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アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅲ(11)~(15)

 十五話までの総集編はこちらから。
 アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅰ(1)~(5)
 アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅱ(6)~(10)
 
アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅲ(11)~(15)

 過去アップした「エレーナ少佐のサドガシマ作戦」は、
エレーナ少佐のサドガシマ作戦、時系列
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アニータ少尉のオキナワ作戦 - 石垣島・宮古島・与那国島 侵攻作戦、日中戦力図

アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅲ(11)~(15)

総集編Ⅰ
総集編Ⅱ
総集編Ⅲ
総集編Ⅳ

アニータ少尉のオキナワ作戦(10)、★中国人民解放軍、石垣島・南西諸島侵攻作戦(前回までのお話)

 まだ、紺野・富田・広瀬も、そして、エレーナたちも中国がいかに本気であるのか、知らなかった。佐渡ヶ島の北朝鮮人民軍とは比較にならない物量を石垣島に対して中国人民解放軍は用意していたのだ。
 
 海上戦力だけでも、エレーナ部隊は、90年代に就役した満載排水量4,080トンの揚陸艦ペレスヴェートとオスリャービャ2隻に対して、人民解放軍は最新鋭の満載排水量25,000トンの071型揚陸艦5隻。(中国南海艦隊:長白山(Changbaishan)、祁連山(Qilianshan)、中国東海艦隊:旗艦龍虎山(Longhushan)、沂蒙山(Yimengshan)、四明山(Simingshan))
 
 ホバーに関しては、エレーナ部隊は、満載排水量550トンのポモルニク型エアクッション揚陸艦4隻に対して、人民解放軍は最新鋭の満載排水量170トン726型エアクッション揚陸艇20隻。
 
 兵数は、広瀬二尉の陸自水陸機動団400名と石垣島陸自ミサイル部隊600名、沖縄本島から増援の畠山三佐の水陸機動団1,000名、エレーナ部隊1,000名、合計3,000名に対して、人民解放軍海兵隊は5,000名である。

 宮古島駐屯地にはミサイル部隊700名、与那国駐屯地にミサイル部隊150名。

 海上戦力は、揚陸艦に関しては劣勢、ホバーはやや攻撃力で優勢、陸上戦力は圧倒的に劣勢であった。航空戦力に関してはいまだ未知数だった。

 中国本土の寧波基地と石垣島はたった680キロの距離だ。沖縄本島との距離400キロのほぼ中間地点なのだ。


(11)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島Ⅵ

★ニャーナ、ハバロフスク

 ニャーナはロシア東部軍管区のジトコ大将の愛人である。ジトコは日本人の冴子と死別したあとは独身を抜き通した。不倫関係ではない。
 
 ニャーナは、白系ロシア人の父とロシア系コレイツィ人(ロシア語の高麗、コリアのロシア語読み )の母を持つ生まれだ。コレイツィ人は第二次世界大戦中に中央アジアに集団追放された。ニャーナの母はソ連邦のウズベキスタン共和国でモスクワから派遣されていた陸軍少佐と出会い結婚した。

 ニャーナの容貌は、父親の血が勝っているのか、ロシア美人なのだが、体型は母親に似て痩せ型で手足が長くひょろりとしている。顔立ちにアジア系のエキゾチックな雰囲気が時折現れる。

 32才という年齢には到底見えない。あどけなく、清楚な印象を与えるが、内実は氷のような女だ。さらに、ロシア軍の格闘術システマの名手でもある。危険極まりない。

 ロシア語はもちろんのこと、ウクライナ語、朝鮮語、英語、フランス語を話す。国際会議でジトコ大将の通訳を務めたのが大将との出会いだった。それ以来、五年間、ジトコの愛人になっている。

 ニャーナは、ジトコの愛人のみならず、ビジネスパートナーでもある。ロシア連邦軍東部軍管区と国境を接する中国北部戦区(旧瀋陽軍区)高官の一族たちは、中国朝鮮族出身者が多く、ニャーナの朝鮮語で意思疎通をしている。

 彼女は、ロシア軍の武器装備を瀋陽軍区高官に横流ししている。その範囲は、個人的な密売の範囲を超えて、高濃度ウランを生み出す遠心分離機用の金属・酸化アルミニウムなど核開発関連物資や、戦車用バッテリー、はてはミサイルのエンジンに至るまで横流しを行っている。

 瀋陽軍区高官たちは、それら先端物資を北朝鮮に北京に内密にして譲渡している。その代わりに彼らは、鴨緑江をはさみ隣接する北朝鮮に埋蔵されるレアメタルの採掘権を相当数保有しているのだ。

 ジトコは、ニャーナを通じて、中国北部戦区(旧瀋陽軍区)の動き、北朝鮮の動向の情報を得ている。中国北部戦区が北京と袂を分ければ、国境を隔てた彼の極東連邦管区にも甚大な影響があるからだ。
ジトコ大将、中国人民解放軍に憂慮す(2)

 ニャーナの母親は、ロシア系ロシア系コレイツィ人(ロシア語の高麗、コリアのロシア語読み)だが、親族は中国にも北朝鮮にも中央アジアにも広がっている。言ってみれば、クルド人(中東のクルディスタンに住むイラン系山岳民族)がトルコ・イラク北部・イラン北西部・シリア北東部等、中東の各国に広くまたがる形で分布して住んでいるように、民族は分裂して朝鮮半島、中国、ロシア、中央アジアに分散している。
 
 ただ、クルド人と異なり、民族の特性なのか共通の世界宗教を持たないためなのか、一致団結して分離独立をしようとはしない。同民族で反目しあう。血族は団結する。まるで中国人のようだ。日本人とは違う存在だ。
 
 ニャーナの親族のうち、金(キム)という一家が中国満州の吉林省に住んでいたが、家長の商売の都合で浙江省寧波に移住した。そして、金(キム)の三女の金容洙(キム・ヨンス)は中国人民解放軍海軍に募集し、現在は東海艦隊に所属している。28才だが、中国人民解放军海军士官学校を優秀な成績で卒業、少尉に昇任している。彼女の上官は漢族の楊(ヤン)少校だった。
 
 楊(ヤン)少校は、中国人民解放軍東海艦隊南西諸島侵攻作戦の一部、石垣島侵攻を担当していた。

中国の佐官(校官)
大校(上級大佐):副軍団長、師団長、副師団長/旅団長
上校(大佐):副師団長/旅団長、連隊長/副旅団長
中校(中佐):連隊長/副旅団長、副連隊長、大隊長
少校(少佐):副連隊長、大隊長、副大隊長
中国の尉官(尉官)
上尉(大尉):副大隊長、中隊長、副中隊長
中尉(中尉):中隊長、副中隊長、小隊長
少尉(少尉):小隊長

★中国人民解放軍東海艦隊寧波舟山基地、金(キム)少尉の居室

 金容洙(キム・ヨンス)は、自室でカーキ色のおかしな形のトランシーバーを操作していた。衛星通信用のスマホのように太くてごついアンテナが付いているが、ボタンが多く、モニターがカラーだ。ニャーナが密かに渡してくれた中国製量子エニグマ暗号トランシーバーである。中国製だが彼ら自身にも通話解読できない代物だ。同じものがニャーナからジトコに渡され、エレーナ少佐も持っている。
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(9)、レールガンファイト1

「ニャーナ、ニャーナ、こちら金(キム)、応答願います」とトランシーバーに呼びかける。時間を指定してある定時連絡だ。使い勝手はトランシーバーではなくスマホそのもので、双方向通信となっている。

「容洙(ヨンス)、寧波はもう暖かい?ハバロフスクはまだ寒いわ。今朝なんか零下11℃よ」
「ニャーナ、こちらは今朝は10℃だったわ。もちろんプラス側」
「あら、いいわねえ。冷え性の私には寧波が合っているかもしれないわ。でも、石垣島はもっと暖かいらしいわよ。日によっては20℃を超えるみたい。こっちのジトコ大将の娘のエレーナ少佐がそう言っていたようよ」

「エレーナ少佐。彼女の映像、中国でサドガシマ作戦の動画が拡散して、すぐ政府が閲覧禁止指定にしたわ。25才って言っていなかった?25才で少佐って親の七光り?」
「いいえ、アカデミー史上最優秀。実力よ。非常に鋭利。モデル級の見た目の可愛い子ちゃんタイプなのにね。会うとわかるわ。私なんか心の奥まで見通される気がしてイヤになっちゃうわ。女狐扱いされるわ。敵に回すと怖いわよ」
「ふ~ん、それはイヤだわ。会いたくないわね」
「彼女、佐渡ヶ島から沖縄に飛んで、今は石垣島よ。近いうちに会えるかもしれないわね?」
「やれやれ・・・」

「容洙(ヨンス)、いい男見つかった?」
「いないわねえ。ニンニク臭いのやキムチ臭いのはいっぱいいるけど。なんで中国人って早漏なんだろう?自分勝手に腰を振って、5分で逝っちゃうのよ!信じられない!女のほうがずっとマシよ」
「あら?5分?それって前戯にもならないじゃない?女のほうがずっとマシなの?あなた、バイセクシュアルだったものね」
「中国人の男は前戯なんかしてくれないわ。こっちが濡れてもいないのに無理やり突っ込んでくるのよ。女か、ロシア人とか日本人の男がいいなあ」
「あらあら、石垣島でエレーナに投降して亡命でもするつもり?」
「いいアイデアじゃない?そうしたら、日本人の男を捕まえて、日本人になれちゃう。秋葉原やディズニーランドに行けるわね?」
「エレーナに伝えておいてあげようか?人民解放軍の少尉が亡命したがっているって」

「考えておくわ。こっちは台湾侵攻、南西諸島攻略でてんてこ舞いよ。北京がトチ狂って、あのウクライナの惨状も考えずに。台湾の太平島占拠だけならアメリカも大目に見るのに。アメリカも欧州とアジアの二方面作戦は難しい、さらに北朝鮮の半島南進で韓国は放棄。今が台湾侵攻の好機だ!って指示を乱発しているのよ。習近平の側近が欧州戦役や半島、さらに佐渡ヶ島の状況を伝えていないのかも。こっちの戦備は・・・」

「あら!それではエレーナも危ないわね」
「どうかなあ。南シナ海の太平島近海はまだ緊張状態、台湾上陸作戦に加えて、南西諸島は、三方面でしょう?いくらお互いに100キロ圏内とは言え、与那国島、石垣島、宮古島、この三島の周辺を制圧するのは大変よ。おまけに統合部隊じゃない、個個別別の三部隊が侵攻するんだから」
「それでも、中国人民解放軍海軍陸戦隊25,000人の内、台湾だけじゃなく、与那国島、石垣島、宮古島にそれだけの部隊を派遣するなんて・・・」
「エレーナ少佐に伝えておいてね。情報は、あなたの友、金容洙(キム・ヨンス)でしたって」

「その情報の確度は?確かなんでしょうね?」
「情報元は私の上官、石垣方面軍指揮官、楊欣怡(ヤン・シンイー)少校よ」
「よくもまあ、上官が副官にベラベラ喋るものね?」
「あら、ニャーナ、ベッドの上は別だもん。欣怡(シンイー)って名前、『穏やかに笑い喜ぶ』という意味なんだけど彼女、真逆な性格の持ち主。だけど、この容洙(ヨンス)にかかれば簡単よ。ベッドで呻いて叫んで焦らして、逝かせてやれば、寝物語にベラベラ喋るんだから。早漏の中国男と違って、女同士はキリがないから・・・」
「まあ、エレーナによく言っておくわ。まだ、あなたの名前は伏せてね」
「よろしくね」

(12)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島Ⅶ

★中国人民解放軍東海艦隊寧波舟山基地、楊(ヤン)少校の居室

「容洙(ヨンス)、今日はどんなものを持ってきてくれたの?」
「ハ!少校殿、今日は・・・」
「容洙(ヨンス)、他人行儀はよして。欣怡(シンイー)と呼んで」
「ハイ、欣怡姐姐(お姉さま)、最近は日本製品よりも我が国のおもちゃの方が優秀なんですよ。上海から取り寄せたのがこれですわ」とキムはドイツ製ウーマナイザーのコピー品をヤンに見せた。

「これはどう使うのさ?」
「これはですね、女性の阴蒂(クリトリス)にあてがって吸引する装置なんですよ」
「掃除機みたいなもの?」
「姐姐(お姉さま)、吸引力はそれほど強くありません。軽く軽く吸ってくれます。阴蒂が充血する程度に。これは『インサイドアウトDUO』という製品で、吸引と挿入が同時に楽しめます。吸引口に肌が触れただけで振動が始まるタッチセンサー機能が搭載されています。吸引バイブは12段階の出力調整が可能です。Gスポットバイブはちょうど挿入するとGにあたってGをなぞりあげてくれます。私も同じものを買いました。ふたつありますから、姐姐(お姉さま)にひとつ、まだ早いですがお誕生日のプレゼントとして差し上げます」
「多謝、容洙(ヨンス)」

「欣怡姐姐からお試しします?それとも私が試しに使いましょうか?もうすでに一度私試してみたんですよ。すごいですよ、これ」
「容洙(ヨンス)、私にお前が使うのを見せておくれ」

 容洙(ヨンス)は自分のの阴蒂にウーマナイザーをゆっくりとあてた。Gスポットバイブはまだ挿入しない。すると、欣怡(シンイー)が驚いたことに、軽く阴蒂に当てただけで容洙(ヨンス)の表情が崩れはじめました。スーッと軽く阴蒂が吸い込まれるような感じなのがわかる。

 容洙(ヨンス)の表情が快感にのめり込んでいくようだ。腰をクネクネさせながら、快感を我慢している様子。気持ち良くなって少しずつ登りつめていくような感じだ。容洙(ヨンス)はウーマナイザーを少しずつずらして角度を変えたり密着したり離したりした。微妙にあて具合を変えてみると表情が変化するのが楊(シンイー)にわかった。

 容洙(ヨンス)は阴蒂にローションを塗ってあった。ローションを吸い込んで『プチュ、プチュ。ジュルジュルジュル』と本当に阴蒂を人がクンニしているような淫らな音がする。

 そして、ウーマナイザーを自分で刷り上げた容洙(ヨンス)はあっという間に逝ってしまった。

 いつもは彼女は逝くまでに相当時間がかかるのに、なんとイクまでに2分とかからなかったじゃない?あっという間。

 容洙(ヨンス)は、そのままウーマナイザーを阴蒂にあて続けた。Gスポットバイブも挿入した。彼女は、数分間、連続して逝き続ける。息を荒くして容洙(ヨンス)が四肢を広げてぐったりしてしまった。

「欣怡姐姐、も、もう、私、ダメです。これ以上続けられません。力が入らない・・・」

「ヨ、ヨンス、私にもこれを使っておくれでないかい・・・た、試してみたいの・・・」

「欣怡姐姐、よろしいですよ・・・脚を広げて下さい・・・最初は、Gスポットバイブは挿れませんからね・・・」と金少尉は楊少校のあそこを広げ包皮を剥いて阴蒂を剥き出しにするとウーマナイザーを軽く押し当てた。

 楊少校は、指やクンニでもなかなかイカずに手こずることがあるが、ウーマナイザーを使うとあっという間に逝ッてしまった。逆に、早くイカせないようにウーマナイザーの当て方を変えるのが大変なぐらいだ。え?!もうイッたの?というぐらい早く逝ってしまう。いつもイカせるのが大変だったのがウソのようだ。

「阴蒂を唇に含まれて舌先でトントンされているような感じよ!」と楊少校が叫ぶ。

 金少尉は楊少校をネチネチとウーマナイザーでいたぶり、舌も使い、Gスポットバイブを浅く突き刺した。吸引バイブとGスポットバイブの双方でなぶられるのだからたまらない。楊少校は優しく膣に指を入れられながら阴蒂を舌先でトントンされているような絶妙な快感を味わった。
 
 金少尉はウーマナイザーを押し当て続けた。前後にも動かす。引き抜いて浅く挿入されている状態では、阴蒂から吸引部が離れると自動で止まるが、Gスポットバイブは楊少校の膣内でウネウネと動いたままで、Gスポットを刺激し続ける。そしてまた深く突き刺す。

 楊少校は連続して何度もイキ続ける。よく締まった腹部が激しく痙攣し、腰を突き上げる。楊少校の目が裏返って白目になる。意識が飛んだようだ。彼女の股間がヒクヒクとうねり、突き上げられた股間の縦筋から小水が吹き出す。失禁した。

 金少尉はウーマナイザーのスイッチをオフにして膣からそっと引き抜いた。Gスポットバイブの尖端を舐めてみる。少々酸っぱいが嫌な味じゃない。
 
 33才にしてはいい体じゃないの?楊少校。あまり男の経験がないのが幸いしているのかしら?でも、このオモチャ、いいわねえ、しばらくこれで彼女をいたぶろう。
 
 金少尉は楊少校に添い寝する。彼女はまだ息が荒く目がうつろだ。乳首を軽く吸う。楊少校がビクッと体を震わす。まだ全身が敏感になっているようだ。彼女の鼻に自分の鼻をすりつけ、軽く口を吸ってやる。楊少校が舌も吸って欲しいように唇から舌を突き出す。舌を吸い彼女の唾液を飲む。満足げなため息を楊少校が吐いた。

★石垣島への出撃日、石垣島侵攻開始4日前

 金少尉は楊少校の肩を抱いてやる。ヤンは頭をキムの胸にあずけた。回した手でヤンの肩を優しくさすってやる。いつもの眼尻をあげて怒鳴りまくっているのがウソみたいだわ。こういう場合だと甘えん坊にヤンはなるのよねえ、とキムは思う。

「それでね、お姉さま、林中校(中佐)はそれはそれは処女がお好きで。私が入隊してすぐの18才の女の子を段取りしてやるんですけど、情けないことに処女を奪う前によく暴発されるんですよぉ~。奥様とはレスみたいです。内緒話をその兵士に漏らすみたいで、軍の金を横領しているみたい。お姉さまの同期の王少校(少佐)は、ドMです。お尻をムチで叩かれるのがお好きでして、皮が剥がれるほど叩くと射精して逝ってしまいます。彼は香港に内緒で愛人を囲っています」などと部隊の醜聞をヤンに楽しそうに話す。

 楊少校は自分のことは棚に上げて、人民解放軍部隊の規律が乱れている、などと思う。

「だけど、お姉さまとこういう楽しいことができるのもあと何日なんでしょうねえ・・・石垣島に出撃するともうこういうこともできなくなって、残念ですわ。ヨンス、悲しいです」と甘え声で楊少校に言う。

「ヨンス、大丈夫だよ。旗艦の071型揚陸艦(ドック型輸送揚陸艦 )龍虎山(Longhushan)は満載排水量25,000トンだから、佐官用の居室も広い。おまえを呼んでお話もできる」

「お姉さま、071型揚陸艦は商船ベースで部品も一般船舶用品を転用したと聞いています。速力も23ノット(時速37キロ)でしょう?海自の護衛艦はみんな30ノット(時速48キロ)だから、装甲も薄いし速力も遅いので心配です」

「ヨンス、龍虎山(Longhushan)の装甲は薄いが、島から十分離してホバーを出すから問題はないさ。南海艦隊の長白山(Changbaishan)、祁連山(Qilianshan)も借りた」

「東海艦隊は、沂蒙山(Yimengshan)、四明山(Simingshan)もついてくる。ジャンカイ級フリゲート艦 の南通(Nantong)、安陽(Anyang)、浜州(Binzhou)を護衛につけている。福州空軍基地(Fuzhou Air Base)からはJ-20(殲20)16機編隊が来援する。大丈夫だよ。」
ジャンカイ級フリゲート艦
中国、空軍基地

「そうですか・・・お姉さまを信じてついていきます。でも、買い物しなくちゃいけませんね。下着なんかも・・・オモチャも仕入れておきませんと・・・急がないと・・・私、非番が4日後ですから・・・」

「4日後?それはダメだね。私が手配して、明日、非番にしてあげるよ。なにせ、出撃は明後日午後11時半(中国時間)だからね」

「ええ?明日非番を頂けるんですか?じゃあ、上海にお買い物にいけますわ。お姉さま、ありがとうございます」と無邪気そうに頬を楊少校の頬に擦り付ける。

 そうか。石垣島への出撃は明後日の午後11時半(中国時間)。寧波と石垣島の距離は680キロ。23ノット(時速37キロ)で約18時間。台湾に向かうと見せかけて迂回するだろうから、石垣到着は3日後の午後六時(中国時間)以降だ。日没後を狙うわけだ。
 
 そうすると、侵攻部隊の戦力は、

● 東海艦隊揚陸艦:旗艦龍虎山(Longhushan)、沂蒙山(Yimengshan)、四明山(Simingshan)
● 南海艦隊揚陸艦:長白山(Changbaishan)、祁連山(Qilianshan)
● 東海艦隊フリゲート艦:南通(Nantong)、安陽(Anyang)、浜州(Binzhou)
● 南京軍区空軍:J-20(殲20)16機編隊

が総兵力。

071型揚陸艦には、726型エアクッション揚陸艇(ACV)4隻が搭載されている。071型揚陸艦5隻で726型は合計20隻。1隻当たり陸戦隊は250名程度が乗れる。つまり、陸戦隊は5,000名。

 これが全部石垣島周辺海域へ派遣されるのかしら?与那国島、宮古島は別働隊?
 
 同規模じゃないだろうけど。この侵攻部隊が島嶼を占領したら、全部隊が反転して、台湾攻略に参加するってわけね。
 
 尖閣諸島は軍事拠点になり得ないので今回は放置ね。宮古島の狙いは、防衛されていない下地島だろうな。与那国島は台湾に最も近いけど、空港の滑走路が石垣島よりも貧弱ね。新石垣空港は港湾・ミサイル基地と離れていて確保しやすい。

「となると、南西諸島侵攻の最大の攻略目標はエレーナ少佐の居る石垣島だ!ニャーナに連絡しなくっちゃ」

★ジトコ大将の別荘(ダーチャ)、ハバロフスク、石垣島侵攻開始3日前夜

 ジトコはリビングのソファーに座っていた。ジトコの腿に顔をつけて愛人のニャーナがソファーに身を横たえている。

「・・・以上が金少尉からの諜報情報。金少尉と楊少校の関係はそういうこと。人民解放軍はかなりの戦力よ。石垣のエレーナ、大丈夫かしら?」

「う~む、中国はかなり本気だな。台湾侵攻の前に南西諸島攻略とは。それで、南西諸島を不沈空母化して、取って返してその部隊を台湾の東岸攻略に使って、台湾海峡からの部隊と挟み撃ちにする作戦か。北京も気が狂ったか?プーチンの失敗から学んでいない。しかし、まずいな」

「あなたの量子エニグマ暗号トランシーバーはエレーナのやつとペアリングしてあるでしょう?それを貸してよ。私が直接説明するわ」
「おまえたちは仲が悪いからな・・・」
「将来の義理の娘が危ないのよ。四の五の言っていられないわよ。トランシーバー、貸して!」

 ジトコはカバンから量子エニグマを取り出した。「まず、ワシが話すよ」「いいわよ」
 
 ジトコは暗号設定手順に従い、石垣島のエレーナの量子エニグマに通話した。衛星経由での通信で、ハバロフスクと石垣島の通信は良好だった。
 
「エレーナ、ワシだ」
「パパ、こんな時間にどうしたの?今、ウラジオ?ハバロフスク?」
「ハバロフスクだよ」
「じゃあ、女狐と一緒ね?」
「口の悪い娘だ。おまえの言うその女狐がおまえと直接話したいそうだ。彼女に代わる」

「ハイ、エレーナ、お元気。女狐のニャーナよ」
「・・・ニャーナ、私に何の用?」
「あらあら、突っかかるもんじゃないわよ。真面目な話よ。人民解放軍に関する諜報情報が手に入ったの」
「確かな情報なんでしょうね?」
「言うわね、エレーナ。女狐のニャーナの情報ですもの。人民解放軍の石垣島侵攻作戦の指揮官からの情報よ」

「・・・ありがとう、と言うべきでしょうね?」
「いいわよ、別に。情報元はね、石垣島侵攻作戦の指揮官の楊少校。女性佐官。どうやったかって言うと、金少尉という楊の副官がいてね、それが私の母方の親戚の女なのよ。つまり、中国の朝鮮族の人間。枕の間柄で聞き出したそうよ」
「・・・まったく・・・なるほど、それで?」

侵攻部隊が寧波を出発するのが明後日午後11時半。中国時間だから、日本時間だと3日後の午前零時半。、石垣到着予想時間はその日の午後六時、日本時間七時以降。部隊の海上戦力は・・・ちょっと待ってね、メモを見るわ・・・強襲揚陸艦5隻、フリゲート艦3隻。陸戦隊予想員数5千名。思い切ったものよ。2万5千人の陸戦隊の5分の1を引っこ抜いたみたい。楊少校ってのもやり手よね。あなどれないわよ。航空戦力は、福州空軍基地(Fuzhou Air Base)からJ-20(殲20)16機編隊が飛来するそうよ。詳細はね・・・ということ。与那国島と宮古島侵攻部隊の詳細は不明。この内容はテキストにしてSMSで送ってあげるわ」

「ニャーナ・・・その・・・ありがとう」
「あなたらしくもない。殊勝にならなくてもよろしいわ。私は私の愛するあなたのお父様の愛娘が死んではイヤだからしているだけ。それよりも、あなたたち大丈夫?自衛隊とロシア軍のあなたの部隊で対処できるの?」

「こちらの指揮官の紺野二佐と相談します。こちらの陸戦兵力は自衛隊2千名。私の部隊千名・・・

 海上戦力だけでも、エレーナ部隊は、90年代に就役した満載排水量4,080トンの揚陸艦ペレスヴェートとオスリャービャ2隻に対して、人民解放軍は最新鋭の満載排水量25,000トンの071型揚陸艦5隻。(中国南海艦隊:長白山(Changbaishan)、祁連山(Qilianshan)、中国東海艦隊:旗艦龍虎山(Longhushan)、沂蒙山(Yimengshan)、四明山(Simingshan))。
 
 ジャンカイ級フリゲート艦南通(Nantong)、安陽(Anyang)、浜州(Binzhou)の3隻に対して、海上自衛隊はFFM型護衛艦もがみ、くまの、のしろの3隻
 
 ホバーは、エレーナ部隊は満載排水量550トンのポモルニク型エアクッション揚陸艦4隻に対して、人民解放軍は最新鋭の満載排水量170トン726型エアクッション揚陸艇20隻
 
 兵数は、広瀬二尉の陸自水陸機動団400名と石垣島陸自ミサイル部隊600名、沖縄本島から増援の畠山三佐の水陸機動団1,000名、エレーナ部隊1,000名、合計3,000名に対して、人民解放軍海兵隊は5,000名

 宮古島駐屯地にはミサイル部隊700名、与那国駐屯地にミサイル部隊150名。

 海上戦力は、揚陸艦に関しては劣勢、フリゲートは同じ、ホバーはやや攻撃力で優勢、陸上戦力は圧倒的に劣勢。
 
 航空戦力は、J-20(殲20)16機編隊に対して、空自の迎撃航空機数はいまだ未知数。

 中国本土の寧波基地と石垣島はたった680キロの距離。沖縄本島との距離400キロのほぼ中間地点。680キロというと東京、広島間だ。400キロは東京、大阪間に相当する。

「ニャーナ、こういう戦力だと、残念ながら我が方が劣勢というしかありません」
「なるほど。在日米軍は、沖縄本島が攻撃されない限り、核保有国同士の中国相手に介入はしないと思うわ」
「同感です」

「つまり、南西諸島、特に石垣島は、自衛隊とあなたの部隊で防衛せざるをえないってことね。でも、腑抜けの日本政府は先制攻撃をしない。指を加えて停船勧告するだけで、中国の海上戦力の領海侵入を許してしまうのがおちよね?東ロシア共和国、あなたの部隊も手出ししにくいでしょうし・・・中国軍がペレスヴェートかオスリャービャ、ポモルニク型エアクッション揚陸艦を先に攻撃でもしない限り・・・

奴らに先に手を出させる・・・

「ふ~ん、検討してみましょう・・・そうそう、この量子エニグマ暗号トランシーバーは金少尉も同じのを渡してあるのよ。テキストSMSでペアリング手順を送るから、あなたのエニグマと金少尉のエニグマをペアリングしてちょうだい。いざとなった時のためにね」

「その金少尉は大丈夫なのかしら?スパイ行為が露見したら・・・」
「彼女は私と同じ女狐よ。ま、私は彼女と違ってバイセクシュアルじゃないけど。非常に優秀、抜け目はないわ。私からは以上。お父様と代わるわね」

「エレーナ、十分注意してくれよ」
「パパ、大丈夫よ」
「それから、婚姻届は出したのかね?」
「それは・・・ヒロシがバックパックに書類を突っ込んだまま、佐渡で出し忘れていて・・・」
「そういうところは二人共抜けているんだな。石垣市役所で提出しておくといい」
「暇ができたらね」

「あ、そうだ、そっちの紺野二佐にジトコからよろしくと言っておいてくれ。何でも彼女の要望には答えるからと」
「紺野二佐をご存知なの?」
「エレーナ、わしは東ロシアの高官だよ。日本の内閣情報調査室とは緊密に連絡を取っている。免許証だって受け取ったろう?」
「・・・ありがとう、パパ」
「紺野二佐もニャーナと同じ女狐だからな。敵に回すと怖いが、味方としては心強い存在だ。じゃあ、お休み。気をつけるんだよ」
「お休みなさい、パパ。慎重に行動するわ」

(13)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島Ⅷ

★新石垣空港、石垣島侵攻開始5日前朝

 エレーナが石垣島にオスプレイで着いたのはジトコとニャーナから連絡のある日の2日前。この時点で彼女は侵攻日をまだ知らない。その日は人民解放軍上陸作戦の5日前だった。

 オスプレイの機上で酒でも飲もう、と言っていた鈴木、畠山三佐だったが、新石垣空港に着陸して、スマホで紺野にその話をすると、紺野が鈴木に言う。

「それはちょうどいい。懇親会をしよう!何人だ?そっちが、南禅、羽生、鈴木、エレーナの四人。畠山はミサイル基地に行かないといけないから、後で呼ぼう。やっとキミの嫁さんの実物が見られるってわけね。こっちは、私、富田、広瀬、スヴェトラーナ、アニータ、ソーニャ、カテリーナの七名・・・そうだなあ、そろそろ私も正体を明かして、マスコミを引っ張り込むか?卜井、藤田、佐々木の三人組。合計14名。ソーニャに迎えに行ってもらおう。ホテルに寄ってからこっちに来てくれ。エレーナの部下三人は、スヴェトラーナに手配してもらって、別途、車を空港に送る。20分、空港のエントランスで待っていてくれ」と言う。

「しかし、紺野二佐、空自や陸自との連絡もありますから・・・」
「まあまあ、それは気にしないでよろしい。私の方から空自、陸自、海自に連絡しておく。とにかく、こっちに来なさい。スマホじゃマズイ、こっちで説明するから」
「わかりました・・・」

 陸自の迎えの車で、畠山やオスプレイの対面に座っていた陸自ミサイル部隊の連絡将校、海自の将校は先に空港を離れた。

「南禅二佐、羽生二佐、エレーナ、紺野二佐がこっちに来いとさ。富田さんって誰だろう?広瀬、スヴェトラーナ、アニータ、ソーニャ、カテリーナも呼ぶって話だよ。あと、藤田さん、卜井さん、佐々木さんも。ソーニャが空港に迎えに来るそうだ」と南山らに言う。

「紺野、今度は何を悪巧みしてやがるんだろうね?おまえの元妻だろう?羽生?」と南禅。「俺にわかるわけがないよ。あいつが何を考えているのか、想像もつかん」と羽生。

「まあ、いいじゃないですか。私は紺野二佐に直接お会いするのが楽しみだわ」とエレーナ。

 オスプレイが石垣島に飛んできたのは初めてのことだろう。国土交通大臣の特別許可を得ている。これが自衛隊機が飛来する最後というわけでもなさそうだ、と鈴木三佐は思う。
 
 沖縄から来たので空港職員に新石垣空港国内線ターミナルに案内された。
 
 新石垣空港は典型的な離島の国内国際線空港だ。コロナ前であれば台湾からのチャイナエアの直行便も数多く飛んでいて、台湾からの観光客でごった返していただろう。

 台北-石垣島のフライト時間はDEP14:35、ARR14:40で、時差1時間だから、飛行時間1時間5分。沖縄からの全日空便だと55分。飛行時間ならほぼ台北と那覇の中間地点だ。直線距離は台北のほうがずっと近い。
 
 滑走路は北西から東南に向いている2千メートル級だ。人民解放軍のJ-20(殲20)なら十分離着陸可能だ。空港の左、東はサンゴ礁の浅瀬が沖合1キロほど広がっており、上陸用舟艇、ホバークラフトなら簡単に着岸できる。空港の北、西、南はサトウキビの畑が広がっており、人家はほとんどない。

 空港ターミナル周辺は、石垣市消防本部、大阪航空局石垣空港出張所、それにレンタカーの店舗があるくらいで、店屋はない。航空燃料のケロシンタンクは駐車場隅に二基あって、非常に小さい。台北や那覇便はここであまり注油しないのだろう。タンクの警備はされていない。燃料は石垣市内の離島フェリーターミナルの正面岸壁にある石油貯蔵施設からローリーで運ばれているようだ。パイプラインなど見当たらなかった。

「エレーナ、機内の窓から見たんだが、空港の右岸は北から南まで浅瀬のサンゴ礁だ。どこでも上陸用舟艇は乗り付けられるぞ。おまけに周囲は畑。陸戦兵力は360度、どこからでも攻撃できる」
「Google Earthで見たら、我が軍の大型揚陸艦ペレスヴェート、オスリャービャが接岸している離島フェリーターミナルはこの空港の島の反対側じゃない。直線距離にして約12キロ。この経路を守備するには相当の兵力がいるわね」

「おまけに、陸自のミサイル基地は島の真ん中。沖縄電力の石垣第一、第二発電所はフェリーターミナルの近くの北と東にある。出力は5+5+18の28MWか。意外とでかいな。佐渡ヶ島と同じくらいだ。空港、ミサイル基地、フェリーターミナル、発電所✕2の5ヶ所は防衛しきれない。俺が指揮官だったら空港は捨てるよ。島民退避が一段落したら、空港滑走路は爆破して使えなくする。人民軍の工兵隊さえ上陸させなければ、修理できず戦闘機は離発着できない」

「同感だわ。佐渡のように690メートルの滑走路じゃないもの。2千メートル。おまけにエプロンのエスコートウェイがついているから、与那国島、宮古島の空港よりも使い勝手はいい・・・あ!宮古島の隣の伊良部島と水路でつながっている下地島空港って気になるのよ。国内線のパイロット訓練用で3千メートル級でしょう?本土の国際空港並の施設ね」
「下地島はヤバい!だが、宮古島は忘れよう。あちらは、自衛隊の別の水陸機動団、空自。海自で面倒を見てもらう他はなさそうだ」
「私が指揮官だったら、石垣島と周辺の西表島、小浜島、竹富島、黒島などの守備で陸戦部隊8千人は欲しいわね」

「西表島は佐渡と同じで山がちだ。丘陵地帯が海岸線に迫っていて、人民軍にとって占領するメリットはない。他の小島もインフラがないから無意味だ。第一、電力は海底ケーブルで石垣島から送電している。防衛は石垣島だけに集中した方がいい」
「石垣島だけでも、6千人は必要じゃない?」
「有事が発生したら、政府が増援してくれるのを祈ろう」
「あら、佐渡ヶ島に増援が来たかしら?孤立無援だったわよ?」
「あれは首都圏や関西圏、中部圏への弾道弾ミサイル攻撃でてんやわんやだったから仕方がない。今度は南西諸島防衛、沖縄本島も控えているし、孤立無援にはならないだろう」
「たぶんね・・・」

★空港エントランス、石垣島侵攻開始5日前朝

 時間通り、20分でソーニャが運転するトヨタのグランエースが空港エントランスに滑り込んできた。日本国外向けハイエースがベースとなっていて、全長5.3 m、全幅1.97 m、全高1.99 m、フルサイズワゴンだ。自衛隊沖縄地方協力本部石垣出張所から広瀬が段取って借用してきた。さすがに、佐渡ヶ島で無法に運転してきたタイフーンKやLは石垣島では使用できない。

 空港に向かう前にソーニャは広瀬と日本の免許の話をした。「タイフーンKやLは国土交通省への登録もないし、日本国内では使えないよ」とソーニャに言う広瀬。
「そう言われればそうです!でも、カオル、車輌じゃなくて、私もロシア連邦の免許しか持ってませんよ!日本国内では運転できません!」

「なんかね、ロシアはジュネーブ様式の国際運転免許証を発給していないんで国際運転免許証による日本での運転はできないらしいんだけど、紺野二佐が内閣情報調査室を通じて手を回して、みんなの免許をもう段どったんだ。キミのはこれ。自衛隊の営繕が持ってきた」

「これ、日本語の免許証じゃないですか?写真も私のだし。いつの間に私の写真を?この住所は?どこかの日本の住所になってますけど・・・???」
「あ!それ、俺の住所。紺野二佐、どこまで調べてるんだろうか?」
「姓名はそのままのロシアの名字ですね?」
「それはまだ俺たち婚姻届を出してないから、ってことだろう?早く出さないと」

「紺野二佐がやると、あっという間にできちゃうってこと?」
「そうみたいだな。あれ?ソーニャ、キミの免許、14項目全部じゃないか!」
「え?日本の免許の区分がわかりませんが、軍でロシアの小型から大型までと特殊車両の免許は取得してます。バイクもです。それがこの区分に反映されているんですか?」

「そのようだな。え~、みんなの分を預かってきたから・・・これ、スヴェトラーナ少尉、アニータ少尉の分・・・エレーナ少佐の分もある!」
「あ!本間スヴェトラーナ、土屋アニータになってますよ!エレーナ少佐は・・・ジトコ エレーナ・冴子のままですね?ああ、まだ婚姻届出してないんですね?」
「すげぇ、もう佐渡の婚姻届が反映されているってことか?こりゃあ、紺野さんがやると、あっという間に日本のパスポートまで発給されちまうぞ!」

「・・・それって、私たちが婚姻届を提出すると、私も広瀬ソーニャになって、日本の国籍、パスポートがいただけるってことですか?うれしい!」
「おいおい、内閣情報調査室とか自衛隊情報保全隊本部とか、どうなってるんだろう?紺野二佐は手配り早いし。彼女、本当はおっそろしい人なのかも・・・」
「そりゃあ、諜報部門ですもの。ボンドのMI6のQ課みたいな部署もあるんでしょうね」
「少なくとも、俺たちが彼女の側で幸運だってのは確かだ。敵に回すと怖そうだよ」

 運転席から小柄なソーニャが飛び降りてきて「エレーナ少佐、ソーニャ准尉、お迎えに上がりました!南禅二佐、羽生二佐、鈴木三佐、任務ご苦労さまであります!」とニコニコして敬礼する。助手席から「カテリーナ伍長、参りました!」とカテリーナがみんなの荷物を後部ドアを開けて積み込み始める。

「可愛い子ちゃんのお出迎えはうれしいな」と鈴木三佐。「あ・な・た、10才ぐらいも若い女の子にデレデレしてるんじゃないわよ!」とエレーナは耳たぶをひねり上げた。「い、痛い!痛いじゃないか!」「いい気味ね。あ・な・たは、私というじゃじゃ馬の子守専属!もう、可愛い子ちゃんには一生縁がないのよね!」

 エレーナがソーニャに「それにしても戦時の佐渡ヶ島はいざ知らず、平時の日本国内でソーニャが運転してはいけないでしょう?」と准尉に言う。「あ、少佐!紺野二佐がロシア兵の日本の運転免許を準備してくださいました。広瀬二尉から渡して下さいってことで、これ、少佐の免許証」とエレーナに免許証を渡す。
 
「あら?すごい!紺野さんにお礼しないと!・・・私、まだ、ジトコ、エレーナ・冴子じゃない?婚姻届、出してなかったっけ?・・・あ!ヒロシ!」と三佐を睨む。「あなた、私たちの婚姻届、署名してないわよね?出せるわけないじゃない!どこにやったの?私たちの婚姻届?」「え~、あれ?色々あったから・・・」とバックパックをゴソゴソする。「あ!これだ!あった!」としわくちゃの書類を取り出した。「だ、大事な書類を・・・しわくちゃで・・・あなた!あなた!」

 後部座席の二列目で南禅が「なあ、羽生、結婚なんてこんなもんだぜ。あの何事にも冷静なエレーナちゃんが男女の関係になるとこうなるんだ。おまえも紺野で懲りただろう?」と言う。「・・・」
 
「ソーニャも免許証もらったんだ?」とエレーナがブツブツ言うのをかわすつもりでヒロシはソーニャに言った。「三佐、これですよ」と胸ポケットから自分の免許証を取り出してヒロシに渡す。「あらら、写真も可愛くとれちゃってるね?」「それ、自分で撮した記憶が無いんですよ。紺野二佐、どうやって用意したんでしょうね?」「内閣情報調査室ならなんでもできるんだろうな。あれ?ソーニャの名字はプーシキナなんだ」「あら?三佐、ご存知じゃなかったんですか?あの文豪のプーシキンですけど、ロシア語の名字は男性形と女性形で語尾変化するんですよ。女性の姓は男性形の語尾に『а』が付きます。だから、プーシキナ」「エレーナはジトコだけど?」「ジトコに『а』が付いたら発音が変でしょ?」「なるほど。そういう例外もあるんだね」

 後ろの席で羽生が「ソーニャの名字はプーシキナだったんだ・・・俺は、てっきりデグレチャフかと思っていたけど。デグレチャフの方がゴロが良い。でも、性格が違うか?セレブリャコーフの方が似合ってるな?」と独り言を言う。それを聞いて南禅が「羽生、おまえ、それ、またアニメか何かか?」「・・・まあ、そうだ・・・」「・・・オタクめ・・・」

★再び富田のアジトの一軒家、石垣島侵攻開始5日前朝

 自衛隊沖縄地方協力本部 石垣出張所から差し向けられた車で、先に卜井、藤田、佐々木の一行が富田のアジトのマンションに到着した。マンションに入ると、オートロックでCCDカメラがそこここに設置されているのが佐々木の目についた。カメラマンという商売柄イヤでも気づく。

案内役の運転手が非接触型カードキーでエレベーターを操作する。部外者はエレベーターを使えないんだ、とますます不審に思う。リゾート地のマンションにしてはセキュリティーがやけに厳重よね?と佐々木は思った。石垣出張所の所有なのかしら?
 
 2階で降りた。案内役がドアの正面に立つと、ベルを鳴らさなかったのにドアが開いた。案内役が「こちらです」と言って三人を部屋に入れた。案内役は室内に入らずに戻ってしまう。
 
 出迎えたのは、佐世保基地の営繕課の事務職と紹介されている紺野と三人は知らない公安警察の富田だった。なぜ、エレーナたちの取材で営繕課の事務職の紺野さんがいるのかしら?それにこの目立たないビジネススーツを着た風采の上がらない男性は誰なんだろうか?エレーナたちはまだ来ていないのかしら?と佐々木は思った。

 佐々木がカメラを構えようとすると紺野が「佐々木さん、今日は撮影抜き。すべてオフレコ。内緒の話ですよ。だから、録画、録音はダメ!よろしいですか?」と言った。「わ。わかりました。失礼しました」と佐々木。だけど、エレーナたちの取材なのに、なんで佐世保基地の営繕課の紺野さんがいるんだろう?と佐々木は思った。卜井も藤田も同じ気持ちだ。
 
 紺野が「今、一同、こちらに向かっているところです。その前に、三人に今まで話していなかったことをお伝えしようと思いまして。話がややこしくなりますから」と紺野が言う。

「まず、私は、佐世保基地の営繕課の事務職ではありません」と紺野。「ハァ・・・」と卜井。「南西諸島の自治体に対して、私の所属だと怪しすぎるので、佐世保基地の営繕課事務職として、南西諸島の自衛隊の評判とか居住環境とかを調査するという名目で営繕課事務職という立場を使わせてもらいました。それで、私の所属は、元々の航空自衛隊から自衛隊情報保全隊本部情報保全課に移って、内閣情報調査室に出向していたんです。階級は二佐です」

「え?紺野さん・・・紺野二佐、それは諜報担当の?」藤田が尋ねる。紺野は「そう、諜報が主任務。安心して下さい、あなた方取材チームは諜報対象になっておりませんから。実は、南西諸島で、人民解放軍の諜報部隊と日本人のシンパが暗躍しているので、その調査が手目的でした。ここにいるのは富田さん。所属だけは明らかにします。彼は公安警察の人間です」と白状した。

「あ、あの、紺野二佐、カテリーナが私に渡した拾ったUSBメモリーって、まさか・・・」と佐々木。
「それに関してはノーコメントとしておきましょう。ただ、あなた方の取材で、日本国民の意識が変わって大変ありがたい。それに石垣島だけではなく、与那国島、宮古島の中国の秘密組織を壊滅できました。これはこれからの活動に大いに役立つことです」

 さて、藤田アナ、卜井アナ、佐々木さんの三人には、佐渡ヶ島でも北朝鮮に対する国民の防衛意識を変えていただいたということで、三人には非常に感謝しております。なにせ、平和ボケの日本国民に活を入れていただいたんですから。
 
 実際の戦闘も重要ですが、その戦闘の意味、意義をバイアスをかけずに国民に知らしめるということも非常に重要なことです。
 
「ということで、後で他のメンバーが来たら話しますが、先に、皆さんにはこの話をしておかないといけないと思いお呼びいたしました。それから、この話も含め、これからの話は、他言無用。防衛大臣、総理大臣から、あなた方のテレビ局、プロダクションのトップには依頼がされております。つまり、あなた方三人は、これから国家機密にかかわることに関与していただき、その内容は死ぬまで口外できない、ということになります。我がチームにようこそ」

 卜井が「紺野二佐、それは報道の自由の制限ということなんですね?」と聞く。「そうなります。認めます。しかし、無統制の報道の自由を許すと、今回の場合、多大な人命が失われるという止む終えない理由で国家が取る処置と考えて下さい。その事情は、他のみんなが来てからご説明します」

「わ、わかりました。やれやれ、驚きました」と藤田。「藤田アナ、かたっ苦しいのはここまで。私は今まで通りの営繕のおばちゃんと思っていただいていいわよ。これから来るみんなは知らない間柄でもないでしょ?そうそう、私の元亭主も来るからね」と紺野。

「元亭主?って、離婚した前の旦那様ですか?」と佐々木。「佐渡ヶ島以来、三人ともよく知っている人間よ。来たら紹介するから。さて、これからの話、素面でやってらんないわね。酒でも飲みましょうか?ロシア女は何人来るんだっけ?エレーナとスヴェトラーナとアニータ、ソーニャとカテリーナか・・・あいつら、ウワバミだからなあ。富田さん、お酒あります?」

「公安警察は酒屋じゃないんだから。内閣情報調査室で持って欲しいですね。ありますよ。何がよろしいですか?」
「ウォッカにウィスキーに・・・この前、スヴェトラーナから貰ったアルメニアのブランディーは?」「ありますよ」「なにせ、とりあえずビールなんていうのが通用する相手じゃないんだからね。飲み過ぎで頭が痛くなるし・・・」「じゃあ、飲まなきゃいいのに・・・」

 最初に到着したのが、スヴェトラーナ、アニータ両少尉とソーニャ准尉、カテリーナ伍長だった。「あれ?佐々木さんたちも?」とカテリーナが言う。

「カテリーナちゃんは、可愛い顔をしてうまくやられたわ」と卜井。「何のお話でしょ?」「なんでもないです。こっちのこと・・・」

 一通りロシア式にハグしてキスしたり、日本式にお辞儀して挨拶する。スヴェトラーナ、アニータ両少尉が窓際に行きカーテンをはぐって外を見回す。そして窓の左右に腕組みして突っ立っている。ソーニャとカテリーナはキッチンに行って、「富田さん、私たちがやります!」とお酒の用意とおつまみを作り出した。

「このメンバー、なんかほっこりするんだよね」と卜井が言う。

 10分ぐらいで残りのメンバーが来た。南禅、羽生、エレーナに鈴木。「これで畠山を除いて全員だな。エレーナ少佐、初めまして。紺野二佐です」とエレーナに挨拶する。「紺野二佐、パソコンのモニターでは何度もお会いしてますわよ」「実物を見たくって。いいわね、モデル級。とっても軍人に見えないわ」
 
「あれ?卜井さんたちも呼ばれたの?」と羽生。「ああ、卜井アナ、藤田アナ、佐々木さん、羽生が私の元亭主だよ」と紺野。「え?え?羽生二佐が元の?」「驚くほどじゃない。元夫婦に見えないかな?」「全然、見えません!」

「そりゃあ、オタクのメカマニアと紺野じゃ、似合わないってのは最初からだからな」と南禅がエレーナに言う。「・・・」

「みんなに報告するが、内閣情報調査室から転属になって、防衛省統合幕僚監部所属になり、今回のオペの統合任務部隊の指揮官に就任した。統合任務部隊は、陸自水陸機動団、航空自衛隊、海上自衛隊、及び駐留東ロシア共和国軍で構成される。副指揮官はエレーナ少佐とする、ということになっちゃってね」
「何が『ということになっちゃってね』だよ、紺野。どうせ、裏で手を回したんだろう?」と南禅。
「公美子、人聞きの悪い事をいいなさんな」
「どうせ、防衛大臣にねじ込んだんだろう?だから、上から嫌われるんだよ」
「レールガンを勝手に持ち出すようなあんたに言われたくないね。防衛大臣と統合幕僚長に南西諸島に通宵していて、陸海空自衛隊をまとめて、ロシア軍と相談できる人間がどこに居るっていうんだ?第一、こんな任務の指揮官、自発的にやりたい人間なんて自衛隊に居ないよ、って言っただけだよ」
統合任務部隊(自衛隊)

「脅しじゃないかよ?第一、敵国の南西諸島侵攻作戦に対抗する統合任務部隊の指揮官は、一佐クラスだろうに?」
「その一佐クラスの人間が軒並み辞退してるんだから、仕方ないだろうに!公美子!私が指揮官だからね!私の指示は聞いてもらうよ!」
「ああ、ああ、いいですとも!美千留(みちる)、各部署の調整とか政治は任せた!私は技術者で科学者だからね」

「紺野二佐、名前が美千留っていうんだ?可愛い名前だよな。南禅二佐も公美子なんだ。名前で呼ぶと迫力ないじゃん?」と鈴木が広瀬に言った。「そんなことより、三佐の奥さん、正式な日露統合任務部隊の副指揮官に就任しちゃったんですよ?」「・・・俺の立場はどうなるんだろうね?サドガシマ作戦でも日本とロシアの連絡将校だったし。全然活躍してないじゃん?」

(14)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島Ⅸ

★畠山三佐、侵攻5日前

 遅れて畠山三佐がマンションに到着した。鈴木三佐の同期で、今回、千名の水陸機動団を率いて石垣島に赴任してきた。鈴木三佐が畠山三佐に今までの紺野二佐の報告を耳打ちして説明した。

 ソーニャ准尉が畠山に飲み物を渡す。「あ!ありがとう!可愛い子ちゃんだ!私は畠山三佐。鈴木三佐の大学の同期なんです。今回、広瀬二尉の上官として水陸機動団を指揮することになりました」と彼女に言った。
 
「畠山三佐、よろしくお願いいたします。私はエレーナ少佐指揮の東ロシア共和国軍石垣島派遣部隊のソーニャ准尉と申します・・・あ、あの・・・」
「ハイ?」
「あのですね・・・今、言われた広瀬二尉と、私、こ、婚約しております!」

「ひ、広瀬と?婚約?・・・鈴木!早くしないと、ロシア軍の可愛い子ちゃん、みんな自衛隊員が取っちゃうじゃないか!俺にも紹介してくれ!おまえの嫁さんの部下の誰かを紹介してくれ!」
「・・・おまえな、声が大きい。あのな、任地を結婚紹介所と勘違いしていないか?」とヒソヒソ声で言う。

「佐渡ヶ島でエレーナ少佐を捕まえたおまえに言われたくない!エレーナ少佐とソーニャ准尉の他にも三人もロシア軍女性がいるじゃあないか?」

「あ、ああ、あのな、窓際の二人は・・・」
「ものすごい美人じゃないか!」
「彼女たちは、本間スヴェトラーナ、土屋アニータ、両者とも少尉で、日本人の既婚者だ!」

「クソっ!あ!あの子は?」
「彼女はカテリーナ伍長。相手はいないようだが、18才だぞ!おまえよりも10才年下だ!」
「誰かいないのかよぉ?」
「後でエレーナとスヴェトラーナ、アニータに聞いといてやるから、静かにしろ!会議中だ!」
「・・・」

 鈴木と畠山の話を小耳にはさんだエレーナが「ヒロシ、私の従姉妹のアレクサンドラってのがいるのよ。ウラジオ勤務の空軍なんだけど。彼女ならそのゴリラさんにうってつけだけど、ウラジオだからなあ。こっちに呼ぶわけにもいかないわね。私の部隊の女性兵士で年齢的にゴリラさんに似合う人がいれば紹介するけど・・・」と耳打ちした。

「エレーナ、畠山に女性を紹介してみろ。みんな壊されちゃうぞ!か弱い女性じゃダメだ。ソーニャとかカテリーナタイプじゃあ、ひと晩で破壊される」「そんなすごいの?」「すごいなんてもんじゃない!」「あら?私でも?」「エレーナ、なんてことを!いや、キミでもダメだよ」「じゃあ、アレクサンドラしかいないわね。ゴリラさんには雌ゴリラがお似合いよ」「・・・」

★紺野二佐の激怒、侵攻5日前

 畠山の部隊千名は、空自のC-1輸送機、民間の貨物船、借り上げたフェリーで佐世保、沖縄から到着している。そんな兵員、兵器、燃料、消耗品、機材、食料品などの兵站は、ましゅう型補給艦おおすみ型輸送艦で輸送すればいいではないか?と安易に考えていた。
 
 ところが、驚くべきことに、ましゅう型補給艦の喫水は8メートルおおすみ型輸送艦の喫水は6メートルであり、石垣島の離島フェリーターミナルに入港できないのだ。慎重に操船すればまったくの不可能ではないが、石垣島の正面の竹富島との間の水路は浅瀬になっており、座礁の危険が高いという検討結果だった。
竹富南航路整備事業、再評価資料

 自衛艦でせいぜい使用できるのが輸送艇1号型なのだが、二隻しか建造されておらず、一号艇は既に除籍、二号艇じゃ横須賀地方隊所属で12ノットの鈍足では間に合わない。

 オスリャービャとペレスヴェートの喫水は3.6メートルで入港可能である。現に岸壁に接岸している。しかし、これまた18ノットの鈍足。

 仕方なく、兵員輸送にロシア軍のポモルニク型エアクッション揚陸艦を使うことになった。一号艇から四号挺までの四艦全部を昨日沖縄に派遣した。

 ポモルニク型エアクッション揚陸艦の航続距離は55ノット(時速88キロ)で航続距離540キロ離島フェリーと那覇の距離が410キロなので、約5時間。片道なら燃料は足りる。

 短距離で兵員だけなら1隻で360名は乗せられる。あるいは、戦車3輌か、1輌と兵員140名、歩兵戦闘車8輌と搭乗員80名、軽装甲車両10輌という積載量である。一号艇から四号挺まで使って、最大1,440名1日で畠山の兵員千名は輸送可能である。

 この港湾、艦艇の喫水問題を知った紺野は激怒した。防衛省統合幕僚監部の三佐を怒鳴りつけた。「何が南西諸島防衛のシミュレーションはやってますだ!この港湾整備状況では、自衛隊の大型輸送艦は使用不可能、中型・小型輸送艦は不足か遠距離で緊急展開に使えない!統合幕僚監部は兵站を考えていないのか?まさか、宮古島、与那国島も?」

「紺野二佐、宮古島の平良港は2018年から水深10メートルの貨物岸壁を持っています」
「与那国島は?」
「・・・第一バースが5.5メートル、第二バースが4.5メートルであります!」

「じゃあ、石垣と同じく、喫水8メートルのましゅう型補給艦、喫水6メートルのおおすみ型輸送艦は接岸できないってことだな?だから、喫水の浅いオスリャービャとペレスヴェート、ポモルニク型エアクッション揚陸艦をロシア軍から調達したってことか!この馬鹿者共め!ましゅう型補給艦でなくとも補給艦さがみ補給艦とわだがあるだろ?私は空自だから詳しくないが?」

「補給艦さがみは除籍されています。・・・補給艦とわだ型は、とわだは呉港に、はまなは佐世保におります。ときわは横須賀です。いずれも喫水8.1メートル、石垣には着岸できません!」

なあにがシミュレーションだ!兵站はシミュレーションに含まれていないってことか?じゃあ、与那国島、石垣島、宮古島の島民の緊急避難はどうするつもりだったんだ!
「それは・・・今まで地方自治体にまかせておりまして、最近になって防衛省でも検討し始めたところです!

「検討も何も自衛隊の艦船もなくって何が検討だ!民間のフェリーや貨物船任せか?何日かかると思ってるんだ!」
「紺野二佐、小官も最近統合幕僚監部に転属になりまして・・・」

「貴官に文句を言っても仕方ない・・・やれやれ・・・もがみ型護衛艦は寄越せるんだろうな?」
「もがみ、くまのは横須賀から石垣海域に向かっております・・・喫水は9メートルなんですが・・・のしろは正式就役が今年12月ですが、それは無理を言いまして、明日横須賀を出港いたします!」

横須賀から石垣まで2千キロ・・・最大船速30ノット(時速48キロ)で42時間・・・沖縄で燃料補給をするとして、少なくとも2日間かかるわけだな」
「その通りであります!」

「もう、わかった!・・・そうだ!佐渡ヶ島にまだポモルニク型エアクッション揚陸艦が10隻以上駐留しているな?それを東ロシア共和国に言って何隻か借り上げろ!航続距離540キロだから、そこここで燃料を補給しなければならないが、燃料補給可能な限りこっちに持って来い!
「紺野少佐、その稟議書が・・・
「バカ野郎!防衛大臣、統合幕僚長に言っておくから、貴官が適当に作っておけ!ロシア軍への根回しは私がしておく!臨機応変に行動するんだ!わかったか?
「了解であります!」
平良港 港湾計画一部変更
祖納港 (与那国町)
海上自衛隊の補給艦

★人民解放軍の侵攻経路、侵攻5日前

 紺野が「スヴェトラーナ、アニータ、カーテンを閉めて。ソーニャ、カテリーナ、部屋の照明を消して頂戴」と指示する。部屋の壁に120インチのプロジェクターで九州南部から台湾本島北部までの地図を映し出した。

「まず、敵の海軍は寧波の舟山海軍基地から出撃してくる。空軍は、福州空軍基地(Fuzhou Air Base)。J-20(殲20)やJ-31(殲31)の編隊が来る」

  • 中国寧波:与那国島と約640キロ(直線距離)、石垣島と約680キロ(直線距離)、宮古島と約660キロ(直線距離)

  • 中国福州:与那国島と約410キロ(直線距離)、石垣島と約530キロ(直線距離)、宮古島と約610キロ(直線距離)

直線距離にするとこれくらいだ。
ジャンカイ級フリゲート艦
中国、空軍基地
Googleマップで見る軍事的スポット

 寧波からの海軍は、宮古海峡を通過すると見せかけて宮古島、石垣島を攻撃するだろう。これを第二艦隊と仮に呼ぼう。与那国島は攻撃時間を合わせるために台湾攻略の第一艦隊と一緒で、台北沖合約150キロから別れて与那国島を攻撃すると思われる。

 海軍艦艇は、宮古海峡手前から西に転進するので、航路は約800~900キロ、寧波舟山海軍基地出港から二十数時間で各島に到達する。

 空軍戦闘機は、福州空軍基地から25~40分で各島に到達する。

「いかに、中国本土と南西諸島が近いか、沖縄本島とあまり距離的に変わらないか、わかってもらえると思う」

 エレーナが「紺野二佐、敵は尖閣諸島を無視するんですか?敵艦隊と戦闘機の航路上に尖閣諸島がありますけれど?」と紺野に聞いた。

「今、尖閣諸島を攻略したとしても、インフラがない岩山だ。上陸部隊の兵器、武器弾薬、燃料。消耗品、食料など、1日十数トンの兵站を確保する必要がある。インフラもなく、自衛隊の03式中距離地対空誘導弾、12式地対艦誘導弾に相当するミサイルも持ち込まないといけない。中国の艦艇が近寄れば海自の潜水艦の餌食になる。だから、南西諸島が先だ。尖閣諸島など南西諸島が攻略できれば、いつでも占領は可能。優先順位が低いのだ」

「紺野二佐、同感であります。侵攻、攻略のみではなく、重要なのは維持であります。では、我々の防衛の優先順位は?」

「宮古島は別働隊を配置すると防衛省統合幕僚監部は言っている。その配置する時期が問題だと思っている。果たして、彼らの侵攻前に準備ができるのかどうか。だから、我々は宮古島も考慮しなければならない」

 しかし、問題は与那国島だ。最も台湾本島に近い。

 現在、与那国島には自衛隊沿岸監視部隊が230名常駐している。隊員、家族を合わせた人数は、与那国島の人口の約2割に当たる約320名。隊員を除いた元々の島民と隊員家族で約千五百名だ。石垣島とその周辺の島の人口は約5万人。宮古島とその周辺の島の人口は約6万人。面積は、与那国島、石垣島、宮古島がそれぞれ29、223、159平方キロ。

 自衛隊の戦力は、与那国島、宮古島それぞれで、230名の沿岸監視部隊、700名のミサイル部隊。石垣島は、ミサイル部隊600名と合わせて、水陸機動団1,400名、それにエレーナ少佐の部隊1,000名、合計3,000名。

 与那国島が最も脆弱、沖縄本島との距離も520キロ。石垣島420キロ、宮古島300キロよりも遥かに離れている。

★与那国島島民退避計画

「そこで、エレーナ少佐、畠山三佐、広瀬二尉、鈴木三佐、貴官らに指令がある」と紺野。「ハ!なんでありますか?」

「貴官らは、ポモルニク型エアクッション揚陸艦、一号艇から四号挺が沖縄から戻り次第、オスリャービャとペレスヴェートと共に与那国島に行って欲しい。名目は、東ロシア共和国軍と南西諸島島民との交流ということで、ロシア艦を島民に公開する。ロシアンフードをたくさん作って島民に振る舞うというイベントを組む」

「ハイ?」とエレーナが不審に思う。人民解放軍の侵攻が数日後に控えているのである。

「表向きはそういうことだが、実際の目的は、オスリャービャとペレスヴェート、ホバーで島民の避難を行うことにある。いつかはまだ判明していないが、数日後が侵攻開始日だ。そうしたら、自治体任せの退避計画では何日かかるかわからん。オスリャービャとペレスヴェート、ホバーで一気に退避させる。もちろん、私も行く。与那国島の首長や漁労長と顔見知りだから、佐世保の営繕課職員という話で根回しに行く。首相、防衛大臣、沖縄県知事などの根回しは事前にしておく」

「石垣から与那国島まで、ホバーなら片道2時間弱。1隻で360名乗船できるから、4隻で島民と自衛隊員家族は全員退避できるだろう。オスリャービャとペレスヴェートは鈍足だから、島民と自衛隊員家族の家財を積む」

「さて、そこで、畠山三佐、広瀬二尉は、与那国島の沿岸監視部隊の戦闘能力を考えて、島の防衛のために水陸機動団が何名必要か検討、ホバーに乗船させて、与那国島の防衛強化を行う。鈴木三佐は、与那国空港の設備確認と防衛計画を立てるために行って欲しい。今日ホバーが戻るはず。だから、今日出発する。滞在は明日から数日。敵の侵攻日次第だ。深夜に出港する。向こうを出るのが日没後の方が中国に探知されづらいからな」

 エレーナ少佐が「では、オスリャービャとペレスヴェートの指揮は、スヴェトラーナ、アニータが行う。ホバーの指揮は畠山三佐、広瀬二尉にお任せする。島民の接待なら、ソーニャとカテリーナが適役ね。私は・・・あら?紺野二佐、卜井さんたちも同行してもらって、取材をしていただきましょうよ?それで、私が取材を受けるという形で」

「お!それだ、それ。卜井さんたち、よろしいですか?」
「それは願ったりかなったりです。同行いたします」と卜井。

「ちょっと待った!美千留(みちる)・・・いや、紺野二佐、俺と南禅も同行させてくれ。ちょっと途中の海上で試射したいものがあるんだ」
「なんなのそれは?」と紺野。
「ホバーが沖縄から持ってくるはずなんだが、防衛装備庁で手配させた新開発の兵器があって、陸上での試射は問題だから、海上で試射したいんだよ。グレネードランチャーから発射できる小型ミサイルなんだが・・・」
「役に立つの?そんなもの?手榴弾みたいなもんじゃない?」と紺野。

★パイクミサイル

 羽生が「ちょっとみんなも聞いてくれ。説明する。ちょうど、サンプルを持ってきたんだ」と30年ぶりに更新された自衛隊の新小銃20式5.56㎜小銃にアドオン式グレネードランチャー、イタリアのベレッタのGLX160 A1を装着した銃、それにグリップと銃床を装着した単体のGLX160 A1をボストンバッグから取り出し、それらを持って立ち上がった。

「なんか、ジェームズ・ボンドのMI6のQになった気分だな」と羽生。「いいから、さっさと説明しろ!」と南禅。

「このベレッタのGLX160 A1、ちょっとおかしいだろう?」とエレーナに単体のGLX160 A1を渡す。「羽生二佐、この弾体はなんですか?40mmグレネードランチャーから弾体がはみ出しています。この弾体はかなり細長いんですね。変な形」

「これは、アメリカのレイセオン製パイクミサイルなんだ。標準の40mmグレネードランチャーから発射できる小型のレーザー誘導ロケットだ。スペックは、

全長:427㎜
重量:770g
直径:40㎜
射程距離:2,000m

 ロケットモーター内臓だから、射程距離は普通のグレネードの数十~数百メートルよりも遥かに長い。発射後、2、3メートルでロケットモーターに着火する仕組みだ。

 デジタル式セミアクティブレーザーシーカーを使用して、固定および低速度で移動する中距離目標を攻撃可能だ。このミサイルはレーザー誘導が可能だ。レーザー照準器を使用して、1人の兵士がターゲットを指し、別の兵士がこいつを発射して、目標に誘導する。

GLX160 A1|20式小銃と合わせて採用されたグレネードランチャー
世界最小クラス!レイセオンのパイクミサイル!
手乗りレーザー誘導ロケット「PIKE」をレイセオン社が開発
射程距離2km。グレネードランチャーから発射できる40mmミサイル「pike」

「エレーナ、沖縄から日本製のモーターバイクも到着する。これを佐渡ヶ島で北朝鮮がやったようにバイク隊を編成して、陸上戦での防衛力に当てるというアイデアだ」
「ああ、あれはこちらもかなり苦しんだ。こちらにバイクが有れば敵の陸戦部隊にかなりの打撃が与えられますね」
「そう、モーターバイクは百台ある。これを畠山三佐と広瀬二尉と相談して、与那国島、石垣島に配置してほしいんだ」

「それで、無反動砲(バズーカ)とか対戦車ロケット弾だとバイク隊が携帯するのは辛い。このパイクミサイルなら、バイク隊が携行する小銃にアドオンでGLX160 A1を装着すれば撃てる。バイクのパートナーにターゲットをシーカーさせればいい。とまあ、そういうわけでこれを装備庁で購入したんだが、前回のサドガシマ作戦で北朝鮮が使った燃料気化爆弾式グレネードで思いついたんだ。パイクミサイルの炸薬を燃料気化弾に変えてみたらどうだろうってね。それが改造型ってことだ」

「だからこれは普通のパイクミサイルじゃないんだ」とサンプルとエレーナに渡す。畠山と広瀬も覗き込む。

「燃料気化弾式パイクミサイル。沖縄の米軍射場で内緒で試射させてみた。これがそのビデオだ」とプロジェクターにパソコンを接続させてビデオを見せた。

 ボロボロの標的の装甲車の頭上でパイクミサイルが爆発した。燃料が気化して蒸気雲が広がったかと思うと着火されて、普通のグレネードの数倍の大きさの爆発雲となった。その雲はしばらく消えない。十数秒続いた。装甲車は衝撃波で吹っ飛んで横転した。

「羽生二佐、これは燃料気化爆弾(サーモバリック爆弾)、我が軍のTOS―1A兵器システムと同様、ジュネーブ条約違反ではないのですか?」とエレーナ。

「微妙なところだ。気化爆弾の使用は武力紛争法で厳しく規制されている。民間人を危険にさらしたり、不必要な苦痛を与えたりするような方法で軍事目標に対して使うことはできない。もしも、意図的に民間人に使った場合、ジュネーブ条約違反となる」

 ジュネーヴ諸条約追加議定書、第1追加議定書第2追加議定書を見てみると、『文民たる住民』に意図的に大量殺戮兵器を使用した場合は条約違反となる。TOS―1A兵器システムは大量殺戮兵器の範疇だ。燃料気化弾式パイクミサイルは大量殺戮兵器かどうかは微妙だ。

 しかし、TOS―1A兵器システムにしろ燃料気化弾式パイクミサイルにしろ、戦闘行為中に敵軍属の戦備、軍人に使用した場合は、文民たる住民が巻き添えにならない限り条約違反にはならない、とこう解釈した。

 こじつけかもしれんが、通常戦備、普通のグレネードを使用するなら近接戦闘となる。お互いの持っている携行兵器、装備の有効射程距離はせいぜい百数十メートルだから。だが、有効射程距離2キロの燃料気化弾式パイクミサイルなら、近接戦闘を避け、我が方の兵士の損耗を減らしつつ、敵の戦力をそぐことが可能なんだ。

「ただなあ、問題は、これを我が自衛隊が使用した時、例えば、畠山や広瀬の部隊が使用したとなると、核アレルギー、大量殺戮兵器という言葉にすぐ反応する日本国民の国民感情、憲法の制約があって、使いづらいんだよ。わかるだろ?」とチラッとエレーナを見る。

 察したのかエレーナがコクンと頷いた。「わかりますよ、日本の国情は。だから、この改造型パイクミサイルは我が軍が使用することにしましょう。貸与してもらうという形なり、我が軍がウラジオから持ってきた新兵器だとか言えばいいでしょう?」

「そんなことをすれば・・・」

「羽生二佐、ここで我が方が敗退すれば、元も子もなくなります。国土を失うという事態の前には仕方ないじゃないですか?敵がこの島を占拠したら、それこそ文民たる住民の被害が出る可能性が高い。ウクライナで起こっていることです。ましてや、こちらの現有兵力は、紺野二佐の予想だと、敵の6割でしょう?03式中距離地対空誘導弾、12式地対艦誘導弾を敵に奪取されたら、南西諸島全体が失われて、それこそ敵の第一列島線が完成してしまいます。それは断固阻止しないとなりません」とエレーナ。

「羽生二佐、このパイクミサイル、何発こちらに搬送されたんですか?」

「グリップと銃床を装着した単体のGLX160 A1が四百丁、新小銃20式5.56㎜小銃にアドオン式グレネードランチャー、イタリアのベレッタのGLX160 A1を装着した銃が八百丁ある。通常炸薬のパイクミサイル千発、燃料気化弾式パイクミサイル二千発だ。」

 装備庁が米国政府から緊急購入したから、米国は三千発のパイクミサイルを我が自衛隊が保有しているのは知っている。だが、二千発を燃料気化弾式に勝手に改造したのは知らない。むろん、レイセオンとの契約、アメリカ政府との合意書では、ローテクの範疇のこの兵器を改造するとかしないとかの許可の記述はないので、後で言い逃れは十分できる。

 アメリカも本音は、沖縄本島は防衛して介入するが、南西諸島に米軍基地はない。南西諸島で中国とことを構える気はないんだ。だから、アメリカは来ない。その負い目があって、結構、武器供与では無理を聞いてくれるんだよ。今回の調達も打診、発注から到着まで1週間だった。

「しかしなあ、エレーナ、国情を理由に貴軍を利用するような形になるんだが・・・」

「羽生二佐、グチャグチャ言わない。あなたの頭の中で、今まであなたが言ったことはなんども反芻されていたんでしょ?このストーリーを?それで、私があなたの案を飲めば、と何度も考えたんでしょう?よろしいでしょう。我が軍が人民解放軍に対して使用しましょう。ウラジオの許可も正式に取ります。我が方に20式5.56㎜小銃、単体のGLX160 A1、通常炸薬のパイクミサイル、燃料気化弾式パイクミサイルをお渡し下さい。早速、配備して編成を考えます。よろしいですね?」

「わ、わかった。紺野、南禅、畠山、広瀬、それでいいな?」

「了解だ。もしもとなったら、私が責務を引き受ける」と紺野二佐。

「そうとなれば、早速、使用手順、注意点のレクチャーを初めたい。エレーナ、準備してくれ。ホバーが戻る前に説明して、ホバーの艦上で何人かに試射させたい」

「ラジャ!スヴェトラーナ、アニータ、ソーニャ、用意するように!」「ラジャ!」

 広瀬が「ちょ、ちょっと待った!もしも戦闘が開始されて、万が一パイクミサイルが放棄されてしまいそれを我が水陸機動団が確保した時、我が方も使用方法を知っておく必要があるじゃないか?そうですよね?畠山三佐?」エレーナに言って、畠山を振り返った。

「当然だ。エレーナの隊だけにこれを押し付けるわけにはいかない。広瀬、我が方の隊員も二百名選抜して、羽生、南禅二佐のレクチャーを受けろ!バイク隊も組織してエレーナの隊と連携を図れ!」「了解しました!」
 
 鈴木三佐が「俺の方も航空戦力を引っこ抜いて、こっちに回す。与那国島から石垣、宮古島までの空域を確保する。紺野二佐とエレーナの指揮下に航空戦力をつける」
 
「そうだ、忘れていた。紺野、羽生、耳を貸せ」と南禅が二人に耳打ちをした。「それは可能なの?」と紺野。「まったく問題ない。ダイハツのディーゼル三基で出力は十分だ」「メガワット級の出力が必要と聞いたけど?」「小型化したんだ。こういう戦闘を想定して」「わかった、検討させよう」

★楊少校の居室、解放軍海軍旗艦龍虎山(Longhushan)艦上、石垣島侵攻開始5日前

 中国の071型揚陸艦は商船を転用したもので、純粋な軍艦と違い、佐官の居室も広々したものだった。楊少校の居室も軍船としては広い20平米の部屋で、コンパクトに執務机、ソファーセットが設えてあり、壁面は跳ね上げ式のベッドだった。ユニット型の一体型トイレとシャワーセットも付随していた。
 
 金少尉を呼んだ楊少校は、40分間ほど彼女に体をなぶられて悶え狂う。まったく、処女狂いで早漏の林中校(中佐)や変態ドMの王少校(少佐)と代わり映えはしない。レズのネコ役で、任務中でも攻めて欲しい性欲過多のババアじゃないか?と金少尉は思った。
 
「欣怡(シンイー)姐姐(お姉さま)、容洙(ヨンス)は怖いですわ。これは武力紛争から戦争状態に発展する事態でしょう?どのような理由で石垣島に侵攻するんですか?武力紛争法(戦時国際法、国際人道法)では、に抵触しないでどう石垣島を攻めるのでしょう?」と二人してシャワーを浴びたあと、白湯を飲みながら金少尉が楊少校に聞いた。

「それはどうにでもこじつけられる。ロシアがウクライナでやったように。沖縄県は我が第一列島線の内側にある。有史以来、中国の冊封体制に琉球王国は組み入れられていた。それが日本領土の沖縄県として大日本帝国に編入されたのだ。これを琉球処分と呼ぶが、この琉球処分や敗戦によるアメリカ統治後の沖縄返還は国際法上の根拠はない。我が中国の解釈では沖縄には合法的主権がないのだ。そして、元々の琉球王国の時代より、中国は沖縄諸島に主権を有している」
中国人による沖縄県への認識
琉球処分

「欣怡姐姐、楊少校、それは外交上の理由ですが、具体的に今回の侵攻作戦ではどう侵攻の理由をつけるのでしょうか?」

(15)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島Ⅹ

★楊少校の居室、解放軍海軍旗艦龍虎山(Longhushan)艦上Ⅱ、石垣島侵攻開始5日前

「ヨンス(金少尉)、そんなものは後付でいくらでも説明ができるわ。国際裁判所などが我が中華人民共和国にあれこれ指図できるわけはないわ」
 ただ、一応は、国際法も使わないと。まず、
 領海は、領海の基線からその外側12海里(約22km)の線までの海域で、沿岸国の主権は、領海に及ぶわよね?ただし、すべての国の船舶は、領海において無害通航権を有する。領海は、沿岸国の基線に沿う一定の幅(「国連海洋法条約1982年4月30日採択」では、基線から12海里をこえない範囲)の帯状の水域。陸上の領土の従物としての海。まさに、領土の一部よね。
 次に、接続水域は、領海の基線からその外側24海里(約44km)の線までの海域(領海を除く)で、沿岸国が、自国の領土又は領海内における通関、財政、出入国管理(密輸入や密入国等)又は衛生(伝染病等)に関する法令の違反の防止及び処罰を行うことが認められた水域。
 領海の侵犯は国家主権への挑戦だそうよ。我々の知ったことではないけどね。領海内では、一定の条件のもとに無害通航権を認めているけど、沿岸国の立法管轄権、執行管轄権が全面的に及ぶ。
 
 しかし、海は陸と違って、たとえ領海内であっても、船舶の航行にとっては必要不可欠な『道』。ここを閉ざされては世界の自由な交易や交流はできない。そこで、海洋法条約19条により、外国船舶に対し、無害通航権を認めている。
 無害通航のためだけに認められるのだから、通航は、平穏に、しかも、継続的かつ迅速でなければならない。そして、停泊、投錨は、通常の航海に付随するか又は不可抗力若しくは遭難により必要とされる場合又は危険若しくは遭難に陥っている人、船舶若しくは航空機を援助を与えるために必要とされる場合に限り、通航に含まれると定められている。したがって、海洋法条約18条2項により、航路は沿岸に沿って進むことになるが、内水に出入りする場合は、当然、沿岸国の港湾施設に向かって航行することが認められる。
領海侵犯に対する権力行使
自衛権行使における武力紛争法の適用
「沖縄と宮古島の間の宮古海峡の距離は約300キロ。領海外、接続水域外でもある。だから、この海峡は当然、外国船舶に対し無害通航権が認められる。ただ通過するだけなら。だから、台湾侵攻部隊の第一艦隊は台湾海峡を、こちらの第二艦隊は宮古海峡を目指す。そして、第一艦隊からは与那国島侵攻艦隊が東に転進、第二艦隊の石垣島侵攻艦隊と宮古島侵攻艦隊は西に転進する。領海外、接続水域外ギリギリで航路を取る。手間がかかるけど仕方がないわ。そして、与那国島、石垣島、宮古島正面の接続水域外で航続距離の短いホバーを出す。726型エアクッション揚陸艇だ。仕様は、
 満載排水量:170トン
 全長 :33.0メートル
 最大幅:16.8メートル
 主機:UGT 6000ガスタービン×2基か、QC-70ガスタービン×2基
 推進器:シュラウド付き大型プロペラ×2軸
 速力:40ノット (74 km/h)
 航続距離:370キロ
 搭載能力:兵員250名、または重量約60トンの貨物
 乗員:2名以上
 車両甲板長:28.8m
 車両甲板幅:7.2m
 我々の071型揚陸艦726型エアクッション揚陸艇を4隻積載できるから、与那国島部隊の071型揚陸艦1隻で千名、石垣島、宮古島部隊の071型揚陸艦2隻ずつで各二千名を運べる。接続水域44キロは、速度74キロで36分で走破可能。
 
 そこで、726型エアクッション揚陸艇が18分で接続水域を突っ切り、領海内に侵入。陸地までは残り18分。バカな海上保安庁巡視艇、護衛艦、空自の哨戒機、ヘリなどは領海侵入を通告。五度くらいするはず。それで威嚇射撃をする。その威嚇射撃の弾幕にわざと突っ込ませる。1隻だけでいい。これで、最初に敵対行動を取ったのは日本国だと言い張れるのさ。相手は、海上保安庁、防衛省、首相官邸などの腰抜け共に確認や承認をしている間に、我が揚陸艇は岸に乗り上げ、陸戦隊と陸戦車輌を上陸させられる。
 
 専守防衛とか、憲法九条とか言っているバカはこうなる運命だ。上陸作戦は逐一ビデオにとって、都合のいい部分だけ編集して、中国国内放送、海外放送、Youtubeで全世界に流してやるのさ。本来の我が第一列島線の中の沖縄列島を違法に占拠し続けている日本国から我が国固有の領土を奪還する、ということ。
 
 上陸後は、余計な民間人は日本政府に引き取らせて、占領区域は、敵レーダー基地、レーダー車輌、ミサイル基地、空港、港湾施設のみとする。その他の民間区域は放置しても問題ない。なにせ、沖縄よりも寧波の方が近いくらいさ。
 
 在日米軍は、沖縄本島の自分らの基地のある区域が攻撃されなければ、事を荒立てたくないはず、中国に対する戦闘行為はしないだろう。武器供与程度はするかもしれないが、南西諸島に手を出してはこない。
「とこういうように当作戦は進行するというわけだよ」と楊少校。
「お姉さま、素晴らしい構想ですわ。きっとうまくいきます。これで、お姉さまは二階級特進、大校(大佐)間違いありません!もしかすると、少将に任官されるかも!」と金少尉。

「おや、おまえもそう思うかね?北京で政治指導部入りも夢じゃないよ。そうしたら、ヨンス、おまえも引き立ててあげるからね。私についてくるんだよ」
「もちろんですわ、お姉さま」
「さあ、上海で調達した新しいオモチャがあるんだろう?それを試そうじゃないか?」
「そうでした!新しいオモチャはですね、まず、この」と言ってチューブを自分のポーチから取り出した。「媚薬クリームです。膣に塗り込むと十数倍感度が上がります。それから、そろそろお姉さまの後ろの穴も開発いたしませんと。浣腸もあります。これは麻酔軟膏です。痛くないように。それで肛門拡張用に振動アナルプラグを買いました。少しずつ拡張するので小型から揃えましたわ。首、手首、足首の拘束具とムチも!」
「おおお!ヨンス、すごいじゃないか!」
「まずは、私が試しませんといけませんので、既に浣腸はいたしました。媚薬クリームも塗り込んで、振動アナルプラグもつけてあるんですよ」
「だから、ブブブという音がしていたのかい?」
「無線リモコンがありますから、お姉さま、私を虐めてくださいませ」
「おおお!たまらないね!ヨンス、私にもやっておくれでないか?」
「あら?私を虐めるよりも先に?」
「最近、おまえを虐めるよりもおまえに虐められる快感のほうが高くなったのだよ」
「そうでしたの?わかりました!お姉さま、四つん這いになって、お尻を持ち上げて!自分でお尻を広げて御覧なさい・・・そうですわ・・・お姉さま、恥ずかしい肛門が丸見えですわよ?」
「あああ・・・」
「じゃあ、まずは軟膏を・・・では、浣腸を・・・あらあら、何本も入りますわね?」
「・・・ヨンス、トイレに・・・」
「ダメですわ。我慢なさい!じゃあ・・・麻酔クリームを塗って・・・一番小型の振動アナルプラグで出ないように蓋をして差し上げますわ」
「・・・ああああああ・・・なに、これ・・・」
「フフフ、お姉さま。お姉さまは、今は私の可愛い奴隷。我慢していて下さいね。もう少ししたら、トイレに連れて行って差し上げますわよ。それで、私の見ている前で恥ずかしいものを垂れ流すんですわよ」
「・・・ア~、ア~、ア~・・・」
 ちょろいもんだ、これでしばらくは体で楊少校をつないでおけるだろう。まったく、ババアの脱糞なんて見たくもないが、仕方がないわ。でも、最近、このババアが可愛く思えてきた。情が移ってきたのかしら?
 
 可愛いついでに、ベッドに首、手首、足首の拘束具で縛り付けて、うつ伏せにして、尻をムチで引っ叩いてやりましょう。あれ?猿轡・・・いいわ、私がさっきお漏らししたパンツを噛ませてあげましょうね。この前、オシッコを飲ませたらよがっていたし、お好きなのかしら?
 さぁって、人民解放軍が勝てばいいけど、これだけ戦力をナーニャに伝えたんだし、五分五分かしら?
 
 こっちが負けたら、いつ逃げ出しましょうか?
 
 でも、どこへ?
 
 エレーナ少佐、受け入れてくれるかしら?
 
 私のような悪女を?
 
領海侵犯に対する権力行使
自衛権講師における武力紛争法の適用

★陸上自衛隊与那国駐屯地

 与那国島は東西に長いサツマイモのような島である。
 面積28.95平方キロで、小笠原諸島の硫黄島や父島より若干大きい程度だ。人口約1,700人、年平均気温23.8℃、年間降水量2,353.6mm。石垣島からは約127キロの国境の島で、台湾(中華民国)宜蘭県蘇澳鎮までは約111キロしかなく、年に数回晴れて澄んだ日には、水平線上に台湾の山々を望むことができる。島は東西に細長く、ちょうどサツマイモのような形をしていて、起伏は激しい。自転車で3~4時間で一周が可能な大きさだ。

 日本最西端の島であり、東京からの直線距離は約2,000キロメートルを超え、日本の領土の中で東京から最も離れた島である。安全保障上重要な位置にあるため、2016年に陸上自衛隊の与那国駐屯地が開設されて沿岸監視隊が配備された。自衛隊員とその家族320人が移り住み、人口の20%近くを占めるようになった。
 
 沿岸監視隊は陸上自衛隊に所属し、日本の沿岸を航行する船舶の情報収集を主任務とする。任務は情報収集であり国境警備隊ではない。侵攻してきた敵の迎撃は他の部隊が行うため、武器は隊員および装備品を防護するための小火器のみである。隊長は2等陸佐で与那国駐屯地司令を兼務する。
 
 島の北岸の中央に2千メートル級の与那国空港がある。空港の滑走路の東側の先にフェリーターミナルがある。与那国町役場はそこから約500メートルの市街地中心にある。
 
 陸上自衛隊与那国駐屯地は、島の西岸にあり、町役場から約9キロ、車で15分程度の距離にある。
 
 島は東西約12キロ、南北約4.5キロ。島の平地は北岸に集中していて、南岸には一部しか平地がない。島南部はほぼ丘陵地帯になっている。島で最も標高の高いのは宇良部岳で231メートル。
与那国島
沿岸監視隊 (陸上自衛隊)

 紺野、エレーナたちは島の空港近くの祖納港フェリーターミナルにオスリャービャとペレスヴェート、ポモルニク型エアクッション揚陸艦一号艇と二号挺で与那国島に到着した。
 
 畠山、広瀬は、島の西岸、陸上自衛隊与那国駐屯地から500メートルの久部良漁港に三号艇と四号挺で到着した。
 
 久部良港フェリーターミナルで、ポモルニク揚陸艦一号艇と二号挺は全面デッキを開き、沖縄から搬送してきた機材を積み下ろす。港には与那国駐屯地司令の河野2等陸佐(二佐、中佐)が出迎えに来ていた。
 
「迎えに参りました。与那国駐屯地司令の河野二佐であります」と敬礼をした。畠山が答礼する。「水陸機動団石垣島臨時分遣隊の畠山三佐であります!こちらが水陸機動団の副司令の広瀬二尉であります!そして、こちらが防衛装備庁の・・・」
 南禅が「畠山、顔見知りだよ。河野ちゃん、お久しぶりね」と言った。河野がなぜか顔を赤らめる。「南禅二佐、羽生二佐、お久しぶりであります!」と言う。
 
「まあ、他人行儀なこと。私を忘れちゃった?」と南禅。
「南禅、こんなところで・・・あの・・・なんだ、後で・・・」と河野。
 畠山が「羽生さん、なんすか?この二人?」と羽生に聞いた。「あ~、この二人はね、一時期恋人だったんだよ」と羽生。「ほぉ~、南禅さん、モテるんですね?」「外見はこの通りだから、そりゃあモテるよ。紺野も同じだ。しかし、中身は魔女だ。みんな後で気づくんだよ。エレーナがよく言う体の相性とか、ありゃあ、片手落ちだよ。性格、生活習慣の相性だってあるわけで・・・」
 広瀬が「羽生さん、私とソーニャは両方ともバッチリですよ!」と言う。「ま、割れ鍋に綴じ蓋。お互い補完して生きていくってことだ。それがうまくいかないと離婚になるわな」
「羽生!くだらん話はいいから、本題に入ろう!」と南禅が言う。何を言ってやがる?自分は『私を忘れちゃった?』なんて言っていて。
「よし、河野、本題だ。東京から連絡は来てるな?」
「統合幕僚監部双方から連絡があった。事情は理解している。しかし、そんなに事態が急変しているなんて思っても見なかった」
「そりゃ、そうだ。こっちも諜報情報が入ったのはここ数日のこと。ただし、東ロシア共和国経由で寧波の指令部高官の直接情報が入っているから確度は非常に高い。つまり、ここ数日内に起こる、ということになる」
「そうか。まったくなあ。独身だからちょうどいいと言われて与那国島に赴任、住心地も良く満足してたんだけどな」
「遅かれ早かれこの島はこういうことに巻き込まれる運命だった。地政学的にこれほど台湾に近いんだからな。さて、」
 この与那国駐屯地は、沿岸監視任務だ。任務は情報収集。国境警備隊じゃあない。武器は隊員および装備品を防護するための小火器のみ。ということで、敵の海上戦力、航空戦力、陸戦隊が押し寄せてきたら、島民の保護、島のインフラ防衛はおろか自分らも守れない。
 
 大事なのは、遠隔操縦観測システム、通信情報収集システムの保護だ。敵に取られる訳にはいかない。それで、畠山、広瀬の水陸機動団400名を配置することとした。広瀬の部下の三尉を隊長として、河野の指揮下につける。
 
 で、沖縄経由でいろいろと装備を持ってきた。与那国駐屯地は3.5、1.5、半トントラックと高機動車しかあるまい。銃だって旧式の89式5.56mm小銃だろう?
 
 新小銃20式5.56㎜小銃にアドオン式グレネードランチャー、イタリアのベレッタのGLX160 A1を装着した銃二百丁、グリップと銃床を装着した単体のGLX160 A1百丁を持ってきた。通信士官だろうが、水陸機動団と一緒に戦闘してもらわないといけないからな。
 
 それから、沖縄から分捕ってきた87式偵察警戒車3台、96式装輪装甲車(ロシアのタイフーンL相当)8台。
 
 さらに、佐世保から沖縄に運んできた、03式中距離地対空誘導弾2輌、12式地対艦誘導弾1輌とその他車輌だ。沖縄の奴ら、本島の防衛はどうする!とかほざいていたが、バカ野郎!前線は、与那国、石垣、宮古であって本島じゃねえだろ?と言って、こっちに追加配備することにした。
 
 海上戦力は、フリゲート護衛艦FFMくまの、潜水艦SS508せきりゅう、それから、ロシアのポモルニク揚陸艦四号艇を配置する。航空戦力は未定だ。今、空自の鈴木三佐がかき集めている。
 
「羽生、与那国町議会や沖縄県議会の承認が・・・」
「日本国民、日本国土のために憲法、民主主義はある。逆じゃない。このような非常時に民主主義的手続きをとっていたら、手遅れになり本末転倒だ。何も敵基地攻撃に使おうというんじゃない。敵の侵攻作戦の阻止に使おうと言うんだ。大丈夫だ。これら兵器の持ち込みは、首相官邸、統合幕僚監部が根回ししている。さらに、与那国町議会は紺野二佐がこれから町長らに説明する。島民退避の事態に町民、町議会なんて言っていられないだろう?」
「了解だ!・・・って、ちょっと待て!あそこに居るのはマスコミじゃないか!」
「ああ、あれはテレ◯の取材クルーだ。卜井アナ、藤田アナ、佐々木カメラマン、佐渡ヶ島で有名だろう?彼らは我々のチームだ。心配ない。無統制な報道の自由を行使しないという協定を結んでいる。俺たちとは佐渡ヶ島以来の戦友だよ」
「さて、そこでだ、河野、キミの部下を二班に分け、ちょっと沖合に出て、ポモルニク型エアクッション揚陸艦一号艇で訓練をしてみたいと思う。取り扱い注意の兵器があるんでね。地平線の向こうに出て試さないといけない代物なんだ」

★与那国島南西の沖合

 揚陸艦一号艇の艦上で羽生が単体のGLX160 A1に装着した2種類のパイクミサイルを河野に見せた。「これだ」
 羽生がパイクミサイルをランチャーの尾部から装填した。「なんだね?それは?おかしなグレネードだ。ランチャーの先端から弾体がからはみ出している」と河野。
★パイクミサイル
「これは、アメリカのレイセオン製パイクミサイルだ。標準の40mmグレネードランチャーから発射できる小型のレーザー誘導ロケットだ。スペックは、全長:427㎜、重量:770g、直径:40㎜、射程距離:2,000m。通常のグレネードの6~10倍の射程距離だ。なぜならロケットモーター内臓だから。発射後、2、3メートルでロケットモーターに着火する仕組みだ。固定および低速度で移動する中距離目標を攻撃可能。例えば海面を移動するホバークラフトとかだな」
 このミサイルはレーザー誘導が可能だ。デジタル式セミアクティブレーザーシーカーを使用する。1人の兵士がターゲットを指し、別の兵士がこいつを発射して、目標に誘導する。
 
 河野、レーザーシーカーを操作してくれ。この操作モニターにあるモード1は通常炸薬のパイクミサイル。レーザーシーカーの標準そのままで誘導される。
 
 羽生は曳航していた標的ブイ2つを離させて、艦を1キロほど後退させた。
 
「河野、どうだ?シーカーを標準したな?」「オッケーだ」「じゃあ、発射する。3、2、1・・・」
 パイクミサイルはランチャーを離れると数メートルの軌道を飛んだあとロケットモーターに点火した。速度を上げたミサイルは数秒で標的ブイに命中した。普通のグレネードよりも多少爆発力が大きいようだ。標的ブイは粉々になった。
 
「これは普通のグレネードランチャーよりも射程が長い。上陸を目論む敵の舟艇やホバーに有効だ」「まあ、そうだ。次に、レーザーシーカーのモードを2にしてくれ。モード2はレーザーシーカーの標準20メートル上空で爆発するように設定してある。そしてこれが」と河野に同じようなパイクミサイルを見せた。「これが炸薬の代わりに燃料気化弾を詰めたもの」「燃料気化弾?って、それは・・・」「まあ、いいから、標準しろ。じゃあ、発射する。3、2、1・・・」
 標的ブイの頭上、20メートルでパイクミサイルが爆発した。燃料が気化して直径60メートルほどの蒸気雲が広がったかと思うと着火されて、普通のグレネードの数倍の大きさの爆発雲となった。その雲はしばらく消えない。十数秒続いた。標的ブイは通常炸薬の比ではなく、衝撃波で吹っ飛んで水面下に消えた。

画像

「なんだ?これは?あんな爆発雲の大きさだと、かなりの大きさの上陸用舟艇やホバーでもいちころだぞ?乗員も・・・」
「ああ、爆発雲が目標の直上で炸裂すれば、上陸用舟艇やホバーの乗員も瞬時に死亡する。北朝鮮や米軍のものは酸化エチレンと酸化プロピレンを使用している気体爆薬だが、これはナノ粒子以下の超微粒子のマグネシウムとアルミニウムも添加してある。だから、正確には気体爆薬の燃料気化爆弾とサーモバリック爆薬のハイブリッドだ。爆発力は、北朝鮮や米軍の燃料気化爆弾の2倍程度になる」
「おいおい、相当物騒だぞ、これは」
「だから、通常炸薬とこれと比較して撃ってみせた。諸君」と羽生はこの光景を見ていた与那国島駐屯隊員と畠山の部隊隊員に向かっていった。「通常炸薬かこれか、どちらを使用するかは、諸君の上官が指示する。見ての通り殺傷能力は甚大だ。爆発蒸気雲の直下では、敵兵器は甚大な損傷を受ける。敵兵士は衝撃波と無酸素で即死する。よって、我が方の海上航空戦力が敵艦を撃ち漏らし、敵の陸戦戦力が上陸を敢行しようとする時に使用して欲しい。あるいは、敵陸戦戦力が接近し、我が方の戦力、兵器を奪取される危険にある時使用して欲しい。判断は貴官らに任せる。敵は我が方に倍する勢力で向かってくるだろう。普通兵器の防衛体制では我が方の不利は免れ得ない。現状の事態は演習と異なる。実戦、戦争である。心してくれたまえ。以上だ」
西部方面情報隊
※主要装備
 遠隔操縦観測システム
 通信情報収集システム - ES用器材
 1/2tトラック/73式小型トラック
 1 1/2tトラック/73式中型トラック
 3 1/2tトラック/73式大型トラック
 高機動車
 89式5.56mm小銃
次世代兵器 「レールガン」 防衛省が本格開発へ 極超音速兵器迎撃、対艦攻撃の切札として実用化を目指す

★与那国町役場

 いやぁ、最近、佐世保からわざわざいつも自衛隊の駐屯の調整をしに来てくれるこの紺野さんという女性、いつも思うがアラフォーだろうけど凄い美人だよなあ、東京からくる観光客なんてレベルじゃないな、と町長は思った。おまけに今日はあのテレビに出ていたロシア軍の美人の少佐が一緒だよ。
 
 でも、佐世保の営繕の事務職なんだからなあ。まさか、沖縄県知事や首相官邸のあの話じゃないよなあ・・・

総集編Ⅰ
総集編Ⅱ
総集編Ⅲ
総集編Ⅳ


島崎藤村 - 椰子の実

島崎藤村作詞・大中寅二作曲

名も知らぬ 遠き島より
流れ寄る 椰子の実一つ

故郷(ふるさと)の岸を 離れて
汝(なれ)はそも 波に幾月(いくつき)

旧(もと)の木は 生(お)いや茂れる
枝はなお 影をやなせる

われもまた 渚(なぎさ)を枕
孤身(ひとりみ)の 浮寝(うきね)の旅ぞ

実をとりて 胸にあつれば
新(あらた)なり 流離(りゅうり)の憂(うれい)

海の日の 沈むを見れば
激(たぎ)り落つ 異郷(いきょう)の涙

思いやる 八重(やえ)の汐々(しおじお)
いずれの日にか 国に帰らん


マガジン『エレーナ少佐のサドガシマ作戦』


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