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映画野郎

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いちいちやかましい映画(ドラマ・演劇含む芝居エンターテインメント)レビュー
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生き方のバイブル/映画レビュー『ノマドランド』

生き方のバイブル/映画レビュー『ノマドランド』

タイトルから流行りの「ノマド」や「ミニマリスト」の話に思われがちだが、ノマドライフを称賛するだけの映画ではない。ミニマルな暮らしも資本主義経済どちらの良さも描かれている。決して文明や文化を否定しているわけではないのだ。その立ち位置がこの作品が評価される所以ではないだろうか。

車生活をしながらAmazonの工場で働く人たち。大量生産大量消費、大規模流通の経済や、華やかな商業施設も登場し、その狭間で

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ハッピーエンドでもバッドエンドでもなくグレー/映画レビュー『花束みたいな恋をした』

ハッピーエンドでもバッドエンドでもなくグレー/映画レビュー『花束みたいな恋をした』

でもそれが生々しいリアルで恋愛の面白さ。

さすが坂元裕二の脚本。独自の細かすぎる皮肉の効いた穿った視点のオンパレードで、終始ボディーブローのように笑わされた。言葉選びとセリフ回しが巧みで、早くも次回の脚本賞ではないだろうか。

思わぬ偶然や共通点が重なり恋に落ちていく男女の物語。2時間で5年分のふたりの時間を追体験しているよう。恋愛あるあるでニヤニヤが止まらない。

やりたいことをやりたくても現

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カッコ悪くてもカッコ良く生きたい/映画レビュー『ヤクザと家族 The Family』(試写会)

カッコ悪くてもカッコ良く生きたい/映画レビュー『ヤクザと家族 The Family』(試写会)

分かっていても、その男にはそれしかなかった。

ヤクザとして生きていくしかなかった男が、不器用ながらも愛を求め続けた物語。しかし時代は変わりゆき、残酷にも社会が存在を抹殺していく。それでも仁義を貫き、家族に憧れ、もがいた先の結末とは…

これは、ただの任侠映画でも救いのない物語でもなく、人それぞれの善も悪もリアルを描ききった作品。

反社への風当たりが厳しくなるなか、それが必要悪だとしても悪は悪だ

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ひとりの人として生きるために本当に必要なこと/映画レビュー『82年生まれ、キム・ジヨン』

ひとりの人として生きるために本当に必要なこと/映画レビュー『82年生まれ、キム・ジヨン』

多様化における家族という病。

女性が共感する映画と言われるが、男性こそ観るべき作品。ダイバーシティの時代に女と男で語るのもナンセンスと言われてしまうかもしれないが、それが現実だし男女問題は現代でも根深く残っている。

82年はどんぴしゃの世代で、なにもかもが刺さりまくり。時代による家庭環境や考え方の変化は韓国も一緒なんだなって感じた。そして子育て世代の男としては耳が…目が痛い話。家事はもちろん育

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冷めた想いもなぜか温かい/映画レビュー『マリッジストーリー』

冷めた想いもなぜか温かい/映画レビュー『マリッジストーリー』

あなたにとって家族とはなんだろうか。

離婚調停で争う話なのに、どこか優しく温かい物語。一度想い合った人と人の絆はそうそう切れるものではない。「子は鎹」とはよく言ったもので、そこには子どもの存在が大きい。連れ添う当事者ふたりの問題ではなく、家族としての選択となるのだ。

核家族による生活スタイルが一般化し、子育てへの負担からネグレクトやDV、そして離婚に一人親家庭の社会問題が根深い現代において、拡

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愛すると愛されるは似て非なるもの/映画レビュー『窮鼠はチーズの夢を見る』

愛すると愛されるは似て非なるもの/映画レビュー『窮鼠はチーズの夢を見る』

愛されるより愛したいマジで。

「片思い」は一方通行で「愛し合う」とは双方向だと思いがちだが、「愛する」と「愛される」のバランスは常に変化し、その想いの大きさが幸せに直結する。

自分から愛すことから逃げ人から愛されることを利用する男と、一途に愛し続ける男の出会いにより、愛のかたちを摸索しつづける物語。

食わず嫌いだったBLの話も、深い愛をテーマにしていて、濃厚で大人な映画に仕上がっていた。これ

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人間の知的好奇心を掻き立てる新感覚映画/映画レビュー『TENET テネット』

人間の知的好奇心を掻き立てる新感覚映画/映画レビュー『TENET テネット』

難解だから何回も観たい。(ダジャレ)

その言葉で語るのが申し訳ないぐらい、それだけの奥深さがある。ついていけなくてつまらないではなく、随所に張り巡らされる伏線を見つけ解読してやりたいと思わせる力がある。

メメントにインセプションと時間軸や時空を操ってきたクリストファー・ノーラン監督の真骨頂。タイムスリップとは違い、時間を順行するものと逆行するものが同居する展開は画期的な新発明だ。

VFXに頼

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存在感がものをいう/映画レビュー『ミッドナイトスワン』

存在感がものをいう/映画レビュー『ミッドナイトスワン』

役者とは何かを考えさせられる。

難しいトランスジェンダーの役を自然体で演じきった草彅剛の名演もさることながら、彗星のごとく現れた新人、服部樹咲が主役の作品である。演技は発展途上だが、その圧倒的な存在感とバレエで魅せる身体美に惹きつけられる。

草彅剛の演技はそこまで好きではなかったが、今回の役で一皮向けた感がある。妖艶さが板についており、間違いなく代表作になるはず。

全体としてはセリフが少なく

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ひとつ屋根の下で暮らせば他人も家族/映画レビュー『宇宙でいちばんあかるい屋根』

ひとつ屋根の下で暮らせば他人も家族/映画レビュー『宇宙でいちばんあかるい屋根』

血の繋がりは関係ない。

「夫婦はもともと他人」当たり前のようでその言葉にはっとさせられた。

少し前に「家族という病」という言葉が流行したように、みんな家族というものにそれぞれの悩みを抱えている。相続における血縁トラブルや一人親家庭の社会問題が広がり、離婚・再婚・事実婚・同性婚と婚姻関係の多様化も進み、拡張家族のように家族のあり方も見直される現代に、本当に大切な人と人のつながりを考えさせてくれる

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映画レビュー『思い、思われ、ふり、ふられ』みんなが幸せになれる丁寧で優しい映画

映画レビュー『思い、思われ、ふり、ふられ』みんなが幸せになれる丁寧で優しい映画

くぅ〜青春うらやましい!

自分にもこんなときがあっただろうか。多感な高校生たちの甘酸っぱくもどかしい、微妙で絶妙な四角関係の物語。

恋愛も政治も…なにごともあっちを立てればこっちが立たず。すべてがうまくいく都合の良い話なんてなかなかない。誰かを愛するということは、誰かを愛さないということ。誰も傷つかないみんなが幸せになる方法なんてあるのだろうか。人生は選択の連続。正解なんてないけど、それを追い

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映画レビュー『mid90s』人生を豊かにするのは夢中になれることと仲間だ

映画レビュー『mid90s』人生を豊かにするのは夢中になれることと仲間だ

久しぶりにクールでおしゃれな映画に出会った。

最近ますます存在感を増している新進気鋭の映像スタジオ『A24』による作品。とにかくイケてる映画をつくり続けているイメージだが、本作も冒頭からその世界観に魅了された。

一般的に当たり前とされている冒頭のブランドロゴムービーを本編のなかに溶け込ませてきた。キーアイテムとなるスケボーを並べて「A24」の文字をつくり、それに乗って散らばっていく映像からはじ

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映画レビュー『37セカンズ』普通とはなにか。障害こそ大きな1つの経験

映画レビュー『37セカンズ』普通とはなにか。障害こそ大きな1つの経験

想像以上にポップで明るい。

仮に人生100年だとすると、36,500日…876,000時間…52,560,000分…3,153,600,000秒。こう見ると長くてもそんなものかと感じる。そのうち、たった37秒の違いだけで人生が変わってしまう。それは残酷なようで、生ものであるから当然のことでもある。

本作の主人公は「障害」というものを持ってしまったが、どちらが幸せかは分からない。「持ってしまった

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映画レビュー『2分の1の魔法』やらなきゃできない

映画レビュー『2分の1の魔法』やらなきゃできない

「やってみなきゃ分からない」でもない。

「できるできない」の前に、「やる」という行動を起こさないと「できる」という選択肢すらない。その土壌にまず立つことが大事である。それをさらっと当たり前のように教えてくれた。

そして信じて進めば道はできる。そう背中を押してくれる作品。

かつては魔法という自分自身の力で何でも生み出していた。でも技術の進化で楽を覚え、いつしかそのエネルギーや尊さを失っていった

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ドラマ最短レビュー『梨泰院クラス』1話からまるで1本の映画を観ているようだ

ドラマ最短レビュー『梨泰院クラス』1話からまるで1本の映画を観ているようだ

ドラマは1話目が9割。

最初にどれだけ惹きつけられるかが勝負。ということで、長い連続ドラマを取り急ぎ初見だけで簡単に感想を書き残す「最短レビュー」。今回は、これまた話題の韓流ドラマ『梨泰院クラス』を遅ればせながら。

とにかく初回で虜に。1時間ほどにしてまるで1本の映画を観終わったような感覚で、それだけでもかなりの見応えがあった。むしろこれからどうやってストーリーを持っていくのかが心配になっちゃ

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