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よすけの短編小説まとめ

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書いた小説を投稿した順にまとめています。短いのから長いの。暗いものから明るいものまで。ほっと一息つけるように。
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#恋愛小説

【短編小説】はんぶんこ

【短編小説】はんぶんこ

2,564文字/目安5分

 はんぶんこは得意だった。

 彼の部屋に置いてある、わたしの荷物を整理する。これは持って帰るもの。これは捨てるもの。これはもったいないけど捨てるもの。
 できるだけ自分のものを残さないように一つ一つ片づけて、彼一人だけの部屋にしていく。

 終わりなんだな。

 三年近く付き合っていたけど、別れる時はこんなにも事務的。それが当たり前であるかのように、終わりなんだと思っ

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【短編小説】幸せのかたち

【短編小説】幸せのかたち

3,870文字/目安7分

「幸せに形があるとしたら、きっと三角形だよ」

 口癖のように話す彼女の言葉の意味が、当時小学四年生だった僕には分からなかった。
 住んでいるところは町にもならないような田舎だった。近所に歳の近い子が他にいないからと、ことあるごとに遊びに連れ回された。山へ虫を捕まえに行ったり、知らない細い道をどんどん入って行ったり、お互いの家の敷地全部を使ってかくれんぼをしたり。かくれ

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【短編小説】ストレート

【短編小説】ストレート

621文字/目安1分

 長くて綺麗な黒髪が好きだ。

 短いのよりも、パーマよりも、茶髪でも金髪でも、何よりも黒髪ストレートがいい。

 前の席に座っている、あの子のことが気になって仕方がない。見ただけで分かる、さらさらでつやつや。完全に俺好み。ベストでドンピシャ。
 背中までまっすぐ伸ばしたその髪はうっとりするほどで、思わず触りたくなってしまう。

 朝、教室に入った時も、授業中も、お昼を食べ

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【短編小説】隣の景色

【短編小説】隣の景色

511文字/目安1分

 自転車の帰り道。

 君が「先に行ってよ」って言うから、仕方なく前を走る。気になって後ろを向くと「ほら、危ないよ」と怒られる。

 こういう時、僕は何も言い返せない。

 道の幅は狭い。だから一列になるのは仕方がない。それでもこうしてずっと背中側ばかり見せていても、やっぱり仕方がない。君に対していつも後ろ向き。
 君はいつだって明るくて前向き。周りから頼られることが多いし

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【短編小説】ドライブ―助手席―

【短編小説】ドライブ―助手席―

3,297文字/目安6分

 わたしは君の考えていることが分からない。

 車の免許を取ったと聞いた時は、内心はしゃいだ。景色の綺麗な山道とか、夕陽が沈む海沿いとか、勝手に思い描いてその気になっていた。有名なハンバーグ屋さんだっていつか行きたいと思っていたから。いわゆるドライブデートってやつに憧れがあって、それが叶うと分かって嬉しくなったんだ。
 でも、だからと言って相手が誰だっていいわけじゃない

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【短編小説】ドライブ―運転席―

【短編小説】ドライブ―運転席―

796文字/目安1分

 ドライブデートが苦手になってきた。
 お前との距離をもっと近づけたくて、運転免許を取って、バック駐車も練習した。理由をつけて誘うところまではうまくやれるのに。俺だって最初はいい感じなんじゃないかと思っていたんだ。

 それ以上の距離が縮まらない。

 木々の緑と青空のコントラストが映える山道、水平線から夕陽の道ができる海沿い、おいしいと有名な年中行列になるハンバーグステー

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【短編小説】思い出にはならない

【短編小説】思い出にはならない

1,529文字/目安3分

「君と過ごした日々を思い出にしたいんだ」

 そんなことを言われてから早二日。要するに振られたってことだ。わたしがこんなにも好きなのに。自分で言うのは恥ずかしいけど、わたしを狙っている人だってけっこういる。手放すなんてありえない。
 ちょっと掴めないところがあって、不思議な雰囲気を持っている。自分というものがしっかりある感じ。わたしが知らないことも教えてくれて頼りにもな

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【短編小説】めんどくさい

【短編小説】めんどくさい

888文字/目安1分

 今度はどこに行こうか。きみと何しようか。
 行きたいところがいっぱいある、きみとしたいこともいっぱいだ。
 遊園地、映画館、動物園。次々とイメージがふくらんでくる。
 他に誰もいない家デート。お弁当を持ち寄ってピクニック。ショッピングモールで買い物デート。ゲームセンター、カラオケ、ボウリング。常に二人きりのドライブデート。あ、でもまだ車の免許が取れる歳じゃないや。

 き

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【短編小説】くらげになる

【短編小説】くらげになる

2,592文字/目安5分

 雨はしとしと、この町を灰色に染める。分厚い雲は喧騒すらも覆い隠した。すごく静かだ。まるで海の中にいるみたい。息が詰まりそう。
 雨は嫌い、傘は好き。
 傘を差していると、世界から遠ざけられたような、そんな気がしてくる。赤だったり青だったり、黒や透明もある。いくつもの傘が同じようにぷかぷかと浮かんでいる。
 人の声、車の音。それらすべてを雨が飲み込む。町の中を歩いている

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【短編小説】かわいい

【短編小説】かわいい

3,342文字/目安6分

 朝、目が覚めてから違和感に気づくまでに、そう時間はかからなかった。
 まず一つ股間のあたり。というか股間。全然力が入っている感じがしない。自慢じゃないが俺は朝からすごい。何がとは言わんがナニがすごいのである。なのにそこにある感じがしない。
 もう一つ。寝返りの感触がなんとなく柔らかい。ふにって感じがする。
 そうは言っても違和感の正体は分からず、あくびをして、ベッドか

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【短編小説】知らんぷり

【短編小説】知らんぷり

737文字/目安1分

 交差点で信号を待つ君を見つけた。
 わたしはそれを、わざと知らんぷりする。

 見つからないように距離を空けて、君のことを内緒で観察する。
 君は下を向いたり、信号を見たり、車の行き来を眺めたりしている。背が高くて、少し猫背気味の君。いつも決まった時間にここにいるから、わたしもそれに合わせてここに来ている。
 信号を待っている間は絶対に声をかけない。
 本当はすぐにでもお

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