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アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅱ(6)~(10)

 十五話までの総集編はこちらから。
 アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅰ(1)~(5)
 アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅱ(6)~(10)
 
アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅲ(11)~(15)
 過去アップした「エレーナ少佐のサドガシマ作戦」は、
エレーナ少佐のサドガシマ作戦、時系列
「マガジン『エレーナ少佐のサドガシマ作戦』」こちらからどうぞ。
アニータ少尉のオキナワ作戦 - 石垣島・宮古島・与那国島 侵攻作戦、日中戦力図

アニータ少尉のオキナワ作戦総集編Ⅱ
(6)~(10)

総集編Ⅰ
総集編Ⅱ
総集編Ⅲ
総集編Ⅳ

アニータ少尉のオキナワ作戦(5)、★石垣島、自衛隊ミサイル部隊周辺の農家の納屋(前回までのお話)

 その夜、自衛隊沖縄地方協力本部石垣出張所を徒歩で出た紺野、アニータ、スヴェトラーナは、八重山郵便局近くの路上で迎えの車を待っていた。紺野は白のボタンダウンにジーンズ、アニータとスヴェトラーナはダンガリーのシャツにストレッチジーンズという格好だった。二人の少尉は、服の下に黒のレオタードを着ていた。

 県道87号を黒のハイエースが来て、紺野たちの前に止まる。スライドドアが開いた。紺野が何も言わず乗り込む。少尉二人もボストンバッグを車内に放り込んで乗り込んだ。後部座席には、黒のポロシャツに同じ色のジーパンを着た男が座っていた。
 
 アニータは、公安警察というからロシアのFSB(KBG)のいかつい職員を想像していたのだが、それとは違って、やさ男だった。彼が「紺野さんですね。こちらは土屋(アニータ)さんと本間(スヴェトラーナ)さんですね。私は富田、としておきましょうか」と紹介をそそくさとすませて車を出させた。富田の私たちの身上調査はできているようね、とアニータは思った。

「今日の目的地は、石垣島の石垣市平得大俣にある陸自駐屯地周辺にある農園の納屋です。設置してるCCDカメラが木箱を早朝に搬入している様子を撮影していました。画像を解析すると、携帯型の兵器のようです。お二人には、納屋に侵入して、その木箱の中身を撮影していただきたいのです」と富田が説明した。

「二人共、あなた方がロシア軍だから依頼したんじゃありませんからね。ここ石垣島に今いる中で、あなた方が最適な人材だからお願いしたの。政府を通じて東部軍管区にも打診したわ。エレーナ少佐とも話しました。あなた方の軍の記録は入手した。レンジャーの成績は特A級。あなた方、ピッキングまでできるのね?すごいわ。少佐は『なんでそんな面白そうなことに私を呼んでくれないの?』って言っていたわ」

「紺野さん、お任せ下さい。ツール、あります?」とスヴェトラーナ。富田が二人にツールを渡す。「これがピッキングツール。赤外線カメラ。赤外線フラッシュ付きでシャッターを押せば全てオートです。オペ用手袋。使うことはないと思いますが、拳銃はお持ちで?」

「二人共、これですわ」とアニータが背中に差した銃を取り出す。外付け消音器(サプレッサー)をポケットから取り出す。富田に渡した。

「ほほぉ、PBですね。初めてみました。アフガンでスペナッズが使っていた銃ですか。日本には入ってきてません。暴力団の話ですが。暗殺などの特殊任務用途で使用するもんですな」
PB (拳銃)

「富田さん、彼女たちがこっち側で良かったわね。彼女たち、北朝鮮の兵士を数十人殺傷できるわよ。もちろん、中国人も」
「紺野さん、佐渡では、私たち、指揮をしてましたので、戦闘に参加してませんよ」とスヴェトラーナ。「あら、エレーナ少佐が言っていたもの。アカデミー出のヤワな私やアデルマン、アニー、ソーニャじゃあ、あの二人に敵いっこないわよ、って」「そんなことはありません。私たち、か弱い乙女ですから」「まぁ、そうしておきましょう」

 八重山郵便局前から目的地まで9.2キロ、車で17分だった。駐屯地の十字路の手前に目的地の農園があった。夜間は無人のようだ。ハイエースの後部で二人はシャツとパンツを脱ぎ捨てて、体にピッタリしたつなぎのレオタード姿になった。紺野に渡されたバラクラバ帽をかぶる。黒の手術用手袋を付けた。目と口の周りに炭を塗る。
 
 すごいな、プロだ。日本の自衛隊でもこういう人材はあまりいないだろう。こっちに来ている水陸機動団隊員よりも能力は上だろうな。それに自衛隊だと物議を醸すが、友軍のロシア軍だから目的に合致する。おまけに・・・ものすごい美人じゃないか?と富田は思った。

「お二人とも、時計を合わせます。1時18分30秒・・・19分」「オッケー!」「1時40分にここに戻ってきます。成果がなくても20分で完了です」「ラジャ!」

 二人は87号線沿いの道を忍び歩く。農園は塀も何もなかった。道路沿いの建物の裏の納屋に近づいた。納屋はごく普通の南京錠で施錠されていた。アニータが富田に渡されたピッキングツールで解錠する。30秒。スヴェトラーナは音が漏れないように蝶番にミシン油をさした。
 
 納屋の奥に木箱が5つ、積み上げられていた。長さ1.6メートルくらい、断面が40✕40センチの直方体の箱が4箱だった。これも普通の南京錠で施錠してある。アニータがサッサと解錠する。
 
 木箱の蓋を開けると、中身は、中国製69式40mm対戦車ロケットランチャーだった。ソ連のRPG-7の無断コピー品だ。同じサイズの本体の箱が4箱。もう一つの大きな木箱には、成形炸薬弾が8基入っていた。スヴェトラーナが赤外線写真をすばやく撮った。
 
 また施錠して、すべてを元に戻した。二人は左右を見回し、異常がないかどうか、確認した。オッケーだ。外に出て、納屋の扉を閉め、施錠する。また、元の道を通り、道路沿いに。1時39分。ハイエースがすぐ近づいた。後部ドアが開かれ、サッと二人は乗り込む。
 
「ご苦労さまでした」と富田。「富田さん、物騒なものがあったわ」とアニータ。「中国製69式40mm対戦車ロケットランチャーが4基。成形炸薬弾が8基。これは自衛隊駐屯地攻撃用かしら?」

「たぶんそうでしょうね。中国の南部戦区が台湾の太平島に侵攻してから三週間経ちましたが、ここ数日、この島からの暗号通信の頻度が以前の5倍になっています。起こってほしくはありませんが、石垣島とこの周辺の島は、台湾本土侵攻には目の上のたんこぶ。さらに新石垣空港は二千メートル級滑走路で、占領すれば奴らにとっては魅力的です。ここに奴らが来る確率は非常に高くなった、と言えるでしょう」

「こういう兵器を隠し持っているシンパを逮捕しないんですか?」「もう少し、泳がせておこうと思ってます」「なるほど」

「お二人はいつまでご滞在なんですか?」と富田が聞く。「72時間の予定ですので、明後日出港です」とアニータ。「残念だな。数週間いてほしいくらいです」「富田さん、無茶言わないでよ。アニータとスヴェトラーナのとおちゃんが佐渡で待っているんだから」と紺野。「まあ、そうですな。日本の問題ですしね。いやいや、ありがとうございました」

三人を郵便局前で降ろした後、富田は車の中で一礼した。ハイエースは速やかに走り去った。
 
「アニータ、スヴェトラーナ、ご苦労さま」と紺野。「お安い御用ですわ」とアニータ。「どうだい?もう、宿舎に帰って寝る?それとも、私の部屋で一杯やる?ウィスキーがあるわよ。バランタインの30年もの。飲んでいかない?おいしいソーセージもあるわ」と二人に聞いた。二人が顔を見合わせてうなずく。「では、お言葉に甘えまして、お伺いいたします」とスヴェトラーナ。

「いいねえ、話が早いわ。あのさ、三本あるから、ボトムズアップね!」
「・・・」

(6)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島Ⅰ

★石垣島、離島フェリーターミナル、ペレスヴェート艦上

「イテテテテ」自衛隊沖縄地方協力本部石垣出張所近くのホテルの一室。朝起きて、紺野は頭を抱えた。午前二時からアニータとスヴェトラーナと一緒にバランタインの30年ものを三本空けたからだ。死にそうに頭が痛い。酒、強いなあ、ロシア姉ちゃんは、と紺野は思った。しかし、さすがにあいつらも私以上に飲んだから、多少は二日酔いだろ?

 紺野はサッと冷水シャワーを浴びて、部屋を出た。ホテルを出て市役所通りを右に曲がる。左手の離島フェリーターミナルには、ペレスヴェートとオスリャービャが停泊しているのが見えた。桟橋を少し歩いて、両艦が停船している方に行く。手前でバリケードが有り、自衛隊員が警備をしている。紺野は内閣情報調査室、自衛隊情報保全隊本部ではなく、佐世保基地営繕課の身分証明を見せた。隊員が敬礼する。
 
 ペレスヴェートのタラップではロシア兵が警備していた。こっちは顔パスだ。「紺野さん、おはようございます!」と英語で元気よく敬礼した。アニータ、スヴェトラーナ、ソーニャ以外、彼女は佐世保基地営繕課所属となっているのだ。しかし、エレーナ少佐かジトコ大将か、誰が選別したのか、この部隊、美人しかいないわね。この子も典型的な金髪碧眼、吸い込まれそうな碧い目。男が放っておかないわよね?
 
 若そうだわねえ。何才かしら?身長は私ぐらいだから、165センチ程度?「おはようございます。警備ご苦労さまです!」と答礼した。敬礼する右手が額に当たって二日酔いの痛みが走る。イテテ。

「石垣島はいかがかしら?」と彼女に話しかける。「ハイ!素晴らしいところです。日本列島が細長いとは地図でわかっておりましたが、こんな熱帯の島があるなど想像もしておりませんでした!あ!私、カテリーナと申します。伍長であります」若そうなのに伍長ということは成績優秀なんだ。

「カテリーナさん、お若そうね?年齢をお聞きしてもよろしいかしら?」「ハイ!18才であります!」「お若いわあ。私なんて、37才よ。羨ましい」「ハ?小官は、日本人の女性の年齢が想像できません。てっきり・・・25才くらいかと思っておりました!」

 25才だってさ、25才!こんなお嬢ちゃんにお世辞を言う機転がきくはずはないわよ。若くみえるんだわあ、私!水陸機動団の広瀬に言って、25才よ!あんたの部下のゴリラ、一人、お貸しなさい!とでも言ってやるか?
 
「カテリーナさん、ご出身は?」「紺野さん、小官は任務中でありまして・・・」あら、真面目!「大丈夫よ。こんな朝早く、誰も来ないわよ。アニータ少尉に言っといてあげるから、おばさんとちょっとお話しようよ」う~ん、仕事柄、すぐ身上調査しちゃうんだよな、私。

「ハア・・・小官は、東部シベリアのブリヤート共和国ウラン・ウデの出身であります。所属は、東部軍管区、ハバロフスク基地であります」ブリヤート共和国?バイカル湖の近くね。ロシアでもすごく貧しい地域。平均給与は4万ルーブルぐらいだったかな?8万円くらい?モスクワの平均給与が11万ルーブル、22万円だったわね。ウクライナ戦役でも、ブリヤート共和国や北カフカースのダゲスタン共和国の兵士が投入されているって聞いてたけど。ウクライナじゃあ、モスクワ、欧州ロシアの人間は死んでないって話だったな。
死亡者のうちモスクワ出身はいない…ロシア軍戦死者の悲しい真実(1)
死亡者のうちモスクワ出身はいない…ロシア軍戦死者の悲しい真実(2)

「ブリヤート共和国?ごめんなさい、ロシアの地理に疎くて・・・」「ハ!ブリヤートはバイカル湖の南にあります。モンゴル共和国と国境を接しております。モンゴルが近くですから、モンゴル系のブリヤート人が多いんです。小官もロシア人とブリヤート人の混血であります」ああ、やっぱり。ソ連時代、ブリヤート人は、男性だけが徴兵で連行されて、残ったブリアート女性がロシア人と半ば強制的に結婚させられたと聞いたことがある。

「バイカル湖の近く!お寒そうねえ?」「ハイ、冬はマイナス20℃、夏はプラス20℃、寒暖の差が激しい大陸性気候の場所です」「ご兄弟は?」「ハイ、五男三女です。小官は五番目の子で次女です」いやいや、子供八人かあ。いくら補助があっても生活は厳しいわ。「まあ、八人兄弟!でも、ブリヤートからハバロフスクはかなり遠いんじゃありません?」「ハイ、ブリアートは貧しくて、職もあまりなく、東部軍管区に所属しておりますので、軍に就職した次第であります」

 カテリーナ伍長、利発そうね。気に入ったわ。アニータに言ってこいつをもらおうかしらね?「カテリーナ伍長、ロシアの話、もっと聞きたいわ。今度非番の時に私と食事しない?石垣島を案内してあげる」「ハ!よろしいのでありますか?」「うん、アニータ少尉に許可もらうから、大丈夫よ」「ハイ!ありがとうございます!」

★ペレスヴェート艦上、燃料気化爆弾の使い道

 伍長と別れて、タラップを上った。カテリーナが岸壁から見上げて敬礼をしている。しっかし、頭痛はするし、腰が痛い。もう年なのかしら。筋トレしないと。昨夜みたいな侵入と観察は、アニータ、スヴェトラーナみたいな若いのに任せないといけないわね。カテリーナもどこかで使い道があるかもしれないわ。
 
 アニータ少尉の居室兼執務室に行くと、広瀬二尉がすでに来ていた。あれだけ飲んだのに、普通の顔色で涼しい顔で広瀬と話している。ロシア女と飲むのはよそう。彼女らみたいにアルコール分解酵素を我々日本人は持っていない。
 
「紺野二佐!今朝はご馳走になりました!」今朝ね、今朝だよ、午前四時まで飲んでましたよ。今、午前七時半だぜ、3時間半しか経ってないよ。それを元気な大声出して。「アニータ、あんた、頭、痛くないの?」「ハイ?なぜ?」「三人でウィスキー三本空けたんだよ?」「まったく普通でありますが?」

「広瀬、ロシア女は化け物だよ。ソーニャもお仲間だ。考え直したほうがいいよ」とソファーに座っている二尉に言った。「二佐、小官は、二佐の言われる化け物でも好きであります!」「恋は盲目だもんなあ。で、広瀬はなんでここに?」

「ほとんど積載していた物を積み下ろしまして、その確認作業です。それと・・・」
「それと?なんだ?アニータを口説きに来たか?子猫ちゃんだけじゃ足りないの?」

「ちょっと、二佐、お止め下さい!あのですね、昨日、二佐と少尉がドックにあるサーモバリック爆薬弾頭ロケット弾の話をされたということで、その話をしていたんですよ。地対地仕様のロケット弾で対空、対艦が可能かどうか?」

「ああ、あの話ね。面白いわね。広瀬はどう思うの?」
「検討の余地あり、です。ロケット弾内部の液体燃料の放出弁から蒸発した燃料が秒速二千メートルで噴出しますね。約マッハ6。それが着火されて蒸気雲爆発を起こします。信管を調整して航空機前方で起動させれば、このロケット弾だと燃料の蒸気雲の直径は500メートルになります。この範囲が爆風でおおわれ、次に爆縮する。信管が正常に作動するなら、いくらJ-20(殲20)がマッハ2で飛行していてもかわせるもんじゃありません。一発で撃墜可能です。命中させなくてもいいんですからね」
「ほほぉ、なるほど」

「それから、艦艇に対しても、艦上二百メートルに信管をセットすれば、航空機と同じく、艦艇は破損、乗組員は爆風と無酸素状態で、戦闘不能状態になります」
「うん、まあ、使えないけどねえ」
「大量破壊兵器扱いですからね。あくまで、理論上の話でありますが」
「想像するだけでおっかない兵器だ。ランチャーは24発装填だよね。連続発射しないで、単射すればかなりの数の艦艇、航空機が破壊、戦闘不能にできてしまうな・・・帰りの沖縄寄港時に防衛省装備庁に引き渡すんだろう?」

「ハイ!装備庁の沖縄分屯所でチェックされるそうです」とアニータ。
「それってさ、装備庁なら航空装備研究所管轄になりそうだ。航空装備研究所って、南禅と羽生がしゃしゃり出てくるような気がする。あんなオタクのキチガイにこれを扱わせるのか?」

「紺野二佐は、南禅二佐と羽生二佐と仲が悪いんですか?」と広瀬。
「仲が悪い?航空装備研究所のある立川とか北千住でいつも奴らと飲んでるよ。逆だよ、逆。あいつらがお茶目するたびに、情報保全隊本部内で問題になるのを私が揉み消しているんだ。だから、奴らにこんな燃料気化爆弾みたいなオモチャを渡すと、また揉み消さないといけない羽目になるから心配しているんだよ」
「なるほど」

「今度だって、どう誤魔化したのか、佐渡ヶ島に最高機密のレールガンを持ち出したろう?戦果があがったからいいが、これだって、情報保全隊本部内でまた審査だよ。アホのあいつらは、昇進もいらん、除隊させられたっていいとほざくが、あんなものを民間に放出したらどうなる?ロッキードやボーイングで大量破壊兵器を作るのがオチだよ。だから、防衛省はあいつらを抱え込まざるを得ないんだ」
「大変な人たちなんですね?」
「大変どころの話しじゃないよ」

★紺野二佐の悪巧み

「そうそう、ひらめいたんだけどね・・・アニータ、昨晩の話を広瀬にするよ」
「よろしいのでありますか?」
「広瀬の今回の任務にも関わることだ。オフレコで知っておいてもらおう」

 紺野は、石垣島を巡る人民解放軍のモグラ(スパイ)、左派系の破防法違反くずれの中国シンパの話をした。それで、アニータとスヴェトラーナが発見した中国製69式40mm対戦車ロケットランチャーの話も。
★石垣島、自衛隊ミサイル部隊周辺の農家の納屋

「紺野二佐、その状況は大変緊迫しているとしか申せません」と広瀬。
「そうなんだ。それでね、二人に相談なんだが、ペレスヴェートとオスリャービャの佐渡ヶ島帰港を二週間ほど延ばすのはどうかと思ってね。アニータとスヴェトラーナの部下、40名がいれば心強いと私は思う」
「確かに、アニータとスヴェトラーナ両少尉とその部隊がいれば、いろいろな隠密行動もできるでしょうね?」と広瀬。
「キミの子猫ちゃんも残るしね?」
「それは・・・私的な話でありまして・・・でも、そんなことが可能でしょうか?」
「私が情報保全隊本部から統合幕僚監部に申し入れさせる。同時に、エレーナ少佐に言って、東ロシア共和国、東部軍管区に根回しさせれば、大丈夫と思う」

 アニータが「スヴェトラーナにもこの話をしてよろしいですか?」と紺野に聞いた。「もちろん、スヴェトラーナにも知っておいてもらわないと困る」と紺野。
 
「それで、続きがあって、公安警察の富田が、中国人のモグラ(スパイ)と日本人の中国シンパの接触場所のバーを探り当てたそうなんだ。沖縄の暴力団、沖縄旭琉会系が経営するバーらしい。そこに、我々の誰かが潜入して、諜報するのもありなんじゃないかと思ってね」

「それは、私とスヴェトラーナの仕事ですわね?」とアニータ。
「ダメだね。アニータとスヴェトラーナじゃあ、臭いがプンプンするよ。奴らは、同じ世界の人間の臭いに敏感だ。私も同じく」
「じゃあ、誰が?」
「考えたんだけどね、アニータ、君らの部隊でとびっきりの無邪気な人間がいるだろう?子猫ちゃんが?」
「あ!それ、ダメです!私が許しません!」と広瀬。
「キミ、ソーニャはまだ東ロシア共和国軍所属、貴官の指揮系統じゃない」
「そ、それは・・・」
「それと、アニータ、さっき岸壁で会ったんだが、カテリーナ伍長ってどう?」
「ハ?カテリーナ伍長でありますか?彼女は非常に優秀な兵士でして、18才ですが、近い将来、下士官に推薦しようと思っております。ですが・・・」
「ソーニャもカテリーナも優秀、自分の身は自分で守れる。しかも、カテリーナもそうだと感じたが、とびっきり無邪気で、中国の奴らに警戒感を持たれないよね?お二人さん、どう思う?」

 考え込んでいたアニータが「確かに、私とスヴェトラーナでは、意識したとしても相手が警戒するでしょう。でも、ソーニャ准尉、カテリーナ伍長に確認して、本人の了解をもらいたいのですが」
 
「アニータ、ちょっと待って!俺の了解はどうなる?」と広瀬。
「広瀬ちゃん、ソーニャ本人が受ける、っていったらどうなのさ?」
「・・・」
「じゃあ、この作戦、検討の余地があるってことで、決定ね!」
「・・・俺は承服できません!」
「まあまあ、内閣情報調査室持ちで、また豪華リゾートホテルに招待してあげるから。ね?アニータ、ソーニャをまた非番にしてあげてちょうだい!広瀬ちゃん、ごねちゃダメだよ。何なら、首相から防衛大臣に言ってもらって、あんたを臨時で私の指揮下においてもいいんだよ?」
「紺野二佐、あなた、悪魔だ」
「諜報担当だもん」
「南禅さんは無邪気です」
「そうよ、南禅、ソーニャ、カテリーナは無邪気。私、アニータ、スヴェトラーナは違う。聞くところによると、アナスタシア少尉も私の同族ね。アデルマン大尉は無邪気なんじゃない?女は幾種類もあるのよ。おわかり?」
「・・・」
「・・・エレーナ少佐はわかんないなあ。どのカテゴリーにも入らない・・・」
「紺野二佐、少佐は、天使と悪魔、両方兼ねておられますので」とアニータ。
「エレーナ少佐に直に会ってみたいわねえ。でも、佐渡と石垣島じゃ機会はないけど・・・じゃあ、善は急げだ。アニータ、ソーニャとカテリーナを呼び出してちょうだい」

 艦内放送で、アニータは二人を呼び出した。ひと通り、アニータはソーニャとカテリーナに状況説明を行い、任務概要を知らせた。
 
「准尉、伍長、この任務は任意である、両名の承諾がなければ、小官はキミらに下命しない。どうだ?」
「ハ!お受けいたします!」と即座にソーニャ。広瀬が「ソーニャ、危ないよ。暴力団経営のバーに行くんだよ?」と言うと「広瀬二尉、軍の命令であります。任意ですが、小官を信頼されての指示、お受けいたします!」と一人前に扱われてうれしい彼女はニコニコして言った。

 自衛隊の営繕事務職だとばかり思っていた紺野が、諜報担当のスパイと知らされてビックリしていたカテリーナも「小官も准尉と同様、お受けいたします!」とアニータに敬礼した。
 
「ソーニャ・・・」と広瀬。「あなた、私だって非番ばかりでイヤなんです。今度は任務!面白そうじゃないですか?ソーニャ、頑張ります!」と准尉。

「広瀬、そういうことだ。大丈夫だよ。富田と私、アニータ、スヴェトラーナがバックアップするから。なんていっても、キミの任地の治安に関する重要なことだよ。諦めなさい。さて、お二人」とソーニャとカテリーナに言う。
「ハ!」
「買い物に行こう」
「ハイ?」
「どうせ、キミら、両少尉のような黒のレオタードは持っていまい?市内のスポーツショップとアパレルショップに行って、今回の任務に必要な服を買いに行くんだ」
「りょ、了解であります!」
「私服に着替えて、10分後にここにもどってくるように」
「ハイ!」

 あ!頭痛いのに、10分後なんて言っちゃった・・・「アニータ、コーヒーくれない?とっても濃いエスプレッソを」

(7)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島Ⅱ

★石垣島、暴力バー店内

 ソーニャとカテリーナは首元に大きなブローチをつけていた。富田が用意したものだ。首元ピッタリのチョーカーにCCDカメラが入ったフェイクの宝石でできたブローチだ。店内の様子が音声付きで紺野たちのハイエースの車内モニターに映し出されている。
 
 彼女たちはロシア語で話していて、二人共、日本語がわからないフリをしている。もちろん、バーの店員たちはロシア語はわからない。
 
 店に入ってきた可愛い子ちゃん二人に店員が寄ってくる。あまりうまくない英語で二人に話しかけた。「いらっしゃいませ。どちらの席になさいます?」
 
「アノ、英語ワカルンデスネ?良カッタ。私タチ、ロシア人デス。港ノロシア船カラ来マシタ。英語、少シ、喋レマス。コッチノソファー席、イイデスカ?」と向かい合いの席をソーニャが指差す。

 店員が「どうぞどうぞ」と言ってメニューを渡す。「エエット、私、ズブロッカノオン・ザ・ロックヲダブルデ下サイ。カテリーナモ?同ジモノ?ジャア、同ジ物2ツ下サイ」「何か、おつまみは?」「エエット、コノフライド・チキン下サイ」「かしこまりました」と店員がカウンターに下がっていく。カウンター内に二名、カウンター席に客とは見えない人間が一名。

 ロシア語で世間話のように「カテリーナ、入り口にカメラ1台」と入り口の方を向いたソーニャが言う。
 
「こっちは、バーカウンターの一番奥に1台。あと、バーカウンターの真ん中に1台。カウンター席とソファー席を俯瞰する位置に設置」と反対側の席のカテリーナ。
「その他にカメラはなさそうね?」
「准尉、なさそうです」
「カテリーナ、カウンターの奥が見える?」
「ハイ、奥の棚で、ケーブルが PoE給電スイッチングハブにつながっているみたいです。アンテナ付きのルーターがあります」
「CCDのパケットデータをリモートで他の場所に送っているのかな?」
「そのようですね」
「CCDのメーカー、わかる?え~っとね、こっちはパナソニック。横に書いてあるのは・・・SD6・・・WV-CP・・・あとは読めないわ」
「私の方は遠くて・・・SD6、同じ型番じゃないでしょうか?」
「IPアドレスがわかればハックできるかな?」
「セキュリティーではねつけられると思いますよ」
「じゃあ、どうしようか?」
「スイッチングハブのLANアウトとルーター間で、自給式トランスミッター付きアダプターを差し込んだらどうでしょう?気づかれないような小さな奴を」
「それは紺野さんが手配してくれるわ」
「バーの奥にドアがあります。外に通じているのかな?」
「じゃあ、そこから忍び込んで、ハブとルーターの間にトランスミッターをつければいいのかな?」
「少尉たちと相談しましょう。この薄いボタン型盗聴器、どうしましょうか?」
「カテリーナ、ガム噛んでるでしょ?そのガムでこのテーブルの裏にくっつければ?」
「了解!」

 店員が飲み物と唐揚げを持ってきた。「ごゆっくり」と薄ら笑いを浮かべて店員が立ち去る。
 
「ソーニャ、ここ『ヤクザ』って言う組織の経営なの?」
「そうよ。富田さんがそう言っていた」
「店員が笑ってたわ」
「カモが来たとでも思っているんでしょうね」
「確かに、私たち、カモに見えるかも」
「だから私たちじゃないの。アニータとスヴェトラーナはカモに見えないもの」
「ふ~ん・・・ねえねえ、広瀬二尉とうまくいってる?楽しんじゃってるんじゃない?」
「ハハ、カテリーナ、羨ましい?」
「いいなあ、私も誰か紹介してほしいな」
「カオルに聞いておく」
「ゴリラは止めてよ。チンプ程度でいいもん」
「あら!ゴリラ、いいわよぉ~」
「・・・ソーニャ、これ、音声も流れてるんだった・・・」
「あ!マズイ!・・・紺野二佐、オフレコですよぉ~」

 広瀬が紺野に向かって「二佐、変な会話流さないで下さい!」と言う。「いいから、いいから、黙ってみてなって」
 
 お勘定になった。ソーニャが「チェックオ願イシマス」と店員に言う。しばらくして店員がレシートを持ってきた。それを見てソーニャが目を見開いた。立ち上がって、店員に「88,000円ッテドウイウコトデショウカ?800ドルデスヨ!ウォッカ二杯ニフライド・チキンダケデスヨ?」と詰め寄る。
 
 店員はソーニャに顔を近づけて「お嬢ちゃん、それがウチの請求だよ」「コンナ大金、持ッテイマセン!」「クレジットカードはないのかよ?」「ソンナノ、モッテナイモン!」「じゃあ、体で払ってもらおうじゃないか?」と言って、ソーニャの胸ぐらをつかもうとする。

 広瀬が紺野に向かって「二佐、言ったとおりじゃないですか!危ないって!紺野二佐、こいつら暴力団ですよ。沖縄旭琉会系が経営するバーなんでしょ?俺、助けに・・・」と言う。「そうよ、暴力バー、ぼったくりバーよ。うるさいなあ。黙って座って、モニターを見ろよ」 
 
 広瀬がモニターを見ると店員がソーニャの足元にうずくまっている。ソーニャは仰向けになっていて、身を起こそうとしている。「え?何が?」「広瀬がモニターを見てないからだよ。ソーニャが仰向けでひっくり返るフリをして、偶然に見せて、店員の股間を蹴ったんだ」「ええ?」
 
 他の店員がトラブルを察知して駆け寄ってくる。カテリーナが席の脇の床に伏せて丸まってうずくまる。避けきれずカテリーナに店員がつまずいて、股間を蹴られた店員に覆いかぶさる。
 
 カテリーナはソーニャの手をとって、起こして、すばやく店を飛び出した。左手に走って角を曲がる。黒のハイエースの後部ドアが開いて、二人が飛び込む。すぐに発進した。
 
「ソーニャ、大丈夫?怪我はない?」と広瀬がソーニャに抱きつく。「カオル、なんでもないから、みんなの前で抱きつかないで。恥ずかしいでしょ?」と身を振りほどく。

「まったく、連れてくるんじゃなかったよ。うるさいったらありゃしない。ナイフとかガンを出されたわけでもなし、素手だったら、この子たちはあんなチンピラ、すぐのしちゃうよ。ねえ、アニータ、スヴェトラーナ?」

「まあ、うまくできたわね。自然に仰向けに倒れて、つま先で股間を蹴り上げて。意識してやったとは思われないわよ。カテリーナもとっさにうずくまるなんて、良い技だったわ。ピッタリと店員がつんのめる間と位置で決めたわね」と平然とスヴェトラーナが言った。

 アニータが「あの店員、可哀想に。ソーニャのつま先がかなり食い込んだから、しばらく、エッチできないわねえ。玉、潰れてなければいいけど。だけど、私とスヴェトラーナの出る幕がないじゃない。つまんないわね」と広瀬に言った。
 
 広瀬がアニータに「少尉!あんなことをソーニャに教えたんですか?俺のソーニャに!」「あら、教えてないわよ。自習でもしたんじゃないの?広瀬もこれから股間にプロテクターでもつけないと、あなたの子猫ちゃんと喧嘩したら狙われるわよ」とニヤリとして言う。
 
「さあ、もう一軒、同じような店があるから回ってみましょう」と紺野。「え?まだあるんですか?もういいでしょう?」と広瀬。「ソーニャ准尉、この捜査妨害のキミのダーリンを黙らせて!」「カオル!いい加減にして!これは任務なのよ!」

 ブツブツ言う広瀬だったが、次の店は客もいて、ぼったくりもなく、普通に偵察は完了した。
 
 翌日の早朝3時、アニータとソーニャ、スヴェトラーナとカテリーナが黒のレオタードにバラクラバ帽という出で立ちで、二軒の店に侵入。カテリーナが思いついた自給式トランスミッター付きアダプターをスイッチングハブのLANアウトとルーター間に装着した。30秒。その程度の信号の途絶は、パケットデータの再送信で相手には気づかれない。広瀬には内緒にしておいた。うるさくて仕方がないのだ。

★バーでの工作員と左翼活動家、市議会議員の密談

 翌日、富田に一同は呼び出されて、富田の借りている市内のウィークリーマンションに行った。広瀬は自分を抜きにしてソーニャがバーに忍び込んだのをまだブツブツ言っている。
 
 富田が部屋に備え付けの43インチテレビにHDMIケーブルでパソコンを接続、トランスミッターで転送されたバーのCCDカメラの映像を一同に見せた。「こんなに早くこいつらの動きが察知できるとは思いませんでしたよ。しかし、無防備ですな。日本の警察が何もしないとでも思っているんでしょうかね?」と言う。
 
 テレビに映し出された映像を富田が解説する。「このカウンターの男は石垣島の市会議員Sです。左翼系野党の人間。相手は台湾国籍で、正体は解放軍の工作員の陳。たわけたことを話してますね。非戦力、無抵抗の島の実現なんだそうです。日本国土を売り渡すに等しい。え~っと」とパソコンを操作して別の場面を見せる。「こっちは陳と元革マルの活動家のH。石垣島の農家を買って農業をしているとしてますが、実は大麻の栽培をしている。このHと陳が、解放軍の石垣島侵攻と呼応して、両少尉が見つけた対戦車ロケットランチャーで陸自駐屯地を攻撃する手筈を相談しています。ああいう兵器を隠した納屋があと三ヶ所発見されました。ランチャーは30基以上あります。それから、マシンガン、拳銃などの携行兵器も準備しています。ほぼこいつら一味の人員は判明しました。二十三名。さあって、どうしましょうか?」
アニータ少尉のオキナワ作戦(5)、石垣島へⅡ

「ただ単に武器を押収して、逮捕しただけじゃあ、自分の信じたいことを信じる輩、バカなマスコミは、すぐ政府による陰謀だとか、人権だとかいい出すだろう。中国だって知らぬ存ぜぬで、ローカルニュースになってしまう。かといって、この映像を政府が公開するわけにもいかない。もしも、政府が公開したって、効果は薄い。そうだねえ、ちょっとした案があるんだが・・・」と紺野が説明した。「ああ、その案、いいですね!それが放映された頃合いを見計らって、こちらも一斉検挙をかけて相乗効果を狙えます」と富田。

 アニータ、スヴェトラーナ両少尉、ソーニャ、カテリーナは、ロシア連邦のやり口に慣れているので、紺野の案をすんなり納得した。

 広瀬は「そういう情報操作はやっていいんですか?」と不満顔だ。「だって、広瀬、現に隠匿兵器の存在があり、この映像があるんだ。でっち上げでも事実の捻じ曲げでもないんだよ。ただ、公開方法をひと工夫するだけだよ」と紺野。「う~ん、小官の任務外の話なんでなんとも言えませんが・・・」

★卜井・藤田・佐々木、ペレスヴェート

 卜井と藤田、佐々木が、ペレスヴェートとオスリャービャの石垣島滞在延長のニュースを聞きつけて、取材しにペレスヴェートのアニータ少尉の元を訪問した。
 
 艦の会議室で佐々木他クルーが撮影している。「二週間、ここに滞在するってことですか?」と卜井がアニータに聞く。「ええ、せっかくだから、島民の方々に艦内を公開したり、交流会を開こうと思ってます。これ、ウラジオからの案で、日本政府も歓迎してくれてます」「それはいい!いいネタですよ。局も喜びます。日程が決まればお教え下さい」「もちろん、卜井さんたちに真っ先に!」「ありがとう。佐渡ヶ島からの縁ですからね。うれしい!」「こちらも東ロシア共和国の宣伝になりますもの。願ったり叶ったりですわ」
 
 取材クルー一同はタラップを降りて下船する。タラップの警備はカテリーナが担当していた。佐々木が彼女を見つけて「カテリーナ伍長、今日もお仕事?退屈じゃない?」と彼女に言う。「佐々木さん!任務ですので!」「大変ね、こういう警備も。直立不動で長時間いるなんて・・・今度、非番、いつ?食事に行こうよ。奢っちゃうから」「え~、いいんですか?明日午前中なら非番ですけど・・・」「いいわよ、食事してショッピングしようよ。お昼にお寿司、食べない?」「お寿司ですか!ありがとうございます」「じゃあ、明日、9時くらい?迎えにくるわね」
 
 佐々木が卜井たちを追って立ち去ろうとした。「あ、佐々木さん、これ、落ちましたよ」とカテリーナが佐々木を呼び止めて、手渡す。佐々木はUSBメモリーらしきものを見て、あれ?誰か落としたかな?と何気なくポケットに入れてしまった。「カテリーナ、ありがとう。じゃあ、明日ね」と手を振ってクルーを追った。
 
 取材クルーは二軒、家を借りていた。コロナの影響で観光客が来ないために、こういう貸家があちこちにあるのだ。卜井と藤田、佐々木と他の三人で別々に借りた。むろん、三人のクルーは卜井たちの事情は知っている。
 
 卜井たちの借家は東京の芸能人の持ち物で、3LDK、庭には小さなプール付きだ。三人とも家に帰ったので、ラフな服に着替えている。卜井と佐々木はタンクトップにホットパンツ。二人共ブラなしだ。藤田はバミューダにTシャツ。
 
 藤田がソファーに座っていて、佐々木を抱き寄せた。「まだ、ぼくはこの状態に慣れてないんだよなあ」と佐々木の胸を揉みながら藤田が言う。佐々木が喘いで彼にキスをする。「まったく、あんたたち、帰ってそうそう、もうするの?」と卜井。

「だって、藤田が抱き寄せるから・・・」と佐々木。「あんたは私たちの養子なんですからね?養子の女が養父にそういうことを妻の前でするわけ?」と卜井。

「あら、卜井さん、鼻をふくらませてどうされました?私と藤田がすると、すぐ興奮するんだから」「フフフ、こういうのが日常というのが楽しいわ。みんな、一夫一婦制でどう満足してるのかしらね?妻二人だと浮気が浮気じゃなくなって、それに私は佐々木も相手にできる。このシステム、いいわ。気に入ってる」「ぼくはまだ慣れてないよ、卜井」「藤田、バミューダの前を思いっきり大きくさせて、説得力がないわよ」

「まったく、佐々木も佐々木よ。まだ、処女卒業して、数週間でしょ?それが今じゃあ娼婦になっちゃって、清楚な背の高い眼鏡っ娘はどこに行ってしまったのよ?」と卜井がL字ソファーの彼らの横に座って、ホットパンツを脱ぎだす。「こういうの見てるとガマンできないわ」と藤田のバミューダを剥ぎ取った。「私もいただいちゃおうかな?」「あ!卜井さん、先に咥えちゃうの?」「佐々木が上半身なら、私は下半身をもらうもん」三人は相手を変えながら、一時間ほど淫らなことをした。

★動画

 ホットパンツを履き、取材の時のズボンを畳んでいて、佐々木がポケットの膨らみに気づいた。「そうだ、そうだ。カテリーナがタラップを降りる時に」と絡み合っている卜井と藤田にUSBを見せる。「これが落ちてるって渡してくれたんだ。誰のだろ?」「私のじゃないわ」「ぼくのでもない」
 
 佐々木がパソコンを立ち上げて、パソコンにメモリーをさした。ウィルスチェックをして、メモリーのアカウントを確認するが、何もデータはない。持ち主不明。ファイルマネージャーで内容をチェックすると、MP4のファイルが12個入っている。タイムスタンプがファイル名になっている。時刻は一昨日と昨日の夜。
 
 あれ?動画ファイル?と佐々木は思って、一番古いファイルをクリックした。メディアプレーヤーが立ち上がり、再生がスタートする。これ、何?動画には、バーの風景が映っていた。音声が小さい。ボリュームを上げる。あれ?この人、取材した市議会議員じゃなかったかしら?え?非戦力、無抵抗の島の実現って何?
 
 別のファイルを立ち上げる。そこには大麻栽培が疑われている活動家が映っている。議員と話し込んでいた男と話している。やはり、音声が小さい。でも、ところどころで、陸自駐屯地とかロケットランチャーとかの単語はわかる。音声をテキスト起こししないと詳細はわからないが、この動画、ヤバいんじゃないの?
 
「ちょっと、ちょっと、卜井、藤田さん、この動画、見てよ」
「何よ?ポルノでも出てきたの?まだ私の番だからね。藤田、もっと奥!こねて!」
「二人共、そんなことをしている場合じゃないわよ!動画が入ってるけど、ヤバいやつよ!陸自駐屯地にロケットランチャーで攻撃をかけるっていうテロ行為の密談なのよ、これ!」
「え?何だって?」と卜井と藤田は体を離した。「なんでそんなものが?カテリーナが落ちているのを見つけたんだろ?岸壁になんでそんなのが落ちてるのさ?本物?」

「だって、この前取材した議員とか、大麻栽培が疑われている農園の持ち主とか、本物だと思うわ」

 三人は、あわてて、動画音声の文字起こしをした。集中しないと聞き取れなかったが、内容は、無抵抗で中国軍の上陸を許すとか、数日後に駐屯地を攻撃するとかの内容だった。
 
「これ、東京の局に連絡するわよ。こんなとんでもないもの、相談しないと。佐々木、カテリーナにどこで拾ったのか聞いてみてよ」「明日、朝9時に食事しようよって誘ってあるわ!」「それで聞いてみて・・・まさか、自衛隊の人間が落としたもんじゃないわよね?私と藤田は、自衛隊の石垣出張所の広瀬二尉とかに聞いてみる!」

(8)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島Ⅲ

★露見、ガサ入れ

 翌日、佐々木はカテリーナにもアニータにも聞いて回ったが、だれもメモリーのことは知らないと言った。石垣出張所に行った卜井と藤田は広瀬二尉に聞いたが、彼も知らなかった。ちょうど事務所にいた佐世保基地の営繕の女性が「そうだ、オフレコですけど、警察が何か今晩、ガサ入れとか言ってましたよ・・・って、言っちゃった!・・・」と舌を出した。

「え?紺野さん、でしたっけ?それって、誰から?」「昨日、警察署で自衛隊員の隊舎の警備状況を打合せした時に・・・誰だっけかなあ・・・私の知らない警官から、自衛隊も注意して下さいって言われまして・・・誰だかわかりませんが・・・」

「それだ!でも、警察に聞くわけにもいかないわね。紺野さん、今晩ですよね?」「今晩と言ってましたよ」「よし、警察を張って、それに合わせて放送すればいい!」「え?何のお話?私が漏らしたなんて言わないでくださいよ」「紺野さん、大丈夫。口は固いですから!」

 卜井は東京で映像の人物を目張りして編集させた。警察署を張って、尾行して、ガサ入れの現場を撮影、それに合わせて、映像を流してしまおうという計画だ。
 
 その夜、警察を尾行した一同は、市内数ヶ所、駐屯地近くの納屋から押収された武器などを撮影するのに成功した。警察には苦情を言われたが、捜査の邪魔はしていないと押し切った。すぐさま、東京に映像を流し、USBメモリーの映像とともに緊急特番で配信された。東京ローカル局だが、全国ネットの局にも流れた。
 
 市議会議員も絡んだ反国家活動のスクープに深夜放送だったのにも関わらず、日本中が大騒ぎになった。T新聞やA新聞、その系列地上波局などは、報道内容に政府の謀略などのニュアンスを混ぜて報道した。沖縄県知事は何かの間違いと繰り返して声明を発表した。しかし、翌日、容疑者となって、目張りを消されたUSBメモリーの動画がさらに追加で放送され、左派系メディア、野党などは沈黙した。
 
 保守系団体がチーム沖縄(那覇市と名護市を除く県内9市の市長で構成された市長連合)以外のオール沖縄系の南西諸島の首長と沖縄県知事のリコール実施を発表した。
 
 島民たちの間でも本土から移住した活動家のリストが出回り、沖縄県、南西諸島を中国に売り渡す売国奴という意識が高まった。沖縄県警が、リストの活動家を保護、警備した。ほとんどの活動家は沖縄を去った。

★石垣市内、富田のアジト

 ガサ入れのあった夜、紺野たちは富田のアジトのマンションに集まっていた。計画はうまくいったが、一同、浮かない顔だった。広瀬が「富田さんは現場に立ち会わないんですか?」と聞く。富田は「私の所属のものは、面(めん)が割れるとマズイんですよ」と言う。「なるほど・・・」
 
 ガサ入れ担当の刑事から、押収物などの連絡が富田に時折入った。「う~ん、事前捜査以上の押収物です。出るわ、出るわ、携帯兵器、自動小銃、機関銃、グレネードランチャー、暗殺用のサプレッサー付き拳銃。市議会議員と支援者数名の自宅から書類などの押収物。活動家の農園からも陸自駐屯地の攻撃概要書、陳の自宅からは暗号無線機、武器、弾薬。他にも台湾国籍の人間数名が加わっていて・・・よほど浸透していたんでしょう。与那国島、宮古島、沖縄本島も同じような状態でしょう。同僚が同じことをやってますよ。いずれ、全貌が暴かれるでしょう」と富田。
 
 頭をガリガリかいて「まったく、日本国民がこんなことを!嘆かわしいったらありゃしないわ。これこそ売国奴だわ。この情報は内閣情報調査室を通じて、台湾政府の当該部署にも渡さないといけない。台湾本土防衛にも関わることだもの。しかし、北京も何を考えているのか?それとも人民解放軍東部戦区の独断専行なのかしら?ウクライナの現状を考えても、常識的に台湾侵攻など国際社会が許すはずがない。ましてや、南西諸島と沖縄の奴らの考えている第一列島線の占領など夢物語なのに。プーチンと同様、習近平も側近から本当のことを教えられていないのかしらね?」
 
「俺には信じられない話ですよ。紺野二佐や富田さんの活動も夢にも思いませんでした」と広瀬。「カオル、こんなのロシアじゃ当たり前よ。FSB(旧KGB)なんてでっち上げの情報で、暗殺、シベリア送りなんて朝飯前よ。もっともっとひどい!日本は、さすが民主国家だから、でっち上げはしていないわ」とソーニャ。ロシア人たちはみんなうなずく。

「だけど、これで終わりじゃない。これが始まりだ。これから、北京がどう出てくるか?絶対に目の上のたんこぶの南西諸島に難癖をつけて侵攻してくる。ここ石垣島が最前線だよ」と紺野。

「紺野二佐ならどう難癖をつけられます?」とスヴェトラーナが聞いた。

「そうね、私なら、空からは、台湾のF-16をおびき出して、日本の領空でドックファイトをし、偶発をよそおって、空港などを攻撃させる、かな?海からは・・・あ!大変だ!」「なんです?何が大変なんです?」

「PMCを使う、という手もあるじゃないか?」
「PMC?」
「PMCはPrivate Military Company、民間軍事会社のことだよ。ウクライナでも暗躍している。ようするに、国際的な傭兵会社だ。正式な軍隊じゃない。軍事コンサルティングだけじゃない。戦闘も請け負う。白人の欧米人じゃなく、アジア系のスタッフも多くいる。国籍不明で正体を絶対に吐かない。そんなのが無国籍で石垣島に上陸して破壊工作をしてご覧よ。それを口実に中国が治安維持の理由で侵攻する恐れもある。この世界、何でも起こり得る。広瀬、自衛隊のOBだってPMCに所属してるんだよ。奴らは金で動くからね」

★石垣市内、卜井たちの一軒家

 翌日、日本中が大騒ぎになって、卜井アナ、藤田アナのSNSは最近にない大炎上をしていた。左寄り、右寄り双方からコメントが殺到。RTの数が数十万にのぼった。台湾では、トップニュースで報道され、Youtubeでは、中国語繁体字訳、簡体字訳が削除しても削除しても出回った。
 
 卜井たちが辞めた元の局では、なぜこいつらを辞めさせた!というので、トップが叩かれた。卜井側で動いて、佐渡二見町からの卜井の実況中継を独断で放送した局長は干されていたが、役員として返り咲いた。卜井の実況中継の時にオバQを再放送していた局が大スクープをものにしたとは実に皮肉だ。
★戦闘、佐渡二見町から卜井の中継

 佐々木は、USBを拾ってくれたカテリーナを自分たちの一軒家に招待した。「カテリーナちゃん、あなたのおかげでスクープがものにできたのよ!もう、何でも注文しちゃう!ねえ、何が食べたい?何か欲しい物ある?なんでも言って!」と卜井。
 
 紺野と富田の悪巧みを知っているカテリーナはバツが悪い思いをした。「あの、私、USBを拾って、佐々木さんに渡しただけですから。未だに誰のものか、わからないんですか?」と彼女。
 
「それがまったくわからないの。なぜ、岸壁にこんなものが落ちていたのか。でも、ペレスヴェートのタラップの近くで見つかったから、メモリーの入手経路は言えないのよ。他のマスコミが憶測でロシア海軍と結び付けないとも限らない。拾ったのがカテリーナなのも言えないでしょう?まさか、伍長がこんなものをでっち上げられるわけもないのに。あなたが巻き込まれてしまうから」と佐々木がカテリーナに説明する。カテリーナはそのデータの取得に一役かったので、ますますバツが悪い。

「まあ、いいじゃん!この話は墓場まで持っていこう!それより、カテリーナちゃん、何が食べたい?」と卜井。「ソーニャ准尉が沖縄でゴーヤチャンプルーという料理を食べて美味しかった!と言ってました」「お安い御用だ!そうそう、ここはね、石垣牛というのが有名なんだ。和牛だよ。ハンバーガーもおいしい!ステーキもいける!よし、両方頼もう!それから・・・佐々木、他には?」

 スマホを見ながら「ええとですねえ、シーフードで、本マグロ、カツオのたたき、お!うつぼのかば焼き風?、イカスミチャーハン!」と佐々木。「よし!それ全部、頼もう!」と卜井が言う。

 藤田が「卜井ちゃん、それ、自分が食べたいものだろう?」「うるさい!カテリーナちゃんも好きだよね?ね?ね?」「ハイ!日本食、大好きです!」「ほぉら、藤田、そうだってさ」「よろしいんですか?」「プロダクションからも局からも特別ボーナスがでたことだし、気にしない、気にしない」
 
 四人とも石垣料理を堪能した。卜井が「カテリーナは、これからどうするの?」と石垣牛の1ポンドステーキをバクバク食べながら彼女に聞いた。
 
「どうなるんでしょう?ソーニャみたいにお相手もいません。これで佐渡に帰って、ウラジオの原隊に戻ると思います。欧州ロシアのこのウクライナの騒動なので景気もよくないです。家族にも仕送りしないといけません。職もロシアはあまりないですので、軍にいようと思います」
「ふ~ん、カテリーナは何才?出身は?何人家族なの?」と紺野と同様商売柄身上調査をしたがる卜井。
「18才です。東部シベリアのブリヤート共和国ウラン・ウデの出身で、父母、五男三女の10人家族です。私は五番目の子で次女なんです」
「ブリヤート共和国?行ったことある!バイカル湖の南でしょう?アジア系の人が多かったわ」
「モンゴル共和国と国境を接しています。モンゴル系のブリヤート人が多いんです。私もロシア人とブリヤート人の混血。父がスラブ系ロシア人で母がブリヤート人」
「そうなの?ブリヤート人とのハーフに見えないけどねえ?金髪碧眼じゃん!あ!ごめんね、立ち入ったこと聞いちゃって」
「いいえ、八人兄弟でも、私みたいな容貌とか、ブリヤートの血が濃い兄弟姉妹とか、バラバラですよ。これが写真」とスマホの家族写真を三人に見せる。

「お~!みんなイケメンで美人だわ。こりゃ、日本でデビューしたら売れるよ!」
「デビュー?」
「歌手とか・・・」
「・・・ウチの家系、みんな音痴です・・・スミマセン・・・」
「・・・いや、モデルとかね」

「卜井、モデル事務所を開業するつもりか?」
「いいじゃん!ウチのプロダクションでデビューさせれば!」
「卜井さん、あの、みんな、ブリヤート共和国の田舎者なので・・・」
「いや、素朴さがいい!失礼だけど、ブリヤート共和国って、ロシアの中でも貧しいでしょ?」
「ハイ、年収はモスクワの半分ぐらいです」
「よし!ロシアに帰らないで、私たちが身元引受人になるから、除隊して日本にいなさい!エレーナ少佐にねじ込む!私たちと暮らそう!」
「ハァ?・・・しかし、え?日本にいられるんですか?結婚しないとダメと思ってました」
「身元引受人がスポンサーになれば、ビザがおりるのよ。何なら、養子縁組にしてもいいわ。佐々木も私と藤田の養子なんだよ」
「・・・あの、ソーニャから聞いたんですけど、その・・・お三人は・・・おたがい夫婦関係にあるんじゃないですか?」

「え?ソーニャから?」と佐々木。「ええ、ソーニャが内緒だよって言って。ソーニャは日本って変わってる、理解できないって言ってました。私もよくわからなくて・・・」

「なんだ、知ってたの?でも、大丈夫よ。カテリーナちゃんを私たちの関係に引き込むつもりはないから。18才の女の子をこういう関係に巻き込むつもりはありません。心配しないで。ちゃんと、大学に行って、お嫁に出してあげるから」と卜井。

「藤田さん、不躾な質問をしてもよろしいですか?」「どうぞどうぞ」

「あの、事実上、藤田さんは奥さんを二人もらっている状態なんですよね?」
「う~ん、そうなんだけど、実際は、ぼくと卜井、ぼくと佐々木だけの関係じゃなくて、卜井と佐々木も愛情関係になるから、三角形の夫婦関係です」

 空中に三角形を書いて、首を傾げるカテリーナ。「それって、嫉妬とかはないのでしょうか?だって、私に彼氏がいたとして、その彼氏が他の女の子とセックスしていたら、イヤでしょう?嫉妬します、私」
 
「ぼくと卜井、ぼくと佐々木だけの関係ならそうなんだけど、彼女たちも関係があるから三角形が引き合って、ちょうど良いバランスになっている状態というか・・・」

「三角形が引き合う・・・う~ん、カテリーナ、わかんないや。こういう関係は日本では普通なんですか?」
「普通じゃないと思う。でもね、ロシアのウクライナ侵攻以来、世界は変わっちゃったと感じられる。もう、なんでもありかなと。最初は驚いたよ。卜井が突拍子もないことを言うから。こいつ『藤田、私と結婚しよう!籍を入れよう!佐々木を私たちの養子にしよう!それで、私たちはずっと一緒!』なんて、突然言うから。ぼくは佐々木の処女をもらっちゃったし、混乱したけどさ。でも、三人とも独身、浮気とかややこしいことにはならないようだから、こういうのもアリかな?なんて思って。それで、卜井、佐々木がこういう関係を解消します、他に相手ができました、というならその時はその時と思った次第です。でも、今はこの関係、いいと思う。三人とも収入はある。子供が出来たら、二人で子育てするより、三人で子育てした方が楽。ヨーロッパではこういう関係はままあるらしいよ」

「そういう三人の中に私が入っていいんでしょうか?」
「カテリーナに性的な関係を求めちゃいないわよ」と卜井。
「でもね、でもね、卜井さん、もしもですよ、私が三人と一緒に住んで、夜、三人があれをしてるんだ?なんて思ったら、どうなんでしょう?私、パパとママのセックスを1回だけ見ちゃったことがあって・・・ちょっとショックだった・・・」
「確かに刺激は強いかも・・・でも、慣れれば平気になるんじゃないの?まあ、一人暮らししてもいいからさ」
「わかりました。この話、絶対に秘密でソーニャと相談してもいいでしょうか?」
「いいわよ・・・あ!でも、ソーニャには広瀬二尉には絶対に言わないって約束させて!広瀬二尉、頭が固そうだから」
「了解です!」

「そうだよねえ。カテリーナ、まだ18才だからね」と佐々木。「あのぉ、佐々木さん、一応、私も経験はあります。経験豊富とは言いませんけど」「あれ?処女じゃないの?」「初体験は15才の時です。同級生と」「・・・」

「もしかしたら、佐々木ちゃんよりも経験豊富だよ、この子」「え~、私なんて、アラサーでやっとこの前、捨てたのに!カテリーナ、何人くらいと?」

「あの、経験は三人しかありません・・・」「三人も!私なんか、藤田しか知らないのに!・・・負けた・・・」

 佐々木は落ち込んだ・・・。

★日本国内の変化

 卜井たちの放送番組の公開以来、日本国民の意識がまったく変わった。少数派の左派系活動家の存在を黙認、認識していなかったのが、そこに他国の干渉があったという事実を突きつけられたのだ。

 さらに、自治体の議員、首長にまでその影響が及び、日本国の防衛を弱体化させようとする動きがあったのに気づいた。テロ兵器まで持ち込まれていたのだ。むろん、隣国は知らぬ存ぜぬで押し通した。
 
 しかし、お公家集団が主流の総理大臣も国民の突き上げもあり、何もしないという姿勢は変えざるを得なかった。内閣情報調査室、公安警察、自衛隊情報保全隊などから何度も報告が上がり、与党ハト派議員たちが握りつぶしていた隣国のスパイ外交官、モグラのリストを元に、外交官の追放、スパイ摘出をせざるを得なかった。その数に国民はさらに驚いたのだ。
 
 いわゆる護憲派政党の支持率は真っ逆さまに急落した。与党でも、平和主義を標榜していた政党、ハト派議員の支持も急落し、次回の選挙での再選もおぼつかなくなった。
 
 沖縄県で保守系団体が初めたリコール運動は、またたく間に署名を集め始めた。沖縄県の有権者総数は約百万人。沖縄県知事のリコールに必要な署名は、80万を超えるときは、80万を超える数の8分の1と40万の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上であるから、2.5+6.7+13.3=22.5万人の有権者の署名が必要だった。それがあっという間に2日間で集まったのだ。それだけ、県民の今までの欺瞞に対する怒りが強かったのだろう。

 他の護憲派の首長や護憲派優勢の自治体議会も同時にリコールを起こされた。同じく有権者の3分の1の署名が集まりリコールが成立した。この請求は、請求から60日以内に住民投票が行われる。
 
 与党内でも改憲派の勢いがました。衆議院憲法審査会も定例日開催に応じないなどの妨害をしにくくなった。また、2021年5月に憲法審査会で可決された国民投票法の改正案に関しても即応性などがないなどで、ハードルを下げる案が再浮上して、憲法審査会は紛糾した。

 特に、国民投票期日の決定で、発議後、60日から180日以内という条文がやり玉に上がった。2~6ヶ月も国民投票期日を寝かせておく明確な理由がないからだ。与党は本会議での可決、議員3分の2という条文に関しては何も言わなかった。放置しておいても、野党の支持率失墜で、野党が3分の1以上をとれる見込みは非常に薄い。
憲法改正国民投票

 ちょっとやりすぎたかしら?首かもね?と紺野と富田は思った。石垣島からの報告を受けて、首相、与党ハト派の重鎮は激怒し、彼らの罷免、左遷を画策したが、元首相などの反主流派、防衛大臣が反対をして、お咎めなしとなった。
 
 さらに、なんと、東ロシア共和国のジトコ大将からも紺野と富田の擁護を求めてきた。もはや同盟国同然の東ロシア共和国からの外圧ではどうしようもなかった。むしろ、南西諸島、沖縄県の大掃除をしたことで、評価が上がったくらいだ。

(9)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島Ⅳ

★佐渡ヶ島、自衛隊駐屯基地

 石垣島でガサ入れのあった翌朝、エレーナ、鈴木三佐と紺野二佐が盗聴防止付き暗号通信PCアプリでテレビ会議をしていた。
 
 エレーナが「紺野二佐、石垣島の一味が数日後に駐屯地を攻撃するという計画だったということは、人民解放軍の南西諸島侵攻もその期日を狙っている、ということですね?」と紺野に聞く。

「自白した人間の話では、五日後の午前二時に陸自のミサイル部隊駐屯地を攻撃する手筈だと富田が言っていたわ」
「ということは、広瀬二尉の水陸機動団四百名、ミサイル部隊の五、六百名、合計千名で対処するということになりますね?地元の警察はたいした人数じゃないんでしょう?おまけに、陸自ミサイル部隊は、連隊編制の野戦特科部隊でしょう?沖縄県うるま市の勝連分屯地からの第15高射特科連隊第2中隊ですよね?」
「お!エレーナ少佐、詳しいじゃない?」
「これでも東ロシア共和国軍の将校ですわよ」
「あなたと話しているとモデルか何かと勘違いするのよ」

「あら?褒めていただいているのかしら?って、それで、高射特科連隊は技術士官がほとんどであって、水陸機動団のような戦闘士官じゃないでしょ?対空戦闘、対艦戦闘であればいいですが、上陸作戦での白兵戦闘が発生した場合、あまり戦力にならないですね」

「そうなんだよなあ。水陸機動団と言ったって、米軍の海兵隊と規模が違う。総員三千名だし、こっちに広瀬の四百名を出してしまって、これ以上は無理だよ。佐渡の残りの隊員を動かすと佐渡の防備がおろそかになる。沖縄の本隊は、本島と南西諸島の防備もみないといけない。余剰戦力なんてないんだよ。在日米軍だって、相手が中国だ。核保有国相手に手を出しにくい。日本なんて守ってくれないよ。せいぜい、兵器を貸してくれる程度だよ。エレーナ少佐の部隊が佐渡から石垣に来てくれりゃあいいが、日本の軍隊じゃあないもんなあ・・・」
石垣島に米軍のミサイルが配備されたら「中国は非常に危険」=中国報道

 紺野との通話が終わって、エレーナが鈴木三佐に「ヒロシ!この佐渡の私の部隊以外に、日本に数日で沖縄方面、石垣島に展開できる実戦即応部隊があると思っているの!言ってご覧なさい!自衛隊のどの部隊よ?どの水陸機動団よ?」と言う。

「エレーナ、だからといって、東ロシア共和国の軍隊が、最前線の石垣島に中国相手に展開するって外交上まずいじゃないか?」
「石垣島には、ペレスヴェートとオスリャービャが停泊しています。我が部隊の人間、女性四十名、両艦の乗員百名がいます。沖縄には、強行武装揚陸艦『ポモルニク』四艦、乗員八十名がおります。合計二百二十名!東ロシア共和国軍の海上勢力と部隊保護のために佐渡の私の部隊を派遣して何が悪いというの?」

「石垣島には広瀬の水陸機構団四百名もいるだろう?それで十分かもしれないよ?相手の出方もわからないんだから」
「広瀬二尉の四百名、ミサイル部隊の五、六百名、技術士官たちも入れても合計千名よ!佐渡に襲来した北の勢力は何人だった?三千名よ!中国が同じ戦法を取るなら足りるわけがないじゃない!ここには、私の部隊、女性兵士八百名(二百名が死傷して戦闘不能)、男性兵士七百名(三百名が死傷して戦闘不能)がいる。北朝鮮もまだ動いているから、五百名は残すとして、千名は派遣できます!即応展開可能!今からでも行けるわ!第一、自衛隊の水陸機動団は総数三千名。石垣島に四百名派遣で、残りで他の南西諸島の防衛もするんでしょう?予備はいないわよ」

「あのさあ、キミの部隊は傭兵部隊じゃないんだから、佐渡だ、沖縄だ、石垣島だって飛び回れるわけがないよ」
「そんなことは、日本政府に申し入れます。パパからも申し入れてもらう!」
「ちょっと、パパとか言って、私的な関係を国際関係に持ち込むのか?いつもキミがそれを大将に言っているだろう?」
「場合によっては、都合よく、娘とパパの関係も利用するわよ!東ロシア共和国軍の海上勢力と部隊保護目的!部外者じゃないわよ!」

「俺はどうするんだよ?」
「あなたは、佐渡駐屯基地の人間でしょ?ここに残ればいいわよ!それこそ私的関係を持ち込んじゃダメでしょ?」

「あ!それ、ずるいじゃん!俺だって、コネはあるんだからね。一緒に行きます!」
「あら、あなた、ダーリン、一晩も私なしじゃあいられなくなったようね?」
「何を言ってる!キミのパパに私のじゃじゃ馬をよろしくと頼まれているんです!水陸機動団とロシア軍との連絡係で行こう!」

「そんなことを言って、南の島で浮気するつもりじゃないでしょうね?浮気したら銃剣で八つ裂きにしてやる!」
「何を言ってるんだ?そっちこそ、浮気したらお尻ペンペンしてやるぞ!」
「あら!浮気しなくても、ペンペンしてちょうだい!まあ、いいわよ。南の島でお尻ペンペン、最高よ!」
「なあ、この話、ICUに入院しているアデルマンとアナスタシアにバレないようにしないと、あいつら、病院から脱走するぞ!小野と小野寺にも言わないでおこう」
「あと、南禅二佐と羽生二佐にも内緒よ。絶対に、また、来るから」
「ここにはヤバい人間しかいないよな」
「まったく、制御不能ばっかり」
「キミが一番、制御不能だよ」

★佐渡空港、C-2輸送機

 佐渡空港は滑走路の長さは890m、幅25m。2,000級滑走路を備えた拡張整備事業が進んでいるが、現在は、短距離離着陸 (STOL) 性能向上型のATR42-600Sなどの小型機が離発着できる程度だ。そこに今、空港のエプロンに航空自衛隊のC-2輸送機が5機ならんでいる。C-2は最短離陸滑走距離500mだから佐渡空港でも離発着になんの問題もない。
 
 C-2は、乗員3名、搭載人員110名。最大搭載量は36トン。佐渡から沖縄まで二時間半で到着できる。エレーナの部隊千名なら装備も含めて二往復少々、一日で沖縄まで輸送できてしまう。
 
「ほぉら、ヒロシ、やればできるじゃない?」
「誰かさんが、ごねて、ウラジオから首相官邸、防衛省まで灰神楽が立つほど大騒ぎをさせたせいじゃないか?」
「日本国のためなのよ!」
「首相が嘆いていたそうだよ。ジトコ大将はああだこうだ言って、最後には『日本国のコスト負担でお願いします。我が国は貧乏ですからな』って一言必ず付け加えたそうだよ。その派遣理由が、東ロシア共和国軍の海上勢力と部隊保護のためなんだぜ」

「私の部隊が派遣されるおかげで、中国に対する南西諸島の抑止力にもなるんだから、日本の国益にもなるでしょ?だいたい、東ロシア共和国ができたお陰で、北からの圧迫がなくなったんだから。北海道守備の負担が減ったわ。おまけに、東ロシア共和国がモンゴル、中国、北朝鮮の上を覆いかぶさる形で威嚇しているわけですから、防衛負担は減る、抑止力は増大する、願ったり叶ったり。C-2の五機や十機、ケチっちゃダメでしょ?」
「俺の奥さんは、国際傭兵部隊のチーフみたいになってきたぞ。いっその事、PMC(Private Military Company)、民間軍事会社でも設立したらどうだい?」
「あら、それ、いい考えかもしれないわね?」
「冗談でしょ!・・・ま、政府は、東ロシア共和国に対して、緊急予算援助3千億円くらい考えているそうだよ。確かに、3千億円で抑止が買えるなら安いものだ。自衛隊には、朝鮮半島と台湾有事の同時二方面作戦を遂行する準備はできていないのだから」
「そうでしょう?そうでしょうとも!リーズナブルなのよ、私の提案は!日本政府も私に特別ボーナスを出してもいいくらいよ」
「紺野二佐が、あなたのエレーナ、スペシャルエージェントで内閣情報調査室職員になってはどうかしら?って言ってたぜ」
「あ!それも面白そう!スパイじゃん!」
「おいおい、東ロシア共和国高官の娘が他国のスパイって、マンガじゃあるまいし」
「この戦争だって、マンガみたいなものよ」

「・・・それで、俺たちは石垣島までどう行くんだい?」
「沖縄までは、C-2で行って、沖縄からは私とあなた、後数名がMV-22オスプレイで先に石垣に入る。後続部隊は、日本に貸与している沖縄の強行武装揚陸艦『ポモルニク』四艦が部隊を石垣まで送る手筈よ」
「やれやれ、準備万端なんだね」

 このC-2は鳥取県航空自衛隊美保基地から飛来していた。二人は迷彩服姿でバッグを抱えて左端のC-2に後部から乗り込んだ。いかにも座り心地の悪そうな青い四点式シートベルト付きの座席が四列並んでいる。110名乗れる。
 
 操縦席に一番近 いシートにすでに二人乗り込んでいる。空自の常装第三夏服に冬服のジャケットを羽織っている。石垣島に行くからか?
 
 ヒロシは悪い予感がした。「お!二人共遅いじゃねえか!」と南禅二佐が二人に敬礼した。この人たち、こういう時は正装して、相手を威嚇するすべを知っているんだよなあ、普段は制服なんて着ないのにとヒロシは思った。「どこで我々の石垣島行きを嗅ぎつけたんですか?」

「何を言う、鈴木三佐。人聞きの悪い。キミらが悪巧みをして、私たちに内緒で石垣島行きを決める前から、エレーナの燃料気化爆弾の監査で沖縄出張は決まっていたんだ。それが紺野の言うには、石垣島でペレスヴェートとオスリャービャに積載されてあるっていうじゃないか?だから、石垣島に出張するんだよ」
「紺野二佐をご存知なんですか?」
「ご存知も何も、彼女は元防衛大学校の同期だ。羽生は紺野の元夫だよ」
「ハァ?」
「なんだ、知らなかったのか?こいつら十年前に離婚したんだがね。今でも立川や北千住で一緒に飲んでるよ」
「羽生さん、バツイチだったんですか?元の奥さんが紺野二佐?」
「そうだよ、言わなかったっけ?」

 エレーナが「わけがわかんないです。まあ、世の中、わけのわからないことばかり起きますから。でも、お二人とも、ペレスヴェートとオスリャービャが沖縄に寄港する時に沖縄で監査されればいいのに?わざわざ石垣島まで?」
 
「そりゃあ、お嬢ちゃん、人民解放軍が侵攻してきたら、ペレスヴェートとオスリャービャだってどうなるか、わからんだろう?だから、侵攻前に監査するのさ。あとね・・・」
「あと?嫌な予感がするんですけど?」
「レールガンの上陸作戦撃退用小型版を作っちまってさ。ちょうど、立川から出来たと報告があったから、石垣島に送っとけ!ということで。あ、今回は政府の許可は取ってあるからね。ここ佐渡の弾道弾ミサイル、滑空弾用の牛刀で鶏を殺すやつじゃなくて、可愛いのを作ったんだよ。佐渡と違って石垣島じゃあ、市内の配電グリッドが10MWとかないだろう?ペレスヴェートやオスリャービャの船内発電機でも動作するのを作ったんだ。北朝鮮人民軍じゃなく、今度は人民解放軍にブチ込んでやるのさ」

「やっぱり!」
「何がやっぱりだ?それから・・・」
「それから?」
「燃料気化爆弾のグレネードランチャーに装填できるのも作っちまってさ。米軍でも研究しているって聞いてね、真似したんだよ。試験でちょうどいい。使ってもらおうと思ってね」
「南禅二佐、そういうのいいんですか?ジュネーブ条約が・・・」
「軍隊の戦闘に使うならかまわんだろう?細かいことを言うなよ。今度は白兵戦にも混ぜてもらうからね」

 鈴木三佐が「そんな新兵器、敵に鹵獲されたらどうするんです?お二人が捕虜にでもなったらどうします?」と言う。羽生が「レールガンには自爆装置が仕込んであるから、鹵獲される前に粉々になるよ。燃料気化爆弾はあんなもの、中国でも作っている。私たちは・・・捕虜にならないように、キミらが注意して守ってくれるだろう?」と答えた。「・・・」

★ペレスヴェート艦上、アニータとスヴェトラーナ

「だけど、アニータ、J-20(殲20)に対して闇雲に撃っても当たりゃしないよ。最大速度はマッハ2だ」とスヴェトラーナ。
「それはスーパークルーズ時だけだ。J-20(殲20)は、普段は音速以下、せいぜいマッハ0.8か0.9の音速以下だ。アフターバーナーを使わないと音速以上にならない。それも秒単位でしか持続しない。敵戦闘機とのドックファイトならいざ知らず、対艦戦闘に燃料を食うアフターバーナーなど使わない。エンジンがロシアの設計だから、アメリカ製と違って耐久力に劣る」とアニータ。
「つまり、マッハ0.8か0.9程度を想定しておけばいいんだな?」
「その通り。秒速270~300メートルを考えておけばいいんだ。
戦闘機の「スーパークルーズ」ってなに? F-35はF-15より速いといえてしまう理由

「オリジナルのTOS-1A用のロケットは射程2,700メートルだが、こいつは改良型。射程6,000メートル。こいつに時限信管をセットして、敵機前方で、艦から6キロ、5キロ、4キロ、3キロで起動するように設定する。そうすると、直径500メートルの圧力波、それに続く真空の球ができる。それが6、5、4、3キロで続いてできる。高射砲の弾幕みたいなものだ。しかも高射砲弾幕と違って、この球は十数秒持続する。ここにJ-20(殲20)が突っ込んでくれば、圧力差で一瞬で飛行不能、墜落する」
「なるほど。うまく行きそうだ。で、時限信管の設定時間は?」
「このロケットの場合、初速は秒速850メートル。加速するが、仮に平均で1,000メートルとして、6、5、4、3秒で着火、自由空間蒸気雲爆発をさせればいい。500メートルの球なんだから、精度は高くなくても良い」
多連装ロケット弾
爆発物と起爆装置(3)近接信管

「え~と、どうやるんだ?スヴェトラーナ、時限信管のマニュアルを見てくれ」とアニータ。
「ヘキサゴンボルトが弾体横についているはず」
「これだな?旧式のトピード(魚雷)の設定みたいだな?それで?」
「ボルトは、12ノッチあって、1ノッチ0.5秒。だから、最大の6秒から2ノッチずつ設定すればいい。アニータ、ペレスヴェートとオスリャービャの対空ミサイルとバルカン砲はどうなのさ?」
「あんなもの、低空で来る敵の巡航ミサイルにあんまり当たらないのはおまえも知っているだろう?だから、保険の意味でこいつを使えば、撃墜確率は上がるよ。4発1セット。24発あるから6セット。2セットで1機に対処するとして、3機、またはミサイル3発は撃墜できる」
「まあ、ペレスヴェートとオスリャービャに積載しているんだから、念のため、ロケット弾を装填しておいて、時限信管をセットしておくか」
「あくまで念のためだからな。ジュネーブ条約禁止兵器だ。使えば問題だよ」
「大量殺戮兵器としてならね。でも、対空兵器なんて使い方、ジュネーブ条約に書いてないわよ」
「確かに、こんなバカげた使い方は誰も思いついていないわね。そうだ、これを『Operation Okinawa(オキナワ作戦)』と呼ぼう。サドガシマ作戦みたいに」
「アニータ、ここはイシガキジマだよ?」
「ロシア人に『Ishigaki-jima』なんて発音させてご覧よ。舌を噛むよ。それに、石垣島も沖縄県なんだから、それでいいんだよ」
「『Lieutenant Anita's Operation Okinawa(アニータ少尉のオキナワ作戦)』、いいんじゃない?使わなそうだけど」
「そうだといいな・・・」

(10)アニータ少尉のオキナワ作戦、石垣島Ⅴ

★紺野二佐の戦略

 石垣島の人口は4万8千人である。中国人民解放軍の侵攻が予想される5日後という期日内で、島民を避難させることは可能だろう。佐渡ヶ島でも人口約5万人の退避は、フェリーなどの船舶を使用し、5日間の予定で行ったのだ。
エレーナ少佐のサドガシマ作戦(5)

 しかし、石垣島と佐渡ヶ島では事情が違う
 
 佐渡ヶ島で全島民が避難、島がもぬけの殻になったとしても、新潟市の西方約45キロ、本土との最短距離約32キロ。北朝鮮、ロシアとは約800キロ北朝鮮やロシアが全島を占領、島の領有・維持することは難しい
 
 ところが、石垣島や宮古島は、台湾から230~300キロ、中国本土から500キロ弱の距離だ。沖縄本島からは400キロ離れている。九州鹿児島からは千キロの距離にある。
 
 もしも、南西諸島の島民が島から避難をし、全島の民間人がいなくなる、もぬけの殻となった場合、中国の民間人が大挙押し寄せ、島を占拠したとしたらどうだろう?台湾有事が発生し、台湾の民間人が避難して、島を占拠したとしたらどうだろう?
 
 ウクライナでは、プーチンはゼレンスキーの政府要人たちがキエフから逃げ出すことを想定した。そうなれば、その行政上の空白を突いて、傀儡政権を樹立することは容易いことと考えた。そうはならなかった。ゼレンスキーはキエフに踏みとどまり、行政上の区分としての国家が存在していることを世界に示したのだ。
 
 つまり、国土を保全するということは、一時たりとも行政行為を停止してはいけない時代になったということである。
 
 もしも、中国人民間人と称する人々が島民が退避してもぬけの殻となった南西諸島に入植と称して生活し始めたとしよう。それは民族を基盤とする行政基盤となり、その土地の国家の編入先は、島で生活する島民の意思で決定されることになる。
 
 国際法などと言っても無駄なのだ。それが、ウクライナ東部で事実起こっていることである、
 
 南シナ海の第一列島線の主張で中国に占領された島嶼群はどうであったろうか?当初、習近平はなんとオバマに説明したのか?民間人が居住し、平和裏に中国領土となると言っていた。それが、アメリカの弱腰でなし崩し的に事実となり、民間人と称する人間たちが、いつの間にか軍属となり、島を埋め立て、滑走路を作り、事実上の領土となし崩し的にしてしまったのだ。
 
 そこに、佐渡ヶ島などの本土周辺の島嶼群と南西諸島、沖縄の違いが有る。
 
「つまりだ、広瀬二尉、島民が退避したとしても、我々自衛隊は、一歩たりとも退くことは許されないということだ。退却はあり得ない。また、人名尊重などという理由で、台湾の避難民を野放しに受け入れることも許されない。避難民はすべて隔離し、ここからはるか遠くに送致、南西諸島には一名も受け入れてはいけないのだ。さもなくば、日本人の島が中国人の島に入れ替わってしまう

「住民の意思などという甘ったれたことを尊重できない。それでは国土の保全は不可能だ。ナチスドイツをみたまえ。三十年戦争以来、フランスとドイツの間で争われたアルザス・ロレーヌの領有権問題を。民族的にドイツ系が優勢であったりし、ヒトラーはアルザスをドイツのバーデンに、ロレーヌをドイツのウェストマルク管区に併合した」

「ウクライナも同様。プーチンは、ウクライナ東部でロシアへの編入を求めるウクライナ東部の分離独立派が実効支配する『ドネツク人民共和国』および『ルガンスク人民共和国』を国家として承認する大統領令に署名しただろう?住民の意思などロシアや中国のような国家ではどうとでも操作できるのだ」

土俵が違う、ルールが違うスポーツをしているようなものだ。日本国民、日本政府の信じているのは、相手も同じルールに則ってくれる、という希望的観測にすぎない。そんなものは通用しないのだ。そんなことを日本の国土で起こしてはならない。相手が話し合いなどという甘っちょろい土俵に乗ってくるという期待をしてはならないのだ。相手に見せるのは、相手に多大な犠牲を払わせ自身も血を流す覚悟、姿勢なのだ」

武力による現状の変更は、武力以外では解決できない敵国の土俵と同じルールで闘うのみなのだ。それ以外に選択肢はあり得ない

★航空自衛隊、那覇基地

 那覇基地に駐機していた陸自のV-22オスプレイのキャビンは左右の壁面に背を付ける向きで座面跳ね上げ式のトループシートが24席あった。

 一番奥は、石垣島に搬送する物資で4+4席は跳ね上げられていて、網をかけられた物資がワイヤーで固定されている。

 積載物の手前の左側の奥の席からエレーナ少佐と石垣島で海上陸上部隊を受け入れるロシア軍先遣隊で、日本語が堪能な准尉1名、曹長2名が座った。「この機体で24名プラスサイドシート1名で空挺部隊を運べるのね?4機あれば百名展開できるわね?」などと話している。
 
 その横に空自南禅二佐、羽生二佐、鈴木三佐の順で座った。南禅と羽生は、我慢して制服を着ている。澄ましていれば二佐に十分見えるのになあ、と鈴木は思った。「今度のグレネード(実は燃料気化爆弾の手榴弾)なら、敵の頭上20メートルで起爆させて、直径60メートルの自由空間蒸気雲爆発を起こさせると、数十名は戦闘不能状態にできるな?」などと物騒なことを言っている。
 
 対面の右側の席は、陸自ミサイル部隊の連絡将校、海自の将校が座っていて、物珍しそうにモデル級のロシア人女性四名を見ていた。そりゃあ、目立つよな、エレーナたちは。鈴木はちょっと優越感に浸る。
 
 操縦席から「あと、すぐ一名来ます!乗せたら離陸します!」と副パイロットが言った。
 
 後部貨物扉の斜路を駆け上がって、迷彩服の男が入ってきた。鈴木三佐の隣に腰掛ける。「おい、鈴木じゃないか?」と男が言う。「畠山か?おまえも石垣か?」と聞いた。畠山三佐は鈴木と防大の同期で、水陸機動団所属、広瀬二尉の上官にあたる。
 
「急遽、石垣島に増員が決まった。千名派遣する。その先遣で航空機を探したら、この機がちょうどひとつ座席が空いているってことでな」
「お~!思い切ったな。水陸機動団も手薄だろう?佐渡にも残しているし、広瀬の部隊が四百人。残りをかっさらったか?」
「さすがに、今の部隊編成じゃあ、南西諸島と沖縄を見きれないので、ロシアの圧力がなくなった陸自の北海道からかき集めたんだ」
「そうか。まず、良かったよ。広瀬の四百人におまえの千人、ミサイル部隊の六百人。それで、ロシア兵が千名だ。合計三千名。なんとかなればいいが・・・」
「そのロシア兵だが、どうなんだ?おまえ、ロシア人のかあちゃんをもらったっていうじゃないか?」
「ああ、ほら、奥に座っているぜ。嫁のエレーナ少佐だよ。ロシアの女性兵士六百名、男性兵士四百名の総指揮官だ」
「え?彼女が?・・・あ!本当だ!テレビで見たぞ!卜井アナ、藤田アナにインタビューされていたじゃないか?すげえべっぴんだ!」

 席が遠く、離陸間近なので、鈴木は畠山を指さしてエレーナに「同期の畠山!広瀬の上官だ!」と叫んだ。エレーナは親指を上げてニコっと笑っておじぎした。「後でゆっくり紹介するけど、こちらが」と隣の席を向いて「航空装備研究所の南禅二佐、羽生二佐。南禅さん、同期の畠山三佐です」と手短に紹介した。「お!よろしく!」と南禅が敬礼もせず、畠山と握手する。「あの」と小声になって「レールガンの?」「そうそう」「ここは佐渡ヶ島の有名人ばっかじゃないか?」と鈴木に言った。
 
「向こうに行ったら有名人、まだいるよ。ロシア人の美人がいっぱいだ。それに、卜井さん、藤田さん、カメラの佐々木さんも取材で来てるって話だ」「そりゃ、すごい。サインをもらおう」「まあ、向こうに着いたら紹介する」

「しかし、鈴木、久しぶりだな」「まったく。もう、三年くらい会ってなかったな」「お前は佐渡勤務だし、俺は沖縄と南西諸島回りだったからなあ」「向こうで酒でも飲もう。細かい話は着いてからだ」「了解!」

★中国人民解放軍、石垣島・南西諸島侵攻作戦

 まだ、紺野・富田・広瀬も、そして、エレーナたちも中国がいかに本気であるのか、知らなかった。佐渡ヶ島の北朝鮮人民軍とは比較にならない物量を石垣島に対して中国人民解放軍は用意していたのだ。
 
 海上戦力だけでも、エレーナ部隊は、90年代に就役した満載排水量4,080トンの揚陸艦ペレスヴェートとオスリャービャ2隻に対して、人民解放軍は最新鋭の満載排水量25,000トンの071型揚陸艦5隻。(中国南海艦隊:長白山(Changbaishan)、祁連山(Qilianshan)、中国東海艦隊:旗艦龍虎山(Longhushan)、沂蒙山(Yimengshan)、四明山(Simingshan)

 ジャンカイ級フリゲート艦 の南通(Nantong)、安陽(Anyang)、浜州(Binzhou)が護衛につく。福州空軍基地(Fuzhou Air Base)からはJ-20(殲20)16機編隊が来援する。これに対して、に対して、海上自衛隊はFFM型護衛艦もがみ、くまの、のしろの3隻

 ホバーに関しては、エレーナ部隊は、満載排水量550トンのポモルニク型エアクッション揚陸艦4隻に対して、人民解放軍は最新鋭の満載排水量170トン726型エアクッション揚陸艇20隻
 
 兵数は、広瀬二尉の陸自水陸機動団400名と石垣島陸自ミサイル部隊600名、沖縄本島から増援の畠山三佐の水陸機動団1,000名、エレーナ部隊1,000名、合計3,000名に対して、人民解放軍海兵隊は5,000名である。

 海上戦力は、揚陸艦に関しては劣勢、ホバーはやや攻撃力で優勢、陸上戦力は圧倒的に劣勢であった。航空戦力に関してはいまだ未知数だった。

 在日米軍は、沖縄本島が攻撃されない限り、核保有国同士の中国相手に介入はしない

 腑抜けの日本政府は先制攻撃をしない。指を加えて停船勧告するだけで、中国の海上戦力の領海侵入を許してしまう。東ロシア共和国も手出ししにくい。・・・中国軍が先に攻撃でもしない限り・・・

 中国本土と石垣島はたった500キロの距離だ。沖縄本島との距離400キロのほぼ中間地点なのだ。

総集編Ⅰ
総集編Ⅱ
総集編Ⅲ
総集編Ⅳ


島崎藤村 - 椰子の実

島崎藤村作詞・大中寅二作曲

名も知らぬ 遠き島より
流れ寄る 椰子の実一つ

故郷(ふるさと)の岸を 離れて
汝(なれ)はそも 波に幾月(いくつき)

旧(もと)の木は 生(お)いや茂れる
枝はなお 影をやなせる

われもまた 渚(なぎさ)を枕
孤身(ひとりみ)の 浮寝(うきね)の旅ぞ

実をとりて 胸にあつれば
新(あらた)なり 流離(りゅうり)の憂(うれい)

海の日の 沈むを見れば
激(たぎ)り落つ 異郷(いきょう)の涙

思いやる 八重(やえ)の汐々(しおじお)
いずれの日にか 国に帰らん


マガジン『エレーナ少佐のサドガシマ作戦』


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