黄海配備=潜入準備か
北朝鮮、上陸作戦用ホバークラフトも前進配備か

「それに、積載していたのが、重装甲車輌や戦車ではなく、軽装甲SUVとマウンテンバイクという意表をついた戦備。機動性を考慮したんですね。その機動性に水陸機動団もロシア軍も展開が追いつかなかった。それから、軍事常識をわきまえるのは、民主主義国家の軍隊であって、恐怖で国民と軍隊を支配している独裁者の統治する国家に軍事常識などありません。おまけに、レールガンと私たちの携帯対戦車ミサイルでホバーの半数が潰されたわけですから、撤退もままならず、降伏するなど念頭になく、佐渡のレーダーを目指すほかはありませんでした。私たちのあまり選択の余地のない戦闘だったと思います」

「ソーニャの言う通りだな。こちらは、水陸機動団千名、東ロシア共和国軍二千名で、兵数において劣っているわけでもない。東ロシア共和国軍の豊富な携帯兵器もあった。レールガンまであった。おまけに、我々は、防衛側で待ち構えていた方だ。それが、惨憺たる有様、考えもしなかった死傷者の数。探知の遅延、展開の失敗が原因だ」

「どうしたら良かったのでしょうか?エレーナ少佐もカオルも最善を尽くしたと思います」
「探知、哨戒能力の向上をどう図るか、だよね。衛星搭載合成開口レーダーのデータもオンタイムで入手できたら、違った結果になったかもしれない。千トン、数千トンの艦艇、J-20(殲20)などの航空戦力、これらを想定して、対艦、対空ミサイル防衛を中心に練られてきた自衛隊の離島防衛作戦は、北朝鮮の高速ホバー60隻による上陸部隊など考慮していないのだから、作戦対象をもっと広げないといけない」

「当然、中国の人民解放軍はこの戦闘を観察していただろう。北朝鮮と佐渡は850キロも離れている。それに引き換え、石垣島などの南西諸島と中国本土は500キロだ。北朝鮮のオンボロホバーと違い、人民解放軍のホバーは、積載量も大きい。早急に、水陸機動団もこの戦闘を参考に、南西諸島などの離島防衛作戦を練り直さないといけないなあ」

「紺野二佐が言われておりました。『人民解放軍が南西諸島に侵攻してきた場合、エレーナ少佐揮下の諸君らロシア軍最強女性部隊をオスプレイやC-1輸送機で石垣島に降下してもらうよう、ジトコ大将にお願いするか?まさかね。じゃあ、アメリカ海兵隊が助けてくれるかね?まさかだな。相手は核保有をしている大国。そうそう、核保有国相手に戦争を開始できないのは、ウクライナでも証明済みだ。自衛隊は、自衛隊だけで離島防衛をせざるを得ないんだ』って」

「まさにそうだ。『自衛隊は、自衛隊だけで離島防衛をせざるを得ない』、米軍も核抑止力を持つ中国とはことを構えたくないのはウクライナの例でも明白だ。干渉せず、ウクライナのように、自衛隊に武器供与する程度だ。だから、今回のサドガシマ作戦は離島防衛の作戦変更のいい材料になる」

「カオル、私たち、結婚したら石垣島に住むんですか?」「そうなるかもしれないなあ。今回の水陸機動団の派遣が、この台湾有事の間だけなのか、恒久的なものなのか、まだわからない」「私、ロシア軍を除隊してしまうから、一般の民間人になりますよね?それだと、カオルと一緒に闘えない!」「奥さんと一緒に闘う自衛隊員なんて聞いたことがないよ」「そうだ!紺野二佐に相談して、私を自衛隊に採用してもらいましょう!そうしたら、カオルと二人で闘えます!」

「そういうマンガかドラマみたいな展開、現実にはあり得ないよ」
「カオル、忘れてます!サドガシマ作戦だって、北朝鮮の佐渡ヶ島上陸作戦だって、マンガかドラマみたいな展開に等しく、現実にあり得ないと思っていたことが現実になったんですよ?」
「・・・確かに、言われてみればそうだ。だいたい、俺とソーニャがここにこうしている、なんてことも数週間前には現実にあり得ないと思っていたことだからなあ」
「そうですよ!これは奇跡に近いことです!」
「まあ、これでレポートの骨子はできたな。さすが、俺のフィアンセ!」
「じゃあ・・・」

「じゃあ?」
「サッサと後片付けをして・・・え~っと、日本語でこういう時は・・・あ・な・た、シャワーになさいます?それとも、私?」と広瀬にヒップを向けて、キャミソールの裾を持ち上げる。
「あ!そういうアニーみたいなことをする!ダメです!ソーニャ、お仕置きするよ!」
「お仕置き!じゃあ、早く、お二階に行きましょうよ」

★那覇出港、石垣島へ、燃料気化爆弾

 積載物を沖縄の自衛隊にハンドオーバーして、ペレスヴェートとオスリャービャは一路石垣島を目指した。沖縄から約420キロの距離だ。曳航して両艦と同道していた強行武装揚陸艦「ポモルニク」四艦は沖縄で別れた。
 
ロシアの強行武装揚陸艦「ポモルニク」と海上自衛隊の揚陸艇「国産計画」
Russia Rolls out NEW engines for latest Project 12322 Zubr-class amphibious assault hovercraft
LCAC Air-Cushion Vehicle Landing & Unloading LAV-25 Amphibious Vehicle

「そう言えばアニータ、気づいたんだけど、船内ドックの一番奥にあるのは、あれはまさかTOS-1か?」と紺野がアニータに聞いた。
「ハイ!そうです。通称、ブラチーノ。サーモバリック爆薬弾頭ロケット弾を発射する多連装ロケットランチャーであります」
「なぜそんな物騒なものがここにある?」
「佐渡で積載する時に、急いでいたものですから、一番奥に積んでしまいました。03式や12式、その他の積載物が邪魔で、本当なら今回沖縄でおろすつもりでした。だから、石垣島で残りを降ろした後、帰りの沖縄寄港で自衛隊にお渡しします。研究のため、と装備庁が言ってます。ジュネーブ条約違反の兵器ですから、今は信管も抜いて、弾体も外してあります
TOS-1
ロシア使用の「燃料気化爆弾」は「TOS-1」か その兵器特性と見えてくる戦場の現状

「おっかない代物だな」と紺野。
「そりゃあ、もう、ひどいです。アイロンマンⅠのトニースタークのジェリコミサイルよりもひどいですよ。TNT爆薬なら爆風は一瞬ですが、燃料気化爆弾は、爆風が長い間続きます。爆風だけで被害を与えます。その仕組は、信管が作動して、一次爆薬が起爆、液体燃料が高温高圧になって、圧力が限界点に達した瞬間に液体燃料の放出弁が開きます。急激な圧力低下で液体燃料が蒸発、秒速二千メートルの高速で噴出。液体燃料が蒸発して蒸気雲が形成され、着火されて蒸気雲爆発を起こします。近傍にいる人間は、酸素がない状態で、超高圧下で窒息死、内臓破裂が起こります。私はその場に絶対にいたくありません」
TOS-1A 24-barrel thermobaric multiple rocket launcher
The Jericho Scene | Iron Man (2008) [4K]
Outbreak (1995) - You'll Have to Take Us Out Scene (6/6) | Movieclips

「ふ~ん、それ、対艦、対空用に使えるものかね?」
「このTOS-1は対地用ですけど・・・使えないこともありませんわ。例えば、ペレスヴェートの後部甲板に設置して、スティールワイヤーで車輌を固定して使えますね。これは改良版で射程が6キロです。標準が問題かな?対艦では数発で敵艦の人員の戦闘能力を無効化できるでしょう。対空だと、戦闘機正面の距離に信管をセットして、爆風に突っ込んでくる機体を破壊できると思います」
「もちろん、使うつもりはないけど、通常爆薬弾体と違って、何発も必要ない、ってことだね?」
「米軍が、携帯用の手榴弾の発射に使われているグレネードランチャーM203でサーモバリック弾の発射テストを行ったそうです。M16だと、敵の分隊を1つ壊滅させるのにかなりの量の弾薬が必要になりますが、空中炸裂型サーモバリック爆薬手榴弾なら、たった1発で敵の分隊を全滅させられるそうです」
殺傷能力の高いサーモバリック爆弾、「市街戦版」を米軍が開発中

「将来も使われないことを祈ろう」

★石垣島、離島フェリーターミナル

 ペレスヴェートとオスリャービャは、自衛隊沖縄地方協力本部石垣出張所のある離島フェリーターミナルに着岸した。

 岸壁には、「ロシア軍は帰れ!」「ウクライナから撤退せよ!」「石垣島を非戦力、無抵抗の島に!」などというプラカードを掲げた反対派の人間が数十名、集まっていた。
 
 紺野は、ペレスヴェートの前部76.2 mm単装両用砲のあるデッキにいて、岸壁の様子をビデオで撮影していた。彼女の横に来たアニータが、不愉快そうにデモ隊を眺める。「まったく、ペレスヴェートとオスリャービャは日本政府にチャーターされた貨物船みたいなものですわ。所属も東ロシア共和国海軍で、ロシア連邦軍じゃありません。佐渡で闘ったのも日本国土防衛のため。ああいった、自己の思想信条を主張するために事実を湾曲する人間はどの国にもいるもんですわね」と紺野に言う。
 
「内閣情報調査室、自衛隊情報保全隊本部情報保全課としても、ああいった輩は放っておけない。もちろん、私に民間人の逮捕権はないけどね」「紺野二佐、日本ではロシアと違って、ああいう反国家的活動は取り締まれないんでしょうね?」

「そうだけど、破防法とかスパイ行為等の防止法とか、法律はあるんだ。ただ、施行すると、左がうるさい。ま、こうやって、ビデオに撮っておいて、後で、顔認識をさせてみようと思う。かなりの人間が中国人工作員、破防法違反の組織崩れで石垣島に移民した人間だと思う。島民も混じっているが、奴らにそそのかされているだけだ

「アニータ、今晩、散歩しに行こうよ。スヴェトラーナも誘って」
「夜は空いていますけど?どちらへ?」
「人民解放軍のスパイ観察に行こう。目立たない服は持ってる?」
「全身黒のレオタードならありますが・・・筋トレ用の・・・」

「そう、全身黒のレオタードって、アニータとスヴェトラーナが着たら、男どもは興奮した猿みたいになるだろうな?私は、バラクラバ帽を持ってきているから。それを被ってもらう。拳銃は?」
「ありますが、日本国内に持ち込めませんよ?」
「内閣情報調査室、日本国政府が許可します。午後11時に警察庁警備局公安警察の人間が迎えに来るから、彼らと同道する。内閣情報調査室、自衛隊情報保全隊に逮捕権はないからね。ただの盗聴と観察だから、何も起こらないだろうけど。アニータとスヴェトラーナが一緒なら、最強のボディーガードだよ」
「面白そうですわ。でも、公安警察の人が文句を言わないかしら?」
「彼らは、あなた方東ロシア共和国軍のファンだよ。今やこっち側の人間だから。特に、女性兵士はお好きだそうだ。なんなら、ジトコ大将に許可を日本国政府からとりつけてもいいわよ」
「紺野二佐、了解であります!スヴェトラーナにも指示しておきます!」

「いいねえ。今まで、日本国はアメリカ以外に一緒に闘ってくれる国家がなかった。今や、東ロシア共和国がいる。日本は孤独ではなくなったのさ」

★石垣島、自衛隊ミサイル部隊周辺の農家の納屋

 その夜、自衛隊沖縄地方協力本部石垣出張所を徒歩で出た紺野、アニータ、スヴェトラーナは、八重山郵便局近くの路上で迎えの車を待っていた。紺野は白のボタンダウンにジーンズ、アニータとスヴェトラーナはダンガリーのシャツにストレッチジーンズという格好だった。二人の少尉は、服の下に黒のレオタードを着ていた。

 県道87号を黒のハイエースが来て、紺野たちの前に止まる。スライドドアが開いた。紺野が何も言わず乗り込む。少尉二人もボストンバッグを車内に放り込んで乗り込んだ。後部座席には、黒のポロシャツに同じ色のジーパンを着た男が座っていた。
 
 アニータは、公安警察というからロシアのFSB(KBG)のいかつい職員を想像していたのだが、それとは違って、やさ男だった。彼が「紺野さんですね。こちらは土屋(アニータ)さんと本間(スヴェトラーナ)さんですね。私は富田、としておきましょうか」と紹介をそそくさとすませて車を出させた。富田の私たちの身上調査はできているようね、とアニータは思った。

「今日の目的地は、石垣島の石垣市平得大俣にある陸自駐屯地周辺にある農園の納屋です。設置してるCCDカメラが木箱を早朝に搬入している様子を撮影していました。画像を解析すると、携帯型の兵器のようです。お二人には、納屋に侵入して、その木箱の中身を撮影していただきたいのです」と富田が説明した。

「二人共、あなた方がロシア軍だから依頼したんじゃありませんからね。ここ石垣島に今いる中で、あなた方が最適な人材だからお願いしたの。政府を通じて東部軍管区にも打診したわ。エレーナ少佐とも話しました。あなた方の軍の記録は入手した。レンジャーの成績は特A級。あなた方、ピッキングまでできるのね?すごいわ。少佐は『なんでそんな面白そうなことに私を呼んでくれないの?』って言っていたわ」

「紺野さん、お任せ下さい。ツール、あります?」とスヴェトラーナ。富田が二人にツールを渡す。「これがピッキングツール。赤外線カメラ。赤外線フラッシュ付きでシャッターを押せば全てオートです。オペ用手袋。使うことはないと思いますが、拳銃はお持ちで?」

「二人共、これですわ」とアニータが背中に差した銃を取り出す。外付け消音器(サプレッサー)をポケットから取り出す。富田に渡した。

「ほほぉ、PBですね。初めてみました。アフガンでスペナッズが使っていた銃ですか。日本には入ってきてません。暴力団の話ですが。暗殺などの特殊任務用途で使用するもんですな」
PB (拳銃)

「富田さん、彼女たちがこっち側で良かったわね。彼女たち、北朝鮮の兵士を数十人殺傷できるわよ。もちろん、中国人も」
「紺野さん、佐渡では、私たち、指揮をしてましたので、戦闘に参加してませんよ」とスヴェトラーナ。「あら、エレーナ少佐が言っていたもの。アカデミー出のヤワな私やアデルマン、アニー、ソーニャじゃあ、あの二人に敵いっこないわよ、って」「そんなことはありません。私たち、か弱い乙女ですから」「まぁ、そうしておきましょう」

 八重山郵便局前から目的地まで9.2キロ、車で17分だった。駐屯地の十字路の手前に目的地の農園があった。夜間は無人のようだ。ハイエースの後部で二人はシャツとパンツを脱ぎ捨てて、体にピッタリしたつなぎのレオタード姿になった。紺野に渡されたバラクラバ帽をかぶる。黒の手術用手袋を付けた。目と口の周りに炭を塗る。
 
 すごいな、プロだ。日本の自衛隊でもこういう人材はあまりいないだろう。こっちに来ている水陸機動団隊員よりも能力は上だろうな。それに自衛隊だと物議を醸すが、友軍のロシア軍だから目的に合致する。おまけに・・・ものすごい美人じゃないか?と富田は思った。

「お二人とも、時計を合わせます。1時18分30秒・・・19分」「オッケー!」「1時40分にここに戻ってきます。成果がなくても20分で完了です」「ラジャ!」

 二人は87号線沿いの道を忍び歩く。農園は塀も何もなかった。道路沿いの建物の裏の納屋に近づいた。納屋はごく普通の南京錠で施錠されていた。アニータが富田に渡されたピッキングツールで解錠する。30秒。スヴェトラーナは音が漏れないように蝶番にミシン油をさした。
 
 納屋の奥に木箱が5つ、積み上げられていた。長さ1.6メートルくらい、断面が40✕40センチの直方体の箱が4箱だった。これも普通の南京錠で施錠してある。アニータがサッサと解錠する。
 
 木箱の蓋を開けると、中身は、中国製69式40mm対戦車ロケットランチャーだった。ソ連のRPG-7の無断コピー品だ。同じサイズの本体の箱が4箱。もう一つの大きな木箱には、成形炸薬弾が8基入っていた。スヴェトラーナが赤外線写真をすばやく撮った。
 
 また施錠して、すべてを元に戻した。二人は左右を見回し、異常がないかどうか、確認した。オッケーだ。外に出て、納屋の扉を閉め、施錠する。また、元の道を通り、道路沿いに。1時39分。ハイエースがすぐ近づいた。後部ドアが開かれ、サッと二人は乗り込む。
 
「ご苦労さまでした」と富田。「富田さん、物騒なものがあったわ」とアニータ。「中国製69式40mm対戦車ロケットランチャーが4基。成形炸薬弾が8基。これは自衛隊駐屯地攻撃用かしら?」

「たぶんそうでしょうね。中国の南部戦区が台湾の太平島に侵攻してから三週間経ちましたが、ここ数日、この島からの暗号通信の頻度が以前の5倍になっています。起こってほしくはありませんが、石垣島とこの周辺の島は、台湾本土侵攻には目の上のたんこぶ。さらに新石垣空港は二千メートル級滑走路で、占領すれば奴らにとっては魅力的です。ここに奴らが来る確率は非常に高くなった、と言えるでしょう」

「こういう兵器を隠し持っているシンパを逮捕しないんですか?」「もう少し、泳がせておこうと思ってます」「なるほど」

「お二人はいつまでご滞在なんですか?」と富田が聞く。「72時間の予定ですので、明後日出港です」とアニータ。「残念だな。数週間いてほしいくらいです」「富田さん、無茶言わないでよ。アニータとスヴェトラーナのとおちゃんが佐渡で待っているんだから」と紺野。「まあ、そうですな。日本の問題ですしね。いやいや、ありがとうございました」

三人を郵便局前で降ろした後、富田は車の中で一礼した。ハイエースは速やかに走り去った。
 
「アニータ、スヴェトラーナ、ご苦労さま」と紺野。「お安い御用ですわ」とアニータ。「どうだい?もう、宿舎に帰って寝る?それとも、私の部屋で一杯やる?ウィスキーがあるわよ。バランタインの30年もの。飲んでいかない?おいしいソーセージもあるわ」と二人に聞いた。二人が顔を見合わせてうなずく。「では、お言葉に甘えまして、お伺いいたします」とスヴェトラーナ。

「いいねえ、話が早いわ。あのさ、三本あるから、ボトムズアップね!」
「・・・」

総集編Ⅰ
総集編Ⅱ
総集編Ⅲ
総集編Ⅳ


島崎藤村 - 椰子の実

島崎藤村作詞・大中寅二作曲

名も知らぬ 遠き島より
流れ寄る 椰子の実一つ

故郷(ふるさと)の岸を 離れて
汝(なれ)はそも 波に幾月(いくつき)

旧(もと)の木は 生(お)いや茂れる
枝はなお 影をやなせる

われもまた 渚(なぎさ)を枕
孤身(ひとりみ)の 浮寝(うきね)の旅ぞ

実をとりて 胸にあつれば
新(あらた)なり 流離(りゅうり)の憂(うれい)

海の日の 沈むを見れば
激(たぎ)り落つ 異郷(いきょう)の涙

思いやる 八重(やえ)の汐々(しおじお)
いずれの日にか 国に帰らん


マガジン『エレーナ少佐のサドガシマ作戦』


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