掌編小説301(お題:しゃべるピアノ)#ショートショートnote杯応募作品
ド、レ、ミ。
鍵盤を人差し指で叩いて、亜乃ちゃんは驚きました。
「おねえちゃんのピアノ、おはなしするんだ!」
お姉ちゃんは宿題のプリントから目を離さないまま、つまらなそうに答えます。
「ピアノは『鳴っている』っていうの」
「しゃべってるよ」
「それは『音』っていうの」
ミ、レ、ド。
もう一度人差し指で鍵盤を叩いて、亜乃ちゃんはお姉ちゃんのほうをふりかえりました。
「いまのはね、ミ、レ、ドっていったの。あのにはわかるよ。へんなことば!」
お姉ちゃんはぎょっとしたような顔をしてこちらへやってきました。そして、笑ったのです。
「話すのは下手だけど、この子歌うのはとっても上手なんだよ」
それから、ド、レ、ミ……と書かれたカラフルなシールが貼られた鍵盤に指をのせて、覚えたての曲を一節、亜乃ちゃんのために弾いてみせました。ピアノはとっても上手に歌いました。亜乃ちゃんは、とっても楽しそうにその場で踊りはじめました。
(394文字)
※ショートショートnote杯への応募作品です。
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