ストレス社会を生き抜く術「コーピング」とは? 適切に対処する工夫
「ストレスケアに役立つコーピングって何?」
最近、聞きなれない「コーピング」という言葉に出会いました。ストレス社会を生き抜く我々にとって、自分のメンタルを守る対処法のこと。
コーピングリストという言葉も最近見聞きすることが増えました。そしてこのコーピングを社員の精神衛生管理に役立てる企業も増えているとのこと。
そこで改めて「コーピング」って何なのか、具体的には何をすれば良いのかについて整理します。
「コーピング」とは何か
コーピングとは、ストレスを感じた際に起こるストレス反応への「対処方法」のことを言います。そもそもコーピングはコープ+ingです。このコープって何でしょうか。辞書で調べると、こう解説されています。
【cope】
うまく処理する、(…と)対抗する、(…を)抑え(ようとす)る、(なんとか)うまくやっていく
つまり、コーピング(coping)とは「問題に対応する、切り抜ける」という意味合いの「cope」という言葉から生まれた言葉ですね。
この手法はラザルスという心理学者が提唱したメンタルヘルス用語だったそうです。それが企業の社員に向けた精神衛生管理に活用されるようになり「ストレスコーピング」という言葉が広まっていったそうです。
ストレス発生からコーピングまでの流れ
この発案者ラザルスの定義によると、コーピングは「個人と環境とが影響し合った結果、個人の資源を脅かすと判断された場合に個人がとる認知行動的努力」とのこと。何だか難しい表現ですが、個人がストレスを感じた時にとるべき対処法という感じですね。
ラザルスが行った研究によって、人間のストレスに対する認知評価は3段階あると言います。
①ストレッサーに対しての認知(一次的認知評価)
②ストレス反応についての認知(二次的認知評価)
③対処法としてのコーピング
コーピングの前に、「ストレッサー」や「ストレス反応」という言葉の理解を進めなければいけません。
①ストレッサーの認知
「ストレッサー」とはストレスを感じる元になる環境や外部からの刺激のこと。たとえば満員電車で隣の人ととぶつかる時の不快感やストレスを感じた場合、「満員の車内」がストレッサーです。
つまりストレスにはそれを引き起こしている元があるということ。「何となくイライラする」ではなく、自分が何にストレスを感じるのか正確に自覚することが重要となります。
②ストレス反応
ストレス反応とはストレッサーに対する本能的な防衛反応です。この反応は身体に何らかの衝撃が加わると痛みを感じるのと同じで、自分の体に何らかの異変が起きていると自分に知らせる信号と言い換えることができます。
③対処法としてのコーピング
ストレスはコーピング(対処)が可能と分かった段階で減らすことができます。たとえストレッサーを避けられない状況でも、対処方法次第でストレスを軽減することができます。
コーピングの2つのアプローチ
コーピングには2種類の方法があると言われています。
問題焦点型:原因を解決することに重点を置く
情動焦点型:感情の制御に重点を置く
それぞれ、効果を発揮するシチュエーションが異なるので、特徴を理解して使い分けるのが良いです。
①問題焦点型コーピング
原因の根本解決を試みるのが問題焦点型コーピングです。ストレスの原因を根本的に取り除いて、ストレスフルな状況から抜け出すことを目的にします。
仕事の人間関係でストレスを抱えた場合、配置換えや部署異動などを上司に相談したり、人間関係改善に向けて同僚に相談するなどの行動がこれに当たります。または、プレゼンが苦手で人前で話すのがストレスというケースでは人前で話すためのスキルを学んだり、そもそもの緊張を成長の機会と捉えなおしてストレスの元を改善するような行動です。
根本解決につながる一方で、その分、原因解消のためにはそれ相応の労力がかかります。対処方法が思いついても、その労力を考えた時に、一歩が出ず、行動できないこと自体がストレスになることもあるので、もろ刃の剣です。また、このコーピングが必要なケースはかなりのストレス環境が前提にあるため、周囲の人を巻き込むケースが想定されます。それがきっかけで他の人間関係を悪化させてしまうなどのデメリットもあります。
②情動焦点型コーピング
感情コントロールを中心にする対処するのが情動焦点型コーピングです。感情にアプローチすることを重要視し、辛いと感じる気持ちを変化させたり解消させたりして、ストレスをケアします。
マイナス思考にならないようプラスに考えたり、沈んだ気持から離れるために趣味や運動などの気晴らしをして気分を変えるなどがこれに当たります。
おしゃべりで気分が変わる人は友人との会話、汗をかいたら気分が変わる人はランニングやヨガ、趣味や旅行などで発散する人もいます。
大切なのは「気分を切り替えるスイッチ」を自覚することです。頭を悩ませている問題から自分で距離を置き、落ち着く時間をつくるということです。
情動焦点型コーピングは自分の気持ち次第なところも大きいので取り組みやすい一方で、実は根本的な解決になっていなかったりします。一時的に処理できても、再び同じストレスに向き合うことになるケースも多いです。
気の持ちようで解決するような小さい問題や、イレギュラーなストレスであれば、有効に働きますが、根が深いもしくは頻繁に起こるストレスには根本的な解決にならないことを理解しておく必要があります。
これら2つの型は共に問題に対処することを目的としていますが、扱うストレスの質が異なります。どちらか一方の手法に集中するよりも状況に応じてうまく使い分けながらコーピングを行うことが効果的といえます。
コーピングのための準備(コーピングリスト)
特に日々の生活でメンタルケアに役立つのは情動焦点型コーピングのウェイトが高いでしょう。このコーピングを実施するためには、「気分を切り替えるスイッチ」をなるべく多く持っておくことが大切です。
そのためにも、自分に合ったストレスに対する気晴らしの方法や対策をリストアップしておきましょう。まず、自分が日ごろどんなストレスを抱えているのかを考えます。次に、それらのストレスを解消できる対策や気晴らしの方法を思いつくまま書き出していきます。
書き出す時はどんな些細なアクションでも良いので、思いつくまま書き出します。「100個出すぞ」と決めて取り組むのも良いでしょう。
やってみると分かりますが、中には問題焦点型のいわゆる根が深いストレスも頭に浮かんできます。その時は抜本的な対策を考えると大掛かりで途方もないことを考えてしまい手が止まります。そうではなく、「とりあえず〇〇さんに相談する」など、直ぐにできる小さい対策から書くようにするのがポイントです。
まとめ
日々、何気なく過ごしている毎日ですが、我々は大小さまざまなストレスを感じながら生きています。そのストレスを放置しておけば、いずれ心身に大きなダメージとなる可能性もあります。そうならないためにも「対処」することが大切です。
その対処法がコーピング。ストレッサーというストレスの元を自覚し、自分に起きているストレス反応を理解する。そしてその反応ごとに自分なりの対処法をとっていくことで、セルフケアすることができます。
ストレスの質に合わせて、問題焦点型、情動焦点型の2つのコーピングを駆使し、ストレスケアを行いましょう。ここで大切なのは、「ストレス」と大くくりに理解するのではなく、ストレスには類型があり、それによって違う打ち手が必要ということを知っておくことです。
そして、その打ち手としての対処法をコーピングリストを作っておくことで自分の中でストックしておきましょう。頻繁に感じるストレスに対して、対処法を自分の中に複数持っておくことで、「こう来たらこのカードを切る」という風に、上手にいなしたり、はね退けたりすることができます。
このリストは自分にだけ有効なオリジナルの「処方箋」です。これを持っておくだけで、心理的な安心感を感じることができます。お時間のある時に、是非作っておくことをオススメします。
未来の自分のために、セルフケアの武器を用意しておけると良いですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。