マガジンのカバー画像

コラム

16
頭の中を整理しています。
運営しているクリエイター

記事一覧

夜が怖い

夜が怖い

(映画ミッドサマーについて:若干ネタバレ有)

トラウマを植え付けられる映画だと事前情報でわかっていたはずなのに、つい好奇心に負けて観に行ってしまったミッドサマー。

結論から言うとかなり最高だった。

私はこの映画を観ている間、結構主人公のダニーに入りこんでいた。

早くこの村から逃げ出したい、けれど逃げ出せない絶望と救いのない孤独感が映画館に一人閉じ込められた私の状況と重なる。
村の人たちが次

もっとみる
幻の卒業式と過ぎ去ったあの日

幻の卒業式と過ぎ去ったあの日

幻の卒業式は、どこに行ってしまうのだろう。
共に学生時代を過ごした友人たちの顔を見る最後の機会だったかもしれないのに。

小、中学校の卒業式は、当日を迎えるまでに何度も何度も予行練習が繰り返され、いざ本番となっても私には、今日が重要な日だという実感があまり湧かなかった。すべての儀式が終わって体育館を退場した後、正面玄関の前では多くの生徒たちが写真を撮りあったり泣いて抱きあったりしていたが、私は結構

もっとみる
自分の位置を見る目を取得したがまた閉じてしまいそうで怖い

自分の位置を見る目を取得したがまた閉じてしまいそうで怖い

目を覚ました私を引き止める温まった羽毛布団。

ティーバッグで簡易的に煮出せる紅茶。

運転免許。

Macのキーボードを打ち込む手と、生産されていくレポートの文字。

水槽の中を優雅に泳ぐゴールデン・エンゼルフィッシュ。

机の引き出しの中から取り出すエステの会員証。

湯の張られた湯船。

私が今日を生きる上で出会ったものたち。

ほんの一部ではあるが、これらのものは資本主義を首尾良く生き延び

もっとみる
生きるというのはあり得たかもしれない今日を捨てていく作業だ

生きるというのはあり得たかもしれない今日を捨てていく作業だ

この歳になると現実じゃない、叶わなかったいくつもの現在をあれこれ想像できてしまう。
そして幾度か通り過ぎた過去の分岐点に遡っては、あの時こうしておけば良かった、ああしておけばもっと違ったって悔やんでほうっとため息をついたりする。

(もしあの時、あの子に怒ったりしなければ、今もずっと親友でいられたのかも。
もしあの時、あの人に勇気を出して告白していれば、ずるずる引きずってつらい思いをすることはなか

もっとみる
時を逆走する鳩ぽっぽ

時を逆走する鳩ぽっぽ

恐竜から進化して生き残ったのが鳥だというのは有名な話だ。
ではなぜ鳥は唯一生き残れたのか。
それは、身体的な飛行能力と臆病な性格のおかげなのである。

鳥類全般の特徴としてその二点は特に際立っている。
恐竜絶滅の理由は定かではないが、一説では空を飛べる鳥は逃げることができたから生き延びれたと言われている。
また鳥は、危険を察知したらその正体を確認する前に、本能的にまず逃げることを優先する。たしかに

もっとみる
先生のまわりぐるぐるの謎

先生のまわりぐるぐるの謎

一般論私たちはしばしば"謎"の第一発見者となる。
世の中の大抵のことはすでに解明されているけど、その答えを知るきっかけがなければ謎は謎として留まり続ける。そしてそれはまるで自分だけの感覚であるかのように不安がる。対象を目にするたびに、その感覚を通してものを見るようになる。意識のうちにないだけで、最初に発見した"謎"のまま放置していて、今も私の見方のバイアスに関与している感覚って多分たくさんあると思

もっとみる
人形を抱えたこどもはついに大人に成長する

人形を抱えたこどもはついに大人に成長する

初音ミクと結婚するのってどんな心境なんだろうと疑問に思って、自分にとっての初音ミクに該当する二次元キャラクターを考えてみたらそれはモリゾーだった。2005年開催の愛知万博公式キャラクター"モリゾーとキッコロ"の、モリゾーである。

私とモリゾーの出会いはなかなかロマンチックだった。
私が6歳か7歳の頃、家族で茨城の海に泳ぎに行ったある日、砂の中から発掘したのがモリゾーだった。こどもの手のひらにすっ

もっとみる
私は感情への服従をやめられません。

私は感情への服従をやめられません。

富良野のスキー場で、子グマ3頭が射殺されるニュースが飛び込んできた。

リフトに乗っていたスキー指導員の女性がクマを目撃し、危険を察知して警察に通報、巣穴を発見したのちに3頭の子グマを駆除したという。

このニュースのいたたまれなさは何だろうか。
もちろん、クマを野放しにしていたら、人間の方がやられる危険性があるのは分かる。でも、本来クマの住処だった山を開拓してレジャー施設を作ったのは人間の方だ。

もっとみる
我がインコたちよ、世に翔け

我がインコたちよ、世に翔け

最近、子どもの写真をSNSにアップする際、スタンプなどで顔を隠して投稿する様子が見られる。たとえ赤ちゃんであってもちゃんと目元が隠されていて、賢明な配慮である。
今はどんな手を使って個人情報を知られるかわからないし、そもそも子供の肖像権を考えたら
大事な加工だと思う。

では、インコに肖像権はあるのだろうか。

わたしは自分のインスタグラムに、実家で飼っている4羽のセキセイインコの写真を載せまくっ

もっとみる
言霊と新しき世界、自ら切り拓く

言霊と新しき世界、自ら切り拓く

昨日締め切りの仕事を提出し、迎えた徹夜明けの朝。朝といっても目が覚めると昼の12時半。すぐにピンときてスマホを開ける。

新元号「令和」

和風の美しい響き。予想外の爽やかさに、心がほろほろほぐれていく。希望の兆し。解放の予感。

今年大学に合格した弟が、今日東京の寮に引っ越した。家族の新生活が始まる。私の大学も今日から新学期。久々の大学に出向く。桜がまちを所々で色付けしている。貼り出される連絡事

もっとみる
「男に生まれたかった」を死語にしたい

「男に生まれたかった」を死語にしたい

東京に一人で住みたいと言った時、親に異常に反対された。
サークルの飲み会に参加するといった時、あまりいい顔をされなかった。
ナンパされた、と気軽な気持ちで報告すると、「気をつけなさい」と釘を刺された。
その度に思ったものだ。「なぜそこまで心配されなきゃいけないの?」

今ならその理由がわかる。本当に胸が痛くなる悲惨な事件の判決が、不起訴または無罪になる事例が、あまりにも多すぎる。平成も終わるこの時

もっとみる
我輩は猫になりたい

我輩は猫になりたい

私は意図して人を傷つけようと思うことはあまりないけど、言葉を発した後に、あ、今相手を傷つけてしまったな、とか、自分本位の言い方になってしまったなとか気づいて、しばらく落ち込む、ということがある。
そんな時、謝れる場合は後日でも、謝るようにはしている。
でも、自分では思わぬ一言で相手を傷つけてしまうこともきっとたくさんあったと思う。その場合、私は相手に謝ることができていない。

きっとこういうことは

もっとみる
フェミニズムを批判する人たちへ

フェミニズムを批判する人たちへ

フェミニズムの主張を耳にすると、
「男の方が差別されている」だの、
「男の意見も聞いてくれ」だの、
反論を発言する人が現れるけど、まさか自分の彼氏からそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。

きっかけは、「82年生まれ、キムジヨン」を読んだ感想を私が彼に話したことだった。
この本は、女性であれば直面する可能性のある理不尽な出来事をかき集めて、1人の女性の半生として描いたものだ。韓国でベストセラ

もっとみる
AIに負けたくないなら目の前の人間をちゃんと見ろ

AIに負けたくないなら目の前の人間をちゃんと見ろ

お客さんの前で新人を指導する店員は、その行動自体が非難されるべき接客であることに無自覚だ。
明らかにお客さんの耳に聞こえる距離で、私語を話す店員もしかり。
従業員が表に見えないところで食べ物にいたずらをするなんて言語道断である。
それらの行為に共通するのは、どちらもお客さんを人としてでなく、「お客さん」というレッテルとしかみていない点である。

飲食店を訪れるのは、食事をするためだということは分か

もっとみる