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「新聞紙の空」よりの物体X

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「強姦、殺戮が、始まっている、始まっているーー」ザ・ローリング・ストーンズ
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サーカ・A・イズ・バック

サーカ・A・イズ・バック

「ビリー・イズ・バック!」
              『バッファロー66』

プロメテウスの運命に涙を流す宇宙から、
分断された空に
捕まったか、
もしくは、
ハデスの妻に顔をしかめる地球に、
統合された大地から
解放されたかして、
コール・ハーデンは運搬用の家畜を盗み、
判事ロイ・ビーンによって、
酒場の法廷で処刑されそうでいる。
ところが、
ロイはコールの嘘にまんまと担がれ、
2人は酒を飲み

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物体X(オリジナル)

物体X(オリジナル)

私は「それ」の襲来を受けた。
「それ」は新しい時代を私に予告する。
新聞配達が世界中の家庭のポストに、
「それ」を毎朝、同じ時刻に届ける。
人々はその紙面を通して、
地球の裏側の出来事を知る。
私はトルコでの大地震や、
ウクライナ支援の価値を知った。
「それ」は私に見せるーー
新しい時代を。

私はCEOを解任された男を見た。
FRBによるFOMCでの採択を聞いた。
私はボディーガードが護衛する中

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ヒズ・ガール・フライデー

ヒズ・ガール・フライデー

ヒズ・ガール・フライデーは怒った、
彼が「君のタイプライターは、
空しくカタカタ言うだけだ」と笑ったとき。
そしてフライデー、
彼女は立ち去った、
彼を都会の夜に潜むタクシーに残して。

 気をつけろ、
 都市に押し入ってくるニュースに。
 あらゆる記事はコメディにあふれて、
 それは彼を嫉妬させ、
 彼女を怒らせる。

しかし、
ヒズ・ガール・フライデーは戻った、
彼の元に、タイプライターととも

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「どうして人々ってあんななの?」

「どうして人々ってあんななの?」

彼女は、自分の名前を隠して世界を攻撃したーー
「人間は地位や名声にわくウジ虫だ」と。
ジェームズ・キャメロンが『アバター』を操作する。
『ウォッチメン』は、ただ遠くから眺めている。
誰もが誰かの仕返しに怯えながら、
「どうして人々ってあんななの?」と呟く。

Instagramが上から下を見下ろす。
Twitterが愛についてデタラメを並べる。
YouTubeが嘘をついて真実を捻じ曲げ、
Amaz

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イエスタデイズ・ペーパー

イエスタデイズ・ペーパー

1
『女優の女、知人男性を殺害か』ーー
これが昨日の新聞の見出し。
記者は事件を揶揄した、
「時代遅れのメロドラマ」と。
容疑者の女優は若かった頃、
誰もが「美しい」と口を揃えた。
けれど誰もが知っていたのだ、
彼女は美しさ以外、空っぽだと。

タブロイド紙は、彼女の夜の生活が、
ジェニファー・ジョーンズより奔放だったと、
複数の男たちを家に囲っていたと、
好き勝手に書いた。

今や彼女は「殺人鬼

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武装した愛

武装した愛

彼のパラノイアが、
火の雨を降らせる。
轟音が耳をつんざき、
熱風がアパートを燃やす。
世界に友達がいない、なんて変なこと、
彼はまた言い始めてる。

武装した愛が街を壊す。
残された壁の弾痕を、地中の地雷を、
傷ついた恋人はただ眺めてる。

彼は「正統性」を掲げ、
最前線に兵士を送る。
でも欲しいのは「理解」で、
必要なのは言葉だった。
ドローンで届ける彼のメッセージは、
けしてロマンチックな贈

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オーキフェノーキー

オーキフェノーキー

1本の映画を観ていたら、いつの間にか、
「湿地帯」を彷徨っているのに気づいた。
そこで私は、ウォルター・ブレナンに助けられ、
「俺がいなけりゃ、ここからは出られない、
この湿地はお前を捕まえている、
お前を捉えて離さないよ」と彼に脅かされた。

しばらく湿地帯に留まることにした私は、
Mr.ブレナンと彼の出演映画の話題になり、
「今の時代にあなたの話をする奴が
他にいないってことが、僕を満足させ、

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壁に映るドラゴン(グレタ・ガルボに)

壁に映るドラゴン(グレタ・ガルボに)

少年は震え上がった、
壁に映るドラゴンに。
彼は怖がった、
その影が迫ってくるたびに。
少年はママを呼んだが、
ママは来きてくれなかった。

少年はお願いした、
その氷の息を吐くドラゴンに、
部屋から出て行くようにと。
子供部屋に居座るのは悪いことだと言って。
少年はママを呼んだが、
パパは「ママは天国にいる」と教えた。

少年は毛布に隠れて見張った、
ドラゴンの体が風になびくのを。
そして考えた

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ボトルキープは「サーカ・A」で(マイ演歌)

ボトルキープは「サーカ・A」で(マイ演歌)

店の扉のベルが「カラン」と、
週の終わりを告げている。
「すべての船酔いの水兵たちも、
手ぶらの兵隊たちも家に帰ってゆく」
私もこのグラスを飲み干したら、
フラフラと街を歩いて帰ろう。
「店長、ボトルキープは、『サーカ・A』で。」

カウンターの隣りの会話に
私は耳を傾ける。
そこには、それぞれのカップルの、
それぞれの家庭の、ヒット曲があった。
コロナからインフレまで、
歌詞のキーワードが社会を

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野菜を食べる(リタとリコのバラッド)

野菜を食べる(リタとリコのバラッド)

リタはエコロジーを、
リコはエコノミーを、
テーブルの両端から主張し合う。
店員が野菜を盛った皿を運んで来た。
2人は議論を続けながら、
野菜に手を伸ばし、
窓からセメントと鉄の夜景を眺める。
2人は互いのイデオロギーを弁証法的に捉え、
「利他」と「利己」を巡る思考の運動を思った。
分別のない靴底で自然を荒らしながら、
その美しさを動画で伝える彼女たちも、
野菜を食べるーー
ドレッシングをかけて、

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クック・ツアーズ(ポール・ムニに)

クック・ツアーズ(ポール・ムニに)

「スカーフェイス」ーー彼には、
心にも傷があった。
スカーフェイスには顔だけでなく、
心にも傷があった。
相手の喉元にナイフをあて、
「こいつは痛いぞ」と凄む。
スカーフェイスには、
心にも傷があった。

スカーフェイスは
ギャングの手下を殺した。
スカーフェイスが
ギャングの手下を殺して以来、
ギャングのボスたちは恐れた、
彼と、その顔の傷を。
スカーフェイスは
ギャングの手下を殺した。

スカ

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マンハッタン

マンハッタン

僕は君にあげたんだ、
スパイダーマンのひっついたマンハッタンを、
君に。
それから出掛けたんだ、
土曜日に見上げる銀河の彼方へ、
君と、
君と一緒に。

僕が言葉を選ぶなら、
「ボーラーハットのミーアキャット」ーー
それが君。
その日僕が着ていた
レザージャケットのポケットに、
入れてあげたんだ、
君を。

強盗は逃げ込んだ、
フォックスの毛皮のマッチボックスに、
君の。
彼らは盗んだのだ、
赤い

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アーリー・サマー(ジーン・シモンズに、あるいは、「奇跡」を巡るバラッド)

アーリー・サマー(ジーン・シモンズに、あるいは、「奇跡」を巡るバラッド)

1
なぜ、不可能な物事が起こりうるのか?
なぜ、壊れてしまう愛が存在するのか?
目にすることのできる奇跡は起こるのか?
どんな奇跡が「紅海」を引き裂いたのか?
(あるいは、そんなものはないのか?)

偶然、列車から足を下ろした小さな街で、
彼は彼女と出会った。
彼女は空っぽの集会場で「演説」していた。
その話はソポクレスの不吉な叙事詩のようだった。

 一方、彼は何でも売るセールスマンーー
 トイ

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素敵な夢

素敵な夢

汗の流れ出す部屋で、
お前が物を書いていると、
7月のゲリラ豪雨が、
窓から陽の光を奪っていった。
暗闇の中、
気に入らない言葉が背後で踊る。
その影は癌細胞のように悪性を帯びていく。

お前には夢があったーー
かつては近所の恋人を魅了した夢も、
「肩書き」という乱気流により、
生活をUFOよりも謎な物体に変えた。
そこに火星人の襲来ーー
大人たちは団結して立ち向かおうとするが、
お前はただ一人地

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