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アニータ少尉のオキナワ作戦(13)、石垣島Ⅵ、荒唐無稽なSF小説とか恋愛小説、エロ小説などなら楽だった・・・

失敗した。荒唐無稽なSF小説とか恋愛小説、エロ小説などなら楽だった。それが佐渡ヶ島ひとつ防衛するのに十数万字かけた。それも陸戦とミサイル戦のみ。架空なのはレールガンだけ。

今度は、与那国島、石垣島、宮古島を防衛する。場所も南西諸島だけじゃなく、中国の東部戦区のある寧波、台湾本島、沖縄本島まで距離を考えて書かないといけない。

SFなら、Xウィングや戦艦ヤマトを出して、ワープさせれば時間軸の矛盾もないが、なにせ、現実にある強襲揚陸艦、フリゲート艦、ホバークラフト、航空機。おのおの速度も違うので、移動時間も計算しないと、時速40キロの強襲揚陸艦がなんで急にそこに現れるの?となってしまう。

航空機も、殲20、殲31というまだ配備されていない中国機、チェックメイトという試作段階のSu-75は出すが、スペックを無視して書けない。

荒唐無稽なSF小説とか恋愛小説、エロ小説の数倍の時間がかかる。

おまけに下のようなタイムテーブルを作らないと、陸戦とミサイル戦だけじゃない、海戦、空戦もある。リアリティーを無視すればいいが、ここまで書くとそうもいかない。

人民解放軍の侵攻経路だって、考えないといけない。

人民解放軍南西諸島攻略軍侵攻経路

第二艦隊がなぜ宮古海峡手前で右折してから石垣島、宮古島に向かうのかって?そりゃあ、そうでしょう?まだ開戦していない、宣戦布告も戦闘もない段階で、まっすぐ石垣島、宮古島に向かったら偽装できない。

だから、国際海峡の通行の自由なんて、最近も中国、ロシアの艦船が宮古海峡を通って西太平洋で訓練しているが、それと同じこと。途中まではそういうのに見せかけるということ。

右折位置が宮古島-沖縄本島の中間地点なので、宮古島まで約200キロ、石垣島まで約300キロ、鈍足の強襲揚陸艦でも5~7時間の距離。

じゃあ、与那国島攻略の艦隊が第二艦隊と一緒じゃなく、台湾侵攻の第一艦隊と一緒か、と言うと、第二艦隊と一緒なら、右折地点から与那国島まで約450キロで宮古島、石垣島の艦隊よりも数時間遅れて、同時攻撃にならないのだ。

荒唐無稽なSF小説なら、こんなことまで考えないで済むのに・・・

まだ開戦していない段階で、どう相手に先に手を出させるか、そうじゃないと平和ボケ日本、話し合いとか言って、グダグダしているうちに南西諸島が占領されてしまう。

さらに、アホなことに、南西諸島からの避難計画は各島の地方自治体任せで、中央政府がお膳立てしていないことが判明。

地方自治体の避難計画なんて、フェリーで避難するのが中心で、数週間かかるとか言っている。そんなんじゃあ、あっという間に占領されて捕虜になってしまう。

人民解放軍だって困るだろう。与那国島で千七百名、石垣島で五万人、宮古島と周辺の島で約六万人。全島占領してこれだけ養うのに一日千トン程度の物資が必要。

だから、南西諸島を占領と言っても、民間人である島民は日本政府に言ってウクライナのように追い出すか、全島占領じゃなく、港湾と空港、自衛隊基地だけ占拠しないと、中国本土から700キロも離れている離島なんだから、兵站が確保できない。

自分で、具体的に考えてみると、ニュースやSNSで評論家、専門家が言っていることがまるっきりの空想の産物なのがわかる。

エロ小説なら楽なんだけどなあ・・・

 過去アップした「エレーナ少佐のサドガシマ作戦」は、
エレーナ少佐のサドガシマ作戦、時系列
「マガジン『エレーナ少佐のサドガシマ作戦』」こちらからどうぞ。

 十話までの総集編はこちらから。
 アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅰ(1)~(5)
 アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅱ(6)~(10)
 
アニータ少尉のオキナワ作戦(11)、寧波(ニンポー)Ⅰ
 アニータ少尉のオキナワ作戦(12)、寧波(ニンポー)Ⅱ
 
アニータ少尉のオキナワ作戦(13)、石垣島Ⅵ
 アニータ少尉のオキナワ作戦(14)、石垣島Ⅶ

石垣島侵攻開始:Dディ

各エピソードのタイムテーブル

アニータ少尉のオキナワ作戦(13)、石垣島Ⅵ

前回の話(12)
次回の話(14)

アニータ少尉のオキナワ作戦(12)、★ジトコ大将の別荘(ダーチャ)、ハバロフスク(前回までのお話)、石垣島侵攻開始3日前夜

 ジトコはリビングのソファーに座っていた。ジトコの腿に顔をつけて愛人のニャーナがソファーに身を横たえている。

「・・・以上が金少尉からの諜報情報。金少尉と楊少校の関係はそういうこと。人民解放軍はかなりの戦力よ。石垣のエレーナ、大丈夫かしら?」

「う~む、中国はかなり本気だな。台湾侵攻の前に南西諸島攻略とは。それで、南西諸島を不沈空母化して、取って返してその部隊を台湾の東岸攻略に使って、台湾海峡からの部隊と挟み撃ちにする作戦か。北京も気が狂ったか?プーチンの失敗から学んでいない。しかし、まずいな」

「あなたの量子エニグマ暗号トランシーバーはエレーナのやつとペアリングしてあるでしょう?それを貸してよ。私が直接説明するわ」
「おまえたちは仲が悪いからな・・・」
「将来の義理の娘が危ないのよ。四の五の言っていられないわよ。トランシーバー、貸して!」

 ジトコはカバンから量子エニグマを取り出した。「まず、ワシが話すよ」「いいわよ」
 
 ジトコは暗号設定手順に従い、石垣島のエレーナの量子エニグマに通話した。衛星経由での通信で、ハバロフスクと石垣島の通信は良好だった。
 
「エレーナ、ワシだ」
「パパ、こんな時間にどうしたの?今、ウラジオ?ハバロフスク?」
「ハバロフスクだよ」
「じゃあ、女狐と一緒ね?」
「口の悪い娘だ。おまえの言うその女狐がおまえと直接話したいそうだ。彼女に代わる」

「ハイ、エレーナ、お元気。女狐のニャーナよ」
「・・・ニャーナ、私に何の用?」
「あらあら、突っかかるもんじゃないわよ。真面目な話よ。人民解放軍に関する諜報情報が手に入ったの」
「確かな情報なんでしょうね?」
「言うわね、エレーナ。女狐のニャーナの情報ですもの。人民解放軍の石垣島侵攻作戦の指揮官からの情報よ」

「・・・ありがとう、と言うべきでしょうね?」
「いいわよ、別に。情報元はね、石垣島侵攻作戦の指揮官の楊少校。女性佐官。どうやったかって言うと、金少尉という楊の副官がいてね、それが私の母方の親戚の女なのよ。つまり、中国の朝鮮族の人間。枕の間柄で聞き出したそうよ」
「・・・まったく・・・なるほど、それで?」

侵攻部隊が寧波を出発するのが明後日午後11時半。中国時間だから、日本時間だと3日後の午前零時半。、石垣到着予想時間はその日の午後六時、日本時間七時以降。部隊の海上戦力は・・・ちょっと待ってね、メモを見るわ・・・強襲揚陸艦5隻、フリゲート艦3隻。陸戦隊予想員数5千名。思い切ったものよ。2万5千人の陸戦隊の5分の1を引っこ抜いたみたい。楊少校ってのもやり手よね。あなどれないわよ。航空戦力は、福州空軍基地(Fuzhou Air Base)からJ-20(殲20)16機編隊が飛来するそうよ。詳細はね・・・ということ。与那国島と宮古島侵攻部隊の詳細は不明。この内容はテキストにしてSMSで送ってあげるわ」

「ニャーナ・・・その・・・ありがとう」
「あなたらしくもない。殊勝にならなくてもよろしいわ。私は私の愛するあなたのお父様の愛娘が死んではイヤだからしているだけ。それよりも、あなたたち大丈夫?自衛隊とロシア軍のあなたの部隊で対処できるの?」

「こちらの指揮官の紺野二佐と相談します。こちらの陸戦兵力は自衛隊2千名。私の部隊千名・・・

 海上戦力だけでも、エレーナ部隊は、90年代に就役した満載排水量4,080トンの揚陸艦ペレスヴェートとオスリャービャ2隻に対して、人民解放軍は最新鋭の満載排水量25,000トンの071型揚陸艦5隻。(中国南海艦隊:長白山(Changbaishan)、祁連山(Qilianshan)、中国東海艦隊:旗艦龍虎山(Longhushan)、沂蒙山(Yimengshan)、四明山(Simingshan))。
 
 ジャンカイ級フリゲート艦南通(Nantong)、安陽(Anyang)、浜州(Binzhou)の3隻に対して、海上自衛隊はFFM型護衛艦もがみ、くまの、のしろの3隻
 
 ホバーは、エレーナ部隊は満載排水量550トンのポモルニク型エアクッション揚陸艦4隻に対して、人民解放軍は最新鋭の満載排水量170トン726型エアクッション揚陸艇20隻
 
 兵数は、広瀬二尉の陸自水陸機動団400名と石垣島陸自ミサイル部隊600名、沖縄本島から増援の畠山三佐の水陸機動団1,000名、エレーナ部隊1,000名、合計3,000名に対して、人民解放軍海兵隊は5,000名

 宮古島駐屯地にはミサイル部隊700名、与那国駐屯地には監視部隊150名。

 海上戦力は、揚陸艦に関しては劣勢、フリゲートは同じ、ホバーはやや攻撃力で優勢、陸上戦力は圧倒的に劣勢。
 
 航空戦力は、J-20(殲20)16機編隊に対して、空自の迎撃航空機数はいまだ未知数。

 中国本土の寧波基地と石垣島はたった680キロの距離。沖縄本島との距離400キロのほぼ中間地点。680キロというと東京、広島間だ。400キロは東京、大阪間に相当する。

「ニャーナ、こういう戦力だと、残念ながら我が方が劣勢というしかありません」
「なるほど。在日米軍は、沖縄本島が攻撃されない限り、核保有国同士の中国相手に介入はしないと思うわ」
「同感です」

「つまり、南西諸島、特に石垣島は、自衛隊とあなたの部隊で防衛せざるをえないってことね。でも、腑抜けの日本政府は先制攻撃をしない。指を加えて停船勧告するだけで、中国の海上戦力の領海侵入を許してしまうのがおちよね?東ロシア共和国、あなたの部隊も手出ししにくいでしょうし・・・中国軍がペレスヴェートかオスリャービャ、ポモルニク型エアクッション揚陸艦を先に攻撃でもしない限り・・・

奴らに先に手を出させる・・・

「ふ~ん、検討してみましょう・・・そうそう、この量子エニグマ暗号トランシーバーは金少尉も同じのを渡してあるのよ。テキストSMSでペアリング手順を送るから、あなたのエニグマと金少尉のエニグマをペアリングしてちょうだい。いざとなった時のためにね」

「その金少尉は大丈夫なのかしら?スパイ行為が露見したら・・・」
「彼女は私と同じ女狐よ。ま、私は彼女と違ってバイセクシュアルじゃないけど。非常に優秀、抜け目はないわ。私からは以上。お父様と代わるわね」

「エレーナ、十分注意してくれよ」
「パパ、大丈夫よ」
「それから、婚姻届は出したのかね?」
「それは・・・ヒロシがバックパックに書類を突っ込んだまま、佐渡で出し忘れていて・・・」
「そういうところは二人共抜けているんだな。石垣市役所で提出しておくといい」
「暇ができたらね」

「あ、そうだ、そっちの紺野二佐にジトコからよろしくと言っておいてくれ。何でも彼女の要望には答えるからと」
「紺野二佐をご存知なの?」
「エレーナ、わしは東ロシアの高官だよ。日本の内閣情報調査室とは緊密に連絡を取っている。免許証だって受け取ったろう?」
「・・・ありがとう、パパ」
「紺野二佐もニャーナと同じ女狐だからな。敵に回すと怖いが、味方としては心強い存在だ。じゃあ、お休み。気をつけるんだよ」
「お休みなさい、パパ。慎重に行動するわ」


★新石垣空港、石垣島侵攻開始5日前朝

 エレーナが石垣島にオスプレイで着いたのはジトコとニャーナから連絡のある日の2日前。この時点で彼女は侵攻日をまだ知らない。その日は人民解放軍上陸作戦の5日前だった。

 オスプレイの機上で酒でも飲もう、と言っていた鈴木、畠山三佐だったが、新石垣空港に着陸して、スマホで紺野にその話をすると、紺野が鈴木に言う。

「それはちょうどいい。懇親会をしよう!何人だ?そっちが、南禅、羽生、鈴木、エレーナの四人。畠山はミサイル基地に行かないといけないから、後で呼ぼう。やっとキミの嫁さんの実物が見られるってわけね。こっちは、私、富田、広瀬、スヴェトラーナ、アニータ、ソーニャ、カテリーナの七名・・・そうだなあ、そろそろ私も正体を明かして、マスコミを引っ張り込むか?卜井、藤田、佐々木の三人組。合計14名。ソーニャに迎えに行ってもらおう。ホテルに寄ってからこっちに来てくれ。エレーナの部下三人は、スヴェトラーナに手配してもらって、別途、車を空港に送る。20分、空港のエントランスで待っていてくれ」と言う。

「しかし、紺野二佐、空自や陸自との連絡もありますから・・・」
「まあまあ、それは気にしないでよろしい。私の方から空自、陸自、海自に連絡しておく。とにかく、こっちに来なさい。スマホじゃマズイ、こっちで説明するから」
「わかりました・・・」

 陸自の迎えの車で、畠山やオスプレイの対面に座っていた陸自ミサイル部隊の連絡将校、海自の将校は先に空港を離れた。

「南禅二佐、羽生二佐、エレーナ、紺野二佐がこっちに来いとさ。富田さんって誰だろう?広瀬、スヴェトラーナ、アニータ、ソーニャ、カテリーナも呼ぶって話だよ。あと、藤田さん、卜井さん、佐々木さんも。ソーニャが空港に迎えに来るそうだ」と南山らに言う。

「紺野、今度は何を悪巧みしてやがるんだろうね?おまえの元妻だろう?羽生?」と南禅。「俺にわかるわけがないよ。あいつが何を考えているのか、想像もつかん」と羽生。

「まあ、いいじゃないですか。私は紺野二佐に直接お会いするのが楽しみだわ」とエレーナ。

 オスプレイが石垣島に飛んできたのは初めてのことだろう。国土交通大臣の特別許可を得ている。これが自衛隊機が飛来する最後というわけでもなさそうだ、と鈴木三佐は思う。
 
 沖縄から来たので空港職員に新石垣空港国内線ターミナルに案内された。
 
 新石垣空港は典型的な離島の国内国際線空港だ。コロナ前であれば台湾からのチャイナエアの直行便も数多く飛んでいて、台湾からの観光客でごった返していただろう。

 台北-石垣島のフライト時間はDEP14:35、ARR14:40で、時差1時間だから、飛行時間1時間5分。沖縄からの全日空便だと55分。飛行時間ならほぼ台北と那覇の中間地点だ。直線距離は台北のほうがずっと近い。
 
 滑走路は北西から東南に向いている2千メートル級だ。人民解放軍のJ-20(殲20)なら十分離着陸可能だ。空港の左、東はサンゴ礁の浅瀬が沖合1キロほど広がっており、上陸用舟艇、ホバークラフトなら簡単に着岸できる。空港の北、西、南はサトウキビの畑が広がっており、人家はほとんどない。

 空港ターミナル周辺は、石垣市消防本部、大阪航空局石垣空港出張所、それにレンタカーの店舗があるくらいで、店屋はない。航空燃料のケロシンタンクは駐車場隅に二基あって、非常に小さい。台北や那覇便はここであまり注油しないのだろう。タンクの警備はされていない。燃料は石垣市内の離島フェリーターミナルの正面岸壁にある石油貯蔵施設からローリーで運ばれているようだ。パイプラインなど見当たらなかった。

「エレーナ、機内の窓から見たんだが、空港の右岸は北から南まで浅瀬のサンゴ礁だ。どこでも上陸用舟艇は乗り付けられるぞ。おまけに周囲は畑。陸戦兵力は360度、どこからでも攻撃できる」
「Google Earthで見たら、我が軍の大型揚陸艦ペレスヴェート、オスリャービャが接岸している離島フェリーターミナルはこの空港の島の反対側じゃない。直線距離にして約12キロ。この経路を守備するには相当の兵力がいるわね」

「おまけに、陸自のミサイル基地は島の真ん中。沖縄電力の石垣第一、第二発電所はフェリーターミナルの近くの北と東にある。出力は5+5+18の28MWか。意外とでかいな。佐渡ヶ島と同じくらいだ。空港、ミサイル基地、フェリーターミナル、発電所✕2の5ヶ所は防衛しきれない。俺が指揮官だったら空港は捨てるよ。島民退避が一段落したら、空港滑走路は爆破して使えなくする。人民軍の工兵隊さえ上陸させなければ、修理できず戦闘機は離発着できない」

「同感だわ。佐渡のように690メートルの滑走路じゃないもの。2千メートル。おまけにエプロンのエスコートウェイがついているから、与那国島、宮古島の空港よりも使い勝手はいい・・・あ!宮古島の隣の伊良部島と水路でつながっている下地島空港って気になるのよ。国内線のパイロット訓練用で3千メートル級でしょう?本土の国際空港並の施設ね」
「下地島はヤバい!だが、宮古島は忘れよう。あちらは、自衛隊の別の水陸機動団、空自。海自で面倒を見てもらう他はなさそうだ」
「私が指揮官だったら、石垣島と周辺の西表島、小浜島、竹富島、黒島などの守備で陸戦部隊8千人は欲しいわね」

「西表島は佐渡と同じで山がちだ。丘陵地帯が海岸線に迫っていて、人民軍にとって占領するメリットはない。他の小島もインフラがないから無意味だ。第一、電力は海底ケーブルで石垣島から送電している。防衛は石垣島だけに集中した方がいい」
「石垣島だけでも、6千人は必要じゃない?」
「有事が発生したら、政府が増援してくれるのを祈ろう」
「あら、佐渡ヶ島に増援が来たかしら?孤立無援だったわよ?」
「あれは首都圏や関西圏、中部圏への弾道弾ミサイル攻撃でてんやわんやだったから仕方がない。今度は南西諸島防衛、沖縄本島も控えているし、孤立無援にはならないだろう」
「たぶんね・・・」

★空港エントランス、石垣島侵攻開始5日前朝

 時間通り、20分でソーニャが運転するトヨタのグランエースが空港エントランスに滑り込んできた。日本国外向けハイエースがベースとなっていて、全長5.3 m、全幅1.97 m、全高1.99 m、フルサイズワゴンだ。自衛隊沖縄地方協力本部石垣出張所から広瀬が段取って借用してきた。さすがに、佐渡ヶ島で無法に運転してきたタイフーンKやLは石垣島では使用できない。

 空港に向かう前にソーニャは広瀬と日本の免許の話をした。「タイフーンKやLは国土交通省への登録もないし、日本国内では使えないよ」とソーニャに言う広瀬。
「そう言われればそうです!でも、カオル、車輌じゃなくて、私もロシア連邦の免許しか持ってませんよ!日本国内では運転できません!」

「なんかね、ロシアはジュネーブ様式の国際運転免許証を発給していないんで国際運転免許証による日本での運転はできないらしいんだけど、紺野二佐が内閣情報調査室を通じて手を回して、みんなの免許をもう段どったんだ。キミのはこれ。自衛隊の営繕が持ってきた」

「これ、日本語の免許証じゃないですか?写真も私のだし。いつの間に私の写真を?この住所は?どこかの日本の住所になってますけど・・・???」
「あ!それ、俺の住所。紺野二佐、どこまで調べてるんだろうか?」
「姓名はそのままのロシアの名字ですね?」
「それはまだ俺たち婚姻届を出してないから、ってことだろう?早く出さないと」

「紺野二佐がやると、あっという間にできちゃうってこと?」
「そうみたいだな。あれ?ソーニャ、キミの免許、14項目全部じゃないか!」
「え?日本の免許の区分がわかりませんが、軍でロシアの小型から大型までと特殊車両の免許は取得してます。バイクもです。それがこの区分に反映されているんですか?」

「そのようだな。え~、みんなの分を預かってきたから・・・これ、スヴェトラーナ少尉、アニータ少尉の分・・・エレーナ少佐の分もある!」
「あ!本間スヴェトラーナ、土屋アニータになってますよ!エレーナ少佐は・・・ジトコ エレーナ・冴子のままですね?ああ、まだ婚姻届出してないんですね?」
「すげぇ、もう佐渡の婚姻届が反映されているってことか?こりゃあ、紺野さんがやると、あっという間に日本のパスポートまで発給されちまうぞ!」

「・・・それって、私たちが婚姻届を提出すると、私も広瀬ソーニャになって、日本の国籍、パスポートがいただけるってことですか?うれしい!」
「おいおい、内閣情報調査室とか自衛隊情報保全隊本部とか、どうなってるんだろう?紺野二佐は手配り早いし。彼女、本当はおっそろしい人なのかも・・・」
「そりゃあ、諜報部門ですもの。ボンドのMI6のQ課みたいな部署もあるんでしょうね」
「少なくとも、俺たちが彼女の側で幸運だってのは確かだ。敵に回すと怖そうだよ」

 運転席から小柄なソーニャが飛び降りてきて「エレーナ少佐、ソーニャ准尉、お迎えに上がりました!南禅二佐、羽生二佐、鈴木三佐、任務ご苦労さまであります!」とニコニコして敬礼する。助手席から「カテリーナ伍長、参りました!」とカテリーナがみんなの荷物を後部ドアを開けて積み込み始める。

「可愛い子ちゃんのお出迎えはうれしいな」と鈴木三佐。「あ・な・た、10才ぐらいも若い女の子にデレデレしてるんじゃないわよ!」とエレーナは耳たぶをひねり上げた。「い、痛い!痛いじゃないか!」「いい気味ね。あ・な・たは、私というじゃじゃ馬の子守専属!もう、可愛い子ちゃんには一生縁がないのよね!」

 エレーナがソーニャに「それにしても戦時の佐渡ヶ島はいざ知らず、平時の日本国内でソーニャが運転してはいけないでしょう?」と准尉に言う。「あ、少佐!紺野二佐がロシア兵の日本の運転免許を準備してくださいました。広瀬二尉から渡して下さいってことで、これ、少佐の免許証」とエレーナに免許証を渡す。
 
「あら?すごい!紺野さんにお礼しないと!・・・私、まだ、ジトコ、エレーナ・冴子じゃない?婚姻届、出してなかったっけ?・・・あ!ヒロシ!」と三佐を睨む。「あなた、私たちの婚姻届、署名してないわよね?出せるわけないじゃない!どこにやったの?私たちの婚姻届?」「え~、あれ?色々あったから・・・」とバックパックをゴソゴソする。「あ!これだ!あった!」としわくちゃの書類を取り出した。「だ、大事な書類を・・・しわくちゃで・・・あなた!あなた!」

 後部座席の二列目で南禅が「なあ、羽生、結婚なんてこんなもんだぜ。あの何事にも冷静なエレーナちゃんが男女の関係になるとこうなるんだ。おまえも紺野で懲りただろう?」と言う。「・・・」
 
「ソーニャも免許証もらったんだ?」とエレーナがブツブツ言うのをかわすつもりでヒロシはソーニャに言った。「三佐、これですよ」と胸ポケットから自分の免許証を取り出してヒロシに渡す。「あらら、写真も可愛くとれちゃってるね?」「それ、自分で撮した記憶が無いんですよ。紺野二佐、どうやって用意したんでしょうね?」「内閣情報調査室ならなんでもできるんだろうな。あれ?ソーニャの名字はプーシキナなんだ」「あら?三佐、ご存知じゃなかったんですか?あの文豪のプーシキンですけど、ロシア語の名字は男性形と女性形で語尾変化するんですよ。女性の姓は男性形の語尾に『а』が付きます。だから、プーシキナ」「エレーナはジトコだけど?」「ジトコに『а』が付いたら発音が変でしょ?」「なるほど。そういう例外もあるんだね」

 後ろの席で羽生が「ソーニャの名字はプーシキナだったんだ・・・俺は、てっきりデグレチャフかと思っていたけど。デグレチャフの方がゴロが良い。でも、性格が違うか?セレブリャコーフの方が似合ってるな?」と独り言を言う。それを聞いて南禅が「羽生、おまえ、それ、またアニメか何かか?」「・・・まあ、そうだ・・・」「・・・オタクめ・・・」

★再び富田のアジトの一軒家、石垣島侵攻開始5日前朝

 自衛隊沖縄地方協力本部 石垣出張所から差し向けられた車で、先に卜井、藤田、佐々木の一行が富田のアジトのマンションに到着した。マンションに入ると、オートロックでCCDカメラがそこここに設置されているのが佐々木の目についた。カメラマンという商売柄イヤでも気づく。

案内役の運転手が非接触型カードキーでエレベーターを操作する。部外者はエレベーターを使えないんだ、とますます不審に思う。リゾート地のマンションにしてはセキュリティーがやけに厳重よね?と佐々木は思った。石垣出張所の所有なのかしら?
 
 2階で降りた。案内役がドアの正面に立つと、ベルを鳴らさなかったのにドアが開いた。案内役が「こちらです」と言って三人を部屋に入れた。案内役は室内に入らずに戻ってしまう。
 
 出迎えたのは、佐世保基地の営繕課の事務職と紹介されている紺野と三人は知らない公安警察の富田だった。なぜ、エレーナたちの取材で営繕課の事務職の紺野さんがいるのかしら?それにこの目立たないビジネススーツを着た風采の上がらない男性は誰なんだろうか?エレーナたちはまだ来ていないのかしら?と佐々木は思った。

 佐々木がカメラを構えようとすると紺野が「佐々木さん、今日は撮影抜き。すべてオフレコ。内緒の話ですよ。だから、録画、録音はダメ!よろしいですか?」と言った。「わ。わかりました。失礼しました」と佐々木。だけど、エレーナたちの取材なのに、なんで佐世保基地の営繕課の紺野さんがいるんだろう?と佐々木は思った。卜井も藤田も同じ気持ちだ。
 
 紺野が「今、一同、こちらに向かっているところです。その前に、三人に今まで話していなかったことをお伝えしようと思いまして。話がややこしくなりますから」と紺野が言う。

「まず、私は、佐世保基地の営繕課の事務職ではありません」と紺野。「ハァ・・・」と卜井。「南西諸島の自治体に対して、私の所属だと怪しすぎるので、佐世保基地の営繕課事務職として、南西諸島の自衛隊の評判とか居住環境とかを調査するという名目で営繕課事務職という立場を使わせてもらいました。それで、私の所属は、元々の航空自衛隊から自衛隊情報保全隊本部情報保全課に移って、内閣情報調査室に出向していたんです。階級は二佐です」

「え?紺野さん・・・紺野二佐、それは諜報担当の?」藤田が尋ねる。紺野は「そう、諜報が主任務。安心して下さい、あなた方取材チームは諜報対象になっておりませんから。実は、南西諸島で、人民解放軍の諜報部隊と日本人のシンパが暗躍しているので、その調査が手目的でした。ここにいるのは富田さん。所属だけは明らかにします。彼は公安警察の人間です」と白状した。

「あ、あの、紺野二佐、カテリーナが私に渡した拾ったUSBメモリーって、まさか・・・」と佐々木。
「それに関してはノーコメントとしておきましょう。ただ、あなた方の取材で、日本国民の意識が変わって大変ありがたい。それに石垣島だけではなく、与那国島、宮古島の中国の秘密組織を壊滅できました。これはこれからの活動に大いに役立つことです」

 さて、藤田アナ、卜井アナ、佐々木さんの三人には、佐渡ヶ島でも北朝鮮に対する国民の防衛意識を変えていただいたということで、三人には非常に感謝しております。なにせ、平和ボケの日本国民に活を入れていただいたんですから。
 
 実際の戦闘も重要ですが、その戦闘の意味、意義をバイアスをかけずに国民に知らしめるということも非常に重要なことです。
 
「ということで、後で他のメンバーが来たら話しますが、先に、皆さんにはこの話をしておかないといけないと思いお呼びいたしました。それから、この話も含め、これからの話は、他言無用。防衛大臣、総理大臣から、あなた方のテレビ局、プロダクションのトップには依頼がされております。つまり、あなた方三人は、これから国家機密にかかわることに関与していただき、その内容は死ぬまで口外できない、ということになります。我がチームにようこそ」

 卜井が「紺野二佐、それは報道の自由の制限ということなんですね?」と聞く。「そうなります。認めます。しかし、無統制の報道の自由を許すと、今回の場合、多大な人命が失われるという止む終えない理由で国家が取る処置と考えて下さい。その事情は、他のみんなが来てからご説明します」

「わ、わかりました。やれやれ、驚きました」と藤田。「藤田アナ、かたっ苦しいのはここまで。私は今まで通りの営繕のおばちゃんと思っていただいていいわよ。これから来るみんなは知らない間柄でもないでしょ?そうそう、私の元亭主も来るからね」と紺野。

「元亭主?って、離婚した前の旦那様ですか?」と佐々木。「佐渡ヶ島以来、三人ともよく知っている人間よ。来たら紹介するから。さて、これからの話、素面でやってらんないわね。酒でも飲みましょうか?ロシア女は何人来るんだっけ?エレーナとスヴェトラーナとアニータ、ソーニャとカテリーナか・・・あいつら、ウワバミだからなあ。富田さん、お酒あります?」

「公安警察は酒屋じゃないんだから。内閣情報調査室で持って欲しいですね。ありますよ。何がよろしいですか?」
「ウォッカにウィスキーに・・・この前、スヴェトラーナから貰ったアルメニアのブランディーは?」「ありますよ」「なにせ、とりあえずビールなんていうのが通用する相手じゃないんだからね。飲み過ぎで頭が痛くなるし・・・」「じゃあ、飲まなきゃいいのに・・・」

 最初に到着したのが、スヴェトラーナ、アニータ両少尉とソーニャ准尉、カテリーナ伍長だった。「あれ?佐々木さんたちも?」とカテリーナが言う。

「カテリーナちゃんは、可愛い顔をしてうまくやられたわ」と卜井。「何のお話でしょ?」「なんでもないです。こっちのこと・・・」

 一通りロシア式にハグしてキスしたり、日本式にお辞儀して挨拶する。スヴェトラーナ、アニータ両少尉が窓際に行きカーテンをはぐって外を見回す。そして窓の左右に腕組みして突っ立っている。ソーニャとカテリーナはキッチンに行って、「富田さん、私たちがやります!」とお酒の用意とおつまみを作り出した。

「このメンバー、なんかほっこりするんだよね」と卜井が言う。

 10分ぐらいで残りのメンバーが来た。南禅、羽生、エレーナに鈴木。「これで畠山を除いて全員だな。エレーナ少佐、初めまして。紺野二佐です」とエレーナに挨拶する。「紺野二佐、パソコンのモニターでは何度もお会いしてますわよ」「実物を見たくって。いいわね、モデル級。とっても軍人に見えないわ」
 
「あれ?卜井さんたちも呼ばれたの?」と羽生。「ああ、卜井アナ、藤田アナ、佐々木さん、羽生が私の元亭主だよ」と紺野。「え?え?羽生二佐が元の?」「驚くほどじゃない。元夫婦に見えないかな?」「全然、見えません!」

「そりゃあ、オタクのメカマニアと紺野じゃ、似合わないってのは最初からだからな」と南禅がエレーナに言う。「・・・」

「みんなに報告するが、内閣情報調査室から転属になって、防衛省統合幕僚監部所属になり、今回のオペの統合任務部隊の指揮官に就任した。統合任務部隊は、陸自水陸機動団、航空自衛隊、海上自衛隊、及び駐留東ロシア共和国軍で構成される。副指揮官はエレーナ少佐とする、ということになっちゃってね」
「何が『ということになっちゃってね』だよ、紺野。どうせ、裏で手を回したんだろう?」と南禅。
「公美子、人聞きの悪い事をいいなさんな」
「どうせ、防衛大臣にねじ込んだんだろう?だから、上から嫌われるんだよ」
「レールガンを勝手に持ち出すようなあんたに言われたくないね。防衛大臣と統合幕僚長に南西諸島に通宵していて、陸海空自衛隊をまとめて、ロシア軍と相談できる人間がどこに居るっていうんだ?第一、こんな任務の指揮官、自発的にやりたい人間なんて自衛隊に居ないよ、って言っただけだよ」
統合任務部隊(自衛隊)

「脅しじゃないかよ?第一、敵国の南西諸島侵攻作戦に対抗する統合任務部隊の指揮官は、一佐クラスだろうに?」
「その一佐クラスの人間が軒並み辞退してるんだから、仕方ないだろうに!公美子!私が指揮官だからね!私の指示は聞いてもらうよ!」
「ああ、ああ、いいですとも!美千留(みちる)、各部署の調整とか政治は任せた!私は技術者で科学者だからね」

「紺野二佐、名前が美千留っていうんだ?可愛い名前だよな。南禅二佐も公美子なんだ。名前で呼ぶと迫力ないじゃん?」と鈴木が広瀬に言った。「そんなことより、三佐の奥さん、正式な日露統合任務部隊の副指揮官に就任しちゃったんですよ?」「・・・俺の立場はどうなるんだろうね?サドガシマ作戦でも日本とロシアの連絡将校だったし。全然活躍してないじゃん?」

【防衛】“台湾有事”想定 与那国島で進む「避難計画」とは?

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島崎藤村 - 椰子の実

島崎藤村作詞・大中寅二作曲

名も知らぬ 遠き島より
流れ寄る 椰子の実一つ

故郷(ふるさと)の岸を 離れて
汝(なれ)はそも 波に幾月(いくつき)

旧(もと)の木は 生(お)いや茂れる
枝はなお 影をやなせる

われもまた 渚(なぎさ)を枕
孤身(ひとりみ)の 浮寝(うきね)の旅ぞ

実をとりて 胸にあつれば
新(あらた)なり 流離(りゅうり)の憂(うれい)

海の日の 沈むを見れば
激(たぎ)り落つ 異郷(いきょう)の涙

思いやる 八重(やえ)の汐々(しおじお)
いずれの日にか 国に帰らん


マガジン『エレーナ少佐のサドガシマ作戦』


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