ことばや

矢島です。言葉売りをしております。 音楽や小説や詩などを書きます。 お仕事依頼は wo…

ことばや

矢島です。言葉売りをしております。 音楽や小説や詩などを書きます。 お仕事依頼は wordstore.official@gmail.com まで。

マガジン

  • 詩のようなものもの

    自分で書いたものの中の、詩のような短いものです。シとはいうものの、死的ではなく、ですが私的に近いものではあります。恣意的かどうかは想像にお任せします。

  • よろこびのたね

    ちいさなことばたちです。 詩にも散文にもならない、ちいさなことば。 読む人の喜びの種になることを願って。

  • 小説

    今までにnoteに投稿した短編小説のまとめです。

最近の記事

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u n t i t l e d (lyric)

Word Writing by YAJIMA NOA Composed by HIRONAKAURA, YAJIMA NOA Vocal Recording at Half Green Sea - 半緑の海- (By Colin Leitch) Mix Engineer: Hiroyuki Kishimoto (umu) Mastering Engineer: Tsubasa Yamazaki (Flugel Mastering) Produced by Hiroko.W

    • 夏至のうたたね、棕櫚の木、カンカン帽

      募る、花の色に臍を噛む、どんどんと濃く鮮やかになつてしまつて。 天蓋のついた寢臺で見た、翠り色の雨晒しのゆめ。 さかなたちが建てた圖書館で、背表紙に指を滑らせた。 愛に關する文獻は尾鰭をひらめかせて わたしを嘲笑うように次々と凍っていつてしまつた。 「はだかで睡ることがすつかり 癖づいてしまつたよ」 ヘリオトロオプ芳る。 淨瑠璃を太夫がくちずさむのだ、小首を傾げ 小さく紅ひ唇から、夏至がうとうととうたたねる閒に。 棕櫚の木の下、カンカン帽、眩んだ目はきつと愛しすぎたせゐ

      • 0628 夜更け

        深呼吸、森の翳でひつそりと月を見上げる獣は、つい先月投獄された恋文の安否を気にしている。 陰鬱さがやってきた時には、冷えた水を美しい江戸切り子の硝子盃で一杯喉に流し込む。氣に入りの古書店の窓辺に溜まつている夏の日差しの影との端境を記憶の裡の指先でなぞるやうにして。 冷えた水が通る私の軀、クリスタルのように透明にすきとほつて見えてくれるだらうか? 裸のむねとむねをひたりとくつつけて、わたしの中の月光、あなたの中に流し込んでしまう。署名。夜行列車、車内には誰もいない。窓の外

        • グラジオラスを書いた日の詩

          スクリャービンと玩具の兵隊。燕子花のブルウな雨情。夢一夜と三日月を微笑んで見てゐるシリウスの窓辺には薔薇の匂ひが似合う。 あの時、どんな氣持ちだった? 只、翳つた横顔は口元だけで笑ふ。  最期の七日間、綺麗な水だけを栄養に生命を耀らせてゐた貴女の儚ひ指先は鍵盤を弾きたかつたことだらう。 思ふ存分飛ぶと良い。甘やかな幸福にその身をゆだねて、六月の恋に郷愁を燻らせて。 西瓜の淡ひ青臭さ、潮風とマーチングバンド、古民家を改装した喫茶店で飲む店主こだはりのアマレロに映したヴイ

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        u n t i t l e d (lyric)

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        • 詩のようなものもの
          126本
        • よろこびのたね
          30本
        • 小説
          69本

        記事

          あなたのおとこのあまやかな目尻を笑ってくださいどうか

          雨を切り取つた窓枠の ふちにたち その美しい曲線を 世界に晒している あなたの 氣怠い色香を 文学のように愛してゐる 本の頁を捲る音と あなたの薄いお腹の上を歩く ひそやかな猫の躊躇ひ 口吻するには丁度いい 気圧の重たさ 低さですから

          あなたのおとこのあまやかな目尻を笑ってくださいどうか

          グラグルの北西部、洗髪の塔の見える小高い..

          グラグルの北西部、洗髪の塔の見える小高い丘でマニョーラとは待ちあはせてゐた。 その丘には、夫を亡くしてから女手ひとつで子供六人を立派に育てたレツトル・ダムウル夫人が美しい庭のある展望台付の家に暮らしていて、僕はその鉄扉ごしに見える百日紅の水中を漂う、金魚のような花たちの碧瑠璃色の風に揺れる様や、その手前の色濃くつやつやと輝く葉の反った背中を見るともなく見ていた。 ダムウル未亡人の家のベランダには山登り用だろうか今では少し珍しい着茣蓙やリネンの夏衣、開襟(これは息子のものだ

          グラグルの北西部、洗髪の塔の見える小高い..

          美しさと寂しさと言葉の無力さに

          玉虫色に光る夢から削り出した鉱石を砕いて、粉々にして飲み込んだ男の喉や腹がきらきらと光るのを見ました。 景色がすごい速度で変わっていく、今朝は食欲があまりない、複雑に絡み合う感情のほぐし方を書いた書物の数行を口に含んでしゃぶること。 やせっぽちの犬と暮らしてゐた日のことを覚へている。悪しきものは当分近寄れないよと私が云ふと、彼は安心して睡つた。 点綴する星たち、叢時雨のあとで。なにもかも美しく翳らす夏の光に少し嘘を聞いている素馨の花はあの女の泣き聲とよく似てゐる。あゝ、

          美しさと寂しさと言葉の無力さに

          意味などないが

          意味と云ふものについて考へる。アトピーの指先は腐っているやうにぐしゃぐしゃだ。存在意義、と云ふ言葉を口の中で枕に吸い込ませた秘密のやうにもごもごする。 ガアデニングする人々、来ない予約客、トマトの光沢を備へた曲線、歯の痛みやエトセトラ……。 あなたは他者ばかりを責めていると男1に云ふ女1に、あなたはそうやって他者ばかりを責めていると云ふ男2に、あなたはそうやって他者ばかりを責めていると云ふ女2に、あなたはそうやって……。 香木に燃す夕暮れ、庭常の花が爆ぜた。 変声期特

          意味などないが

          6/16

          意味を為さないことが唯一の意味なのだとやけに陽気なアネモネが云つた。 私たちの住む町には住人と同じ数の戒律があり、それらは外で見えない有刺鉄線のやうに絡まりあって時々ひとを傷つける。 オレンジワインは皮ごと絞るのだ。甘いものから少し苦味のあるものまで。 七分丈製造工場で働らいてゐるジニアは蔦植物を見るのが好きだ。それは彼の家の窓に這っていて、夜勤明けに寝酒を飲みながら見つめられる唯一の植物だったし、これと云つた突起物もない中で壁にはりついている蔦に自らを投影しているのだ

          翠玉色の翅の話

          あくび、芍薬、Ficedula narcissinaの鳴き聲。平面的で真っ直ぐ伸びる陽光の、鄙びた溜め息の音。ゆっくりと細かく揺れている呼吸、まるで生命を慈しむ余りに終わりの来るのをおそれてゐるひとの泣き聲に似て。 真っ青。踊りなど習っていないのに踊る體は、みずみずしい季節の言祝ぐ坂道が紡ぐ六月を知っている。 明晰夢の中に居る時のやうに、陽炎はゆらゆらと揺れ木製の建物の輪郭を暈かす。うなだれて痩せた犬はエナジイを使はぬやうにとうつぶせて動かない。 安楽椅子、濃く淹れた珈

          翠玉色の翅の話

          よだちの空白、にほひの湿ってゐること、なぜだか泣きさふで。

          言の葉の舞う朝に少しずつ暑くなってきた気候を味はゐ、庭苑をのぞむ。 枯れかけの春の花々や、もうすっかり青々とした葉とそれに付随する葉脈を透明な水、それもとても澄んだ清流を固めて琥珀のやうに幾千万の歳月眠らせた宝石、美しい宇宙の果てからやってきた珍しい鉱石のやうな夏の輝きに晒し惜しげもなく見せてくれる植物たち。 花盛りを終へても、をまへたちは未だふつくしひままなのだね。 触れた流星、名残惜しく、波の砕ける音、やけに廣すぎる国道沿い、喉のかはきと数平方にも満たぬのに胸を締め

          よだちの空白、にほひの湿ってゐること、なぜだか泣きさふで。

          ねむたげな

          やがて時が満ち 潮の満ち引き 意味合いと夜躑躅 必要あつて ある なもかも 或るひとの翳 椿の唇はぢめんに向き それをなぞるように つまさきが つまさきが 緩つくりと 円を描く 他所のテレビヂョンのあがらない解像度 嘆くよりも ただ 深呼吸をして 瓔珞躑躅を チョンチョンと もてあそぶゆびさきのほほえみ あさつゆのやうな あくびのこへ (地平線から宇宙のあることを報せる天道様) かはりのない ゐのち とことはのみょうじゃう 洗濯竿にさへ あまつゆをそそぎ 凪がぬこころを

          ねむたげな

          六月九日

          夜更け深くから雨が降るのだと云ふ。鳥たちのつゐばむマスカルポオネチイズのやうに正常で幸福だ。 連絡事項は蔦に絡めとられ、生籬の奥でくぐもつた呼吸を繰り返す。むせかえるような息苦しさの放送コオド。 時間と政治は浄らかでなければ、とシャマンが云ひ、民も同意する。はらひきよめたまへと燃された大麻の煙がアイコニツクな微笑の実に皮肉めいた優しさを覆い包む。 ストライプシャツ、顔は翳になつて見えなゐ。夏の突然の駿雨。水玉模様のスカアトの翻ったサマは夏の夢……。寝苦しく汗ばんだ皮膚に

          六月八日

          簡素な木枯らし、まだ夜は寒い。 象牙色の饒舌も考えものだね。 切符の長い願い、贖ゐとうがひ。 泣き虫なのに強がりだから、ね。 無くなった整髪料の容れものを捨てる時の 仕組みと仕草に悩みつつ、 また月夜の納屋での密通。 林檎の花びらが揺れ、 斜めの岩肌には苔に似た天鵞絨歯朶の幽靈。 地球八十億のアイソトオプ、違う、全部が違って似ている。 新緑は黄緑に染まっているところと翳になっているところがあって、水の畔りに蛍がくゆらせた発光の仄溟さ、硝酸塩鉱物としての靈の結露。 淋

          令和6. 6. 6

          令和6年6月6日 YAJIMA NOA 1st Single " u n t i t l e d " を発表しました。 この楽曲はHIRONAKAURAさんと 二年前から暖めていた楽曲です。 生きてきた35年間の中で出会い 別れたひとびとへの想いを綴りました。 思えば15歳で音楽を作りはじめて 30歳でそれをやめてからの6年間は とても静かで密やかなものでした。 言葉や曲は降り続けていましたが 僕には成す術も無く ただ小さな部屋で本を読んだり 音楽を聴いたり 働いてみ

          令和6. 6. 6

          葉擦れの音に影絵を見ては

          よくはわかっていない。朝方の珈琲は心地いいような、炭に似た味のような。 夏に近づいている新緑は立体的な色をしている。肉づきのいい葉肉に触れると、葉の裏に小さな蟲が睡っていることに氣付いた。 心の裡にある溟闇は、詩にしか照らせないのだろうか。服の素材は、服の素材は、化学繊維はとてもじゃないが苦手で。 配慮する余裕のない日は溟い目をして、穴蔵のような室に篭り給へ。枕木を軋ませる列車、安雑誌、公園、銀木犀、鷦鷯の鳴き聲。 痛みはぎざぎざで、死と似た馨りがしてゐまして。イブプ

          葉擦れの音に影絵を見ては