佐々木 麦

お題で掌編小説を書いていましたが、最近は完全自社生産で書いています。日常、不思議な話、言葉遊びなど。読んだ小説の感想や考察を書いたブログもやっています。ブログ:https://www.mugitter.com/

佐々木 麦

お題で掌編小説を書いていましたが、最近は完全自社生産で書いています。日常、不思議な話、言葉遊びなど。読んだ小説の感想や考察を書いたブログもやっています。ブログ:https://www.mugitter.com/

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  • 佐々木麦のそそそ

    趣味で書いたショートショートです。作品はすべてとある人物からもらった「お題」を題材にしています。

  • おかげさまでおつかれさま

    憑かれた、疲れた。ひょんなことからこちらの世界とあちらの世界の境目に立つ者たちに見初められ"つかれて"しまった4人の大学生がフツーの日常を愛し青春を謳歌する非公式サークル〈日常愛好会「おつかれさま」〉を立ちあげるまでの物語。

  • 不思議な仕事をしています

    人体模型との交渉から閑古鳥の羽毛採取まで不思議な仕事をしている人たちの日常小説シリーズです。

最近の記事

掌編小説313 - 電子言霊の墓場送り

「ここがきみのデスクね」 と、眼鏡の男性に案内されたのは意外にも普通の、どこのオフィスにもあるような本当に普通のデスクだった。ねずみ色の事務机にはデスクトップ型のパソコンとキーボード、マウスだけが置かれていて、椅子は今どき中古用品店でしか見かけないような肘掛けもない小さなビジネスチェア。 「巡回するSNSはあらかじめブラウザに登録してあるから。アカウントのパスワードもメールで送ってあるからまずそれを確認してもらって、ログインしたらすぐはじめちゃって。ノルマとかはないけど、

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    • 掌編小説312 - おかげさまでおつかれさま⑥

      幕間 三品旭 たぶん、受験に失敗したからだ。新しいアルバイト先もまだ決まっていなくて。高校生でも大学生でもフリーターでもなく、何者でもないから迷ってしまった。 予備校から帰るところだった。石畳で舗装された歩道を、まるで迷路かあみだくじだとか考えながら歩いていたら、どこでもない場所へ来てしまった。「どこでもない」としか言いようがない。建物、街路樹、通りすぎていく自転車や自動車。人々。今しがたそこにあったはずの光景はきれいさっぱりなくなっていた。霧が出ている。腕を伸ばすと簡単

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      • 掌編小説312 - おかげさまでおつかれさま⑦

        終章 おかげさまでおつかれさま 「みんなつかれてるね」としょこちゃんは言った。 午後六時、帰宅ラッシュのピークを迎えた山手線車内は、私服の若者たちに学生服の中高生、スーツ姿の会社員におじいちゃんおばあちゃんとまさに老若男女フルコースだ。右も左も、見わたせば誰もがつかれていた。しょこちゃんとは前にもこんな話をしたっけ。六月がもうじき終わろうとしている。世間ではすっかり「六月病」という言葉も浸透しつつあった。 季節外れのおしくらまんじゅうに辟易しながら、電車はまもなく目黒駅

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        • 掌編小説312 - おかげさまでおつかれさま⑤

          第3章 同じ穴の貉 あたしにとって、ぽんちゃんちは秘密基地にして宝石箱。大切なものが詰まってる。ここに一つ、また一つと新たな宝物が増えていくのも、楽しみであり喜びだ。 目黒にあるマンションの一室。彼女権限でぽんちゃんからもらった合鍵で中へ入ると、三和土には見慣れた靴が三組行儀よくならんでいる。左から、チャッカブーツ、マニッシュシューズ、スニーカー。黒、ベージュ、黒だから前に女子会兼お泊り会をしたときにやったリバーシを思いだした。うれしくなって、そこにオフホワイトのショート

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          • 掌編小説312 - おかげさまでおつかれさま⑥

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            2か月前
            • 掌編小説312 - おかげさまでおつかれさま⑦

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              2か月前
              • 掌編小説312 - おかげさまでおつかれさま⑤

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                2か月前

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              • 佐々木麦のそそそ

                • 319本

                趣味で書いたショートショートです。作品はすべてとある人物からもらった「お題」を題材にしています。

              • おかげさまでおつかれさま

                • 7本

                憑かれた、疲れた。ひょんなことからこちらの世界とあちらの世界の境目に立つ者たちに見初められ"つかれて"しまった4人の大学生がフツーの日常を愛し青春を謳歌する非公式サークル〈日常愛好会「おつかれさま」〉を立ちあげるまでの物語。

              • 不思議な仕事をしています

                • 12本

                人体模型との交渉から閑古鳥の羽毛採取まで不思議な仕事をしている人たちの日常小説シリーズです。

              • 佐々木麦のそそそ

                • 319本

                趣味で書いたショートショートです。作品はすべてとある人物からもらった「お題」を題材にしています。

              • おかげさまでおつかれさま

                • 7本

                憑かれた、疲れた。ひょんなことからこちらの世界とあちらの世界の境目に立つ者たちに見初められ"つかれて"しまった4人の大学生がフツーの日常を愛し青春を謳歌する非公式サークル〈日常愛好会「おつかれさま」〉を立ちあげるまでの物語。

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                人体模型との交渉から閑古鳥の羽毛採取まで不思議な仕事をしている人たちの日常小説シリーズです。

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                • 掌編小説312 - おかげさまでおつかれさま④

                  幕間 小野司 電波時計の秒針が粛々と進むのを、小野司は退屈そうに見つめている。 あと一分したらあいつを迎えに行くんだったか。窓のむこうからかすかに聞こえる秋雨の音を聞きながら、小野司は、友人の言葉を心の中で反芻する。十分。教室を出ていく間際、友人の太田千景は開いた両の手のひらを見せて言った。 ――十分で戻ってくる。もし、万が一、十分経っても俺が戻ってこなかったら迎えに来てくれ。特棟の西階段をのぼって屋上前の踊り場だ。いいか、迎えに来るときは必ず一人で来るんだぞ。 生徒

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                  • 掌編小説312 - おかげさまでおつかれさま③

                    第2章 狐につままれる 大学から電車で十数分。目黒にあるマンションの一室は、あたしの秘密基地だ。 「たっだいまー!」 五限までぎゅうぎゅうに埋まった授業を終えたあと、とくに金曜日だと、中野に借りてる一人暮らしのアパートじゃ絶対に言わない子供みたいな「ただいま」が出てしまう。手前左の扉が開いて、首にワイヤレスのヘッドホンをかけたスウェット姿のぽんちゃんが「おかえりー」と出迎えてくれた。三和土に転がした靴を、しょこちゃんがあきれた様子で拾いあげる。 「和音、靴はちゃんとそ

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                    • 掌編小説312 - おかげさまでおつかれさま②

                      幕間 綿貫和音 日差しは熱く、チビの身体で半分泣きべそをかきながら重たいお道具箱を持って帰っていたのであれはたしか一学期の終業式。帰り道の途中、用水路を越えた先で、あたしは一匹の狸に出会った。 「げぷ」 歩道の真ん中で、狸はあおむけに寝転んでいた。周囲には食い散らかした虫や果実の残骸がある。あたしは縁石をまたいだ。あんなの踏んずけたくない。 「もし」 急いで横切ろうとしたら、狸はだらしない姿勢のままなんと人間の言葉であたしを呼びとめた。好奇心には勝てなかった。お道具

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                      • 掌編小説312 - おかげさまでおつかれさま①

                        第1章 鳩が豆鉄砲を食ったよう 「みんなつかれてるね」としょこちゃんは言った。 五月。新緑の候なんていうけど、しょこちゃんのいうとおりだった。活気あふれる昼下がりのキャンパスで学生たち一人ひとりの顔に少なからず憂鬱の翳りが差しているのは、なにもここが野郎だらけのしがない理科大学だからというわけではないだろう。正式な医学用語じゃないけど、なるほど、「五月病」はこの大学にも静かに蔓延している。 「しょこちゃんにもわかる?」 数年前、菌を肉眼で見ることができる学生の漫画が流

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                        • 掌編小説311 - アインシュタインの選択

                          「鵜ノ沢海里です。趣味は天体観測。鵜ノ沢の『鵜』はペリカン目ウ科の鳥の総称で、日本では古くから漁業や観光業の友でした。というわけで、ぜひ鵜ノ沢とも仲よくしてくれたらうれしいです」 一礼して着席するとぱちぱちとまばらな拍手が起こった。自己紹介をするとき、僕はいつもこの定型文を使う。小学生のときにつくったひな形からほとんど手を加えていないので子供じみて聞こえるかなと不安もあったけれど、拍手はあたたかかったし、何人かの生徒は小さく笑ってくれている。よかった。先生が次を促して、うし

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                          • 掌編小説310 - 窓から鳩を飛ばしています

                            鳩山探偵事務所の「鳩山」はもちろん単純に俺の苗字だが、文字どおり鳩が山のように集まることも、じつはままある。デスクのうしろが大きな出窓になっていて、そこに腰かけて窓を開けると、頭に肩に腕に脚に、次から次へと鳩はとまった。 「へぇ、やっぱり浮気してたんだ」 ぐるるぽー。愉快な音でニヨは返事をした。便宜上「ニヨ」と名前をつけているが、あくまで従業員であって飼っているわけではない。二十四番目の従業員なのでニヨ。助手を手配するときはいつもこうして、番号からそれらしい名前をあてがっ

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                            • 掌編小説309 - 鵜の目鷹の目、鳩の目

                              鵜ノ沢の「鵜」はペリカン目ウ科の鳥で、日本では古くから漁業や観光業の友でした――と、鵜ノ沢くんは自己紹介のたびに言うのだけど、あだ名はずっと「ハト」だった。ずっと昔に潰れた不動産屋さんのとなりに建つ古びた小さなマンションの三階、そのベランダに、いつもたくさんの鳩が群がっているからだった。 糞害に悩まされる近隣住民や相談を受けた役所の人が訪ねても、鵜ノ沢くんはもちろん、彼の両親も原因はわからないという。たとえばベランダに餌を撒いて意図的に呼びこんでいるとか、そういった形跡もな

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                              • 掌編小説308 - 生死の境をうろうろしています

                                古い集合住宅の一角。六畳の洋室の片隅で、猫が壁に爪をたてている。右の前足を引っこめるとまたわずかに壁紙がめくれた。がりっ。横顔はまるで用を足すときのような神妙な面持ちだ。 青みがかった黒の体毛に燃えさかるようなルビー色の瞳。それは、由緒ある一族の末裔たる証だった。 先祖はもともと風来坊だったそうだが、あるとき西洋の地で気まぐれに家猫となり、居候先には先住犬がいた。先住犬は代々、主人の家の墓を守るチャーチグリムーー誇り高きブラックドッグだった。その体毛と瞳はのちに先祖が「継

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                                • 掌編小説307 - 頭隠して口隠さずの巻

                                  数年前にウイルスが流行ってからというもの、この国もすっかりマスク文化というものが定着しましたね。 マスクは偉大な発明ですよ。我々にとってすこぶる都合がいい。口元を見られなくて済みますからね。……なぜってお嬢さん、人は嘘をつくとき、心理的に口元を隠したがるものなのですよ。 ゆえに我々がこのマスク文化の中で本当に注意しなければならないのは、マスクの下がどうなっているのかを観察し、想像することです。たとえばその口は裂けていないか。牙が生えていないか。彼らに手洗いうがいは効きませ

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                                  • 掌編小説306 - Kid A

                                    ママは溜息が嫌いだった。 誰かの溜息が大嫌い。自分が満たされているときはそれを邪魔されたくないし、満たされていないときは最優先で慰めてほしい、どちらでもないときは相手もそうであるべきだと思っているみたい。 どこでも、溜息が聞こえてくるとママは容赦なく相手のことをにらんだ。相手がわたしだったときは「幸せが逃げていくわよ」とも言った。一緒にいないときもママは幻影になってわたしの溜息を監視している。いっそ、つくと幸せになれる溜息があればいいのにと思った。 だから、ハーモニカを

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                                    • 掌編小説305(お題:コロコロ変わる名探偵)#ショートショートnote杯応募作品

                                      (394文字) ※ショートショートnote杯への応募作品です。

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                                      • 掌編小説304(お題:株式会社リストラ)#ショートショートnote杯応募作品

                                        最初にリスがきた。 「本日をもって、御社は弊社に吸収合併されることとなりました。これに伴い御社の社員は全員解雇とさせていただきます。というわけで、あなたはクビです」 次にやってきたのはトラだった。クビです、と社員の肩に乗って小首をかしげるリスのあとを悠然と追い、社員一人ひとりをじっと見つめ、気迫で彼らを追いだしていく。僕は最後だった。 「もうクビになってます」 僕は努めて冷静に言った。 「きれいに荷物を詰めているね。秋、地中にたっぷり貯蔵しておいたどんぐりを思いだす

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