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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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#読書

『知的障碍者と教会』(フェイス・バウアーズ;片山寛・加藤英治訳;新教出版社)

『知的障碍者と教会』(フェイス・バウアーズ;片山寛・加藤英治訳;新教出版社)

250頁ほどのB6版の本であるが、新教出版社ということで、装丁は地味である。サブタイトルに「驚きを与える友人たち」とある。友人とはもちろん、タイトルでいう「知的障碍者」である。
 
そもそも「しょうがい」の表記すらいま困難がある。「障害」の「害」の字がよくないということで、「障碍」とする人もいる。それはナンセンスだという人もいれば、漢字でなく「しょうがい」としよう、と提言する人もいる。中には、当事

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『別冊100分de名著 宗教とは何か』(釈徹宗・最相葉月・片山杜秀・中島岳志・NHK出版)

『別冊100分de名著 宗教とは何か』(釈徹宗・最相葉月・片山杜秀・中島岳志・NHK出版)

テレビでおなじみのシリーズだが、2024年の年頭に放送された番組から半年後、こうした書籍という形で改めて世に問うことになった。もちろん番組そのものの再録ではない。四人の論者が、それぞれの立場から、それぞれの視点によって、「宗教とは何か」について語っている。
 
サブタイトルは「「信じること」を解明する」となっているが、的を射たまとめであるだろう。宗教団体を問うたのではない。個人の信条についてである

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『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(神野潔・日本能率協会マネジメントセンター)

『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(神野潔・日本能率協会マネジメントセンター)

2024年4月から好評の、NHK朝の連続小説「虎に翼」は、三淵嘉子さんをモデルとしている。この朝ドラを見越して制作されたのだろうとは思うが、なかなか良質な本ができた。
 
著者は、日本法制史が専門。だから背景の事情などは熟知しているものの、三淵嘉子さんそのものの研究者ではない。それを思うと、様々な資料に当たり、またご親族との度重なる面会など、ずいぶんと労力をかけて執筆している様子が窺える。専門家で

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『方舟を燃やす』(角田光代・新潮社)

『方舟を燃やす』(角田光代・新潮社)

人気作家の新しい作品を、珍しく読みたくなった。425頁まで本文があって、税込みでも2000円を切るのは、いまどき割安な量かもしれない。もちろん、長さが作品の質を決めることはない。本作は非常に読みやすい。引っかかるところもないし、たどたどしく読み直すようなところもない。これは流行作家にとり有利な特徴である。
 
とはいえ、読み手によるかもしれない。私はこの作品の中にある話題の多くにコミットしていたの

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『宗教音楽の手引き 皆川達夫セレクション』(樋口隆一監修・日本キリスト教団出版局)

『宗教音楽の手引き 皆川達夫セレクション』(樋口隆一監修・日本キリスト教団出版局)

「バロック音楽のたのしみ」をラジオで聞いていた。クラシックを知った頃だった。まだ私も信仰を与えられていなかった。その後、「音楽の泉」も時々耳にした。
 
2020年4月、皆川達夫氏が92歳で亡くなった。Eテレの「こころの時代」で2005年に放送された「皆川達夫 宇宙の音楽(ムジカ)が聴こえる」が再び放送された。
 
音楽史家として、西洋音楽について限りない知識をお持ちである。さらに、日本のキリシタ

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『「戦火のなかの子どもたち」物語』(松本猛著・いわさきちひろ絵・岩崎書店)

『「戦火のなかの子どもたち」物語』(松本猛著・いわさきちひろ絵・岩崎書店)

これは絵本「戦火のなかの子どもたち」にまつわるエピソードを綴った本である。その絵本についても、私はこのような場所でご紹介しようかと考えていたが、この「物語」に触れることで、絵本のことはお知らせできると考え、この場で一緒にお伝えすることにした。
 
絵本のほうは、もちろん、いわさきちひろ作である。同じ岩崎書店から刊行されており、1973年9月に第一刷発行となっている。大判の絵本であり、1989年の第

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『加藤常昭説教全集24 ペテロの第一の手紙・ヨハネの手紙一』(加藤常昭・教文館)

『加藤常昭説教全集24 ペテロの第一の手紙・ヨハネの手紙一』(加藤常昭・教文館)

加藤常昭先生の本は、振り返ってみると、ずいぶん読んでいる。代表作はもちろんのこと、聖書講話シリーズや、道シリーズなどもある。翻訳ものを含めると、個人別にして一番多く持っているだろう。だが、「説教全集」は、一冊も持っていなかった。なにしろ高いのだ。そして、きりがないからだ。
 
しかし、D教会で一年間説教を続けた2003年度のものが入った巻があるという。D教会のH牧師から聞いたので、「これは」と思っ

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本を買うのを減らすには

本を買うのを減らすには

本が高い。否、世間では食料品をはじめとして、物価が高騰している。給料は変わらないか、むしろ減るばかりであるため、家系は楽ではない。それでも、食べられる分だけが備えられていることはありがたい。
 
そんなときに、本などを買っている場合ではない。確かにそうだ。本を食べて生きているような人間にとっては、買わないのがだめなのではなくて、読まないのがだめなのだ。
 
積ん読というものが非難されるべきものでは

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『光かがやく未来へ』(千葉明徳・イーグレープ)

『光かがやく未来へ』(千葉明徳・イーグレープ)

本書を読み始めて、最初に言い様のない違和感に襲われた。目次はいいとして、最初に出会う文章が、「推薦のことば」であった。それが10頁もある。5人が寄せている。教会や保育園をつくったということで、大きな働きをした著者だということは分かる。だが、これほどの推薦文を冒頭に並べる本は、ちょっと記憶にない。
 
「はじめに」は「死刑囚からの手紙」であった。すでに回心した死刑囚が、著者を呼び、若い人たちに福音を

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依存と信仰について

依存と信仰について

新教出版社『福音と世界』誌は、いつも新たなチャレンジを投げかけてくれる。お決まりの良い子でいるキリスト教雑誌もいい。心が洗われる。本誌は、心が洗われる効果は殆どない。だが、常に新たな視点をもたらしてくれる。知らないことを教えてくれる人が多いというのは、私にとり良い雑誌である。もちろん、それらは真摯な姿勢であり、多面的な調査や研究に基づいた記述であり、信頼のおけるもの、という理解に基づいての意見であ

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『牧師、閉鎖病棟に入る。』(沼田和也・実業之日本社)

『牧師、閉鎖病棟に入る。』(沼田和也・実業之日本社)

本書を探した経緯がある。簡潔にいうと、心を病む牧師についての資料はないか、という探し方をした。本当は、精神的に病んだ牧師をどう扱うか、というキリスト教的な対処が知りたかった。あるいは、牧師が心を病まないようにするためにはどうすればよいか、という観点の予防について知りたかった。
 
ところが、そういう本が見当たらない。かなり検索を掛けたが、なかなか引っかかってこない。アメリカにはそうした専門のカウン

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『説教と神の言葉の神学』(カール・バルト:加藤常昭・楠原博行訳・教文館)

『説教と神の言葉の神学』(カール・バルト:加藤常昭・楠原博行訳・教文館)

以下は、カール・バルトのよく知られている、1922年に語られた講演「キリスト教会の宣教の困窮と約束」の新しい翻訳である。――ここから「はじめに」が始まる。訳者のひとり、加藤常昭氏の手によるものである。本書の発行後、一か月を待たずして、召されることとなった。
 
主宰する説教塾で必要があって翻訳したものである。それが出版に値するということで、「新訳」として世に問われることとなった。これは、百年後の現

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『なんやかんや日記』(武田綾乃・小学館)

『なんやかんや日記』(武田綾乃・小学館)

接点は、やはり『響け!ユーフォニアム』である。専らアニメでしか知らないのだが、多くの青春群像が描かれているのに、それぞれが生き生きと描かれ、それぞれの個性がぶつかりあい、それでいて心の中に深まる何かが感じられる。こうした描き方ができるのは、たぶん天性のものだと思う。この作品、シリーズで続いていったが、最初のものは21歳で出している。ちょっと妬ましいほどの活躍である。
 
その作者のエッセイがあると

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『音楽とは何か』(田村和紀夫・講談社新書メチエ521)

『音楽とは何か』(田村和紀夫・講談社新書メチエ521)

タイトルが、恰も哲学の問いのようである。スケールが大きいものか、という期待を抱かせるものだが、必ずしもそうではない。サブタイトルに「ミューズの扉を開く七つの鍵」という言葉が見える。ギリシア神話の音楽の神である。実は音楽に限らず、文芸から舞踏など、広く芸術にまつわる神の名であるが、通常音楽をメインに私たちは捉えている。だからmusicなのである。但し、ギリシア語では「ムーサ」が神の名であり、9人の娘

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