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アニータ少尉のオキナワ作戦(14)、石垣島Ⅶ、石垣島侵攻開始5日前

 私は軍事の素人です。ですので、ザッと調べただけです。しかし、驚いたのが、与那国島、石垣島の港湾の水深が浅く、どうも自衛隊の大型輸送艦が着岸できなさそうということ。

日米台湾/中露北朝鮮、十二面将棋、「主体的な対抗策」はわかったが、誰か「具体的な対抗策」を説明してほしいもんだよ。で書きましたが、

そんな状況で、最初の一発がわが国に着弾したときの対応は大丈夫か」と問うと、「防衛当局は、常にあらゆる事態のシミュレーションをしている」という短い答えが返ってきた。

 本当に「防衛当局は、常にあらゆる事態のシミュレーションをしている」のでしょうか?

 十話までの総集編はこちらから。
 アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅰ(1)~(5)
 アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅱ(6)~(10)
 
アニータ少尉のオキナワ作戦(11)、寧波(ニンポー)Ⅰ
 アニータ少尉のオキナワ作戦(12)、寧波(ニンポー)Ⅱ
 
アニータ少尉のオキナワ作戦(13)、石垣島Ⅵ
 アニータ少尉のオキナワ作戦(14)、石垣島Ⅶ

 過去アップした「エレーナ少佐のサドガシマ作戦」は、
エレーナ少佐のサドガシマ作戦、時系列
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石垣島侵攻開始:Dディ

アニータ少尉のオキナワ作戦(14)、石垣島Ⅶ、石垣島侵攻開始5日前

前回の話(13)
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アニータ少尉のオキナワ作戦(13)、★再び富田のアジトの一軒家、石垣島侵攻開始5日前朝、(前回までのお話)

「みんなに報告するが、内閣情報調査室から転属になって、防衛省統合幕僚監部所属になり、今回のオペの統合任務部隊の指揮官に就任した。統合任務部隊は、陸自水陸機動団、航空自衛隊、海上自衛隊、及び駐留東ロシア共和国軍で構成される。副指揮官はエレーナ少佐とする、ということになっちゃってね」
「何が『ということになっちゃってね』だよ、紺野。どうせ、裏で手を回したんだろう?」と南禅。
「公美子、人聞きの悪い事をいいなさんな」
「どうせ、防衛大臣にねじ込んだんだろう?だから、上から嫌われるんだよ」
「レールガンを勝手に持ち出すようなあんたに言われたくないね。防衛大臣と統合幕僚長に南西諸島に通宵していて、陸海空自衛隊をまとめて、ロシア軍と相談できる人間がどこに居るっていうんだ?第一、こんな任務の指揮官、自発的にやりたい人間なんて自衛隊に居ないよ、って言っただけだよ」
統合任務部隊(自衛隊)

「脅しじゃないかよ?第一、敵国の南西諸島侵攻作戦に対抗する統合任務部隊の指揮官は、一佐クラスだろうに?」
「その一佐クラスの人間が軒並み辞退してるんだから、仕方ないだろうに!公美子!私が指揮官だからね!私の指示は聞いてもらうよ!」
「ああ、ああ、いいですとも!美千留(みちる)、各部署の調整とか政治は任せた!私は技術者で科学者だからね」

「紺野二佐、名前が美千留っていうんだ?可愛い名前だよな。南禅二佐も公美子なんだ。名前で呼ぶと迫力ないじゃん?」と鈴木が広瀬に言った。「そんなことより、三佐の奥さん、正式な日露統合任務部隊の副指揮官に就任しちゃったんですよ?」「・・・俺の立場はどうなるんだろうね?サドガシマ作戦でも日本とロシアの連絡将校だったし。全然活躍してないじゃん?」

★畠山三佐、侵攻5日前

 遅れて畠山三佐がマンションに到着した。鈴木三佐の同期で、今回、千名の水陸機動団を率いて石垣島に赴任してきた。鈴木三佐が畠山三佐に今までの紺野二佐の報告を耳打ちして説明した。

 ソーニャ准尉が畠山に飲み物を渡す。「あ!ありがとう!可愛い子ちゃんだ!私は畠山三佐。鈴木三佐の大学の同期なんです。今回、広瀬二尉の上官として水陸機動団を指揮することになりました」と彼女に言った。
 
「畠山三佐、よろしくお願いいたします。私はエレーナ少佐指揮の東ロシア共和国軍石垣島派遣部隊のソーニャ准尉と申します・・・あ、あの・・・」
「ハイ?」
「あのですね・・・今、言われた広瀬二尉と、私、こ、婚約しております!」

「ひ、広瀬と?婚約?・・・鈴木!早くしないと、ロシア軍の可愛い子ちゃん、みんな自衛隊員が取っちゃうじゃないか!俺にも紹介してくれ!おまえの嫁さんの部下の誰かを紹介してくれ!」
「・・・おまえな、声が大きい。あのな、任地を結婚紹介所と勘違いしていないか?」とヒソヒソ声で言う。

「佐渡ヶ島でエレーナ少佐を捕まえたおまえに言われたくない!エレーナ少佐とソーニャ准尉の他にも三人もロシア軍女性がいるじゃあないか?」

「あ、ああ、あのな、窓際の二人は・・・」
「ものすごい美人じゃないか!」
「彼女たちは、本間スヴェトラーナ、土屋アニータ、両者とも少尉で、日本人の既婚者だ!」

「クソっ!あ!あの子は?」
「彼女はカテリーナ伍長。相手はいないようだが、18才だぞ!おまえよりも10才年下だ!」
「誰かいないのかよぉ?」
「後でエレーナとスヴェトラーナ、アニータに聞いといてやるから、静かにしろ!会議中だ!」
「・・・」

 鈴木と畠山の話を小耳にはさんだエレーナが「ヒロシ、私の従姉妹のアレクサンドラってのがいるのよ。ウラジオ勤務の空軍なんだけど。彼女ならそのゴリラさんにうってつけだけど、ウラジオだからなあ。こっちに呼ぶわけにもいかないわね。私の部隊の女性兵士で年齢的にゴリラさんに似合う人がいれば紹介するけど・・・」と耳打ちした。

「エレーナ、畠山に女性を紹介してみろ。みんな壊されちゃうぞ!か弱い女性じゃダメだ。ソーニャとかカテリーナタイプじゃあ、ひと晩で破壊される」「そんなすごいの?」「すごいなんてもんじゃない!」「あら?私でも?」「エレーナ、なんてことを!いや、キミでもダメだよ」「じゃあ、アレクサンドラしかいないわね。ゴリラさんには雌ゴリラがお似合いよ」「・・・」

★紺野二佐の激怒、侵攻5日前

 畠山の部隊千名は、空自のC-1輸送機、民間の貨物船、借り上げたフェリーで佐世保、沖縄から到着している。そんな兵員、兵器、燃料、消耗品、機材、食料品などの兵站は、ましゅう型補給艦おおすみ型輸送艦で輸送すればいいではないか?と安易に考えていた。
 
 ところが、驚くべきことに、ましゅう型補給艦の喫水は8メートルおおすみ型輸送艦の喫水は6メートルであり、石垣島の離島フェリーターミナルに入港できないのだ。慎重に操船すればまったくの不可能ではないが、石垣島の正面の竹富島との間の水路は浅瀬になっており、座礁の危険が高いという検討結果だった。
竹富南航路整備事業、再評価資料

 自衛艦でせいぜい使用できるのが輸送艇1号型なのだが、二隻しか建造されておらず、一号艇は既に除籍、二号艇じゃ横須賀地方隊所属で12ノットの鈍足では間に合わない。

 オスリャービャとペレスヴェートの喫水は3.6メートルで入港可能である。現に岸壁に接岸している。しかし、これまた18ノットの鈍足。

 仕方なく、兵員輸送にロシア軍のポモルニク型エアクッション揚陸艦を使うことになった。一号艇から四号挺までの四艦全部を昨日沖縄に派遣した。

 ポモルニク型エアクッション揚陸艦の航続距離は55ノット(時速88キロ)で航続距離540キロ離島フェリーと那覇の距離が410キロなので、約5時間。片道なら燃料は足りる。

 短距離で兵員だけなら1隻で360名は乗せられる。あるいは、戦車3輌か、1輌と兵員140名、歩兵戦闘車8輌と搭乗員80名、軽装甲車両10輌という積載量である。一号艇から四号挺まで使って、最大1,440名1日で畠山の兵員千名は輸送可能である。

 この港湾、艦艇の喫水問題を知った紺野は激怒した。防衛省統合幕僚監部の三佐を怒鳴りつけた。「何が南西諸島防衛のシミュレーションはやってますだ!この港湾整備状況では、自衛隊の大型輸送艦は使用不可能、中型・小型輸送艦は不足か遠距離で緊急展開に使えない!統合幕僚監部は兵站を考えていないのか?まさか、宮古島、与那国島も?」

「紺野二佐、宮古島の平良港は2018年から水深10メートルの貨物岸壁を持っています」
「与那国島は?」
「・・・第一バースが5.5メートル、第二バースが4.5メートルであります!」

「じゃあ、石垣と同じく、喫水8メートルのましゅう型補給艦、喫水6メートルのおおすみ型輸送艦は接岸できないってことだな?だから、喫水の浅いオスリャービャとペレスヴェート、ポモルニク型エアクッション揚陸艦をロシア軍から調達したってことか!この馬鹿者共め!ましゅう型補給艦でなくとも補給艦さがみ補給艦とわだがあるだろ?私は空自だから詳しくないが?」

「補給艦さがみは除籍されています。・・・補給艦とわだ型は、とわだは呉港に、はまなは佐世保におります。ときわは横須賀です。いずれも喫水8.1メートル、石垣には着岸できません!」

なあにがシミュレーションだ!兵站はシミュレーションに含まれていないってことか?じゃあ、与那国島、石垣島、宮古島の島民の緊急避難はどうするつもりだったんだ!
「それは・・・今まで地方自治体にまかせておりまして、最近になって防衛省でも検討し始めたところです!

「検討も何も自衛隊の艦船もなくって何が検討だ!民間のフェリーや貨物船任せか?何日かかると思ってるんだ!」
「紺野二佐、小官も最近統合幕僚監部に転属になりまして・・・」

「貴官に文句を言っても仕方ない・・・やれやれ・・・もがみ型護衛艦は寄越せるんだろうな?」
「もがみ、くまのは横須賀から石垣海域に向かっております・・・喫水は9メートルなんですが・・・のしろは正式就役が今年12月ですが、それは無理を言いまして、明日横須賀を出港いたします!」

横須賀から石垣まで2千キロ・・・最大船速30ノット(時速48キロ)で42時間・・・沖縄で燃料補給をするとして、少なくとも2日間かかるわけだな」
「その通りであります!」

「もう、わかった!・・・そうだ!佐渡ヶ島にまだポモルニク型エアクッション揚陸艦が10隻以上駐留しているな?それを東ロシア共和国に言って何隻か借り上げろ!航続距離540キロだから、そこここで燃料を補給しなければならないが、燃料補給可能な限りこっちに持って来い!
「紺野少佐、その稟議書が・・・
「バカ野郎!防衛大臣、統合幕僚長に言っておくから、貴官が適当に作っておけ!ロシア軍への根回しは私がしておく!臨機応変に行動するんだ!わかったか?
「了解であります!」
平良港 港湾計画一部変更
祖納港 (与那国町)
海上自衛隊の補給艦

★人民解放軍の侵攻経路、侵攻5日前

 紺野が「スヴェトラーナ、アニータ、カーテンを閉めて。ソーニャ、カテリーナ、部屋の照明を消して頂戴」と指示する。部屋の壁に120インチのプロジェクターで九州南部から台湾本島北部までの地図を映し出した。

「まず、敵の海軍は寧波の舟山海軍基地から出撃してくる。空軍は、福州空軍基地(Fuzhou Air Base)。J-20(殲20)やJ-31(殲31)の編隊が来る」

  • 中国寧波:与那国島と約640キロ(直線距離)、石垣島と約680キロ(直線距離)、宮古島と約660キロ(直線距離)

  • 中国福州:与那国島と約410キロ(直線距離)、石垣島と約530キロ(直線距離)、宮古島と約610キロ(直線距離)

直線距離にするとこれくらいだ。
ジャンカイ級フリゲート艦
中国、空軍基地
Googleマップで見る軍事的スポット

 寧波からの海軍は、宮古海峡を通過すると見せかけて宮古島、石垣島を攻撃するだろう。これを第二艦隊と仮に呼ぼう。与那国島は攻撃時間を合わせるために台湾攻略の第一艦隊と一緒で、台北沖合約150キロから別れて与那国島を攻撃すると思われる。

 海軍艦艇は、宮古海峡手前から西に転進するので、航路は約800~900キロ、寧波舟山海軍基地出港から二十数時間で各島に到達する。

 空軍戦闘機は、福州空軍基地から25~40分で各島に到達する。

「いかに、中国本土と南西諸島が近いか、沖縄本島とあまり距離的に変わらないか、わかってもらえると思う」

 エレーナが「紺野二佐、敵は尖閣諸島を無視するんですか?敵艦隊と戦闘機の航路上に尖閣諸島がありますけれど?」と紺野に聞いた。

「今、尖閣諸島を攻略したとしても、インフラがない岩山だ。上陸部隊の兵器、武器弾薬、燃料。消耗品、食料など、1日十数トンの兵站を確保する必要がある。インフラもなく、自衛隊の03式中距離地対空誘導弾、12式地対艦誘導弾に相当するミサイルも持ち込まないといけない。中国の艦艇が近寄れば海自の潜水艦の餌食になる。だから、南西諸島が先だ。尖閣諸島など南西諸島が攻略できれば、いつでも占領は可能。優先順位が低いのだ」

「紺野二佐、同感であります。侵攻、攻略のみではなく、重要なのは維持であります。では、我々の防衛の優先順位は?」

「宮古島は別働隊を配置すると防衛省統合幕僚監部は言っている。その配置する時期が問題だと思っている。果たして、彼らの侵攻前に準備ができるのかどうか。だから、我々は宮古島も考慮しなければならない」

 しかし、問題は与那国島だ。最も台湾本島に近い。

 現在、与那国島には自衛隊沿岸監視部隊が230名常駐している。隊員、家族を合わせた人数は、与那国島の人口の約2割に当たる約320名。隊員を除いた元々の島民と隊員家族で約千五百名だ。石垣島とその周辺の島の人口は約5万人。宮古島とその周辺の島の人口は約6万人。面積は、与那国島、石垣島、宮古島がそれぞれ29、223、159平方キロ。

 自衛隊の戦力は、与那国島、宮古島それぞれで、230名の沿岸監視部隊、700名のミサイル部隊。石垣島は、ミサイル部隊600名と合わせて、水陸機動団1,400名、それにエレーナ少佐の部隊1,000名、合計3,000名。

 与那国島が最も脆弱、沖縄本島との距離も520キロ。石垣島420キロ、宮古島300キロよりも遥かに離れている。

★与那国島島民退避計画

「そこで、エレーナ少佐、畠山三佐、広瀬二尉、鈴木三佐、貴官らに指令がある」と紺野。「ハ!なんでありますか?」

「貴官らは、ポモルニク型エアクッション揚陸艦、一号艇から四号挺が沖縄から戻り次第、オスリャービャとペレスヴェートと共に与那国島に行って欲しい。名目は、東ロシア共和国軍と南西諸島島民との交流ということで、ロシア艦を島民に公開する。ロシアンフードをたくさん作って島民に振る舞うというイベントを組む」

「ハイ?」とエレーナが不審に思う。人民解放軍の侵攻が数日後に控えているのである。

「表向きはそういうことだが、実際の目的は、オスリャービャとペレスヴェート、ホバーで島民の避難を行うことにある。いつかはまだ判明していないが、数日後が侵攻開始日だ。そうしたら、自治体任せの退避計画では何日かかるかわからん。オスリャービャとペレスヴェート、ホバーで一気に退避させる。もちろん、私も行く。与那国島の首長や漁労長と顔見知りだから、佐世保の営繕課職員という話で根回しに行く。首相、防衛大臣、沖縄県知事などの根回しは事前にしておく」

「石垣から与那国島まで、ホバーなら片道2時間弱。1隻で360名乗船できるから、4隻で島民と自衛隊員家族は全員退避できるだろう。オスリャービャとペレスヴェートは鈍足だから、島民と自衛隊員家族の家財を積む」

「さて、そこで、畠山三佐、広瀬二尉は、与那国島の沿岸監視部隊の戦闘能力を考えて、島の防衛のために水陸機動団が何名必要か検討、ホバーに乗船させて、与那国島の防衛強化を行う。鈴木三佐は、与那国空港の設備確認と防衛計画を立てるために行って欲しい。今日ホバーが戻るはず。だから、今日出発する。滞在は明日から数日。敵の侵攻日次第だ。深夜に出港する。向こうを出るのが日没後の方が中国に探知されづらいからな」

 エレーナ少佐が「では、オスリャービャとペレスヴェートの指揮は、スヴェトラーナ、アニータが行う。ホバーの指揮は畠山三佐、広瀬二尉にお任せする。島民の接待なら、ソーニャとカテリーナが適役ね。私は・・・あら?紺野二佐、卜井さんたちも同行してもらって、取材をしていただきましょうよ?それで、私が取材を受けるという形で」

「お!それだ、それ。卜井さんたち、よろしいですか?」
「それは願ったりかなったりです。同行いたします」と卜井。

「ちょっと待った!美千留(みちる)・・・いや、紺野二佐、俺と南禅も同行させてくれ。ちょっと途中の海上で試射したいものがあるんだ」
「なんなのそれは?」と紺野。
「ホバーが沖縄から持ってくるはずなんだが、防衛装備庁で手配させた新開発の兵器があって、陸上での試射は問題だから、海上で試射したいんだよ。グレネードランチャーから発射できる小型ミサイルなんだが・・・」
「役に立つの?そんなもの?手榴弾みたいなもんじゃない?」と紺野。

★パイクミサイル

 羽生が「ちょっとみんなも聞いてくれ。説明する。ちょうど、サンプルを持ってきたんだ」と30年ぶりに更新された自衛隊の新小銃20式5.56㎜小銃にアドオン式グレネードランチャー、イタリアのベレッタのGLX160 A1を装着した銃、それにグリップと銃床を装着した単体のGLX160 A1をボストンバッグから取り出し、それらを持って立ち上がった。

「なんか、ジェームズ・ボンドのMI6のQになった気分だな」と羽生。「いいから、さっさと説明しろ!」と南禅。

「このベレッタのGLX160 A1、ちょっとおかしいだろう?」とエレーナに単体のGLX160 A1を渡す。「羽生二佐、この弾体はなんですか?40mmグレネードランチャーから弾体がはみ出しています。この弾体はかなり細長いんですね。変な形」

「これは、アメリカのレイセオン製パイクミサイルなんだ。標準の40mmグレネードランチャーから発射できる小型のレーザー誘導ロケットだ。スペックは、

全長:427㎜
重量:770g
直径:40㎜
射程距離:2,000m

 ロケットモーター内臓だから、射程距離は普通のグレネードの数十~数百メートルよりも遥かに長い。発射後、2、3メートルでロケットモーターに着火する仕組みだ。

 デジタル式セミアクティブレーザーシーカーを使用して、固定および低速度で移動する中距離目標を攻撃可能だ。このミサイルはレーザー誘導が可能だ。レーザー照準器を使用して、1人の兵士がターゲットを指し、別の兵士がこいつを発射して、目標に誘導する。

GLX160 A1|20式小銃と合わせて採用されたグレネードランチャー
世界最小クラス!レイセオンのパイクミサイル!
手乗りレーザー誘導ロケット「PIKE」をレイセオン社が開発
射程距離2km。グレネードランチャーから発射できる40mmミサイル「pike」

「エレーナ、沖縄から日本製のモーターバイクも到着する。これを佐渡ヶ島で北朝鮮がやったようにバイク隊を編成して、陸上戦での防衛力に当てるというアイデアだ」
「ああ、あれはこちらもかなり苦しんだ。こちらにバイクが有れば敵の陸戦部隊にかなりの打撃が与えられますね」
「そう、モーターバイクは百台ある。これを畠山三佐と広瀬二尉と相談して、与那国島、石垣島に配置してほしいんだ」

「それで、無反動砲(バズーカ)とか対戦車ロケット弾だとバイク隊が携帯するのは辛い。このパイクミサイルなら、バイク隊が携行する小銃にアドオンでGLX160 A1を装着すれば撃てる。バイクのパートナーにターゲットをシーカーさせればいい。とまあ、そういうわけでこれを装備庁で購入したんだが、前回のサドガシマ作戦で北朝鮮が使った燃料気化爆弾式グレネードで思いついたんだ。パイクミサイルの炸薬を燃料気化弾に変えてみたらどうだろうってね。それが改造型ってことだ」

「だからこれは普通のパイクミサイルじゃないんだ」とサンプルとエレーナに渡す。畠山と広瀬も覗き込む。

「燃料気化弾式パイクミサイル。沖縄の米軍射場で内緒で試射させてみた。これがそのビデオだ」とプロジェクターにパソコンを接続させてビデオを見せた。

 ボロボロの標的の装甲車の頭上でパイクミサイルが爆発した。燃料が気化して蒸気雲が広がったかと思うと着火されて、普通のグレネードの数倍の大きさの爆発雲となった。その雲はしばらく消えない。十数秒続いた。装甲車は衝撃波で吹っ飛んで横転した。

「羽生二佐、これは燃料気化爆弾(サーモバリック爆弾)、我が軍のTOS―1A兵器システムと同様、ジュネーブ条約違反ではないのですか?」とエレーナ。

「微妙なところだ。気化爆弾の使用は武力紛争法で厳しく規制されている。民間人を危険にさらしたり、不必要な苦痛を与えたりするような方法で軍事目標に対して使うことはできない。もしも、意図的に民間人に使った場合、ジュネーブ条約違反となる」

 ジュネーヴ諸条約追加議定書、第1追加議定書第2追加議定書を見てみると、『文民たる住民』に意図的に大量殺戮兵器を使用した場合は条約違反となる。TOS―1A兵器システムは大量殺戮兵器の範疇だ。燃料気化弾式パイクミサイルは大量殺戮兵器かどうかは微妙だ。

 しかし、TOS―1A兵器システムにしろ燃料気化弾式パイクミサイルにしろ、戦闘行為中に敵軍属の戦備、軍人に使用した場合は、文民たる住民が巻き添えにならない限り条約違反にはならない、とこう解釈した。

 こじつけかもしれんが、通常戦備、普通のグレネードを使用するなら近接戦闘となる。お互いの持っている携行兵器、装備の有効射程距離はせいぜい百数十メートルだから。だが、有効射程距離2キロの燃料気化弾式パイクミサイルなら、近接戦闘を避け、我が方の兵士の損耗を減らしつつ、敵の戦力をそぐことが可能なんだ。

「ただなあ、問題は、これを我が自衛隊が使用した時、例えば、畠山や広瀬の部隊が使用したとなると、核アレルギー、大量殺戮兵器という言葉にすぐ反応する日本国民の国民感情、憲法の制約があって、使いづらいんだよ。わかるだろ?」とチラッとエレーナを見る。

 察したのかエレーナがコクンと頷いた。「わかりますよ、日本の国情は。だから、この改造型パイクミサイルは我が軍が使用することにしましょう。貸与してもらうという形なり、我が軍がウラジオから持ってきた新兵器だとか言えばいいでしょう?」

「そんなことをすれば・・・」

「羽生二佐、ここで我が方が敗退すれば、元も子もなくなります。国土を失うという事態の前には仕方ないじゃないですか?敵がこの島を占拠したら、それこそ文民たる住民の被害が出る可能性が高い。ウクライナで起こっていることです。ましてや、こちらの現有兵力は、紺野二佐の予想だと、敵の6割でしょう?03式中距離地対空誘導弾、12式地対艦誘導弾を敵に奪取されたら、南西諸島全体が失われて、それこそ敵の第一列島線が完成してしまいます。それは断固阻止しないとなりません」とエレーナ。

「羽生二佐、このパイクミサイル、何発こちらに搬送されたんですか?」

「グリップと銃床を装着した単体のGLX160 A1が四百丁、新小銃20式5.56㎜小銃にアドオン式グレネードランチャー、イタリアのベレッタのGLX160 A1を装着した銃が八百丁ある。通常炸薬のパイクミサイル千発、燃料気化弾式パイクミサイル二千発だ。」

 装備庁が米国政府から緊急購入したから、米国は三千発のパイクミサイルを我が自衛隊が保有しているのは知っている。だが、二千発を燃料気化弾式に勝手に改造したのは知らない。むろん、レイセオンとの契約、アメリカ政府との合意書では、ローテクの範疇のこの兵器を改造するとかしないとかの許可の記述はないので、後で言い逃れは十分できる。

 アメリカも本音は、沖縄本島は防衛して介入するが、南西諸島に米軍基地はない。南西諸島で中国とことを構える気はないんだ。だから、アメリカは来ない。その負い目があって、結構、武器供与では無理を聞いてくれるんだよ。今回の調達も打診、発注から到着まで1週間だった。

「しかしなあ、エレーナ、国情を理由に貴軍を利用するような形になるんだが・・・」

「羽生二佐、グチャグチャ言わない。あなたの頭の中で、今まであなたが言ったことはなんども反芻されていたんでしょ?このストーリーを?それで、私があなたの案を飲めば、と何度も考えたんでしょう?よろしいでしょう。我が軍が人民解放軍に対して使用しましょう。ウラジオの許可も正式に取ります。我が方に20式5.56㎜小銃、単体のGLX160 A1、通常炸薬のパイクミサイル、燃料気化弾式パイクミサイルをお渡し下さい。早速、配備して編成を考えます。よろしいですね?」

「わ、わかった。紺野、南禅、畠山、広瀬、それでいいな?」

「了解だ。もしもとなったら、私が責務を引き受ける」と紺野二佐。

「そうとなれば、早速、使用手順、注意点のレクチャーを初めたい。エレーナ、準備してくれ。ホバーが戻る前に説明して、ホバーの艦上で何人かに試射させたい」

「ラジャ!スヴェトラーナ、アニータ、ソーニャ、用意するように!」「ラジャ!」

 広瀬が「ちょ、ちょっと待った!もしも戦闘が開始されて、万が一パイクミサイルが放棄されてしまいそれを我が水陸機動団が確保した時、我が方も使用方法を知っておく必要があるじゃないか?そうですよね?畠山三佐?」エレーナに言って、畠山を振り返った。

「当然だ。エレーナの隊だけにこれを押し付けるわけにはいかない。広瀬、我が方の隊員も二百名選抜して、羽生、南禅二佐のレクチャーを受けろ!バイク隊も組織してエレーナの隊と連携を図れ!」「了解しました!」
 
 鈴木三佐が「俺の方も航空戦力を引っこ抜いて、こっちに回す。与那国島から石垣、宮古島までの空域を確保する。紺野二佐とエレーナの指揮下に航空戦力をつける」
 
「そうだ、忘れていた。紺野、羽生、耳を貸せ」と南禅が二人に耳打ちをした。「それは可能なの?」と紺野。「まったく問題ない。ダイハツのディーゼル三基で出力は十分だ」「メガワット級の出力が必要と聞いたけど?」「小型化したんだ。こういう戦闘を想定して」「わかった、検討させよう」

★楊少校の居室、解放軍海軍旗艦龍虎山(Longhushan)艦上、石垣島侵攻開始5日前

 中国の071型揚陸艦は商船を転用したもので、純粋な軍艦と違い、佐官の居室も広々したものだった。楊少校の居室も軍船としては広い20平米の部屋で、コンパクトに執務机、ソファーセットが設えてあり、壁面は跳ね上げ式のベッドだった。ユニット型の一体型トイレとシャワーセットも付随していた。
 
 金少尉を呼んだ楊少校は、40分間ほど彼女に体をなぶられて悶え狂う。まったく、処女狂いで早漏の林中校(中佐)や変態ドMの王少校(少佐)と代わり映えはしない。レズのネコ役で、任務中でも攻めて欲しい性欲過多のババアじゃないか?と金少尉は思った。
 
「欣怡(シンイー)姐姐(お姉さま)、容洙(ヨンス)は怖いですわ。これは武力紛争から戦争状態に発展する事態でしょう?どのような理由で石垣島に侵攻するんですか?武力紛争法(戦時国際法、国際人道法)では、に抵触しないでどう石垣島を攻めるのでしょう?」と二人してシャワーを浴びたあと、白湯を飲みながら金少尉が楊少校に聞いた。

「それはどうにでもこじつけられる。ロシアがウクライナでやったように。沖縄県は我が第一列島線の内側にある。有史以来、中国の冊封体制に琉球王国は組み入れられていた。それが日本領土の沖縄県として大日本帝国に編入されたのだ。これを琉球処分と呼ぶが、この琉球処分や敗戦によるアメリカ統治後の沖縄返還は国際法上の根拠はない。我が中国の解釈では沖縄には合法的主権がないのだ。そして、元々の琉球王国の時代より、中国は沖縄諸島に主権を有している」
中国人による沖縄県への認識
琉球処分

「欣怡姐姐、楊少校、それは外交上の理由ですが、具体的に今回の侵攻作戦ではどう侵攻の理由をつけるのでしょうか?」

前回の話(13)
次回の話(15)


島崎藤村 - 椰子の実

島崎藤村作詞・大中寅二作曲

名も知らぬ 遠き島より
流れ寄る 椰子の実一つ

故郷(ふるさと)の岸を 離れて
汝(なれ)はそも 波に幾月(いくつき)

旧(もと)の木は 生(お)いや茂れる
枝はなお 影をやなせる

われもまた 渚(なぎさ)を枕
孤身(ひとりみ)の 浮寝(うきね)の旅ぞ

実をとりて 胸にあつれば
新(あらた)なり 流離(りゅうり)の憂(うれい)

海の日の 沈むを見れば
激(たぎ)り落つ 異郷(いきょう)の涙

思いやる 八重(やえ)の汐々(しおじお)
いずれの日にか 国に帰らん


マガジン『エレーナ少佐のサドガシマ作戦』


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