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そして、梅干しになった。

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女性管理職が隠者梅干しライターになるまでの、まあまあ酸っぱくて、全然甘くないキセキのキャリアと子育て珍道中。
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第一話 げんこつ山のたぬきさん

第一話 げんこつ山のたぬきさん

「黒っ・・・!」

娘が生まれた。

初めて娘と対面した母は思った。

(赤ちゃんて、みんな薄毛じゃないのか・・・)

娘は、ワカメのような黒髪が、おでこにたっぷりとへばりついていた。
帝王切開で生まれた我が娘との感動の対面。

その心の第一声がまさかの「黒っ・・・」だったというのは、母としていかがなものか・・・とちょっとだけ思ったが、もうあの瞬間には戻れない。

そんなワカメ頭だったが、私も、私

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第二話 まるごと好奇心

第二話 まるごと好奇心

  せかいのぜんぶが
  なにもかもが
  おもしろくって
  しりたくって
  たのしくって
  うれしくって
  たまらないんだもん

まるごと全部が「好奇心」みたいな娘だった。

みんなが思わず吹き出すほどの『超速ハイハイ』を搭載し、気になるものがあれば、わきめもふらず突進していく。彼女の目の前で、一体どんな世界が広がっているというのだろう。

私は、そんな娘の溢れる好奇心を満たしてあげたか

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第三話 声なしの母

第三話 声なしの母

ある休日の朝、私はただただ、無性にイライラとしていた。
ガチャガチャと大きな音を立てながら食器を洗っていて、その音を聞いた旦那さんが、娘を抱っこしながら2階から降りてきた。

「どうしたの?何か困ってることがあるなら言ってよ」

旦那さんはそう言ってくれたのに

「・・・・・。」

私は何も言えなかった。

起きてきた娘に、にこりと笑顔を返すこともできず、ガチャガチャと食器を洗って置くことしかでき

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第四話 一時停止ボタン

第四話 一時停止ボタン

自分の中に、何か聞かねばならぬ声がある。

でも、どうしたらその「声なき声」を聞けるのか、わからないままだった。

それまでずっと正しいと信じてきた価値観。
今の仕事。

旦那さんと娘の前で泣き崩れたその日、ずっと心のどこかで、ほころびを感じていたのに、手放したくても、手放せる自分じゃないことに深い悲しみを感じていたことに気づく。しかも、それは娘が生まれるずっと前から感じつづけていた悲しみだったは

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第五話 母を生きて、わたしを生きて

第五話 母を生きて、わたしを生きて

娘は赤ん坊であることに夢中で、
私は母であることに夢中だった。

ほっと胸をなでおろすように産休、育休に入った私は、夢中で母親をしていた。もちろん、母である喜びに包まれて。二度とないこの貴重な時間を、めいいっぱい満喫しよう。そんな私の気持ちに応えるかのように、娘は毎日、感動や喜びを与えてくれた。一緒に過ごした時間の分だけ愛おしさが積み重なっていく。

けれども、娘の成長を見逃すまい、娘にとって良き

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第六話 「恵まれているのだから」の呪文はもう効かない

第六話 「恵まれているのだから」の呪文はもう効かない

母を生きることが、私を生きることに置き換わっている・・・

そのことに気づいた私はどうしても今のままの自分ではいられなかった。

もちろん母することで、それまでの自分の人生では想像し得なかったほど、たくさんの贈り物を受けとっていた。けれども、人一倍「母する人生」を歩んできた生きてきた母親の寂しそうな姿を思うと、私はそのままただ育休が終わるのを待つことはできなかったのだ。

娘は8ヶ月。育休はまだ数

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第七話 夢中との再会

第七話 夢中との再会

「答えは自分の中に」

コーチングで自分の「うちなる答え」を探したいといいながら、当時の私はまだ、会社の看板や肩書きの変わりになる何か、自分の外に「答え」となるものを探していた。自分以外の誰かになろうとしているうちは、「本当の自分の声」に気づくことはできない。そのことに気づけるのはもう少し先のこと。

そんな私ではあったが、そのコーチングは私のそれまで知っていたものとはまるで違い、セッションを進め

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第八話 自分を信じて

第八話 自分を信じて

コーチングの学びを深めながら、書くことの楽しさと再会し、夢中になる自分を発見した私。でも、まだそのどちらも「仕事にする」というイメージをまだ持てずにいた。

・仕事の意義や目的は?
・子育てと両立できるか?
・永く続けられる働き方は?
・起業という選択はあり得るのか?

これらの問いに対する答えを導き出すどころか、私はまだ自分の「失われた欠片」をまだ拾い集めている途中だ。当然、ただコーチングを学び

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第九話 いのちのまま生きる輝き

第九話 いのちのまま生きる輝き

超速ハイハイを搭載した娘はすぐ歩けるようになるかと思っていたのに、はじめてのアンヨは意外にも1歳4ヶ月。思う存分、超速ハイハイ満喫してからのアンヨだった。ハイハイだった頃とガラリと見える世界が変わり、立って歩くことが生きることそのものであるかのように、全身全霊の喜びに満ち溢れている。

自分の力を信じて歩く。

いのちのまんま、娘のまんま、混じりっけなしの娘は、五感とからだの全部を使って世界を感じ

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第十話 うちなる衝動を信じて

第十話 うちなる衝動を信じて

ライティングインストラクターの養成講座はリアルタイムのオンライン講座と、通信講座とで構成されていた。通信講座は毎日届き、週1回の返信ミッションに返信すると、師匠がフィードバックの添削をしてくれるという赤ペン先生のような仕組みだ。その最初の返信にはこう書いてあった。

「言葉のチョイスが素晴らしい♪ちょっとフツーじゃないので、ぜひフツーじゃない講座を、好きな人向けに開催してみてください」

(ん?こ

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第十一話 もう嘘はつかない

第十一話 もう嘘はつかない

自分の創った詩のかけらのようなものを誰かに手渡す、という初めての体験から数週間。私はコーチングのフォロー講座に参加していた。他の人たちが続々と「コーチとして」達成したいことを宣言する中、わたしはひとり「詩を書きたい」と宣言していた。

どう考えてもおかしな発言をしていたのは私の方だ。けれども、そんな宣言をした私への師匠からの提案は「コーチングと詩を併せて売る」ことだった。「違う、そうじゃなくて・・

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【最終話】人生という景色の映り込んだ文章を

【最終話】人生という景色の映り込んだ文章を

その後、私は会社員を続けながら詩人、やがてライターと名乗るようになった。

詩を書くことは、どこか新鮮でありながらも、懐かしい再会のような、不思議な感覚だった。そのことばの泉に触れながら、私自身も深く癒されていった。詩賞をいただいたり、雑誌に載せていただいたり、これが私の天職なのだろうか。そう思うこともあった。けれども、そんな私に、小さな次の転機が訪れる。それは、ある伝統工芸作家さんの取材記事を書

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