サーカ・A
「『草って何?』と、両手いっぱいに草を持って、幼な子が私に尋ねた。その子にどう答えられるだろう、私自身、草が何なのかを知らないというのに」ウォルト・ホイットマン
「道徳的概念は、経験的認識から抽象され得るものではない」イマヌエル・カント
「イングリット、嘘でいいんだよ」ーーヒッチコックによる、ある女優へのアドバイス
「決心によって正しくあるのではなく、習慣によって正しくなり、単に正しいことが出来るばかりでなく、正しいことでなくてはやれないようにならなければならない」ワーズワース
「失うものばかり多すぎて、手にするものはほんの少し」佐野元春
1ー1 マリオは類似を探している。 毎日の平凡な散歩の中で、 イタリアにも、フランスにもない街の、 『ブックオフ』や『サンマルク・カフェ』に寄り、 マリオは類似を探している、 ボブ・ディランの歌う歌詞に。 18世紀のイギリスの詩人と、 フリマに並ぶアンティーク雑貨との間に、 マリオは類似を探している。 カフカに、H・G・ウエルズに、 『サイコ』に、『愛しのシバよ帰れ』に、 エドガー・アラン・ポーの鐘の音に、 マリオは類似を探している。 1ー2 疑念とは、味のしないマスタード
昔々、インドのハルドワールにマハラジャがいた。 人々を恐怖で支配する横暴な王だった。 ある日、200人もの兵隊を引き連れて、 マハラジャはジャングルへと狩りに出掛けた。 村の人々はこの事態に慌てふためいた、 彼らはある一つの迷信を信じていたからだーー 「ジャングルの獣を人間が一頭殺せば、 同時に村人も一人死ぬ」という迷信を。 さて、村にはタラという娘がいた。 彼女は幼いながら森をよく知っていた。 毎日ジャングルを西へ東へ歩いて回り、 友達である獣たちと遊んで暮らしていた。
ダン・ダン・ディ・ディ・ディドン・ドン その夜は台風で、戸を閉めきっていたーー みんな退屈だった。 ミルトンが『失楽園』の話をすると、 私たちは、亡霊といる気分になった。 「夜の盗賊」が、薬局に盗みに入り、 鍵だけを壊していった。 私は、ただ似ているというだけで疑われ、 世の中は、ギャンブルのように移り気だ。 真夏の街では、昼まで眠るのもひと苦労、 私の部屋の温度は、上昇しっぱなし。 そんな中、薄着の彼女が私のベッドに現れ、 2人は、互いの頭をかき乱し合ったのだ。
ファー・ファ・ファ・ファ・ファ・ ファ・ファー・ファー・ファー 「悲しみの歌」が 子供たちを泣かせる、 空から雨粒が 落ちてくるみたいに。 でも、その音を よく聴いてーー 海から絶えず寄せる 「波の音楽」だ。 君がどこに行こうと、 その旋律は知らせてくれる、 君が「ここ」にいることをーー そうだ、森羅万象は君を取り囲み、 すべては繋がっていて、 終わりは始まりと等しい。 ファー・ファ・ファ・ファ・ファ・ ファ・ファー・ファー……
「雨が降り続けば、堤防は決壊」 メンフィス・ミニー 1 私を燃やしているのは、 太古の詩人の古い炎。 私を燃やしているのは、 太古の詩人の古い炎。 その炎は、私の「記憶」を燃やし尽くすまで、 消えないだろう。 輝かしい炎だが、 夜のように冷たい。 輝かしい炎だったが、 夜のように冷たかった。 そのメラメラと揺れる光は、 生と同時に死をも、浮かび上がらせる。 黄ばんだ紙のインクの炎に、 私の目は釘付け。 黄ばんだ紙のインクの炎に、 私の目は釘付
王は、ライ麦畑から侵攻し、 盗賊は、夜から忍び寄り、 そして天使は、大空から舞い降りて、 一人の青年を狩ろうとしていた。 王は、彼を恐怖で操ろうとし、 盗賊は、彼の涙に訴えかけたが、 天使は、彼の耳に囁いただけ、 ただ一言、「お前が欲しい」とーー 天使の声は、青年の息を止め、 その手は、彼の健康を奪い、 その翼が、彼の死を宣言し、 そして彼を、大空へと連れ去る。 青年は雲の上で、ライオンを目にする、 雷が、けたたましく響き、 陽の光は、誇り高く輝き、 彼は尋ねる、「僕、消え
私は、夜に生きていたーー それが間違いか、正しいかなど考えもせず。 誰の耳にも聞かれぬよう、足音を消し、 何十年、何百年と潜んでいた。 多くの時間を無駄にし、 気づけば、境界線を越えていた。 それが間違いか、正しいかなど考えもせず、 私は、夜に生きていた。 多くの手下が、牢獄の中で死んだ。 彼らは私に手紙のひとつも寄こさなかった。 雷鳴と、通りを叩く雨音が、 彼らのシーツ越しに聴く唯一の子守り歌。 壁の外へと繋がる道を探して、 賢い者はモグラのように地中を這い、 そして、そ
1 一人のピルグリムが風船売りの少年に会った。 少年は、高貴な香水のような恋人について、 こう自慢する、「彼女は部屋を飾るんだ、 『信仰』でね」と。 一人のピルグリムは他人行儀な兄弟にも会った。 彼らは紛争地帯のカフェでお茶をし、 ゴミ漁りする父親の懐に施していたのだ、 「信仰」を。 彼の「巡礼」の旅は、地下鉄のトイレから、 灰皿工場の更衣室まで、あらゆる場所を巡る。 田舎の宿で騙され、都会の海で流され、 同情を引くような顔で切り抜けたこともあった。 彼は窓越し
「人間には、教会にないものがある」 ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ 君をイメージするーー たとえば、 大きな池の底で息を潜めている、 ダイヤモンドの甲羅の亀を。 運命が、釣り針の先の小魚(の鱗か、目)を、 暗闇の中で輝かせ、池から、 その亀を、大空へと釣り上げる。 空の彼方には木星、 飛翔体には来訪者、 月と太陽、 そして(死神の)手には銃。 古いものを新しく、 赤いものを青く、 変わらぬものさえ幻想に変えるーー 君は、陽気な革命、 オーシャンビューの革命
理由を求めるから、 人間は苦しむのだ。 自然に理由はないーー ただ、あるがまま。 疑念よりも信念が、 不正よりも公正が、 悪事よりも善行が、 戦争よりも平和が、 不義よりも正義が、 憎しみよりも愛が、 略奪よりも施しが、 苦痛よりも快楽が、 良いに決まってる、 何度でも言いたいーー 理由を求めるから、 人間は苦しむのだ。 自然に理由はない。
夏の眠れぬ夜、私はベッドを這い回り、 心を覆い尽くす影に、もがき苦しんでいた。 私は言葉をかき集め、「詩」を書いてきたが、 時々、たちの悪い深淵が、私の時間を奪うのだ。 詩と現実ーー「希望」も「深淵」も、 私の言葉から生まれた元々一つのもの。 詩と現実ーー「希望」と「深淵」を、 伝えるための「自由」を生む私のルール。 汗が枕を濡らし、夜は深くなってゆく。 明日など見えない、私は死んでいるのかも。 シーツから抜け出し、私は眠るのをあきらめる。 1時間も経ってない、一
「サマーデイズ」は終わった、 長い映画もエンドロールに。 パパは髪の毛を粗方失い、 子供たちは親友を少し裏切った。 サリーはダンスできないし、 ジョニーはサーフィンできない。 青春時代が過ぎれば、 みんな辛い現実に気づくってだけ、 ーーまったくね。 「キャンディ・ストア」は全店閉店、 ジュークボックスは全台故障。 ママは素敵な愛人を失い、 「ワーズ・オブ・ラブ」は二度と囁かれない。 サリーはダンスできないし、 ジョニーはサーフィンできない。 すべてのマンガ雑誌を破り捨てろ、
1 いくらか「希望」はあるはずだ、 いくらかの希望が。 たとえば、ロープで木を伝うターザンのような、 マッチョな希望が、まだあるかもしれない。 どこかに希望はあるはずだ、 アフリカの「喜望峰」にまで目を向ければーー もしかして、崖の斜面を滑り落ちている、 手つかずの希望が、まだあるかもしれない。 ーーアルコールが切れて、眠れない夜、 羊を数えたって無駄なのさ。 君には、視点を変える必要がある、 君の中の本当の問題を洗い出すための。 いくらか希望はあるはずだ、 い
夜がやって来た。 地底の奥深く、 厳しさのマグマから、 絶望が、地上を呑み込み、 そして呪う、 痛みと怪我で、 この世界を満たす、 すべての人間たちの死を。 君を取り囲む森羅万象が、 君をうっちゃるということーー それが「深淵」。 憂いが、死にゆく古い君の中へと、 染み込んでゆく。
サーカ・Aより 「riluskyE様、これまでたくさんの『スキ』をありがとうございました。暖かいコメントに、何度も励まされました。本当にありがとうございました!さらなるご活躍を、祈っております!!」
私は見ている、夢の中にいるその人を。 彼は「無垢」を巡る詩を書いている。 時計を壁から外し、窓を閉め、 誰とも話さず、一心不乱に書いている。 やがて朝が、部屋に光を投げ入れ、 彼の「眠り」は蒸気を上げ、加速してゆく。 そのうちに月が、部屋の暗闇を演出するーー 私は見ている、夢の中にいるその人を。 私は追いかける、夢の中にいるその人を。 地球の自転を早めたり、遅めたりしながら、 彼は言葉を生み、一列に並ばせ、 その成長を見守るか、もしくは無情に消し去る。 想像力が、ひとつの鍵