【短編小説】隣の景色
511文字/目安1分
自転車の帰り道。
君が「先に行ってよ」って言うから、仕方なく前を走る。気になって後ろを向くと「ほら、危ないよ」と怒られる。
こういう時、僕は何も言い返せない。
道の幅は狭い。だから一列になるのは仕方がない。それでもこうしてずっと背中側ばかり見せていても、やっぱり仕方がない。君に対していつも後ろ向き。
君はいつだって明るくて前向き。周りから頼られることが多いし、将来のことだってちゃんと決めて自分の道を進んでいる。
いつか君の隣で、並んで走れたらって思うけど。思うんだけどなぁ。自分に対しても、やっぱり後ろ向き。
君と横に並ぶのに必要なのは、道の幅か。それとも勇気か。自分ではもう分かっているんだ。
赤信号で止まる。君は僕の左側に止まった。この時だけは隣どうし。
考えて、そして意を決して、僕は話す。
「あのさ」
「ん?」
「たまには僕の前を走ってよ」
「え、どうしてよ」
横に並べないならせめて視界に入っていてほしい。そんなことを言いたくても言葉にできず、もごもごしていると、信号が変わった。
「ほら、青になったよ。行くよ」
君がそう言うから、僕は走り出す。仕方なく僕が前で、君は後ろ。自転車の帰り道。
景色はまだ、遠くて広い。
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