マガジンのカバー画像

写真を使ってくださり、ありがとうございます❣️

374
【みんなのフォトギャラリー】にある私の写真を使ってくださった記事を集めました。 嬉しいです♡ありがとうございます♡
運営しているクリエイター

#小説

「マリーについて」エピローグ<完>

「マリーについて」エピローグ<完>

 喫茶店をあとにした俺は、自宅に戻る気にもなれず、あてもなくふらふらと河川敷を歩いた。そうしているうちにいつの間にか時間は過ぎて、気づいた頃には西の空が赤く染まり、夜を迎える準備をしている。ああ、俺はいつの間にこんなにセンチメンタルな男になったんだ。自分を客観的に見て苦笑する。 

 マリーを探し始めたのは、年が明けたあとのこと。初めはすぐに戻ってくるだろうと思っていたのだが、数日経ってもまった

もっとみる
「マリーについて」第3話

「マリーについて」第3話

「……ありがとうございました」

 テーブルの上に置かれたマリーの写真集を見つめたあと、四郎は静かに席を立った。

「え、もう行くの?」
「はい。……もしマリーを見かけたら、連絡ください」
「ちょ、ちょっと、待ってよ!」

 そのまま足早に立ち去ろうとするので、美鈴は慌てて四郎を呼びとめた。まだ何も聞いていない。突然目の前に現れた、マリーを知っているこの男のことを。

「あなたにとってのマ

もっとみる
「マリーについて」第2話

「マリーについて」第2話

「そっかぁ……結局、登坂くんのところからもいなくなっちゃったんだ……」

 健人の話を聞き終えた美鈴は、さみしげに肩を落とした。四郎は考え込むように、テーブルの一点を見つめて黙り込んでいる。

「結局、マリーのことはあんまり知れなかったんですけどね。涙の意味も、笑顔の理由も。どうして俺の前からいなくなっちゃったのかも、まだよく分からないし……」

 健人は悲しみを紛らわせるようにむりやり笑顔

もっとみる
「マリーについて」第1話

「マリーについて」第1話

わがまま猫のマリー 桜が咲いていたから、たぶん四月の初め頃だったと思う。

 大学のキャンパスには初々しい新入生が大勢いてさ、そいつらを勧誘しようとサークルのビラ配りをするやつらもうじゃうじゃいた。そんな中俺は、キャンパスの片隅でひっそりと、ギターを片手に歌ってたんだ。

 まぁ、春の風物詩、みたいな感じかな。ほら、大学ってそんなもんでしょ。ダンスしてるやつらがいたり、こたつで鍋してるやつらがいた

もっとみる
「マリーについて」プロローグ

「マリーについて」プロローグ

あらすじ

登坂健人・園原美鈴・橘四郎の三人は、喫茶店で「マリー」という少女について語っていた。しかし、それぞれの知るマリーは別人のように印象が違う。健人の知るマリーは「わがまま」。美鈴の知るマリーは「しっかり者」。そして四郎の知るマリーは「さみしがり屋」。 一体どれが本当のマリーなのか――

プロローグ

 マリーについて知っているすべてのこと。

     *

『わがまま?』

 登坂健人の

もっとみる
『エイプリルフェイスフール』#ショートショート

『エイプリルフェイスフール』#ショートショート

4月1日。

本当のことを言わなければいけない日。

一年に一度、何一つ嘘をつけない。

嘘をついてしまったら。

「遅れてごめん!おばあちゃんが迷子になってて!猫も轢かれそうになってたから助けてて!」

正気か?

素直に寝坊と言えば!お前の明日が!

4月2日。

「よっ!今日は間に合った!」

彼は生きていた。

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「

【あとがき】嘘をつくか、真実に触れ

もっとみる
11月20日にサイトがスタートします。

11月20日にサイトがスタートします。

すいません、こちら訂正です!

11月20日にサイトがスタートします。

「私と生活語りませんか?(女性限定)」
これって変? 私だけ? 悩みや愚痴、疑問、一緒に語りませんか?
https://sexualproblem.web.fc2.com/morimiki.html

よろしくお願いいたします。

【小説】 大人の話

【小説】 大人の話

【ヒロナ】

 「みんな、本当にすごいよ。チケット完売! おめでとう!」

 阿南さんが興奮して言った。ライブの一週間前だった。彼の笑みには、喜びだけでなく、安堵や充実感が見える。きっと、私たちの知らないところでの苦労が多かったのだろう。
 停滞していたリハーサル室がパッと明るくなった。口にはしなかったが、みんなチケット状況を心配していたのだろう。スタジオに流れる空気には、不安材料がなくなった安心

もっとみる
憂いを含んで、きもちがいい

憂いを含んで、きもちがいい

 1

 横幅は百四十センチほどあるのだが、奥行きが五十センチほどしかない。それに高さや材質の問題もあるからなぁ、と高階綺麗(たかしな・きれい)はメジャーを手にううむと唸った。窓から差し込む橙色の西日が、彼の座るいすの足下を照らしている。
 仕事机を新調したいのだが、なにせ毎日使うものなので、氣に入ったものを購入したい。近所の量販店にも行ってみたのだが、そこまで安くもなく、かといって物が良いわけで

もっとみる
ポピー

ポピー

 おはようございます。みなさん、朝ですよ。もうすっかりお日さまがのぼって、あたりがよく見えます。坊主頭の少年がやってきて、近くで素振りをはじめました。その頼りないバットに合わせて風がびゅうっと吹いて、私は心も少しだけ、ほんの少しだけなびきます。

 茶色いかばんをゆらして今日もせかせかと歩き過ぎるサラリーマンにいってらっしゃいとささやくと、ちらっとこちらを振りかえった気がします。めがねの奥の瞳があ

もっとみる
掌編小説158(お題:良い・酔い・宵)

掌編小説158(お題:良い・酔い・宵)

あの人は、世界で一番悲しい人でした。

生まれはあちらの世界だったと聞いております。望まれない次男坊だったため子供のうちに売られたと。それ以外にヒトの記憶はないといいます。買ったのは絵師の男でした。隠遁する男の代わりに絵の取引や画材の調達など方々へ走らされ、古美術の知識はその過程で育まれていったようです。男はあの人を市場へやったあと首を吊って死にました。遺体を見つけたあの人もまた涙は流しませんでし

もっとみる
【 ひ ら ひ ら  桜色】

【 ひ ら ひ ら  桜色】

 ひらひらと、泣くように落ちていく花弁がやけに悲しく見えた。返り血に染まりながら落ちていく花弁がやけに哀れだった。

 フゥ、と目を閉じても、何度も何度も落ちてくる花弁はまるで、慰めているよう。泣いてもいい、と言い聞かせる母親のよう。だから、嫌なんだ。桜は。何時もそんな気分にさせるから。何時も涙したい気分になるから。

  ザックリ、と肩を切り裂かれて倒れていく者達はただただ、地面に横たわるとそこ

もっとみる
【 ひ ら ひ ら   約束】

【 ひ ら ひ ら   約束】

 ひらひらと、降るように薄桃色の花弁が落ちていく。それを目で追いながら、片手でその花弁を、捕まえた。
 ゆっくりと手を開くと、掌の中で風に踊るようにして花弁が揺れる。急な遊び心が浮かび、それをグッと思いっきり握り締めた。もう一度ゆっくり手を開くと、それは掌にピッタリと張り付き、動かなくなってしまった。意図も簡単に。

 掌を徐に空に伸ばして、ふう、と一息。ひらひらとまた舞い戻るようにして去っていっ

もっとみる
掌編小説054(お題:両手いっぱいのエサ)

掌編小説054(お題:両手いっぱいのエサ)

「対価は勝手にモらッテいくサ」

宵闇の迫る世界の片隅。笠を目深にかぶった着物姿の老人がしわがれた声で一言つぶやくと、少女の全身からなにか煙のような白いもやがしゅるしゅると出てきて、それは彼のくわえたキセルの中へと吸いこまれていく。あっというまの出来事だった。

ぽかんとしている少女を、老人――ウタカタは枝のような枯れた手でぱっぱと払う。我にかえった少女はボロボロのクマのぬいぐるみを抱きしめて「さ

もっとみる