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宝物箱

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口下手なので、いつもコメントができないけれど みなさまの書かれる記事が大好きです。 だから、そっと 宝物箱に入れさせてください…*゜
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#エッセイ

雨音響く17年

 皆が寝静まってから、スティックタイプのカフェラテを取り出す。さらさらとマグカップに入れ、そこに南部鉄器で沸かしたお湯を注ぎ込む。甘ったるい香りが鼻腔を撫でてゆく。窓の外は大雨。冷え性の冷たい指先が、少しずつ解けてゆく。

 あ。
 はたと気づいて数秒、私の体は停止した。36の私は、今年37になると気づいた。37。37は、あの人の数字だ。

ーー

 20の頃、37の男に焦がれていた。
 17も上

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ゴスを着ていた頃のはなし。

ゴスを着ていた頃のはなし。

今日はまたゴス時代の思い出話を。

バンギャ達が集まってなにをしていたのか、あまり知らない人も多いと思う。

けど、たぶんしていた事そのものは普通の人と変わらない。ちょっとファッションが派手だっただけで。

少し前に編集者さんが他界された時にも、とても懐かしさと寂しさを感じたけれど、当時はKERAの全盛期だった。

KERAショップも各所に出来たりしていて、大手のラバーソールが高くて買えない学生な

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ピクトさん愛に包まれる世界は、きっとやさしい

ピクトさん愛に包まれる世界は、きっとやさしい

前職(東京)での取引先のデザイナーSさんは、非常に個性的な人だった。
初めて会うときに事前に先輩から『癖の強い人だから、好き嫌いがハッキリ分かれると思うけど、あなたは多分、気が合いそう』と言われ、いったいどんな人なんだろうとドキドキした。

実際会ってみると、確かに癖の強い人だった。
非常に腰が低くて、もう、こんなに低姿勢の人は今後も現れないんじゃないかと感じるくらいに低くて。気遣いが過ぎて、こっ

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流れる今を切り取って特別にできるから、写真が好きだ。

流れる今を切り取って特別にできるから、写真が好きだ。

過去の蓄積が今。今の連続が未来。
似たような日々を送っていたとしても、明日の私から見たら、今日の私は過ぎ去ったものだ。いつか命を失う日がくる以上、どんな時もきっとかけがえのない時間なのだと思う。
でも正直なところ「この時は二度とないんだ!」などと、ギラギラ気合を入れていたら疲れてしまうよね。
だから、写真を撮っておくのが好き。

* * *

例えば、仲の良い人と会う時。
取りたてて何をするでもな

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出会いなおせるなら茶色っぽいふわふわで

出会いなおせるなら茶色っぽいふわふわで

黒っぽいより、茶色っぽいほうががいい。
まっすぐより、ふわっとしてる方がいい。

髪の毛の話だ。

私の髪は細くて茶色いクセっ毛。
10代のころ美容師さんに、あなたの髪は枕が擦れても枝毛になると言われたことがある。雨が降るとポソポソになるし、内側にクルンと巻いたはずの前髪は横を向いてベシャっとつぶれ、変なウェーブまでついてしまう。手ぐしOK の固めるスプレーなんてもちろんない時代だから、雨の日はか

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駅貼りのポスターなんてそうそう作れない

駅貼りのポスターなんてそうそう作れない

短大に通っている頃、地下鉄の乗換駅で1枚のポスターを見た。

私は考えごとをしながら電車を待っていて、ボーッと反対側のホームを眺めていたのだけど、線路の向こうの壁に貼ってあった大きな広告に気付いた瞬間、心をわしづかみにされた。

30年くらい前のことだから残念ながら詳しい内容は思い出せない。けれど、全面写真にキャッチコピーが1本というシンプルなデザインのポスターから目が離せなかったあの日、心が大き

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思い出、道路に転がして

思い出、道路に転がして

小学…何年生の頃だったろうか。
2年…いや、3年生だったかも知れない。

クラスに転校生がやって来た。
先生がにこやかに彼の紹介をし、「じゃあ一言、あいさつを」と振ると、彼は挨拶をする代わりに私達をギリッと睨んだ。
強い黒目が白目の光を引き立たせ、短く濃いまつ毛の線が、眼球を際立たせていた。

──蛇。

人の目が蛇のそれに見えることがあるのだと、その時、初めて知った。

          丨

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スペシャルにカラフル ( #ゆたかさって何だろう )

スペシャルにカラフル ( #ゆたかさって何だろう )

もう20年も前になるか。
16歳の私は、アメリカの高校の教室の中にいた。
"Child Development "と書かれている黒板を眺める。
配布された時間割の紙をもう一度、広げる。
どうやら私は、今日から子供の発育成長について学ぶらしい。

あと数分でベルは鳴り、担当教師が入ってくるだろう。
チラチラ増えていく生徒達が気になって、私はくるーっと一周、教室内を見回した。

         ∇∇

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