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『ばかばかしいに、まっすぐ。』マヨワネーゼ

2月はじめ、オンライン会議をしている最中、宅配便のピンポンが鳴った。
「すいません…」と席をたち、荷物を受け取ってパソコンの前にもどると、
画面の中の社長・恩田さんは、鬼のお面を被っていた。

思わず吹き出す。お面の下からのぞく口元がいたずらっぽく笑っていた。

またあるとき、同じくオンライン会議中に、トイレのため一時離席した。

戻ってくると、恩田さんはどういうわけか顔の前で孫の手を握りしめている。意味はわからない。でも、なんだか面白くて、ふっと気が抜けた。

待たせて申し訳ない、と思っている私への気遣いか。
いや、やはりそんな深いことは考えていないのかもしれない。

そういう人が社長をやっている、ランニングホームラン株式会社(I am CONCEPT.を運営)が、マヨネーズを作った。その名も、マヨワネーゼ

ランニングホームラン株式会社には、風変わりな慣習がある。
新年のご挨拶として、関係者の方々へ「お年賀DM」を送るというものだ。ただの年賀状ではない。
ある年は、「蔦の家」と呼ばれる蔦まみれのオフィスをモチーフにしたペン立て。
またある年は、野球ボールにペンを刺し貫いた、正真正銘の“ボールペン”。

昨年も、恩田さんをはじめ数名の社員とインターン生で、2024年のお年賀DMをどうするか話し合った。しかし、案出し合戦は紛糾。

年賀状ならぬ年賀「畳」を送ろうか。
鹿を狩り、その皮でグローブを作ってみては。
サハラ砂漠の砂を送っちゃおう。
いやいや今回は食品でいこう-----。しじみ汁だ、鰹節だ、カレーだ、飴だ…。

50個近く案が出たものの、まったく決まらない。
疲れ果てたころ、その瞬間が訪れる。

「マヨネーズとかいいかもしれないっすね」
「--------マヨワネーゼ、ってどうですかね?」
「それ…おもしろいね」

ほんの数秒の出来事だった。

ちなみに、マヨワネーゼに惜しくも鼻差で敗れたのが、泥団子セットだそうだ。
「幸せな気持ちになるじゃん、正月に泥団子セット送られたら。」

そうこうして2024年のお年賀DMは、マヨネーズに決まった。


もう、迷わねーぜ。

ランニングホームラン株式会社は、コンセプトメイクカンパニーを名乗る。

世の中には、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)やフィロソフィーが溢れている。
高尚で、整った言葉が並ぶ。

ランニングホームラン株式会社は、それらも根本まで突き詰めれば、個人や法人がもつ「快感」に辿り着くのではと仮説を立てた。
つまり、どう生きれば心地良いか、幸福か、というごく単純なこと。

肩肘張った理念の奥にかくれた根源的な欲求と本音を掘り起こし、
そこにひそむ「快感」----ランニングホームラン株式会社では「快」と呼ぶ----のいどころを探り当てるのがコンセプトメイクの仕事だ。

コンセプトを見つければもう、“迷わねーぜ”。
そんな思いが、この「ばかばかしい」ネーミングに込められている。

味の開発にあたり、食のクリエイティブディレクターこと井上豪希(TETOTETO Inc.)さんとともに試作を重ねた。試行錯誤の末、椎茸・昆布・帆立の旨味を下地に、藤椒(タンジャオ:山椒の一種)オイルを効かせることに。既存のマヨネーズは、酸味の切れ味が強く、口の中ですっと消えていくのが特徴。しかしマヨワネーゼは旨味が強いため持続力が長く、かつ山椒を加えたことでさらに味が残りやすくなったという。食感は、既存のマヨネーズよりやや硬めだが、なめらか。以前 I am CONCEPT. では井上さんに取材もしている。

スイカに塩

「ばかばかしい」からこそ、味はもちろん、パッケージも、付属の小冊子も、ラベルにもこだわった。

「スイカに塩かけて食うみたいなことかもしれない。スイカって、甘さだけ楽しみたかったら、そのまま食べればいいけれど、塩かけると甘さが引き立つでしょ。真面目にやるとばかばかしさが際立つんだよ。」

社員総出で「お年賀DM」の箱詰めをするのが、年末の恒例行事。
「年末に箱詰めの儀式があるから、大掃除をやらない文化が定着してしまった」と恩田さん。
「手伝ってもらったのに大掃除やれとは毎年言えてないです、忍びなくて。」

お前にはお前のクズがある

ランニングホームラン株式会社には、「ばかばかしい」ことを愛おしむカルチャーが根付いている。

たとえば「キショ食べ」。
99人に「キショい」と言われていいから、1人に「わかる」と言ってほしい。
そんな偏った食べ方をSNSで発信している社員がいる。

「ぷっちょ」は噛まずに舐め、口のなかでグミのつぶつぶだけ残し、段階をわけて味わうとか。
「チータラ」は、“タラ”の部分を剥いで、バナナのように“チー”を食べるとか。

飲み会で、ピザを耳から食べているところをうっかり社員に見られ、ドン引きされたことがきっかけだった。
他にも「キショい」食べ方をしていることを恐るおそる打ち明けたところ、
「それ面白いじゃん」と言われイラスト付きで投稿することになったという。

じんわりと、でも確かな反響があった。
「おっとっと」のキショ食べを投稿したときは、
森永製菓の公式アカウントから「いいね」とコメントまでいただいてしまう。

世の中の価値観とは真逆に行って、向こう側の壁を貫いて、逆にいい。
なんてことも、あるかもしれない。

恩田さん「うちに集まってくる人はどこかこじらせてるんですよ。クズっぷりがはみ出ちゃって、“もっとこういう風にできたのになあ”と引け目を抱えてたり。でもそういうものを持っている人ほどいいものが作れる。お前にはお前のクズがある、それを原動力にいいもん作れよって思ってます。」

クズ。一般的には突き放すような荒々しい言葉だが、恩田さんの発するそれは、あたたかさがこもる。

「ほとんどの人はクズでありたいんだと思う。でもクズじゃ生きていけないから、スーツ着たりとかちゃんとしたりするでしょ。根っからまともな人ってあんまりいないんだよね」

心に“クズ”を隠し持ったあなた。世間が求める“まとも”を着古したあなたへ。

ふっと肩の力を抜きたいとき、マヨワネーゼを舐めてほしい。
そのばかばかしさに、そしてそのばかばかしいネーミングには似つかわしくない驚くほどの美味しさに、くすっと笑ってほしい。
そうやって、溜まったガスをちょっと抜く。

ばかばかしいことって、案外心を救うから。

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執筆者: 池田彩乃

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