ことばや

矢島です。言葉売りをしております。 音楽や小説や詩などを書きます。 お仕事依頼は wo…

ことばや

矢島です。言葉売りをしております。 音楽や小説や詩などを書きます。 お仕事依頼は wordstore.official@gmail.com まで。

マガジン

  • 詩のようなものもの

    自分で書いたものの中の、詩のような短いものです。シとはいうものの、死的ではなく、ですが私的に近いものではあります。恣意的かどうかは想像にお任せします。

  • よろこびのたね

    ちいさなことばたちです。 詩にも散文にもならない、ちいさなことば。 読む人の喜びの種になることを願って。

  • 小説

    今までにnoteに投稿した短編小説のまとめです。

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固定された記事

洋酒町は今日も晴れている

 洋酒町の駅を降りて、小汚いまちかどや美しい植え込みの脇を通り過ぎた先にその雑居ビルはある。建てられてから既に七十年近くが経っているそのビルは洋酒町の中でも特に…

ことばや
4か月前
21

u n t i t l e d (lyric)

Word Writing by YAJIMA NOA Composed by HIRONAKAURA, YAJIMA NOA Vocal Recording at Half Green Sea - 半緑の海- (By Colin Leitch) Mix Engineer: Hiroyuki Kishimoto …

ことばや
19時間前
15

令和6. 6. 6

令和6年6月6日 YAJIMA NOA 1st Single " u n t i t l e d " を発表しました。 この楽曲はHIRONAKAURAさんと 二年前から暖めていた楽曲です。 生きてきた35年間の中で出会…

ことばや
1日前
28

葉擦れの音に影絵を見ては

よくはわかっていない。朝方の珈琲は心地いいような、炭に似た味のような。 夏に近づいている新緑は立体的な色をしている。肉づきのいい葉肉に触れると、葉の裏に小さな蟲…

ことばや
2日前
6

poem, untitled, 0604, at chichibu

余程 リズム リズム リズムの波間 擦り切れた靴底での公衆的衛生上 研磨剤ふきとっては 空拭き 夕暮れ時に西の空に横たわる伽羅蕗 忙しなく無言 同様の寛さ 少量の塩…

ことばや
3日前
9

長老とバタボア

長老は長い髭を撫でながら 満足げに笑って言った 世界には様々なものがいるものだ あなたもそのうちのひとりだ あなたを理解する者もいる 理解しない者もいる 理解してい…

ことばや
2週間前
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戒律とそれはどうでもいいという詩

ひとにはそれぞれ戒律がある 心の裡の聖堂に それは厳格な石造りの 冷たい 凍りついた戒律 他者に干渉する為には 他者に干渉されなければならない 自由という蝶はそうし…

ことばや
2週間前
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無題0520

誰もいない時にこそ 言葉は滲み上がって すいてきのなかにしかない さかさまの世界のようだ もういないひとのにおいを いっぱいに吸い込んで クローゼットの前 すこし泣…

ことばや
2週間前
9

空すぎる青、黄金虫、翡翠

エメラルド色が閃いた。 翡翠かと思ったが、鳥の姿は川向かいにも近くの梢にも見つけることはできなかった。 それが夢だったと杜斜が氣付いたのは、まばたきの次の瞬間に…

ことばや
2週間前
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いびつさとゆめとあしをと

今日の世界は深くて昏い だれもいなくて聲がしないのだ わたしのいないところで すべてはうごいていて わたしは睡氣を抱いて丸くなってゐる 植物の名前を教えてください …

ことばや
3週間前
15

Xylocopaの翅越しにも世界はあおく

掌にすっかり載るほどの 小さな世界を凝視ていた 鮮やかな色味が構築しては それぞれに離れて また構築されてゆくさま 心の中の宇宙分のいちの揺らぎに fは微笑むやうにし…

ことばや
3週間前
13

20240504-05 kyoto

山々の峰の背後に やけに奥深い次縹の空 鳥の聲を聞いたよう氣がする あなたの詩は経口補水液のようだと わたしに継ぐそのくちにうかぶ微笑を 水面に映る木々を見るように…

ことばや
1か月前
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葉擦は本から目を離さない

葉擦は光を透かして揺れる 結び葉のような澱の髪の毛を見ている。 澱はその美しい緑じみた黒い髪を 清流の一部のようにさらさらと風に揺らし 眉間にしわをよせて本を読ん…

ことばや
1か月前
13

ラザーニャ・アル・フォルノは美味しい

玻璃は春琴を見つめる。 愚かなあなた、というわけだ。 それで? 仕事をして稼いで それからそのお金でどうするの? どうもしないさ。 金は安心を買うために存在してる…

ことばや
1か月前
10

それは単に彼が感傷的になりすぎているという

他者を審判する時だけ みんなお得意の調子なんだから。 ひとは宗派が違うひとの考え方を 否定しなければ自己崩壊するって信じ込んでる。 玻璃はうつむきがちに言った。 …

ことばや
1か月前
10

転寝の隙間

めそめそと泣いて泣いている理由なんて ムスカリの花が搖れてたとえ一瞬閒だとしても 世界に殘す薄紫の滲んだ翳を眠たそうに見る ねえ 釣鐘草? 鐘の音を聞かせてよ 森…

ことばや
1か月前
8
固定された記事

洋酒町は今日も晴れている

 洋酒町の駅を降りて、小汚いまちかどや美しい植え込みの脇を通り過ぎた先にその雑居ビルはある。建てられてから既に七十年近くが経っているそのビルは洋酒町の中でも特に細くて静かな路地にあり、そのビルの中で《いちばん屋》は営業している。  恩田詩織はビルの入り口に立って、目の前にそびえ立つ古い建物を見上げていた。ビルの入り口には幅の広い階段が数段あり、その先に昔は透明であったであろう観音開きの硝子扉が居眠りするように閉まっている。奥には老い寂れた緑の公衆電話の棲むロビーと、その向かい

u n t i t l e d (lyric)

Word Writing by YAJIMA NOA Composed by HIRONAKAURA, YAJIMA NOA Vocal Recording at Half Green Sea - 半緑の海- (By Colin Leitch) Mix Engineer: Hiroyuki Kishimoto (umu) Mastering Engineer: Tsubasa Yamazaki (Flugel Mastering) Produced by Hiroko.W

令和6. 6. 6

令和6年6月6日 YAJIMA NOA 1st Single " u n t i t l e d " を発表しました。 この楽曲はHIRONAKAURAさんと 二年前から暖めていた楽曲です。 生きてきた35年間の中で出会い 別れたひとびとへの想いを綴りました。 思えば15歳で音楽を作りはじめて 30歳でそれをやめてからの6年間は とても静かで密やかなものでした。 言葉や曲は降り続けていましたが 僕には成す術も無く ただ小さな部屋で本を読んだり 音楽を聴いたり 働いてみ

葉擦れの音に影絵を見ては

よくはわかっていない。朝方の珈琲は心地いいような、炭に似た味のような。 夏に近づいている新緑は立体的な色をしている。肉づきのいい葉肉に触れると、葉の裏に小さな蟲が睡っていることに氣付いた。 心の裡にある溟闇は、詩にしか照らせないのだろうか。服の素材は、服の素材は、化学繊維はとてもじゃないが苦手で。 配慮する余裕のない日は溟い目をして、穴蔵のような室に篭り給へ。枕木を軋ませる列車、安雑誌、公園、銀木犀、鷦鷯の鳴き聲。 痛みはぎざぎざで、死と似た馨りがしてゐまして。イブプ

poem, untitled, 0604, at chichibu

余程 リズム リズム リズムの波間 擦り切れた靴底での公衆的衛生上 研磨剤ふきとっては 空拭き 夕暮れ時に西の空に横たわる伽羅蕗 忙しなく無言 同様の寛さ 少量の塩 窓は或るひとにとっては 海なのです 閑とした森 内包した煌き 言葉の扉を開いて臥すひとにも 摘んだ花束 返す時刻 規則的電気信号・渦・集合體 補足じみた解をときほぐす 妄執 蒙昧 もう居ないでMOSH もしも が叶うのならばと 口の端につけ 薄荷味の微笑み 白墨流し 雲にぶら下がりし 静けき 余韻の聲 彼女の夢の

長老とバタボア

長老は長い髭を撫でながら 満足げに笑って言った 世界には様々なものがいるものだ あなたもそのうちのひとりだ あなたを理解する者もいる 理解しない者もいる 理解していたが理解できなくなった者もいる 理解できなかったが理解できるようになる者もいる それでいいのだ。 必ずしも理解しあえなくとも良いではないか。 理解しないという権利も与えられるのだよ。 理解する権利を与えられるようにな。 ふむ。ならば説明は不要なのかと。 いや、そうでもないのう。 説明は理解の手助けとなるも

戒律とそれはどうでもいいという詩

ひとにはそれぞれ戒律がある 心の裡の聖堂に それは厳格な石造りの 冷たい 凍りついた戒律 他者に干渉する為には 他者に干渉されなければならない 自由という蝶はそうして 蜘蛛の糸に搦め捕らえられる もちろん それを 繋がりだとか親愛だと 名付けることも 禁じられてはいない もちろんのことだ 人を傷つける勿れと説く そのひとの食卓には 動物たちの死骸がよく載る 調味料で巧みに秘された死の悼み 喜びの園と 苦しみの棺は 本当はとても近くにあり 問題はバランス感覚 かもしれな

無題0520

誰もいない時にこそ 言葉は滲み上がって すいてきのなかにしかない さかさまの世界のようだ もういないひとのにおいを いっぱいに吸い込んで クローゼットの前 すこし泣いた 花々だけが 今年も咲いている いいにおいに振り返れば 忍冬たちのひそひそばなし 雨のけむる初夏のつめたさに ことさらゆっくりと呼吸をして はんぶん透けてて青いあなたの 透きとほったかなしみといとしさ やさしいてのひらがほほをなでる なつかしいおもいでたちが かげろうみたいに いくつも揺れて 電氣をつけ

空すぎる青、黄金虫、翡翠

エメラルド色が閃いた。 翡翠かと思ったが、鳥の姿は川向かいにも近くの梢にも見つけることはできなかった。 それが夢だったと杜斜が氣付いたのは、まばたきの次の瞬間に自分のベッドにいたからだ。 まるで瞑想者の瞼の裏にはりついたビジョンのようでもあり、もしくは幻覚サボテンの生み出す吐き氣の波間に漂う美しくも歪んだ神経回路の見せる極彩色の色彩のようでもあった。 自然のそばにいたときのことを街中で思い出す時にいつも杜斜は、深い秋よりも更にブルーになる。 自分のいる場所はもっと光の多

いびつさとゆめとあしをと

今日の世界は深くて昏い だれもいなくて聲がしないのだ わたしのいないところで すべてはうごいていて わたしは睡氣を抱いて丸くなってゐる 植物の名前を教えてください 七月のひかりを砕いて 葉脈に注ぎ込むやうにして あなたを愛していたい 石の手触りを指先に感じて 太陽を見つめている夢 窓の外は冷たい雨だというのに 頁の閃く隙間に やけに薄くなった悲しみ 斃れて空を見てゐました わたし 騒がしい夏が早く来るやうにと 耳元を水音かと思いきや それは小さな黄金虫の跫で ad

Xylocopaの翅越しにも世界はあおく

掌にすっかり載るほどの 小さな世界を凝視ていた 鮮やかな色味が構築しては それぞれに離れて また構築されてゆくさま 心の中の宇宙分のいちの揺らぎに fは微笑むやうにして踊っているよ 緑酒に泳ぐ微生のゐのちの ことばを ことばを嗅ぎ分けて 生活を暮らしとして見立てて 収縮しかけた想像力に ミネラルをたっぷりと注いだのは あなたなのです 他ならぬ あなた 直線すぎるのはきらい 動植物の呼吸にあわせて 鬻ぐ文字列の煌めき 睡る睫毛に似てゆるやかに その傾斜をふるわせる 蕺菜

20240504-05 kyoto

山々の峰の背後に やけに奥深い次縹の空 鳥の聲を聞いたよう氣がする あなたの詩は経口補水液のようだと わたしに継ぐそのくちにうかぶ微笑を 水面に映る木々を見るようにみていた 笛の音が燦々と降る 音のない暖かな春の日に 響く祀り囃子は 夜明けの合図よ おどるからだのゆれるすきとほった ひざしのてらす はだのうちうちに うちゅうぎんがと あいをみていた ひとつのちいさな ちりほどのたましひ わたし かわるのですね かわってゆくのですね もうかわったのですね ああ、、、

葉擦は本から目を離さない

葉擦は光を透かして揺れる 結び葉のような澱の髪の毛を見ている。 澱はその美しい緑じみた黒い髪を 清流の一部のようにさらさらと風に揺らし 眉間にしわをよせて本を読んでいる。 窓枠型に切り取られた空に 幾何学模様に滲んだ陽光が薄く。 襯衣の釦の上みっつを外した 澱の胸元は薄く筋肉がついていて それなのに薄っぺたく、少し汗ばんでいる。 澱は本を開いたまま、目を瞑った。 寝ているのかもしれない。 彼は夜更かしが好きで 夜中によく起きていては 何かをごそごそとしているから。

ラザーニャ・アル・フォルノは美味しい

玻璃は春琴を見つめる。 愚かなあなた、というわけだ。 それで? 仕事をして稼いで それからそのお金でどうするの? どうもしないさ。 金は安心を買うために存在してる。 今日はふたりきりだ。 バルコニーには波音と午后の 美しい日差しが勝手に攀じ登ってきていて 春琴と玻璃の目を楽しませようとしている。 ひとびとは見る必要も興味もないものばかり スマートフォンから摂取し続けてるわ 誰かの私生活。 大量にアップロードされては スクロール、消費されてゆく 誰かの加工された私生活

それは単に彼が感傷的になりすぎているという

他者を審判する時だけ みんなお得意の調子なんだから。 ひとは宗派が違うひとの考え方を 否定しなければ自己崩壊するって信じ込んでる。 玻璃はうつむきがちに言った。 その声には何かを恨んでいるような 強く憎んでいるような調子さえ含まれている。 問題はその厳しい戒律を ひとに押し付けたい人だって 角度を変えて見れば 同じようなことをしているってことよ。 人間なんて五十歩百歩じゃない。 まあ、それをアイデンティティとも呼ぶのさ。 春琴は開襟シャツを指でつまんで ぱたぱたと

転寝の隙間

めそめそと泣いて泣いている理由なんて ムスカリの花が搖れてたとえ一瞬閒だとしても 世界に殘す薄紫の滲んだ翳を眠たそうに見る ねえ 釣鐘草? 鐘の音を聞かせてよ 森が霧に包まれていて包まれていて きっと溫度が高すぎるんだ 著莪のやうな優しさがあなたの心の奧に そっと咲ゐてひるそれは ぼくの淚を呼び起こす 主人が餌で飼い犬を呼ぶやうに 蓮華躑躅の美しさはまるで炎のやうヂャなゐか 匂いが濃くなっていく しかし濃くなっても仕方なかろ 誰も嗅ぐ者のいないやうヂャね 生きてみ