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【 ひ ら ひ ら   約束】

 ひらひらと、降るように薄桃色の花弁が落ちていく。それを目で追いながら、片手でその花弁を、捕まえた。
 ゆっくりと手を開くと、掌の中で風に踊るようにして花弁が揺れる。急な遊び心が浮かび、それをグッと思いっきり握り締めた。もう一度ゆっくり手を開くと、それは掌にピッタリと張り付き、動かなくなってしまった。意図も簡単に。

 掌を徐に空に伸ばして、ふう、と一息。ひらひらとまた舞い戻るようにして去っていってしまった。意図も簡単に。



「…随分と物騒で。」

 思い出したようにニッコリ、と笑うとそのイッカクフェレルは自分より背の低いパートナーを見下ろした。憮然としてそっぽを向いていたパートナーはチラリ、とそのイッカクフェレルを一瞥すると大げさとも言える溜め息をついた。

「…仕方ないだろう。大体、何で今の時期にマダムと殺りあう任務があるんだ。」

 ブツブツと小言のように呟くと、ようやく、くるりと体の向きを変えてイッカクフェレルを真正面から挑むように見つめた。すう、と紫の瞳が細められた。まるで笑うように、見下すように。神秘的な響きを持つアルト・ヴォイスがまるで悪戯っ子のような遊び足らない響きを発した。

「…噂だとマダムの所には綺麗な桜が咲いているとか?」

「あ、聞いたことありますよ。…フフッ。戦闘しながらお花見というのもまた良いですね。」

 クスクスと笑いながらイッカクフェレルは笑う。その様子に唖然としたか、呆れたようにムシチョウは溜め息をついた。どこに戦闘しながら花見をする奴がいる訳?と言うように、もう一度そっぽを向く。
 しばしの沈黙。今度はゆっくりとイッカクフェレルは、のほほんとした口調で問う。

「この任務で生き残ったら、お花見でも行きましょうね。」

「…生き残れたら、か。」

 フッと意味深に微笑むと、ムシチョウは咎める様に付け加えた。キッとイッカクフェレルを見つめると、言い聞かせるように。

「…啓蘭。お前一応私より年上なんだからな。生き残れたら、じゃなくて生き残る。…じゃないと許さない。」

 ゆらゆら、とムシチョウの瞳に不安と、恐れを感じてか、内心驚きつつも、フッと啓蘭は微笑む。群青色の瞳が細められて、何とも言えない…容姿の綺麗さもあるがなんとも言えないほどの神秘的要素がプラスされた。それを了解の意味だと感じ取ったムシチョウは、ほっ、としたようにパートナーに甘えるかのように上目遣いで呟いた。

「ま、大丈夫じゃなさそうだったら…助けてやろうか?大船に乗ったつもりでいな?」

 勝気で挑戦的な態度。ふふっ、と笑うと、啓蘭はパートナーの頭を軽く叩いて、一歩前に前進した。肩まで伸びた水色の髪を無造作に払うと、啓蘭は笑いながら囁くように言った。

「…ええ。そうしましょうか?フフッ、生意気言ってると助けませんよ?」

 誰が助けてもらうかよ。と、皮肉なほどに挑戦的な言葉を浴びせられると、啓蘭はブツブツと呪文を唱えた。始まりは、これからだ。気合を入れなおして、単調的に呪文を呟く。

「/move パーク建設予定地ブルー。」


第二話 【 ひ ら ひ ら  桜色】へ続く

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