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エッセイ・散文

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Good Morning

Good Morning

道端に咲く名前も知らない花に「おはよう」と声をかけてみた。そしたらちょっと揺れて、「おはよう」と返してくれた。それでも私は君の名前を知らないし、君とまた出会うこともないと思う。だけどそんな出会いの方が、よく覚えているものなのかもしれない。

思い出の詰まった行きつけのホテルには、最近訪日観光客の方たちがよく泊まっているのだけれど、恋人と朝の散歩に出かけるためにホテルを出たとき、まだ朝早く、繁華街と

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愛すべき孤独と幸せと

愛すべき孤独と幸せと

私は自分に嫌気がさす。だって涙もろいから。自他ともに認めるほどに、本当に涙もろいから。
誰かを困らせるつもりなんてない。泣くとのちに頭が痛くなって頭痛薬を飲む羽目になることもわかっているのに、涙をこらえることができない。
どんな時によく泣くのかという質問は私にとってはナンセンスで、四六時中その可能性があるとしか答えられない。
コップいっぱいに水をくんで、それが溢れずに耐えてるあの構図と、私が涙を堪

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そうやって、また

そうやって、また

傷つきたくないから、傷つく前に、先回りして、顔色をうかがって、次に飛び出す言葉を予想して、その言葉に対する答えを頭の中に浮かべて、言い方をシミュレーションしてみても、たまに、あ、うそ、変化球きた、それは想像してなかったぞってこともあって、だから瞬時にまた別パターンの答えを思い浮かべて、しゃべって、ちょっといつもと声が違って、でも、なんとかその場をやり遂げて、そしたらさっきの空気がまだここまで続いて

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君がくれた、わたし色

君がくれた、わたし色

これはわたしと恋人との話。

お付き合いを始めて、二か月が経った頃。
彼はわたしに、花束をプレゼントしてくれた。

彼が手渡してくれた花束の中で、彼がわたしのイメージで選んでくれたという明るい色の花々が、楽しそうに、満面の笑みで笑っていた。

春を思う存分に満喫して、夏の訪れをワクワクと待っているような、そんな雰囲気が感じられて、とても晴れやかな気分になった。

けれども、どこかでこんな話を聞いた

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これがきっと恋だから、

これがきっと恋だから、

これはわたしと恋人との話。

付き合う前日の夜、わたしたちはデートをしていた。

付き合う前の、甘すぎるけど、ちょっとだけ苦い時間。
今しかできない会話、今だからこそ意味をなす表現、
そういったものが、確実にしっかりと存在していた。

「結婚して子どもができたら、深夜のコンビニに手を繋いでいくことが2人の特別な時間になる」

デートの帰りにコンビニに寄ったとき、ホットカフェラテを作る待ち時間に、彼

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触れてみて。

触れてみて。

先生は言った。

「誰かに恋をする時。その人の顔や性格以外に惚れる要素があるとしたら、どこだと思う?」と。

数十秒悩んだ。
のちに先生は言った。

「文章よ」

と。

「文章には、その人の心が宿る。美しいところも、恥ずかしいところも、汚れたところも、全て現れるのが文章なのよ」

なるほど。
妙に、腑に落ちた。

日頃からnoteをはじめとするSNSや、個人間のチャットなど、私たちは様々な場所で

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あたためた想い

私が「ただの映画好き」から「映画監督未満」になったのは、今から約1年ほど前の話。普段は一晩のうちに2つ以上必ず夢を見る私が一切夢を見なくなったのも、ちょうどその頃の話。映画を作ってみたいという漠然とした願望に脳内が支配された私は、お風呂に入っているとき、歯を磨いているとき、寝支度を済ませ布団に入ったとき、そんな、日常にありふれた何も考えなくてよい瞬間でさえも、答えの出ない問いを永遠に巡らせていた。

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始まりの始まり

始まりの始まり

2021年4月1日

私は、今後きっと幾度となく、今日という日を思い出すだろう。

ぱきっとしたスーツに身を包み、おろしたてのネクタイを締め、ピカピカの靴を履いて、入社式の会場へと向かう。

それは、私が経験しなかった、もう一つの日常だ。

就活中。満員電車に揉まれながら、説明会の会場に向かうときの気持ちを思い出す。

都内を走る電車の広告の大半は転職に関するものばかりで、それ以外は、大体が自己啓

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恋とか、愛とか、変とか

恋とか、愛とか、変とか

自分のことを客観視できる人が羨ましく思う。大体の場合、自分のことを評価するときは、当たり前に主観的な要素が強調され、客観的に判断された意見たちは削ぎ落とされてしまうからだ。

私自身、その性質がもっとも活かされているなと思う場面は、紛れもなく恋愛である。ダイエットも捨てがたいが、やはり、恋は盲目。これに尽きる。

「A君は女の子を取っ替え引っ替えするような男だよ」
「B君ってマザコンらしい」

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いちごと書いて幸せと読む

いちごと書いて幸せと読む

毎年この時期になると、期間限定でいちごを沢山使ったパフェの発売がファミレスで始まる。

私は自他共に認める無類のいちご好きであるがゆえ、大好きなあまおう苺に至っては、シーズン中は3日に1パックのペースで食べている。そのため財布はカツカツだ。けれど、1年の中でそう長くはないこの期間を私は非常に大事にしている。そして、お腹いっぱいになるまで楽しむのだ。

その際、まっさらないちごを食べるのに少し飽きて

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うまい酒

うまい酒

先日、高校の時からの親友たちと浅草のホッピー通りへと飲みに出かけた。
コロナが流行る前は2週間に一回くらいの頻度で会っていたから、こんなに長い間会わないのは久しぶりだ。
太陽が傾き始める午後4時ごろに集合したにも関わらず、あっという間に夜の10時。他愛ない話をして盛り上がった。

ホッピー通りは昼から混み合っているから座れるかわからないぞと友人に言われていたが、本当にその通りでびっくりした。
混雑

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キラキラ

キラキラ

高3のとき。物理の授業は大嫌いだったが、先生が余談で話したAIロボットの話には妙に食いついたのを覚えている。
それからずっと、私は人工知能の研究や先端医療について学びたいと思っていたし、無事その勉強ができる大学に入ることもできた。

でも、私は周りのレベルに全然追いつけなかった。

なんで?こんなにも好きなのに?

ずっと思っていたけど、いくら頑張ったところで、努力したところで、こんなもんかって思

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プチプライスレスな私

プチプライスレスな私

通販で頼んだ本の帯部分が少し汚れていた。

やかんを火にかけるのを忘れて1時間待っていた。

ネイルが乾く前に頭を搔いてしまい、崩れた。

日常に転がっている、誰にでも起こりうる小さな悲劇たち。

私は、これらを全部経験した。今日、午前中の3時間くらいの間に。

普通の人たちなら、どう思うのだろう。

似たような呟きをツイッターなどで見かけたときは、大体の人が怒りマークをつけたりして投稿している。

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麦茶とチーズと冷蔵庫

麦茶とチーズと冷蔵庫

夜中、無性にお腹が空くことがある。寝ているときは感じないが、遅くまで作業をしていたり映画を観たりしていると、はじめは気づかないふりをしていても、次第に自覚せざるを得ないほどの大きさでお腹が鳴り始める。ぐるぐる、ギュルギュル、まるで雷の音のようだ。

ベッドの上でパソコンと対峙し、しばらくの間考え込んだものの空腹には耐えきれず、私はキッチンへと向かった。冷蔵庫の左ポケットにしまってある麦茶のポットを

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