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【試し読み】ユリア・エブナー『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』第2章「サブカルチャーの創生─インセルの潜入調査」

【試し読み】ユリア・エブナー『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』第2章「サブカルチャーの創生─インセルの潜入調査」

 初めに逸脱したサブカルチャーがあった。
 心臓が早鐘を打つ。ラップトップを閉じて慌ててクローゼットの奥に押し込んだ。靴下の後ろに隠したから、たぶんあと数時間は見なくてすむ。ツイッター〔現X〕で匿名の誰かがたったいま送ってよこした、わたしと墓地の写った不吉な写真のことなど忘れてしまおう。とくに珍しくもないことだから。反フェミニズムの台頭について公に話をしたあとに続々と届く脅迫メッセージの、いちばん

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夜空に憲法をみつけよう

「憲法と法律の違いってわかる?」
「憲法は最高法規のなんたらだっけ。法律より偉い何か?」
「まあそうなんだけど、じゃあ『最高』とか『偉い』ってどういう意味だと思う?」
「うーん…例えば、憲法のルールと法律のルールがぶつかったときには憲法が勝つ、とか?」
「お、なかなかいい観点だね。だけどちょっと惜しい。そもそもその二つは同じ土俵にいるわけではないんだ。『法律というルールをどうやって決めるか』を決め

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衆知としての日本国憲法(2012)

衆知としての日本国憲法(2012)

衆知としての日本国憲法
S aven Satow
May, 06, 2012

「光りかがやく 新憲法 ソレ
チョンホイナ ハ チョンホイナ
うれしじゃないか ないか
チョンホイナ」
サトウハチロー『憲法音頭』

 ワシントン大学教授デヴィッド・ロー(David S. Law)とヴァージニア大学准教授ミラ・ヴァースティーグ(Mila Versteeg)は、2012年、『ニューヨーク大学ロー・レビュ

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日本国憲法と松本烝治(2006)

日本国憲法と松本烝治(2006)

日本国憲法と松本烝治
Saven Satow
Jan. 08.,2006

「権力に左右されるような政治家は、また別の権力が現れた場合には、意気地なくこれになびくものだ」。
吉田茂

 かねてから自由民主党は「自主憲法」の制定を党是として掲げています。日本国憲法は占領軍によって押しつけられた憲法であるというのがその理由です。この理屈は、1954年7月に岸信介を会長とする自由党憲法調査会で、松本草案

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地方結社と私擬憲法(2007)

地方結社と私擬憲法(2007)

地方結社と私擬憲法
Saven Satow
Apr. 15, 2007

「明治憲法だって、ドイツに外注したようなもの。自分たちでつくったと思いこんだら窮屈。気楽の出来不出来を言い合えるほうが楽しい」。
森毅『憲法は外注がよい』

 歴史を振り返ると、日本の民衆は憲法をつくるのが好きです。明治時代、1889年の大日本帝国憲法発布の前に、役人や政治家だけでなく、民間(団体・個人)による数多くの憲法草

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エネルギーの民主化運動(2011)

エネルギーの民主化運動(2011)

エネルギーの民主化運動
Saven Satow
Jul. 03, 2011

「個人的な怒りの力で無関心を社会参加へ変えよう」。
ステファン・エッセル(Séphan Hessel)『怒りなさい!(Indignez-Vous!)』

第1章 脱原発時代の到来
 今や脱原発はエネルギーにおける民主化運動である。原発事業は政官財学報の利権のペンタゴンによって成長している。3・11以降、一般も広くからくり

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象徴天皇制と生前退位(2016)

象徴天皇制と生前退位(2016)

象徴天皇制と生前退位
Saven Satow
Aug. 23, 2016

「憲法は、国の最高法規ですので、国民と共に憲法を守ることに努めていきたいと思っています。終戦の翌年に、学習院初等科を卒業した私にとって、その年に憲法が公布されましたことから、私にとって憲法として意識されているものは日本国憲法ということになります。しかし、天皇は憲法に従って務めを果たすという立場にあるので、憲法に関する論議

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池上彰コラム掲載拒否騒動と慰安婦問(2014)

池上彰コラム掲載拒否騒動と慰安婦問(2014)

池上彰コラム掲載拒否騒動と慰安婦問題
Saven Satow
Sep. 08, 2014

「過ちは潔く認め、謝罪する。これは国と国との関係であっても、新聞記者のモラルとしても、同じことではないでしょうか」。
池上彰

 池上彰記者が朝日新聞紙上で毎月連載しているコラム「池上彰の新聞ななめ読み」の2014年8月分が掲載拒否されます。それは同紙が14年8月5日・6日に亘って載せた過去の慰安婦報道の検

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ハッチポッチチャンネル翻訳篇(7)(2023)

ハッチポッチチャンネル翻訳篇(7)(2023)

11 まとめと言いつつ
「まとめです」。
「まとめですか?『翻訳』のテーマ、全体ですね?」
「そうです」。
「では、どうぞ」。
「翻訳には、その言語固有の発想を理解する必要がある」。
「それが結論ですか?」
「はい。言語は暗黙知の代表例です。ネイティブは日常の繰り返しからその言語を体得する、翻訳は、別の言語に変換するんですから、その暗黙知を明示化する作業でもあるんです。ですから、文法に関する知識が

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ホロコーストとアパルトヘイト(3)(2024)

ホロコーストとアパルトヘイト(3)(2024)

5 ロールズの正戦論
 ジュネーブ条約が示す通り、戦争にもルールがある。自衛権行使も同様である。その論拠を提供しているのが正戦争論である。従前の国際法が取り扱っていなくても、国際世論の高まりとともに、この議論の発展によってその行為が禁止されることもあり得る。近代は自由で平等、自立した個人が集まって社会を形成し、国家はそれが正義に基づいて機能するために設立される。戦争はその国家が行う。正戦論は個人の

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【翻訳】アリー・アブーヤシーン「ラマ/ガザよりシェイクスピアへ」『ガザモノローグ2023』

【翻訳】アリー・アブーヤシーン「ラマ/ガザよりシェイクスピアへ」『ガザモノローグ2023』

ラマ

 戦車が家を砲撃したら、すぐに自宅を離れないといけない。なぜなら、戦車は無差別に砲撃するから。悪意をもって破壊し、警告なしに人を殺すから。戦車は頭のいかれた怪物だ。見境なく建物を切り裂いていく......。
 アブー・アハメドは大事な書類の入ったカバンと服を運びながら、頭の中でそう考えた。そのカバンは、ガザのどの家にも用意されている。中に入っているのは、IDカード、パスポート、出生証明書、

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